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これって、ただの見せしめ…?友人の結婚式で“晒し者”にされる、30代・独身女たちの苦悩
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30代独身だというだけで、蔑まれ虐げられ、非難される…。その名も、独身ハラスメント。
それとは一切無縁だったはずの莉央(33)は、ある日突然、独身街道に再び投げ出される。彼女を待ち受けるのは、様々な独身ハラスメントだった。
-結婚だけが幸せの形だなんて、誰が決めたの…?
そんな違和感を強く抱く莉央。自分なりの“幸せの形”を見つけるため、奮闘の日々が始まるのであったー。
仕事で大役を任されることになった矢先、既婚女子・優子から独身ハラスメントと思われる発言をされた莉央。「美人なのにどうして結婚してないんですか?」という悪気ない発言にウンザリしつつも、自分は仕事で必ず結果を出そうと決意する。
しかし、独身女子への風当たりの強さは強くなる一方で…。
「それではここで、新婦によるブーケトスを行います。独身女性の皆様、ぜひ前の方へお越しください!!」
司会の声がマイクを通じて響き渡り、莉央は思わず後ずさりした。
「莉央さん、ブーケトスですって…。どうします…?」
亜樹がうんざりした顔で、莉央をつつく。莉央たち社員一同は、同僚の結婚を祝うため、結婚パーティに参加しているのだ。
「こ、これって任意だよね…?私たちは遠慮しようか…?」
そう言って、人混みの中にそっと紛れようとした瞬間、前にいる新婦とバッチリ目があってしまった。新婦は目を爛々と輝かせ、前方にくるように顎で合図している。
しかし次第に、新婦の顔が曇り始めた。なぜなら、前方にはたった3名ほどの女性が疎らに立っているだけなのだ。
会場全体も段々と気まずい空気に包まれはじめる。ブーケを握りしめて立ち尽くす新婦の目からは、「どうして皆、前に来てくれないの?」という不安が見て取れた。
「…亜樹さん。前、行くわよ」
莉央は拳をぎゅっと握りしめると、覚悟を決めたのだった。
100名近くが集まるパーティだというのに、結局ブーケトスに参加したのは、莉央と亜樹を含めて6名だけ。2人以外は明らかに20代と思われる若い女性である。莉央は身を隠すようにして、一番後ろの隅っこに回った。
-絶対に目立ちたくない…。後ろの方で控えめにしていよう…。
莉央たちブーケトス集団を取り囲む群衆の最前列には、優子の姿があった。優子はワクワクとした表情でスマホのカメラを構えている。
「それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか!?せーの!!!」
やけにテンションの高い司会男性の声とともに、ブーケが空中に放り投げられる。
-え!?こっちに飛んでくる!?未婚女子たちを苦しめる、結婚式での“独身ハラスメント”とは。
莉央は愕然とした。ブーケがもっとも届きにくいであろう位置を選んだはずなのに、それはまるで莉央を目がけるかのようにしてまっすぐ飛んでくるのだ。
サッと避けてしまいたい衝動に刈られたが、ブーケが地面に落ちるほど盛り下がるブーケトスはないだろう。
パシッ。
ブーケは見事に弧を描いたのち、莉央の両手にすっぽりと収まった。途端にその場が盛大な拍手に包まれ、莉央は会場じゅうの注目を浴びる羽目になったのだった。
「莉央さん、お疲れ様」
亜樹が気を遣って、莉央のためにドリンクを持ってきてくれた。パーティは再び歓談タイムに入っている。
「ありがとう。なんだかどっと疲れたわ」
「でも、意外とご利益あるかもしれませんよ!私の友達で、ブーケキャッチしてそのあと結婚した子ってけっこういるんです」
亜樹は少しだけ羨ましそうに莉央の手元をじっと見つめた。しかしすぐにハッとして、慌てた様子でこう言った。
「いやでも、本当、ブーケトスなんて独身女子にとったら見せしめ以外の何物でもないですよね!これぞ、独身ハラスメントですよ」
そしてなぜか遠い目をして、深いため息をつく。
