居場所がないと感じる人々に届けたい。日曜劇場『この世界の片隅に』という希望の物語

1944年、太平洋戦争の最中。広島の呉に嫁いだヒロインが、不安と戦いながらも明るく健気に日々を生きる姿を描いた、こうの史代の漫画『この世界の片隅に』。2016年に片渕須直監督により劇場アニメ化され、ロングランヒットを記録したことも記憶に新しい本作が、7月からTBS日曜劇場の枠で連続ドラマ化する――なぜこのタイミングで実写化なのか。30代にして『カルテット』や『99.9-刑事専門弁護士-』を生み出したプロデューサーの佐野亜裕美は、この物語に、自身が手がけてきた作品との「共通点」を見出したという。

撮影/アライテツヤ 取材・文/江尻亜由子

これは連ドラ向きの作品。原作者と分かち合えた思い

こちらの質問に、打てば響くようにポンポンと答えを返してくる佐野。その言葉から迷いは感じられず、「なぜ今、この作品を連続ドラマとして放送するのか」というロジックが、彼女の中にゆるぎなく存在することが伝わってくる。かかわった作品の数々を見れば、おのずと期待はふくらむばかりだが、彼女はこの高いハードルにどう挑んでいくのだろうか。
この作品は、2007年から『漫画アクション』(双葉社)で連載されていた、こうの史代さんによる漫画が原作ですが、ドラマ化したいと思ったきっかけから教えてください。
(2017年1月から放送された)『カルテット』で、自分がやりたかったことをやり切ったな、という個人的な感慨があったんです。ただ、わりと間口が狭い作品だったので、もっと幅広い方に観ていただける、自分らしい作品をやれたら、と思っていたところに、7月期の企画を出させてもらえるチャンスがありまして。
じつは10年くらい前に、こうの先生の『夕凪の街 桜の国』を単発ドラマの企画として考えたことがあったんですね。まだ入社して間もない頃で、それは実現しなかったんですけど。それからずっと、何となく心の中に引っかかっていたのもあって、久しぶりに読み直してみたんです。
その頃には、すでに片渕須直監督による劇場アニメも公開されていましたね。
そうですね。改めて原作を読んだときに、「これは自分がずっと作ってきた、“居場所のない人たちが、居場所を見つけていく物語”だな」と。
今の社会は息苦しいというか、みんな疲れていて閉塞感があるな、と感じることが多いんですよね。なのでテレビを観る方たちも、居場所を探しているんじゃないかな、と。そこから、日曜劇場のラインナップでやってきた王道のエンタメとはまた別の、でも日曜劇場でしか放送できない連続ドラマが作れるんじゃないかな、と企画を出したのが始まりです。
最初に原作を読まれたのはいつ頃だったのでしょう。
単行本が発売されてすぐですかね。もともと漫画が大好きで、本屋に平積みされているものは全部買って読むくらいなので。
ただ当時は、これを連ドラにできるとは全然考えていなかったです。民放の連ドラで戦争の時代を扱ったものって、少なくとも自分自身は見た記憶がないですし…。
たしかに、戦時中の物語を連ドラで、というのはチャレンジですよね。
そこはTBSの編成部の先輩方に、本当に感謝しています。民放でこれができるのは、この枠だけでしょうし。これをひとりでやらせてもらえるチャンスをいただけたことを意気に感じて、「頑張らなきゃな」と思いました。
もともと原作の評価が高く、劇場アニメもヒットして異例のロングラン上映となりました。その中で、ドラマ化することの意義をどのように考えられていますか?
65歳で静岡に住んでいる私の両親が、この作品のことを知らなかったんですよね。もちろんご覧になっている方はいっぱいいるけど、こんなに素晴らしくて見るべき物語なのに、一方では知らない人がいるということが、連ドラにしようと思ったもうひとつのきっかけです。また、以前日テレさんで2時間ドラマになったことがあって…。
すず役に北川景子さん、周作役に小出恵介さんというキャストで、2011年に放送されましたね。
映画も単発ドラマも2時間ほどの長さですが、連載という形で月日を積み重ねていくことで見える世界がある原作だと思っていたので、2時間に凝縮されることで、削がれてしまう部分もあるなぁと。私はリンさんのくだりが原作でいちばん好きなんですが、連続ドラマなら、日常の小さなことの積み重ねまで全部あまさずにできるし、逆にもっとふくらませることもできる。そこがこの原作と、親和性が高いんじゃないかなと思ったんです。
それで、これをテレビドラマでやらせてほしい、とお願いに行ったときに、こうの先生も「今まで、アニメでもドラマでも、2時間くらいのお話しか来ないのが不思議だなと思っていた」、「この作品は、時間をかけて放送する連続ドラマに向いていると思う」と言ってくださって。自分の感覚は間違ってなかったなと、背中を押してもらえました。

