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そんな苦しい状況のなか、武藤はピッチに入った。2トップの一角、あるいは4-1-4-1のインサイドMFとも取れる攻撃的なポジションに入ると、サイドまで幅広く動いて試合の流れを変えようと走り回った。
そんな武藤の投入から、チームは活気づき始める。武藤が左サイドからカットインし、右サイドに大きくサイドチェンジすると、パスを受けたMFアジョセ・ペレスがクロスボールを入れる。CFホセルのヘディングシュートで初の枠内シュートを記録すると、その4分後にニューカッスルは1点を返した。
しかし、猛追はここまでで、結局ニューカッスルは1-2の敗戦を喫した。プレミアリーグ第5節までの成績を4敗1分とし、またしても初勝利を挙げられなかった。試合後、武藤も悔しさを露わにし、憮然とした表情でピッチを引き上げていった。日本代表FWは、勝ち星のないチームの現状について次のように語った。
「自信なさそうにプレーしている。パスをつなげられず、前にドーンと蹴ってしまうとか……。本当にそれはもったいない。ボールを間(のスペース)で受けるのを怖がってしまい、縦一本になってしまう。前線にスーパーな選手がいれば、話は変わるかもしれないですけど、そういうチームじゃないので。全員で連動しながら戦っていかないといけない。前半は、それができていたと思うんですけど、後半に疲れてくると、走れなくなってしまう。
(記者:先制された後、勢いが急にガクンと落ちたが?)負けているチームの、よくある感じですよね。『1点取られた、もう終わった』みたいになってしまった。だからこそ、自分が入って、少しは流れをよくできればって思っていましたけど。2点差だったので、こういう強いチームが相手になると、ひっくり返せる可能性はだいぶ低くなってしまう。厳しいです」
そうはいっても、武藤のプレーは効果的だった。中央の位置からサイドのスペースに抜け、味方からパスを引き出す。そして、仕掛けたり、前を向こうとする。すると、チームにそれまでなかった躍動感が生まれ、試合の流れが変わった。武藤も「今日は評価されるんじゃないかな。動きも悪くなかった」と手応えを掴んだ様子だった。
こうした自信は、試合前にあった約2週間の国際マッチウィークのなかで徐々に膨らんでいた。9月の日本代表戦では、森保一監督の意向により海外組の主力は招集を受けていない。武藤もニューカッスルに残って練習に励み、この期間を有意義に過ごすことできたという。実際、国際マッチウィーク前のマンチェスター・C戦後には、「ここから自分がいきなりスタメンで出られるかといえば、難しいかと思う」と次節のアーセナル戦について語っていたが、2週間の練習を経て「スタメンかなと思っていた」と考えが変わるほど、充実していた。
「この1週間の練習で、本当に誰よりもよかったと思うし、誰よりもパワーがみなぎっていていた。『試合に出ている、出てない』にかかわらず、そのようなパフォーマンスを練習でも続けていければいいのかなと。やっぱり、人って慣れるもの。最初来たとき、練習でも『レベルが高い。これは厳しくなるな』と思ったけど、今では全然余裕でやれる。だから、あとはチーム内の序列に勝ち抜くために、試合での結果が必要。
練習でも、みんなが信頼してパスを出してくるようになった。『コイツならできる』という感じにもなっている。入ってすぐのころは準備ができていなかったし、自分もちょっと焦っていた部分があった。W杯が終わって、ビザの関係でドイツにいないといけなくて。トレーニングも順調にできていなかった。いきなりチームに入ったから、全身が筋肉痛になったりもした。それでも、この1ヵ月でやっと周りの信頼が出てきた。本当にいいことだと思う。その信頼を確信に変えてもらえるように、試合で結果を出したい」
入団から約1ヵ月が経過し、ニューカッスルでの生活も落ち着いてきた。新居が無事決まり、サッカーに集中できる環境が整った。まだ妻子は英国に合流しておらず、食事については「がんばって自炊しています」と言う。「自炊したことがほぼないから。ご飯を炊いて、お肉を焼いて、野菜を茹でて。シンプルですよ」と、不慣れな料理にも挑戦している。
そんな武藤が囲み取材のなかで何度も口にしていたのが、「試合で結果を残すこと」だった。「練習でどれだけいいプレーをしても、試合で結果を出さないかぎり、この序列は変わらない」と、リーグ戦で先発出場のない苦しい状況を打破するには、ゴールやアシストの結果を残すしかないと自分自身に言い聞かせていた。
そして結果を残せば、未勝利の続くニューカッスルを救うことにもつながる。信頼を確信に変える最良の方法は、やはりネットを揺らすことしかない。