働く女性の強さを感じた。水瀬いのりが見た劇場版『フリクリ プログレ』の現場

劇場版『フリクリ プログレ』完成披露上映会のあとに行われたインタビュー。時間はすでに21時をまわっていたが、水瀬いのりは疲れた表情ひとつ見せず、「お待たせしました」と頭を下げ、テキパキと質問に答えていく。サイン入りポラを持ったカットの撮影では、「(写真に)光が反射していないですか? このくらいの角度のほうがいいかな?」とカメラマンに確認する。つねに丁寧に仕事と向き合う彼女が明かした、“働く女性”の理想像とは──?

撮影/祭貴義道 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.

『フリクリ』は“わからないけど、なんかサイコー!”

2000年に全6巻のOVAとして発表された『フリクリ』が18年の時を経て、新たに劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』として復活。水瀬さんは雲雀弄(ひばじり)ヒドミ役で『フリクリ プログレ』に出演しましたが、完成版をご覧になった感想は?
率直な感想としては…「わからないなあ」って(笑)。その“わからなさ”というのが、悶々とするものではなく、「わかんないけど、なんかサイコー!」みたいな気持ちになる作品だなと思っています。
ヒドミはどんな女の子でしょう?
つねにヘッドフォンをしているんですが、そのヘッドフォンが他者との関わりを遮断しているかのような、自分を持ったクールで芯の強い女の子だと思います。ただ、『フリクリ』に出る以上はやっぱりそれだけではなくて…。ネタバレになるので多くは語れませんが(笑)、ビジュアルやPVの印象に引っ張られすぎず、画面のなかでいろんな姿になっていくヒドミに注目していただきたいです。
演じる際に意識した点はありますか?
「考えるな、感じろ」というワードが私のなかでは重要で…見たもの、聞いたものをそのまま受け取って、感じたことを返していく。頭のなかでなにかを練る時間がほとんどない世界観だったので、そこは意識して演じさせていただきました。
とはいえ、アフレコ時には画が未完成なうえ、「わからない」世界観のなかキャラクターを演じるのは、とても難しいことだと思います。なにをヒントに演じられていったのでしょうか?
ヒドミって本当にいろいろな表情を見せてくれるキャラクターなんですよね。正解がひとつではないからこそ、役の振り幅があるというか…。「ヒドミだからこれは言わない」みたいなものがあんまりなくて、「きっとこれもヒドミのなかのひとつなんだろうな」って、許容範囲がどんどん広がっていく女の子なんです。
たしかに、人間はいろんな側面を持っているものですから、そういう意味でヒドミにはとても人間味を感じるところもありました。
本当に。働いているときの自分がいて、休みの日には遊ぶ自分がちゃんといて…みたいな“人としてのメリハリ”を究極に表すと、ヒドミみたいなキャラクターが生まれるのかなって思いました。

なので、“演じる”という気持ちはあまりなくて、ヒドミの気持ちを代弁しているような感覚でしゃべっていた印象ですね。「ヒドミを誰よりも理解してあげられたらいいなあ」っていう気持ちで向き合えたかなと感じています。
お芝居については、水瀬さんに委ねられていたのでしょうか? 「こう演じて」とディレクションは入りましたか?
ディレクションはほとんど入らず、本当にスムーズにアフレコは進みました。アフレコに入る前は、やっぱり疑問だらけの作品なので不安はありましたが、いざ始まってみると「あ、この疑問は疑問のままでいいんだ。わからないことを、わからないままに(セリフとして)発していいんだ」と思えるような特殊な現場でした。

この「謎は謎のままで、答えはひとつではない」というのが、作品のテーマとして投げかけられるものでもあるんじゃないか。それぞれまったく違った気持ちを抱いて、「やっぱりわからなかった」と大いに感じながら(笑)、家路につくのがおそらく正解なんじゃないかと思ったので、アフレコはのびのびとやらせていただきました。
共演者のみなさんも、本当にのびのびとお芝居されている印象でした。
あまり繊細さが要求される現場ではなくて、本当に大胆な…「0か100か。エンジンを入れるか切るか」みたいな感じでした(笑)。
それくらいの勢いがある作品ですよね。
世界観としては“中二病”なんです。変わりたくても変われなかったり、「朝起きたら、急にすごい力が芽生えてそう」って思ってしまうナゾの自信だったり、「自分は誰々より優れている」と比較してしまったり…。そういった誰もが経験したことのあるモヤモヤが描かれる“リアルな青春群像劇”なので、どんな年代でも楽しんでいただけると思います。
世界中のアニメファンを熱狂させた作品ですから、楽しみにされている方も多いでしょうね。
頭のなかを空っぽにして観ることをオススメします。空っぽにしてもこぼれ落ちてしまうぐらい、キャラクターたちの感情がスクリーンのなかで爆発しています。やっぱり、ため込んだ思いってどこかで爆発するんですよね。その“感情が爆発する沸点”は人によって違いますが、「自分はどのキャラクターに近いかな?」って想像していただくのもすごく楽しいと思います。