目指すは「夜の朝ドラ」。岡田惠和にオファーした理由

演出を担当するのは『GOOD LUCK!』、『逃げるは恥だが役に立つ』などの土井裕泰。佐野とは『カルテット』でもタッグを組んでいる。そして脚本は『ちゅらさん』、『ひよっこ』などを手がけた岡田惠和。ともに、日常生活の中でのちょっとした会話から感情の機微を描くのが得意なふたりだ。
今回、脚本を岡田惠和さんに依頼された理由は?
ちょうどこの企画を考え始めた頃に、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』が放送されていて。もちろん、それ以前から岡田さんとお仕事したかったんですけど、何となく『ひよっこ』に流れる空気感と『この世界の片隅に』という作品が、似ている気がしたんですよね。
それは、どういうところですか?
ちょっとハズしたところに良いシーンが来る感じ、というか。たとえば卒業式のシーンでは、有村架純ちゃん演じるみね子たち卒業生ではなく、お母さんたちがドラマの中心になっていく。『この世界の片隅に』も、普通ここで盛り上がるだろうな、っていう部分ではないところが描かれていきますよね。
また、このドラマはどこか朝ドラっぽいところがあると感じました。市井の名もなき人の生活が丁寧に描かれているという点で…。もちろん日曜の夜に求めるものと、月曜から土曜の朝に求めるものは違うかもしれないんですけど、朝ドラがこれだけ見られているのは、ああいうものを見たいという視聴者の思いもあるんじゃないのかな、と。ある種、「夜の朝ドラ」的な、でも日曜の夜らしいものを目指していくにあたって、朝ドラの脚本をたくさん書いてきた岡田さんにぜひお願いしたいと。その2点ですね。
岡田さんの反応はいかがでしたか?
「いろいろな意味で難しい原作なので悩んだ」と伺いました。でも岡田さんが『ひよっこ』を書かれたときに、「『この世界の片隅に』に似たものを感じました」というメッセージをいただいたらしくて。それで「これは縁だな」と思ったそうです。
では、土井さんが演出を担当されることになった経緯を教えてください。
土井さんのことは、ちょっと言葉は乱暴かもしれませんが、ミドルサイズの人間ドラマを撮らせたらナンバーワンだ、と勝手に私は思っていて。すごく人間くさい人で、ちょっとした日常の「あぁ、こういう感じあるよね」っていう表現が、本当に上手いんですよね。
加えて、土井さんは広島出身で、昔『この世界の片隅に』の話もしたことがあるんです。それで、「『この世界の片隅に』をやることになったんですけど、土井さん、やらなくていいんですか?」と、ささやきまして(笑)。
そうだったんですね(笑)。
ほぼケンカ売ってるな、っていう(笑)。そしたら、他のお仕事もあったはずなんですけど調整して引き受けてくださいました。偉そうな言い方になりますけど、「絶対に土井さんがやらなきゃダメだよ!」って、思ってました。
土井さんは上司でもありますが、尊敬しているところはありますか?
土井さんは、本当に人を動かすのが上手いんです。こうしろああしろと細かく言うのは誰でもできるけど、土井さんはそうではなくて、好きにやらせる。役者さんやスタッフさんはやらされてる感じがないのに、それでも、いつの間にか土井さんの手のひらの上、みたいな(笑)。
スゴいですね。
この前、久石 譲さんのレコーディングがあったんですけど、久石さんが「あの監督は良いよ」と。「オーダーが、多すぎず少なすぎず的確で、余計なことを言わない。すごく細かく注文されるとやらされてる感が出てくるけど、土井さんはそうじゃないから、こっちも『あと1曲、頑張ろうかな』という気になる」と言ってらしたんですよね。
久石さんも一目置かれているんですね!
それは手練手管ではなく、土井さんの人柄だと思うんですけど。私はまっすぐにしか進めない人間なので、その「いつの間にか、人を良い気持ちのまま動かせる」ところが、素晴らしいなぁと。
一方で「あぁ、もう今日はできない!」みたいなネガティブなところもいっぱいあって(笑)。それでもちゃんと前に進んでいくのが尊敬できるというか、本当に愛すべき人柄なんですよね。