「だけどね、莉央さん。こんなの、全然マシな方です。私なんて、昨年もっと嫌な思いしたんだから…」
亜樹はぽつりぽつりと、1年前彼女の身に起こったという“忌まわしい出来事”を語り始めたのだった。
◆
「えっ!?私が、幹事を?」
亜樹は思わず、フォークとナイフを動かす手をぴたりと止めた。
今日は大学時代の友人から、原宿『スモークハウス』に呼び出されている。そして、3ヶ月後の彼女の結婚式二次会の幹事をやってくれないかと頼まれたのだ。
-またか…。
正直、亜樹はそう思っていた。なぜか数年前から、友人から幹事をしてほしいと依頼されることが急に多くなっている。毎回、仕事を言い訳に断ろうかと迷うものの、「お祝い事」ゆえに断りにくいのが現実である。
「あとね、亜樹には余興のダンスもお願いできないかな?他の子達にも何人か声はかけてあるのよ」
そう言って友人が挙げたメンバーの名前は、なぜか独身女子ばかりだ。
「ええっ、でも…。この歳でダンスって!誰も喜ばないし、逆に盛り下げちゃうと思うんだけど…」
亜樹は戸惑いをあらわにし抵抗を試みたが、友人はどこ吹く風である。
「何言ってるの!ホラ、何年か前の二次会でみんなでAKB踊ったじゃない?あれ、すごく盛り上がったから、私も自分の時は絶対ダンスを踊ってほしいと思ってたの!」
-何年か前って言うけど、AKBを踊ったのはたしか7年も前じゃない…!20代と30代のダンスじゃ、かわいらしさが雲泥の差よ!
しかし友人は、亜樹の手をとり、瞳をうるませて訴えかける。
「亜樹だから、お願いしてるんだよ…?私にとって“本当に大切な友達”だからこそ、亜樹に一緒にパーティーを盛り上げてほしいの…」
ここまで言われてしまうと、亜樹には到底断ることができなかった。これじゃあただの晒し者…。亜樹を傷つけたある出来事とは?
「そ、それで…ダンスはどうだったの?」
そこまで話し終えてジントニックに口をつける亜樹に、莉央は恐る恐る尋ねる。
「どうもこうも、散々でしたよ。30代半ばの女たちが年甲斐もない衣装で踊って…。そもそもみんな歓談に夢中で、あんなに練習したダンスなのに、誰も見てなかったんです」
さらには男友達から「お前ら、痛いな(笑)」だなんて酷いことまで言われたのだという。しかし、それでも亜樹は「新婦が喜んでくれたのだから」と自らに言い聞かせ、納得しようとした。ところが…。
「そこまではまだ良かったんですが、数日後にSNSを見て、ショックを受けたんです」
亜樹が目にしたのは、結婚式数日後に新婦がインスタグラムに掲載した写真である。
そこには、ダンスを踊ったメンバーとは違う女子軍団に囲まれる新婦の姿がうつっており、写真の下には「my best friends♡私にとって心から大切な親友たち」と書いてあった。
「だったらなんでそのベストフレンズたちに余興を頼まなかったんだろうって疑問に思ったんですが…。よく考えたらその子たちは、全員子持ちの既婚女子ばかりで、それでやっと気付きました。私たちは親友だからダンスや幹事を頼まれたわけじゃない、独身で身軽だから頼まれただけなんだって」
そして亜樹はポツリと寂しげにつぶやいた。
「ブーケトスに、余興のダンス。花嫁たちに悪気はなくても、独身女にとっては、晒し者にされた気分になりますよね…」
◆
元気をなくしてしまった亜樹を会場の片隅の椅子に座らせると、莉央はドリンクを取りにカウンターに足を向けた。
「すみません、ジントニックと白ワインを…」
「すみません、生ビールを…」
バーテンダーにオーダーしようとしたとき、全く同じタイミングで男性が注文を入れた。莉央は慌てて頭をさげる。
「あ、失礼しました」
「いえ、こちらこそ失礼しました。お先にどうぞ」
その男はさっと順番を譲ってくれた。それから、莉央を覗き込むようにしてじっと見つめる。
「おや、さっきのブーケトスの…。さっきはお見事でしたね」
「いえ、お恥ずかしい…」
男は距離をぐっと縮め、まじまじと莉央の顔を直視する。莉央はその目線に照れてしまい、咄嗟にうつむいた。同時に、胸がドキドキと高鳴る。
-この人、ちょっと素敵かも…!
