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「もちろん負ければ、いつでも課題はあるので、まぁ毎度のことですけど……ポジティブなことも今週はあったので。クレーシーズンにいい準備ができず、結果が出ていないなか、またいいプレーが戻ってきていた。やっぱりチャンスがありながら、負けるというのはまた違った悔しさがありますけど、ポジティブな面もあったので、まぁ、いい1週間だったと思います」 こう振り返った錦織だが、マリーとの準々決勝では戦前の予想をくつがえして第1セットを支配した。試合を見守った解説者の松岡修造氏は、「マリーがいいスタートを切れなかったのは圭のせいであって、本当に出だしはよかった」と絶賛した。 しかし、第2セット第4ゲームで、マリーが初めてサービスブレークに成功してから試合の流れが変わり始めた。息を吹き返したマリーはベースラインからグランドストロークをよりクリアに、そしてより深く打ってきた。 かつてボリス・ベッカーや松岡氏を指導した世界的な名コーチであるボブ・ブレット氏は、マリー戦直前に、「圭は、テニスのレベルを持続させることがキーになる」と指摘していたが、まさにその通りの一戦となった。「圭にベースラインに立ってプレーさせないようにした。圭のセカンドサーブに対していいリターンができるようになった。双方にとっていい試合ではなかったけど、圭はタイブレークで悪いプレーをしたね」 このようにマリーが指摘した第3セットのタイブレークでは、1ポイントも奪えないという、これまでの錦織からは考えられないようなネガティブな、ミスの多いプレーをした。松岡氏は、マリーに敗れた錦織に精神的な揺らぎを感じとった。
「信じられないタイブレークだった。大事なところで、スポッと心が乱れるというか、どっか(心が)行ってしまったような……。リオオリンピックでラケットを投げた時ぐらいから、圭のイライラのタンクが、ツアーを含めて普段の生活から、コート上に入った時点で満タンになっている。ちょっと自分の思うようにいかなくなると、ストレスがかかってしまう」 ストレスによって、錦織が本来持つ武器を失ってしまっている状況を松岡氏は懸念する。「もともと圭が一番の武器にしていたのは、いざという時に強い、ということ。でも、今はいざという時に集中力が欠けるという一番困った状況。(それが起こる)本当の理由が圭自身もわからないだろうし、僕らにもわからない。たぶん、ストレスはコート外のことでしょうね。それは、ひとつひとつのものを正しく見ていけば、直ることではないでしょうか」 松岡氏によれば、2001年ウインブルドンチャンピオンのゴラン・イワニセビッチも、1993年、94年とローランギャロスを連覇したセルジ・ブルゲラも口をそろえて、「圭は世界一の才能を持っている。でも、この赤土では絶対に勝てない。メンタルが弱すぎてノーチャンスだ」と断言したという。 今回のローランギャロスで戦った錦織の現状を鑑(かんが)みると松岡氏も同意せざるを得ない。「今の状態を見ると正しいと思う。僕ははっきり言います。圭がこのままだったら(ローランギャロスに限らず)グランドスラムは獲れない」
錦織は大会前から右手首に不安を抱え、大会中には右肩や腰の治療を受ける場面も見られ、4回戦の会見では左股関節にアイシングをするなど、決してフィジカルコンディションは良くはなかった。グランドスラム8勝のアンドレ・アガシは、「フィジカル問題は、圭にすごくストレスがかかり、集中力を欠けさせるひとつの要因になっているのではないか」と指摘した。「それだけじゃないのは明らかです。どちらかというと心の問題なのでしょうね」 そう語る松岡氏が一番心配しているのは錦織のメンタルであり、”チームK”一丸となって課題をクリアにしていく必要があると力説し、必ず改善できるはずだと願っている。「圭の心の部分が崩れたら、20〜30位台に落ちる可能性がある。集中力という一番の武器がスポッと抜けている。それを取り戻すしかない。必ずメンタルはいい方向に変えられる」 今年残るグランドスラムは、ウインブルドンとUS(全米)オープンとなり、そこで錦織が、上位選手に対するテニスをどう改善し、高いレベルのテニスをどう持続させるのか。そして、松岡氏が一番心配しているメンタル面は改善できるのか。 レジェンドたちが指摘するように、27歳の錦織は、精神面をさらに成熟させ、研ぎ澄まされたような集中力を取り戻し、揺るぎのない強い覚悟を持って臨まなければ、グランドスラム初制覇への道は開けてこない。■テニス 記事一覧>>