すず役・松本穂香の決め手は「アンバランス」なところ

キャスト発表時も大きな話題を呼びましたが、ヒロインをオーディションで選ぶというのは、先ほどのお話で言うと、朝ドラを意識された部分もあるのでしょうか。
もちろん、キャスティングで選ぶという線もゼロではなかったんですけど、14歳から20歳くらいまでの幅広い年齢を演じられる方で、誰にすずさんをやってほしいか、と言われてぱっと浮かぶ人がいなくて。だったらいっそオーディションにしてみるか、と。日曜劇場の主演をオーディションで決めるって、私が知っている限りでは過去にもなくて、よくやらせてもらえたなと思うんですけど(笑)。
でも、単に演技の上手い人ではなくすずさんを見つけるのは、なかなかないオーディションの形ですよね。結果、松本穂香さんを選んで本当に良かったなと、撮影が始まって強く感じています。
松本さんの決め手は、何だったんですか。
すずさんってすごく難しいキャラクターで、バランスの良い女優さんにやってもらうと鼻につくな、と思いました。ちょっと人とテンポがズレていてのんびりした、でも芯の強いところがある…という難しい役柄なので。でも、松本さんはいろんな意味でアンバランス。
オーディションのとき、前髪が顔にかかっている子がいたので「ピンで留めてください」と言ったら、その次の順番だった松本さんも「自分も髪をあげなくちゃ」と思ったみたいで、バッグの中をものすごく探していて、ガシャーン!!って落としちゃったりとか。結局ピンが見つからず、私も「そのままで大丈夫ですよ」と声をかけたんですが、さらに焦ったのか、いざやってもらったら(演技が)ボロボロだったんですよ(笑)。
それが2回目の審査。1回目の演技がすごく良かったので残したんですけど、2回目だけ見てたら、多分落としてるんですよね(笑)。その不安定な感じとか、本人の資質がすずさんに近いのかな。そこが大きかったですかね。
現場ではいかがですか?
本当に一生懸命です。いわゆる“天然キャラ”って、女性から見ても難しいじゃないですか。計算なのか本物か、みたいな(笑)。すずさんはまたちょっと違うんですけど、でも素の松本穂香という人自体、生きているテンポがちょっと人と違う感じがして、そこをあまり意識せずに出せてるんですね。応援したくなるような危なっかしさもあって、変に上手くやろうとしないところも、また良いですね。
すずの夫・周作役に松坂桃李さんをキャスティングしたのは?
松坂さんはここ最近、いろいろな監督と、普通だったら断りそうな役もたくさんやってらして。それがどれもきちんと評価されているうえに、きっと監督に愛される人なんだなというのが、画面を通じて伝わってくるので。
周作は、原作を読むと「このとき、何を考えているんだろう」というのがわかりにくい人なんですよね。たとえば、すずさんが(義姉の)径子さんに「実家に帰ったら?」とキツいことを言われても、周作は何も言わない。漫画の表情を見ても、わからないというか。
たしかにそうかもしれません(笑)。
(周作の)録事さんという仕事も、当時だとやはり軍人になりたいのに文官だった、といった…掘り下げるとコンプレックスもあるんじゃないかなと思うんです。
【編集部注】
※録事…大日本帝国の陸海軍で、軍法会議を構成する役職。調書の作成や記録などを担当する。
原作で描かれていないそういう部分をふくらませていくのに、そして松本さんにまだ経験が少ないことを考えても、いろんな現場でさまざまな役を経験している松坂さんがベストだろうな、と。現場でも、本当に助けられています。
すずと周作とのあいだに微妙な関係で入ってくる水原 哲役は、村上虹郎さんが演じます。
村上虹郎という俳優と仕事をしてみたい、と監督も私もずっと思っていたんです。他の映画をいろいろ見ていて、まだ21歳なのに全然そう見えない……特別な人だな、と感じていて。
あとは、松坂さんと穂香ちゃんとはまるで違うツーショットがいいなぁと。原作の哲は水兵さんなので、ガタイが良くて男前で…みたいな印象があったんですけど、どちらかというとすずにとって気が置けない幼なじみ、という感じのほうがいいんじゃないかなと思いました。
そこで、いろんな若い役者さんと穂香ちゃんとのツーショットを思い浮かべたんですけど、虹郎くんが良いな、まったく異質な存在として北條家にやってくるほうがドキドキするだろうな、と思って。あとは坊主が似合いそう(笑)。
先ほど「夜の朝ドラ」とおっしゃっていましたが、他のキャスティングでもそこは意識されたのでしょうか。
単純に自分が仕事をしたい方にオファーしていったら、発表時に「朝ドラ感」と言われて、「あっ、本当だ!」と(笑)。
すずの母親役で、仙道敦子さんが23年ぶりにドラマに出演されるのも話題になりました。
この役も、原作ではあまり描かれていなくて。すずのお母さんなので、どこかちょっととぼけたところもありつつ、でも芯の強い人なんだろうなと予想して、一体どなたにオファーしたらいいんだろうなと悩んでいたんですよね。
そうしたら、以前に何度もお仕事をご一緒していた土井さんのところに、「復帰を考えている」とお話があったそうで。「(手を叩いて)来た!!」と、すぐにオファーしました。お会いしたら変わらぬ美しさで、びっくりしましたね。

