「自分の声帯で可能な限り一番いい歌を」Aimerと音楽とファンの幸福な三角関係。

一度聴いたら忘れられない、深みのあるハスキーボイスは、そっと寄り添ってくれるような温かみと、どこかドライなあきらめや孤独を感じさせる。新世代の歌姫・Aimerはデビュー当初、プロフィールも謎めいたまま、聴く人の心を震わせる歌声だけを武器に、着実にファンを増やしてきた。デビュー7年目となる2018年、最初のシングル『Ref:rain/眩いばかり』をリリースするタイミングで、本インタビューに初登場。まだまだ知られていない、その人物像や歌声のヒミツに迫った。

取材・文/江尻亜由子

久しぶりのバラードとなる新曲『Ref:rain』の制作過程

今回のタイトル曲のひとつ『Ref:rain』は、雨の風景とともに思い起こされる、切ない恋心を歌うバラード。1月から放送中のアニメ『恋は雨上がりのように』のエンディングテーマに起用されている。楽曲制作は、タイアップの話をうけて、2017年9月から始まったという。
制作はどのように進んでいったのでしょう?
プリプロ(仮録音)をしたのは、2017年の9月です。この曲だけ、まずワンコーラス分の歌詞を作っていたので、それをレコーディングして。そこから本番のレコーディングまでに歌詞を仕上げて、ほかの曲も同時進行で作っていきました。怒濤のように、どんどんと自分たちを追い込みながら(笑)、最終的には12月のタイミングで仕上げた感じです。
ちなみに、最初に作っていたフレーズというのは……?
「Raining…」のところですね。この曲はやっぱり、雨をテーマにしたいと思って。今回のシングルは、収録した4曲を通して何かしら雨をモチーフにしたかったので、最初にタイトルから決めていったんです。そのうえで歌詞は、『Ref:rain』の♪Raining…っていう、「雨が降っている」というところから、書いていきました。
歌詞については、普段どういう環境で書かれますか? 家にこもって一気に書くとか、日々感じたことをストックしておくとか。
やっぱり日々感じたことは残しておいています。昔はベッドの中とかで一気に書くことがほとんどだったんですけど、ずっとこもって書こうとすると煮詰まっちゃうので、最近は散歩中とか、いろんなところで書くようになりました。歩きながら携帯にメモしたりとか。
歌詞を書くために散歩へ? それとも、散歩をしていたら歌詞が出てくる感じでしょうか?
両方ですね。もともと散歩が好きで。旅に行っても観光地へ行かないでそのへんを歩くとか、そういうことが好きなんですけど。普段でも、散歩していたら、言葉が浮かんできたりとか。
以前のインタビューで「歌詞は夜に書くことが多い」と。お散歩の時間帯も夜ですか?
夕方か夜が好きです。冬だと寒いので、夕方、日が落ちる前とか。
「煮詰まるな」と思う前は、作詞は手書きだったんですか?
今も手書きです。書くのは、やっぱり……手を動かすっていう行為が、昔からすごく好きなんですよね。日記とかも幼稚園の頃から書いていたんですけど、家に何十冊も置いてあって。新しいノートを買うとか、そこに初めて字を書く瞬間とか、そういうひとつひとつの瞬間が好きです。
タイトルの『Ref:rain』、「繰り返す」という意味ですね。
タイトル通り「繰り返す」ということで、戻らない瞬間を自分の中で繰り返している、ということを歌っていて。自分にとっても久しぶりに素直なバラードなので、シングル全体の「雨」というコンセプトも含めて、楽しんでもらえたらいいなと思います。
コロンで区切られているところに、Aimerさんの思いが込められているのかなと。
ただ『Refrain』ってシンプルにするよりは、コロンで区切ったほうが「rain」に込めた思いも伝わるし、ダブルミーニングというか、受け取る人によっていろんな意味が生まれてくるかなと。受け取る人の判断に委ねたいな、というところです。

デビュー時から変わらない、アニメ主題歌を歌う“感動”

