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谷口 芝居の勉強は何もしないまま30歳を過ぎて放り出される。そんな声優が使い物になるわけないんです。そのコたちがあまりにも可哀想です。もちろん、全ての事務所がそうではないですよ。しっかりしているところだっていっぱいある。でも、一部の事務所は役者を育てようという気がなくて、若いうちに使い捨てをする気が満々じゃないですか。
具体的な作品名は挙げませんが、ヒットした作品にもそういうスタンスのものはいっぱいありますよ。個人営業の肩書として「アイドル」を掲げるのは構わない。でもね、それは歌とかの個人活動やファンの前だけにしてほしい。こんなの常識でしょ。ま、結果的にそれに加担している私も悪ですけどね。
―それが谷口監督の言う「アニメ業界の幼稚性」ですか。
谷口 こういう幼稚性といかに向き合っていくのかというのは難しいところでした。普通に役の説明をする時に「このふたりはセックスしている関係です」と言いますよね。ところがアニメの現場というのは、セックスという単語を言うのがなぜかはばかられる雰囲気があるわけですよ。言わないと説明できないから言いますけど(笑)。
こういう幼稚性をアニメ業界はいつまでも抱えていくのか、それと向き合っていくのか。そこは今後を考える上でのひとつのポイントでしょうね。
■実写業界にケンカを売りにいくつもりが…
―こうした業界の風潮に対して一石を投じたいという気持ちはあるんですか?
谷口 『プラネテス』の時はありました。ただ、それはアニメ業界に対してというよりも、実写の連中に対して「アニメに勝てもしないくせに『実写のほうが上でござる』という顔でふんぞり返りやがって」という感情です。それはNHKの最初の試写の時にも言いました。「実写でやれるものならやってみろ」と。
―あれだけ規模が大きい宇宙ものは日本の実写ではまず無理ですよね。ハリウッド映画くらいの規模がないと。
谷口 ただ、実際には予想と違うことが起こったんですよね。というのも、アニメ業界に全無視されて。
―そうだったんですか? かなり高い評価を受けた作品というイメージでしたが。
谷口 あの作品はアニメ業界やファンからは無視された作品だと思うんですよ。今なら海外の声も聞こえるから少しは違うのかもしれないけれど、制作当時は実感としてありました。実際にもらったのはSFの星雲賞です。SF界の人は認めてくれて、アニメ業界からは何もない。それでなるほど、と。
アニメ業界も自分たちが評価しやすいものだけを評価するんだなということがよくわかって。そうでなければ有名なスタジオの監督や有名な事務所の声優さんだけが特定の賞を受賞することもないだろうしね。そういうとこだけ大人の世界。
―まさに忖度(そんたく)の世界ですね。
谷口 実写の世界にケンカを売りに行くつもりだったのに、なぜかその拳が空回りして自分で自分を殴っていたというか(苦笑)。
谷口 ありがたかったのが、映像好きな人が『プラネテス』を評価してくれたんです。NHKさんでも年末の年越しプログラムで再放映していただいたりとアニメファン以外の評価が高かった。
―『プラネテス』は間違いなく名作だと思いますが、当時の評価はそういう感じだったんですね。
谷口 「なんでこんなに無視されるの?」と思ったくらいですから。脚本の大河内に賞ぐらいあげてやってくれよ、アニメーターたちだって評価してやってくれよ、と。
■未だ業界のアウトサイダー
―そういう状況にあって、それでも次の作品依頼があったわけじゃないですか。そこはどう捉えていらっしゃるんですか?
谷口 幸いにもアニメ業界の制作ではなく外部から評価をいただいたので、そこから声をかけていただいていることが多いんですね。『プラネテス』の後でいうと、この時、初めて一緒になったバンダイナムコアーツの湯川淳さんというメーカー側のプロデューサーの方が、私ともう1本やりたいと言ってくださった。それが『コードギアス』なんです。
―未だに業界のアウトサイダーというわけですね。それはご自身がアニメ少年ではなく、元々は実写志望だったことにも由来するのでしょうか?
谷口 そうかもしれないですね。もちろん、視聴者としてアニメは観ていたし、作る側に人並みの興味はありましたよ。ただ、「絵描きじゃないしな」ってところがあるわけです。一方で自主映画をやってみたり、演劇をやったりして、いつかは実写の現場に落ち着くんだろうなと思っていました。それでも、いざ就職となった時…「やっぱりアニメをやってみたい」となったんでしょうね。
しかも当時は、高畑勲さんや押井守さんといったアニメーター出身ではないのにアニメの監督をやって成功している例がいくつか耳に入ってくるわけじゃないですか。それで「やるだけやってみて、ダメだったら実写に戻ればいいじゃないか」という気持ちで入ったんです。
だからアニメ業界に対しては元々、外の人として来たという意識があるんですよ。加えて最初に入った会社がJ.C.STAFFといって、今でこそそれはもう立派な組織になりましたけど、当時は設立間もない無名の頃で雑草もいいところでした(笑)。
―最初は演出ではなく制作進行だったんですよね。
谷口 だから同世代のエリート監督とは全くキャリアが違うんですよ。しかもJ.C.STAFFにいても監督にはなれないとわかって、私はアニメ業界を1回辞めましたからね。実写に戻ろうか、知り合いがAVやっているからそっちでしばらく働いてみようとか考えたわけです。
そうしたらサンライズの内田健二さんから「制作として働かないか」と電話がかかってきて、「演出になれるんだったら行きます」と答えたんです。「確約はできないけれど、昇格試験を受けさせることはできる」という返事をもらって、そのままズルズル…という感じですね(笑)。
●第3回⇒『コードギアス』谷口悟朗監督を直撃、待望の新シリーズは「世界をさらに広げていく…キーワードが“復活”」
(取材・文/小山田裕哉 撮影/山口康仁)
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