実写化作品で大事なのは、肉や骨ではなく「血」

佐野プロデューサーが手がけたドラマ『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』は、原作ファンを含む多くの視聴者の感情をゆさぶり、高く評価された。原作モノの実写化が増える昨今、批判的な意見が出ることも多いが、気鋭のプロデューサーは何を重要視しているのだろうか。
今回のドラマは、原作ファンの思いが強いぶんハードルも高いと思います。佐野さんが実写化作品を作るうえで大切にされているのは、どんなことでしょう。
うーん…(少し考えて)、私は、肉とか骨より血が大事、と思っていて。「(物語のベースとなる)骨だけ借りて、肉は後でつける」とか、人それぞれのやり方があると思うんですけど、私はどちらかというと、そこに流れる血のほうが大切だなと考えています。その世界観に流れる精神さえつかんでいれば、細部を変えても愛されると思うので。
今回のドラマでも、原作にはない細かいエピソードがプラスされています。岡田さんにどのようなオーダーをされたのでしょうか?
漫画は平面ですが、ドラマとして「立体」にする…リアルな人間が演じるためには、「どうしてこういうことが起こったんだろう?」を伝えるエピソードが必要で。だから、そのあいだをプラスしていただいて、あとは自由に作ってもらいました。
今回は全9話で10時間近く作るので、先ほど言ったような周作のコンプレックスとか、家族が何を考えているのかとか、行動に至るまでをきちんと追っていかないといけないんですよね。
なるほど。
すずさんに十円ハゲができる場面もありますが、それなりのストレスを受けていないと十円ハゲはできないじゃないですか。でも原作には、そこまで詳しく描かれていないので。
たしかに原作では、結果を提示して行間を想像させる場面も多いですね。
はい。その点、岡田さんの脚本は、たとえば『ひよっこ』でも、おばさんたちの会話が面白かったりして。すずと近所の人とか、周作と同僚とか、人と人とがつながっていく感じ……家族だけではなく、周りの人がどうやって生きていたかもふくらませてほしいです、それが岡田さんにお願いした理由なんです、と伝えました。
だから順番が入れ替わったりとか、原作とズレていくことも出てくると思います。生身の役者さんが演じるからこその足し引きは、けっこう大胆にしてますね。