『Ref:rain』がエンディングテーマとなっているアニメ『恋は雨上がりのように』は、45歳の冴えないファミレス店長に、女子高生の橘 あきらが恋をするというピュアなラブストーリー。怪我で走ることを断念した元陸上部エースのあきらと、夢を諦めた過去を持つ店長。不器用なふたりの想いが交錯する。
『恋は雨上がりのように』の原作から作詞のイメージを広げられたとのことですが、Aimerさんはこの作品のように、年上の男性にときめいたことはありますか?
そうですね……居間でテレビ番組より映画が流れていることが多い家だったので、幼い頃から映画を観る機会のほうが多くて。そういう中で、ブルース・ウィリスが好きだったりとか。あとは、ジョン・トラボルタとか。映画『パルプ・フィクション』とかがすごく好きで。
渋すぎる!
渋いですよね(笑)。そういう意味で……小さい頃から渋い俳優さんがカッコいいなと思って見ていたりはしました。
Aimerさんからご覧になって、この物語に共感できる部分はありますか?
原作のテンポ感というか、時の流れ方が、いい意味で全然せわしなくないというか。なので余計にこの、あきらさんが店長に惹かれるという気持ちがすごく愛おしいというか、美しいものだなーって感じられます。店長も店長で、あきらさんが店長のことを好きで見ているのに、にらまれていると思っているとか(笑)。そういうところも面白くて笑っちゃったり。全体として、“間”がすごく気持ちいいですね。
アニメもご覧になってますか? 最後にご自身の歌が流れてくる感覚って、どういうものなんでしょう?
デビューしたとき(1stシングル『六等星の夜』)も、アニメ(『NO.6』)のエンディングで使用していただいたんです。自分の曲が流れてくるときの気持ちは、そのときから変わっていなくて、一言でいえば、ただただ感動。リアルタイムで見ている人がいて、同じ瞬間に自分の音楽を共有できているんだという感動もあります。初めて流れるときは緊張しますけど、すごくうれしいですね。
今回もドキドキしながら?
今回はアニメの本編に夢中になっていたので、自分の声が流れてきて「あれ? もう終わりだ!?」って、そっちのほうにびっくりしちゃいましたけど。本当にうれしかったです。
アニメ自体、よくご覧になるほうですか?
映画が好きなので、アニメ映画をよく観ます。たとえば、ジブリ作品ももちろん好きですし、今 敏さんというアニメーション監督の作品は全部観ています。
アニメ映画の中で、とくに好きな1本というと?
海外の作品になりますが、フランスのシルヴァン・ショメ監督が作った『ベルヴィル・ランデブー』が大好きです。公開されたときに映画館に観に行きました。そのときに後ろで観ていた、たぶんフランスの方がエンドロールで「ブラボー!」と立ち上がったことも忘れられなくて、すごく思い入れがあります。

「こういう声にならないと」感情よりも理詰めで歌うタイプ

今回のシングルは、『Ref:rain』だけでなくCoccoが楽曲提供する『眩いばかり』もA面に。また、Coccoの名曲『Raining』のカバーもカップリングとして収録されている。偶然このタイミングで楽曲提供の話があり、両A面という形をとったという。
もともとCoccoさんの音楽は聴いていらしたのでしょうか?
昔からいちリスナーとして聴いていて、本当に憧れの人です。デビューしてからカバーアルバム(『Bitter&Sweet』)を出しているんですけど、そのアルバムでもCoccoさんの『強く儚い者たち』を歌わせていただいてます。
そんな方から、楽曲提供のお話があったと。
本当にただただ、うれしかったですね。素敵なタイミングでお話をいただけたので、この曲もみなさんに、タイトルとしてちゃんと掲げたいというか、宣言したいというか……。そういう意味も込めて、両A面にしました。
Aimerさんは声フェチだということですが、Coccoさんの声については、どんな印象ですか?
Coccoさんの声というか歌は、そのまま歌っていらっしゃるというか……すごくまっすぐなところが素敵だと思います。自分にはないものなので。私はけっこう理詰めで考えて「こういう声にならないといけない」とか「自分の声のここがイヤだ」とか、理屈っぽいところがあるんです。
Coccoさんは、本能に従って歌っていらっしゃるようなイメージがありますよね。
そうですね。そのまっすぐさがCoccoさんの素敵なところだなというのは、昔からすごく思っていました。今回も『眩いばかり』のデモをいただいたときに、それを改めて感じましたね。
ご自身は理詰めで考えるタイプとのことですが、普段の生活で感情をむき出しにするような場面はあるのでしょうか? たとえば最近、泣いたことは?
涙もろいかもしれません。それこそ、映画を観て泣いてしまうし、本を読んでも泣いてしまうし。ただ、そういうのはひとりのときですね。人に涙を見せるのは……まぁ我慢できないときはあるけど、我慢したいっていう気持ちはあります。
感受性が豊か、というのはもう絶対にそうだろうと思うんですけど、声のイメージから、他者に感情をぶつける、みたいなイメージがわかないんですよね。
たしかに、人と話をするのは好きですけど、感情的ではないですね。淡々と、「どうしてそうなったんだろうか」みたいな感じではあります(笑)。
理が詰まってる(笑)。
ふふふ。きちんと考えて納得しないと気持ち悪いと思っちゃうので、「なんで泣いているんだろう」「なんで悲しいんだろう」ということもノートに書いたりしますね。そういうことをやらないと、自分をごまかしている感じがしてしまって。自分の気持ちを、これから先に役立てたいというか。自分の肥やしにしたいという気持ちがありますね。
感情を揺り動かすもののひとつが本ということですが、どんな本がお好きですか?
村上春樹さんと川上弘美さんが、大好きで。音楽もそうなんですけど、その人の作品をひとつ好きになると、全部読みたい、聴きたいという感じがあります。たとえばこのアルバムが好きだったら、全部順番に聴いてみようとか。
時系列で聴いたり読んだりしていく。
そうですね。ひとつ好きになったら、それを繰り返してとにかく読む、というのもあるんですけど。できればその人の全部を好きになりたいという気持ちがあるのかもしれない。そのお二方は、小説もエッセイも全部が好きです。
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