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2005年、日本代表は2006年ドイツW杯アジア最終予選を戦っていた。 その初戦(2月9日)、ホームで行なわれた北朝鮮戦は大苦戦。ロスタイム、大黒将志の決勝ゴールでなんとか2-1と勝利し、勝ち点3を獲得した。
そのまま練習が中断。ふたりはピッチ上でお互いの主張を激しくぶつけ合い、周囲の緊張状態は一気に高まった――。当時の日本代表では、練習中に意見をぶつけ合うシーンはよく見られたが...。photo by REUTERS/AFLO
「あのときのことは、よく覚えているよ」 福西はそう振り返る。12年前のことだが、つい昨日のことのように、そのときの記憶が鮮明に残っているという。「俺の前にいたヒデ(中田英寿)は、ミドルサードの真ん中でボールを奪って速く攻めたい、という考えだった。ヒデはイタリアでそうやって生きてきたのだろうし、そのやり方自体は正しいと思う。ヒデに言われて前にいった加地も、いかないと相手に2対1の状況を作られてしまうので問題ない。もし3バックなら、慣れているし、後ろにリベロのツネ(宮本恒靖)がいるので、(自分も)前に出てボールを取りにいく。自分も本来は、前で取りたいと思っているからね。 でも、(あのときは変更したばかりで)慣れていない4バック。あそこは(相手の攻撃を)遅らせるだけでいい。ボールを取るなら、ディフェンスゾーンとミドルサードの間ぐらいかな、と(自分は)思っていた。ヒデに『来いよ』って言われて(自分も)取りにいって(相手に)かわされて突破されたら、非常に危険。 それに、(もう1枚の)ボランチであるシンジ(小野伸二)は攻撃的で少し前目のポジションだったので、俺が前にボールを取りにいくと、中央のスペースが空いてしまう。そのスペースで、相手にボールを収められてしまうと『怖いな』って思っていた。だから、まず守備のことを考えて、自分がステイしたほうがいいと考えていた」
ふたりのやり取りは、ジェスチャーも交えてかなり激しいものだった。傍から見れば、”喧嘩”しているように見えただろう。しかし、福西は淡々と、ボールの追い方だけでなく、中田のプレーの特性をも考えて話をしていたという。「『喧嘩』って言われたけど、俺はもともとそんなに熱くならないし、ヒデとも冷静に話をしていた。言葉は荒っぽかったかもしれないけど、それはサッカーでは普通のこと。 俺は、ヒデの攻撃力とか、よさを消したくないと思っていた。だからこそ、後ろとの関係性をより大事にしたいと思っていた。それで、(自分も含めて)後ろだけで守り切れるなら、ヒデを守備に戻したくはない。もちろん4バックなので、どうしてもひとりズラされるとヒデは右サイドに戻って来ないといけないんだけど。実際、(中田は)気を使って戻って来てくれる。 でも、そうなると(ボールを奪ったあと)、俺が(前に)ボールを預けるところがひとり減ってしまうので、攻撃にとってはよくない。できるだけ(中田には)前でプレーしてほしいんだけど、そこをどうしようかという話をした」 中田と福西が激しく”口論”するなか、しばらくして小野をはじめ、宮本や周囲の選手も加わって、輪になった。そうして、全体での守備のやり方について、話し合いが始まった。
「3バックを応用すれば、4バックも(簡単に)できるだろうって思うかもしれないけど、3バックと4バックは全然違う。4バックには4バックの練習が必要なんです。その練習時間がないなか、みんなとボールを追い込むときはどうする? ということ話し合った。ヒデをはじめ、みんなの意見はそれぞれ正しいけど、問題はみんなの考えをいかにまとめて、ひとつのやり方に落とし込むかってことだった。 クラブチームだと、自分たちで話をして『ボールの取りどころはここだから、そこで出ていこう』とか『カバーしよう』とか、ある程度時間をかけて実践できるけど、代表はそう簡単じゃない。時間がないのもあるけど、みんな、考えが違うし、なかなか(自分の考えを)引かないからね。それに、相手がどう出てくるのか、試合をやってみないとわからないところもあった。 ただ、DF陣に聞いたら、俺が前に出ていくのは『怖い』と言っていた。俺もそう思ったから、まず最終ラインや守備のことを考えて、慎重にやっていくべきだと言った。でも、ヒデの主張は変わらない。(あの場では)平行線のまま、話は流れてしまった」 結局、話し合いでは結論が出ないまま、守備練習は終了。紅白戦がスタートした。 スタメン組のAチームはサブ組のBチームに圧倒され、1-2で敗れた。練習後、ジーコ監督は「ミスが多く、最悪だ」と吐き捨て、あからさまに不満げな表情を見せた。
「とにかく(Aチームの)内容が酷かった。守備は最初、ヒデの言うパターンでやって、次に最終ラインからの指示でやるようにしたけど、うまくいかなかった。前の選手は『どうやって(ボールを持った相手を)追い込むんだよ』って言うけど、後ろの選手は(自陣で相手に)やられないことを最優先している。みんな、迷いながらやっているからギクシャクした感じになって、そこをBチームが突いてきた。 修正しようとしたけど、Bチームの選手も能力が高いですから、また弱みを見つけて攻めてくる。そのせめぎ合いなんだけど、そのときの自分たちはBチームを上回るほどのチーム力がなかったし、練習量も少なかった。『どうすんだよ』ってことばかりで、それじゃあ、うまくいかなし、(紅白戦で)勝てるわけがなかった」(つづく)
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