どこにいても「自分の居場所はここじゃない」と感じていた

先ほど、「居場所をめぐる物語をずっと作ってきた」とおっしゃっていました。
意識しているわけではないんですけど、どんな脚本家さんや監督の方と組んでも、いつの間にかそこに作品の芯が行ってしまうことが多くて。多分、自分自身が抱えているコンプレックスがあるからなのかな。
過去のインタビューでも、「周りになじむ方法や戦い方がわからず、居場所をずっと探してきた」と語られてますよね。
自分の人生のテーマだと思ってます。別に家族や生育環境がどうというわけではないんですけど、居心地の悪さというか、どこにいても「ここじゃない」みたいな気持ちを、幼い頃からずっと感じているんですよね。今はこの仕事を始めて、結婚もして、ようやく楽しいなと思えるようになったんですけど。
佐野さんはエリートコースをスムーズに歩まれている印象なのですが、ご自身のコンプレックスとは?
中学校とか高校とかの思春期に、自分と世界との距離感がつかめなくて。わりと器用に、いろんなことができたほうではあったんですが、学校という組織になじめず、本当に行くのがイヤだったんです。先生に指示されるのも苦手で。「ここには居場所がないなぁ…」と思って、漫画や小説、ドラマといった物語の世界に逃避していました。
そこから、居場所を探すことがテーマになったんですね。
もうひとつ、殺人事件のルポルタージュや死刑囚の日記にも、興味があって。そういうものを読んでいて、他者を傷つけるのは、自分が見つけた居場所を必死に守ろうとするときとか、「居場所がない」と思ったときだな、と感じたことがあるんです。「人は皆…」と言ってしまうと乱暴かもしれないけど、結局のところ自分も含めて、居場所を探して進んでいくのが人生なんじゃないか、と。
ライフワークと言うとあれですけど、自分が追求していくべき課題だと思っています。かつての自分と同じように「居場所がない」と感じている方々に、何かちょっとプラスにはたらくような作品を届けたいな、と強く思っているんです。
今回のドラマはそういう方に向けて、日曜の夜にちょっと逃避できる場所を提供できたら、という感じでしょうか。
原作に「どこにでも愛は宿る」という、こうの先生のメッセージがちょこちょこ書かれてるんですけど、それがすごく好きで。今回のドラマなら、「居場所って、自分が主体的にそこに行かなくてもできていくんだよ」というか。
たとえば、自分が「この人と結婚する!」と主体的にものごとを進めていって見つけた居場所じゃなく、昔会っただけの人に嫁にもらわれて結婚して――自分が望んでいた場所ではなかったかもしれないけど、そこが自分の居場所になっていく、そこに愛が宿っていく。そんなことが起きるんだったら、うまく言えないけど、「勝負権」があるなって気がするんですよね。
勝負権?
運命や必然じゃなくても、偶然たどり着いた先で愛や居場所を獲得できるのであれば、寄り添った、積み重ねた時間に比例して愛は育つのであれば、それは勇気になるというか。自分の人生にもそういうことが起きるかもしれないと思ったら、まだ勝ち目があると思える。それって、希望じゃないですか。すべて主体的、能動的でなければいけない、偶然には頼れない、というのはスゴいプレッシャーだし、みんながみんな、そんなふうにできるわけじゃない。
でも、偶然、本当にたまたま出会った人と――戦争中だからつらいエピソードもありますけど、それを乗り越えて自分の居場所ができていくのはある種の救いだな、と。だから、逃避というよりは希望ですよね。
最初は望んでいなくても、その人の一番じゃなかったとしても、たどり着いた場所で絆が生まれて愛を獲得できる。そういう希望を伝えられる作品になればいいな、と思っています。
佐野亜裕美(さの・あゆみ)
1982年生まれ。静岡県出身。東京大学教養学部卒。2006年にTBSテレビに入社し、情報バラエティ番組『王様のブランチ』担当を経て2009年にドラマ部へ異動し『渡る世間は鬼ばかり』のADに。プロデューサーとしては2013年に『潜入探偵トカゲ』、『刑事のまなざし』、2015年に『ウロボロス〜この愛こそ、正義』などミステリードラマを数多く手がける。2016年の『99.9〜刑事専門弁護士〜』も人気を博し、2017年にプロデュースした『カルテット』は、芸術選奨文部大臣賞など、多くの賞を受賞した。

    ドラマ情報

    TBS日曜劇場『この世界の片隅に』
    7月15日(日)スタート!
    毎週日曜よる9時
    http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

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