なぜ、この人の出る映画は面白い? 佐藤 健が冷徹に見極める期待と勝算

“人気俳優”、“実力派俳優”と呼ばれる俳優ならごまんといる。でも「この人が出ているなら見てみようかな」と、熱烈なファンではない層をも映画館に足を運ばせることができる俳優は決して多くない。ましてや、一時的なブームではなく、その状態を継続できる存在となると、各世代にひとり、ふたりいるかどうか。佐藤 健は、それができるまれな存在である。彼が出演する映画はなぜ面白いのか? いや、そもそも佐藤が考える面白い映画とは何なのか? 主演映画『亜人』公開を前に話を聞いた。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

映像を見て、面白い作品になったという確信を得た

『亜人』は桜井画門さんの人気漫画を原作に、見た目は普通の人間ですが、決して死なない肉体を持つ“亜人”と呼ばれる新人類になってしまった永井 圭(佐藤)、亜人を利用しようとする国家、国家転覆を図る亜人たちの集団の戦いを描きます。完成した作品をご自分で見られて、いかがでしたか?
自分が参加しているので、なかなかまっさらな気持ちで見ることはできないですが、それでも、もし何も知らないひとりの観客として見たら、ものすごく興奮しただろうなと。かなり面白い作品になったという確信を得ました。
物語はもちろん、亜人たちが放出するIBM(インビジブル・ブラック・マター/人間には見えない黒い粒子で、亜人たちはこれを操り戦わせることができる)のCGの映像もスゴかったです。
CGの部分はもちろん、撮影時にはどんなふうに表現されるのかわからなかったのですが、完成した作品を見たら、すごくクオリティが高くてうれしかったです。編集のテンポの良さも、僕らが撮影時から目指していた通りでした。音楽もアクションとの相性が良く、理屈抜きでテンションが上がりましたし、すごく満足のいく作品になりました。
映画では、ある日突然、自分が亜人であることを知った永井 圭が、国家やテロリストたちの策略に巻き込まれていく怒涛の展開を109分で描きます。脚本を読まれた際の印象は?
永井 圭の行動原理が、しっかりと筋が通っているなと思いました。この状況でこの場所に向かい、こういう行動をするという部分の理屈がしっかりとしていて、そこはすごく大事だと思っていたので、これは面白くなると感じました。
具体的に、どのように永井 圭を作り上げていったのでしょうか?
彼がどういう人物なのかは、原作の漫画もアニメーションもあり、ハッキリしていたので、そんな彼が映画の中のこういうシチュエーションに立たされたらどうするか? 常に「永井 圭なら?」と考えていく作業でした。
内面的な部分に関しては、つかみやすかった?
そうですね。僕自身とそこまでかけ離れてもいないですし、無理なく演じられました。
ただ、それを現場で生身の人間として表現するのは、簡単ではなかったのでは? たとえば綾野 剛さん演じる佐藤(国家転覆を企む亜人で、永井を仲間にしようとする)は、特徴的な帽子や衣装もあり、話し方も独特ですが、永井は自分の決断の理由や考えを表に出すタイプではないですし…。
たしかにそうですね。演じるうえでは、あまり無駄な動きを見せるタイプではないので、スマートに立ち振る舞うことを意識しました。話し方に関しては、アニメ版で宮野真守さんが演じた永井 圭を参考にしました。