年齢はおそらく30代後半くらいだろうか。洗練された顔立ちと、一目で上質とわかるジャケットやシャツを着こなす抜群のセンスなど、完全に彼の外見は莉央のタイプだったのだ。
「申し遅れました。僕、友介っていいます。お名前、伺ってもいいですか?」
「吉永莉央です…」
-やっぱり、カッコイイ…。
そのとき莉央の様子を見に来た亜樹に、背中を突かれる。
「莉央さん、ドリンク大丈夫ですか?…あっ!!!!」
亜樹はその男を見て、硬直している。
「亜樹さん、お知り合い…?」
「え、ええ…。ほら、マサキくんの前任のバイヤーだった、一ノ瀬友介さんです…」
「これはこれは。仲野さん、ご無沙汰しております」
挨拶を返す亜樹の顔は、完全に引きつっていた。見た目は完全に莉央のタイプど真ん中。しかし、一ノ瀬友介の正体は…。
一ノ瀬友介は、昨年百貨店を退職し、会社をたちあげたらしい。百貨店時代は超優秀なバイヤーとして知られ、レディースフロアのリニューアルの成功に大きく貢献。今は、ヨーロッパのインポートブランドの輸入代理店を経営しているのだという。
-あれ…?確か前任のバイヤーって、ものすごく横柄な男だとか亜樹さん言っていた…?
そう思い出した瞬間、友介がくすっと笑った。
「ところでさっきのブーケトス、ものすごい気迫を感じましたよ。もしかして、ブーケをとれば結婚できるなんてジンクス、本気で信じてるんですか?」
-き、気迫ですって…!?
その完璧なルックスとは180度イメージの異なる無遠慮な物言いに、莉央は耳を疑った。しかし友介は笑顔で畳み掛ける。
「独身の女性って、迷信とか占いに本当弱いですよね〜。そんなものにすがるより、ほら、この会場にはチャンスがいくらでも転がってますよ。おっと、なんだかお二人とも機嫌が悪そうだから僕はこの辺で失礼します」
-この人、見た目に騙されかけたけど、失礼な人…!
ムッとする莉央に向かって、友介はこう言い残して去って行ったのだった。
「せっかく美人なのに、怖い顔だな。そんなに殺気立ってるから、“男にも逃げられちゃうん”ですよ…」
◆
莉央は、一瞬でも友介のことを「ちょっと素敵かも」なんて思った自分に腹が立っていた。
「ちょっと亜樹さん!なんなの、あの失礼な人は?なんであんな人がこの場に紛れ込んでるの?」
普段はあまり感情を表に出さない莉央が腹を立てているのを、亜樹は物珍しそうに見ている。
「最初はみんな見た目に騙されるけど、口を開けばすごく失礼な男なんですよ。うちの会社でも嫌われてたはずですけど、一部の人は仲良かったんですよね。今日の新婦とか、優子さんとか…。それで今日も呼ばれたんでしょうね」
友介の姿を目で追うと、会場の中心で優子と再会したらしく、楽しそうに笑い合っている。
亜樹は悔しそうにその様子を眺めながら、「あの人、特に独身女を見下す発言が多いんですよ」と続けた。
「自分だってバツイチのくせに。しかも周りには、“独身女性に気を持たせるようなことをすると後が厄介だから、あえて冷たくしているんだ”なんて偉そうに吹聴してるらしいわ」
-ふぅん…。独身女を見下す、バツイチ男ね…。一体いつから、バツイチが独身より偉い時代になったのかしら…。
それより莉央は、友介が去り際に言い放った一言が頭から離れずにいた。
-“それだから男に逃げられちゃう”って、確かにそう言ったわよね?まるで私の婚約破棄のことを知ってるかのようだったけど…?
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