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しかし、そこはプロだ。ただ「楽しい」だけで一軍のグラウンドに立ち続けることはできない。だからこそ、川粼は忘れていた日本野球の感覚を取り戻すためにファームでプレーを続けている。そしてこの日、本人曰く「苦い思い出しかない」という雁ノ巣に戻ってきたのだ。 23日は慣れ親しんだ内野ではなく、「1番・レフト」で先発出場した。 見せ場はいきなりやってきた。1回表、阪神の2番・俊介が放ったライナー性の当たりをスライディングキャッチ。慣れない外野での守備ではあったが、”古巣”の風の強さを体は忘れていなかった。 試合後、「井出(竜也)コーチの指示のおかげ」と謙遜したかと思えば、「センス抜群でないとできないよ。あれで今日は勝ったようなもんだね」と周囲を笑わせる余裕は、一軍での外野起用に自らゴーサインを出したようにも思えた。 打つ方では、最初の打席から積極的に打って出た。スピンがきいたゴロはファーストの手前でイレギュラーし、ライト前に転がっていった。記録はエラーとなったものの出塁し、先制のホームを踏んだ。 第2打席は、ランナーを一塁に置いて、阪神先発のルーキー・福永春吾の外へ逃げるツーシームをあえて引っ張り、センターとライトの間に持っていった。その打球をセンターがファンブルするのを見逃さず、二塁を陥れたその走塁に、味方だけでなく敵の若い選手も舌を巻いていた。 第3打席は四球、第4打席は高めのストレートを空振り三振に終わったが、元メジャーリーガーの存在はまぶしすぎるほどの輝きを放っていた。
7回の守備からベンチに退いたが、その直後から球場正面口は川粼の出待ちをするファンで溢れかえるなど、あらためてその存在の大きさを知らしめた。 途中交代したことについて、川粼は試合後、次のように語っている。「フルイニングいこうと思ったけど、自分の体力を考えて退きました」 試合に出るからには、100%の状態でプレーしたいという気持ちの表れでもある。だからこそ、コンディションが上がらなかったという前日の試合は、休養にあてた。「コンディション悪いっすね。そりゃそうです。悪いから休む。元気だったら出ているから」と、一見ネガティブな発言をするが、それが本音でないことは次のコメントからもわかる。「もちろんコンディションがよくないといっても、血液検査に引っかかったとか、医者にかかるとか、そういうわけじゃないんだけど(笑)」 そして誰もが待ち望んでいる一軍昇格については、次のように語った。「それは知りません。一軍の首脳陣のみなさんに聞いてください。自分はまだまだ課題が見つかって、やばい状態です。ただ、声がかかれば嬉しいですよ。ホークスに戻ってきたときから、即一軍という気持ちはあります」 ポジションにはこだわらないと川粼は言う。この日のポジションが、ショートでもサードでもセカンドでもなく、レフトであったことは、とにかく川粼を使いたいという一軍首脳陣の意思の表れだろう。 報道では5月上旬の昇格と伝えられているが、現場では前倒しの噂もちらほらと聞こえている。
かつて汗と泥にまみれた雁ノ巣で11年ぶりにプレーした川粼は、試合後、しみじみとこう漏らしていた。「いやもう、あの頃はホント修業でしたね。ここでバットを振り、ゴロを追いかけていたことを思い出しました。苦い思い出ばかりで、楽しいことなんてなかったような気がするけど、時間が経ってみると、懐かしい感じがします。今こうやって見ると、風景が違うのですが、自分のメンタルが変わったんでしょうね」 この日、一軍は前日に続き、首位の楽天に連敗するなど、”らしくない”戦いが続いている。特に22日の一戦は、序盤から失点を重ね、試合中盤に大勢のファンが愛想を尽かして球場を後にするという大敗だった。実はこの試合に、川粼は若手たちを連れて観戦に行っていた。「ホント大敗。でも楽しかったよ。最後は風船飛ばして、ハッピーホルモン全開(笑)。だって、若い選手の(ヤフオク)ドームでプレーしたいっていう気持ちが十分すぎるほど伝わってきたし。彼らの考えもわかったからね。もうお父さんみたいな感じ」 当初、帯同する予定だった次の二軍遠征は白紙になったらしい。故障者続出でなかなかエンジンがかからない一軍のカンフル剤として、川粼がその大役を果たす可能性は大いにある。
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