カッコよさを追求した、大迫力のアクションシーン

激しいアクションも本作の大きな魅力ですが、やられてみていかがでしたか?
アクション面はエンターテインメントに特化した見せ方を意識しました。永井 圭は軍人でも訓練を受けた男でもない普通の人間です。とはいえ、エンタメとしては、そこはリアリティよりも面白さ、カッコよさを追求したほうがいいなと。かといって、パンチやキックで激しく戦うと、さすがにリアリティがない…。
難しい線引きですね。
だから、走る姿勢や銃を構えたりする姿でカッコよさを感じてもらうのが、この映画のアクションの目指すべき方向性なのかなと。
そういう意味では、身体能力を活かしたアクロバティックな動きを求められた映画『るろうに剣心』シリーズとは、アクションのタイプが異なるんですね?
求められるものが全然違いますね。純粋に戦うところではなく、走って逃げたり、飛んだりというところで『ミッション・インポッシブル』に近い感じですかね。
アクションでも会話でも、綾野さんとのやりとりが多かったかと思います。『るろうに剣心』の1作目以来の共演でしたが、いかがでしたか?
今回は、単に台本に描かれているものを演じる以上の“力”が必要な現場でした。僕もそうですが、綾野さんも佐藤という役としてどういう行動をとり、どんな言葉を発するのかを自分で考えて表現することが求められていたと思います。そこで、綾野さんの信じる佐藤を出してもらえたら大丈夫だと、安心してお任せすることができました。
もうひとつ、佐藤の下につく亜人・田中を、プライベートでも仲の良い城田 優さんが演じているのも、ファンにとってはうれしいポイントです。
えーと…ここでひとつ、みなさんに残念なお知らせがございます。じつは城田 優との直接のやりとりは今回、まったくなかったんですよね…(苦笑)。
現場で顔を合わせることは…?
一度、僕が「おはようございます」と現場に入ったら、ちょうどその日の撮影を終えた城田 優がメイクを落としていたことがありました。その1回だけですね。
それはちょっと残念ですね…。
我々にとっても残念でした…。

重要なのは、人物の行動原理に筋が通っているかどうか

本広克行監督の現場を経験してみて、いかがでしたか?
基本的に自由にやらせていただけて、役者の意見も柔軟に取り入れてくださり楽しかったですね。何より本広監督は、常に役者のストレスを最小限にし、負担がかからないように考えてくださる方で。言い方は悪いけど、こんなに楽をさせていただいていいのかなって。
完成した映画の激しさ、クオリティから、俳優陣にとってはかなりきつい現場だったのではないかと想像していましたが…。
いままでの映画で経験してきたことは何だったんだ? って(笑)。まあ僕の場合、『るろうに剣心』の経験があるので、何が来ても「こんなに楽で…」というのがあるのかもしれませんが…。今回も、十分激しく動いてはいますが、それ以上に脳みそを使ったという感覚が強いですね。
とくにこの作品を成立させるために、重要であったのはどういった部分だったのでしょうか?
先ほども言いましたが、永井 圭の行動の筋が一本通っているということですね。その点は、撮影に入る前から「大事にしたい」と伝えていましたし、脚本の打ち合わせにも何度も足を運びました。実際に自分でセリフを加えた部分もあります。もうひとつはやはり、クライマックスをどうするかですね。
亜人vs亜人の激しい戦いですね。
普通に考えたら、死なない亜人同士の戦いということで決着がつきようがないんですが、その戦いがどんな終わりを迎えるのか? そこでこの映画にふさわしい、ある仕掛けが必要でした。その“何か”をきちんと考える作業には、時間を使いました。
先ほどから、繰り返し、登場人物の行動原理に筋が通っているか否かという点について言及されていますね。もしかしてそこは本作に限らず、佐藤さんが作品に出演される際、もしくは観客として映画を楽しむ際に、映画の面白さとして普段から重視されているポイントなのではないかと…。
ものすごく重要ですね。やはり、作品はキャラクターなんですよ。セリフはもちろん、どういう行動をとるのか? そこにキャラクター性が表れます。うわべのセリフ以上に行動原理――この場所に自ら行くのか? それとも相手がやってくるのかで全然違います。
なるほど。
自ら行くのであれば、なぜ行くのか? それがないと「なんで?」と意味がわからなくなるし、その理由がきちんとあれば、それによってキャラクターが見えてくる。「ストーリー重視」と言う言葉をよく聞きますが、ストーリーの大きな部分を占めるのは、その人が何をするかだと思いますし、見る人はそこに面白さを感じるんだと思う。
魅力的に見えた登場人物が「え? ここでこんなことしないでしょ…」という、つじつまを合わせるための行動をとってしまうと…。
そこでキャラクターがブレて、結局はストーリーがブレてしまい、作品が崩壊してしまいます。だから、永井 圭の行動原理に納得がいくかどうか――そこが自分にとっては一番大事だったんです。
死ねない肉体を持つ亜人という特異な設定や、激しいアクションに目が行きがちですが…。
だからこそ、そっち(=人物の行動原理)が重要なんです。そこがしっかりしていないと、見ていても魅力的な設定に乗れないし、感情移入ができないんです。
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