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ただその一方で、五十幡は野球においても非凡な才能を開花させる。東京神宮シニアのトップバッターとして活躍。ジャイアンツカップにも出場し、チームを全国3位に導いた。
その活躍を見た当時U-15日本代表の鹿取義隆監督(現・巨人GM)は「将来、足だけで客を呼べる選手になれる」と絶賛。U-15アジアチャレンジマッチ2013の日本代表に選ばれ、国際大会も経験した。
チームメイトと一緒に喜びを分かち合う団体スポーツの醍醐味に魅了された五十幡は、陸上競技生活に終止符を打つ。目標を甲子園に絞り、野球強豪校の佐野日大(栃木)に進学。だが、悲願の甲子園出場を果たせないまま、五十幡の高校3年間はあっという間に過ぎていった。
一方、五十幡に敗れたサニブラウンは、2015年の世界ユース陸上選手権大会で100m、200mを制し二冠達成。昨年は世界陸上選手権大会(ロンドン)100m予選で自己ベストの10秒05をマーク、200mでは決勝進出を果たし、2年後に開催される東京オリンピックのメダル有力候補になるまで成長を遂げた。
世間の注目という面では、両者の立場は完全に逆転した格好となった。それでも五十幡は2年後のドラフトを目指し、黙々と目の前の課題に集中している。
昨年、中央大に入学早々、ベンチ入りメンバーに抜擢された五十幡だったが、足のケガもあり、満足のいくシーズンを過ごせなかった。今年のリーグ戦が始まる前、五十幡はこう語っていた。
「今のところケガもなくいい感じで調整できていますが、まだ鍛え足りない。まずは出塁率を上げて監督から認めてもらわないと……。どうすれば1回でも多く塁に出られるか。その課題を克服するため、集中的に練習しています」
171センチ65キロの五十幡は、野球選手として小兵の部類に属す。あるプロ球団のスカウトは「2年後にプロ入りを目指す五十幡にとって、最大の課題は打撃です」と語る。昨シーズン、五十幡のリーグ戦の通算成績は52打数15安打、打率.288。数字だけ見ると、決して悪いものではない。しかし、五十幡は物足りなさを感じていた。
「各大学のエース級が投げるストレートの威力や鋭く曲がる変化球を目の当たりにして、圧倒されました。(自分は)狙い球もポイントもバラバラ。もっと絞って、ボールを強く叩くバッティングをイメージしてバットを振るように心掛けています。ボールを絞れるようになれば選球眼はよくなると思いますし、四球も増える。そうなれば課題にしている出塁率のアップにもつながるはずです」
現在、五十幡の塁間走(27.43m)は3.6秒。プロのトップレベルの目安が3.7秒と言われているから、すでに一流選手の脚力は持っている。だが、足が速いだけで盗塁はできない。相手バッテリーとの駆け引きが成否を分ける。
「盗塁する際、ボールカウントによってスタートの力の入れ加減を変えなくてはなりません。力を抜いた状態のままスタートできるケースもあれば、スタートの瞬間から全力で走るケースもあります。その都度、状況に応じて走るスピードに変化をつけないと、相手バッテリーに気づかれてしまう」
セールスポイントであるはずの盗塁にも修正すべき課題が多いという。一例を挙げると、スタートを切るときの姿勢が若干、前かがみになるクセがある。その姿勢を無意識に繰り返していたため、相手バッテリーに見抜かれて、失敗することも多かったと話す。
「まだクセを完全に修正できていませんが、片方の足にどの程度の割合で重心を置いたらいいのかを考えてやっています。右足に重心を置いたり、ときには左足に置いたり……。試行錯誤の結果、最近ようやく自分に合った立ち方を習得してきたように思います」
将来の夢は、もちろんプロ野球選手になることだ。小学3年生のときに母親を亡くしたときから、ずっと思い続けているという。
「母は自分が走ったり、野球をしている姿を見るのが大好きでした。将来、僕がプロ野球選手になることを夢見て、いつも熱心に応援しに来てくれた思い出があります」
夢を叶えるため、いつしか父と1歳年上の姉が五十幡の野球中心の生活を支えるようになる。
「中学時代に所属した東京神宮シニアの練習場は自宅から車で1時間かかる遠隔地だったので、練習がある日は朝4時に家を出ることもありました。父は仕事で疲れているにもかかわらず、毎週末、練習場まで送迎してくれました。
気がついたら、自分優先の生活になってしまっていたように思います。そのせいで、姉は休みの日でも父と一緒に出かけることができなかった。父と姉には大変な迷惑をかけてきました。必ずプロ野球選手になって、恩返ししたい気持ちでいっぱいです」
五十幡について、中央大の森田健矢マネージャー(2年)は、次のように語る。
「性格はとても真面目。練習も学業も手を抜かず、一生懸命こなす。努力を怠らない選手です。入学当初は体の線が細かったけど、ウエイトトレーニングを地道に続けてきた結果、今ではムキムキのすごい筋肉質な体になりました」
そんな五十幡が目標にするのが、高校の先輩で、今年秋のドラフト候補でもある長沢吉貴(日大4年)だ。
「自分と同じタイプで、出塁率が高く、盗塁の技術も長けている。高校時代はいつも楽しみながら野球をしている印象がありました。そんな長沢さんを目標にして、2年後のプロ入りを目指したい」
かつてのライバル、サニブラウンにとっても2年後は集大成の1年になりそうだ。あれから5年が過ぎた今、サニブラウンのことをどのように受け止めているのか。
「高校1年のときに会ったきり、連絡すら取っていません。せめて電話で話すぐらいしたいですが、彼も忙しいから無理でしょうね(笑)。世間は自分について“陸上の五十幡”“サニブラウンに勝った男”というイメージが強いみたいですが、それは中学時代の話。とにかく野球ですごい選手になれるように頑張りたい。彼に負けていられません」
2年後のプロ入りを夢見て、五十幡は東都で暴れまくる。
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