これは本当に宣伝とかではなく、2度、3度観ないとたぶんわからないと思うので(笑)、初めての方は頭のなかを空っぽにして観ていただいて、2度目、3度目の方はいろんな部分を考察しながら、伏線を回収していっていただければと思います。

林原めぐみ手作りの“一口サイズおにぎり”に感激

アフレコ現場の様子はいかがでしたか?
じつは私、林原めぐみさん(ハルハ・ラハル役)とアフレコ現場でご一緒させていただくのが初めてで、いろんな刺激をいただきました。言葉で表すのが難しいんですが、“林原さんだからこそ生まれるもの”がたくさんありすぎて…。

林原さんがお芝居されているときに、思わず私、読んでいた台本を閉じてしまったことがあったんです(笑)。目で文字を追っていることがもったいなさすぎて、視聴者側にまわっていたというか。「もうここで体感しなくてはいけない!」というくらい、究極の「考えるな、感じろ」タイムに入りました(笑)。
どのように感じたのでしょうか?
恐怖感すらおぼえたというか…「ヒドミが完全にラハルに消されちゃう。ヒドミがこの作品のなかで負けないようにするために、一体どう演じたらいいんだろう?」と思いましたね。ヒドミを演じる難しさというより、「新しいことをしなきゃ! ここでぶつからなくちゃ!」みたいな…初めて抱く感情でした。スゴいお芝居を見せてくれた林原さんですが、収録のときにおにぎりを作ってきてくださったことがあって…。
手作りのおにぎりですか!?
そうなんです。すっごくおいしかったんですよ! ゆかりとかおかかとか、いろんな種類があって。「みんなが食べやすいように」って、小さいサイズの丸いコロコロっとしたおにぎりなんです。「ヒドミはたくさんしゃべってるから、いっぱい食べなね」って勧めてくださる以上の量を私はおかわりして(笑)。全種類の味をいただきました。みなさんが「あ、どうぞどうぞ」と遠慮し合っていらっしゃるなか、私はしれっとおかわりを繰り返していました(笑)。
「林原さんって、現場でどんな感じの方なのだろう?」と気になる存在でした。
そうですよね。私も最初は「どういう感じで空き時間を過ごされるんだろう?」と思っていましたが、私たちにもたくさん話しかけてくださいますし、「みんなでこれ食べて!」みたいな感じで。端の席に座っている方にも「食べて食べて!」って自ら配っていらっしゃったり。そうやって先輩が率先して現場を温めてくださる姿を見て、「なんて素敵なんだろう!」と思いましたね。

やっぱり“林原さんが現場にいらっしゃる”というのは背筋がピッとなる出来事でしたが、そんな私にも「肩ひじを張らなくていいからね」とおっしゃってくれているかのような優しい振る舞いに、少し甘えてしまう部分もあって。でもお芝居に入るとグッと心臓をつかまれるので、そのメリハリに、私はひたすらひれ伏す勢いでした(笑)。
井出 交役の福山 潤さんやジュリア・ジンユ役の沢城みゆきさんは、水瀬さんの少し上の世代ということで、現場の盛り上げ役にもなっていたのかなと思うのですが、いかがでしたか?
そうですね、沢城さんは福山さんがアフレコ現場で放つダジャレを、すごく上手に…手のひらで転がしているというか(笑)。大きなグラスに入った福山さんが、沢城さんにクルクル回されている姿が目に浮かぶような(笑)、そんなやり取りを見せていました。ちゃんとツッコむところと、冷ややかにスルーするところの塩梅が絶妙で、「さすが沢城さんだなあ、カッコいいなあ」と思いました(笑)。

そんなふたりのやり取りに、林原さんも「あ、福山くんってこういう人なんだ」みたいなことを言いながら(笑)、絶妙なあしらいをされるので…「さらに上の人がきた! 福山さん、頑張ってください!」という感じで(笑)。
さらには、ヒドミの母・雲雀弄ヒナエ役には井上喜久子さんということで。
喜久子さんは私のことをすごく可愛がってくださっていて。年齢で言うと、喜久子さんは私より5つ下の17歳なんですが(笑)、かなり年下の大先輩で…。17歳だけど、母性をめちゃくちゃ感じる、優しく安らぎのある方ですよね。

喜久子さんは私のことを“いのりんりん”って呼ぶんですが、ヒドミをとても好きでいてくださっていて、「いのりんりんのヒドミは、すごく可愛いよね〜。カッコいいところもいっぱいあって、絶対これ、観た人は喜ぶと思うよ〜」って言ってくださるんです。そんな喜久子さんがお母さん役なのが本当に嬉しくて。ヒナエはリアル喜久子さんでしたね。

“男性に守られる女性像”は、過去のものになっているのかも

そんなみなさんと共演された本作の現場は、改めて振り返ってみていかがでしたか?
ひとことで言うと、「やっぱり女性は強いな」と思った現場でした(笑)。もちろん尊敬する男性の先輩方もたくさんいらっしゃいましたが、同じ女性としてカッコいい背中をたくさん見せていただいたので…女の人って芯があって、それでいてチラッと母性が垣間見られて、温かみがあるなあと感じました。
身近にそういったお手本となる先輩方がいらっしゃるのは、勇気が湧きますね。
本当に。ただ、そこまで自分が行くには、まだまだもっと頑張らないといけないんですが、「いつか私もこうなれたらいいな」と思わせていただいて。

最初の『フリクリ』から18年の時を経て新しい『フリクリ』が生まれたように、「私の18年後ってどうなっているんだろう? 仕事をバリバリやってるのかな? 電撃引退とかしてたらどうしよう」とか(笑)、そういった自分の“今後の生き方”も考えさせられるような現場でしたね。
いまのお話をうかがうと、本当に女性キャラクターたちのパワーを感じる作品だと思いました。
そうですよね。それに、愛のパワーというか、「誰かを思う気持ちっていうのは、こんなにも大きくなっていくんだな」って…物理的な強さ以外にも、信念の強さをすごく感じましたね。

いまは、女性がひとりでも生きていける時代になっているじゃないですか。それすら重ねてしまうような世界観というか…“男性に守られる女性像”って、すでに過去のものになりつつあるなあって。ちょっと見渡せば…ねえ? いまここにいらっしゃるのも…(笑)。
マネージャーさんをはじめ、ヘアメイク、スタイリスト、エディター、インタビュアーと、全員女性ですね(笑)。
ですよね(笑)。遅い時間に電車に乗ると、前まではサラリーマンの男性が多いイメージがありましたが、いまは女性も爆睡していたりして…ピンヒールを履きながら(笑)。そういった、働きながら頑張り続ける女性の強さやカッコよさが、ある種この作品にも表れているような気がするんです。そういう女性が強くなっていくと、性別を超越して、ラハルさんみたいな存在になるんじゃないかと(笑)。
水瀬いのり(みなせ・いのり)
1995年12月2日生まれ。東京都出身。B型。2010年に声優デビュー。主な出演作品は、『ご注文はうさぎですか?』(チノ)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(ヘスティア)、『がっこうぐらし!』(丈槍由紀)、劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』(成瀬 順)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(レム)、『少女終末旅行』(チト)、『バジリスク〜桜花忍法帖〜』(伊賀 響)など。第十回声優アワード主演女優賞、第25回日本映画批評家大賞新人声優賞をそれぞれ受賞。2015年12月にソロアーティストデビューし、2018年10月17日には6thシングルを発売する。

出演作品

劇場版『フリクリ プログレ』
2018年9月28日(金)ロードショー
http://flcl-anime.com/

配給:東宝映像事業部
©2018 Production I.G / 東宝

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、水瀬いのりさんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年9月25日(火)12:00〜10月1日(月)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/10月2日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから10月2日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき10月5日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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