ニューストップ > スポーツニュース > 国内・Jリーグニュース
ゲキサカ
そう言われて俺は、「ちぇっ。なんだ、コイツ。ふざけるなよ」となりました。だけどこの時期、エジルがレアル・マドリードからアーセナルに移籍したデビューマッチを見て、「これだっ!」って思ったんです。俺、そこから変わったんですよ。
―― 「これ」とは、なんですか?
小林:エジルは攻撃で上がってきたチームメイトをいいタイミングで使い、動き直してボールを受けて、いいタイミングでまたチームメイトを使っていた。彼がやっていたのは、「自分」じゃない。自分がいいプレーをするんじゃなく、周りを生かすのが自分にとっての「いいプレー」だった。
それまでの俺は、「自分で決めたい」「自分でアシストしたい」「自分がカッコいいプレーをしたい」と思ってやってきたから、それを変えようと思いました。だけど、味方をいいタイミングで使うには、チームメイトがうまく動いてくれないとダメ。それまで、自分のしゃべり方は生意気で、先輩たちに対しても、「ちっ、なんだよ」みたいな......。それを。「(下手に出る姿勢を見せながら)もうちょい、あそこへ行けますか?」とか、少しずつ自分を変え始めました。それが、2013年の夏のことです。
―― ふたつ目のターニングポイントは?
小林:去年の10月10日、アウェーゲームのJ2水戸戦でスタメンを外された試合でした。俺は途中から出場して、終了直前にゴールを決めてチームは1−1で引き分けた。あの試合で、俺は何かを掴んだ。
俺が水戸戦でスタメンを外されたのは、その前の試合で自分がまったくよくなかったから。俺は27回しかボールに触ってなくて、それを名波浩監督から指摘された。「ボールを触ればいいなら、俺にもできるよ!」って。そう言われたので、水戸戦の15分間で俺は、ボールにたくさん触りまくったんです。そして翌日、10月11日の地元チームとの練習試合で、俺は30分間で72回もボールに触って3ゴールを決めました。このとき俺は、「これが究極のサッカーだ」というのを感じました。
そこから俺はスタメンに復帰し、チームが勝ちだし、福岡の追撃から逃げるかのように、最後に俺が劇的なゴールを決めてJ1復帰を果たしました。このふたつのターニングポイントがあって、俺は変わりました。
―― それまで日本代表への意識はどうでしたか?
小林:誰も思ってなかっただろうけれど、俺は、「絶対に行ける」って思っていた。
―― 今季のシーズン前のキャンプでも地元テレビ局のインタビューで、「今年の目標は日本代表」って言ってましたね。
小林:日本人のサッカーファンの99%が「何を言ってるんだ!」って笑ったでしょうね。J2から上がってすぐ、「半年後に代表に入ります」って言ったんだから。
―― しかも、2013年には一度、「消えた選手」です。
小林:そう。だけど、俺の哲学は、「言ったらそうなる」。だから、俺は信念を持って発言しているし、信念を持って行動している。俺がどれだけサッカーにかけているか、それを知らないからみんなは笑うけれど、俺のことを知っている人はみんな自分を信じていたはず。
―― 「ヘーレンフェーンは若い」。小林選手はチームメイトのことをそのように言いますが、それは昔の自分のことではないのですか?
小林:そうだよね。俺には彼らの気持ちがわかる。今、どんな気持ちで彼らがサッカーをしているか、それは表情を見ただけでわかるよね。「今、自信を失っているな」とか、「今、楽しくないだろうな」とか、顔を見ればわかります。
―― 19歳でヴェルディのキャプテンになったのに対し、ヨーロッパに来るのが遅いという気持ちは?
小林:遅いよね。日本でも「今さら行っても」とか、「日本でたいして結果を残せてないのに」とか、いろいろ言われたよ。だけど、俺が今、オランダに来たということは、それが俺のタイミングだったんです。俺のタイミングはいつも遅いかもしれないけれど、最後にヨーロッパで何かを成し遂げればいいだけです。遅かろうが、早かろうが、最後にそのステージに辿り着ければいいんです。
この世界の評価はお金だから、俺はなるべく早く高い違約金で売られ、より高いレベルのクラブに行きたい。だけど、いきなりバルセロナやアーセナルは無理だから、その間にヘーレンフェーンより上の中堅クラブを挟んでね。
中堅クラブと言っても、オランダならアヤックス、PSV、フェイエノールト。そうすれば、次はバイエルンやバルセロナの道が広がってくる。イングランドだったらクリスタル・パレスや、今は2部だけどアストン・ビラに行けたら、次はアーセナルもあるよね。そういう考え方をしています。
実は今、一番行きたいのはウェストハム。(MFディミトリ・)パイェと一緒にやりたい。彼の王様ぶりを近くで見て、どういう雰囲気を醸し出しているのか――。彼も、俺のように遅咲きだと思う。彼の凝縮された人生を近くで見てみたい。
【profile】小林祐希(こばやし・ゆうき)1992年4月24日生まれ、東京都東村山市出身。2011年、東京ヴェルディユースからトップチームに昇格。2012年にはクラブ史上最年少で主将を務めた。2012年7月、ジュビロ磐田に期限付き移籍(同年12月に完全移籍)、司令塔としてジュビロのJ1復帰に貢献する。2016年8月、ヘーレンフェーン(オランダ)と3年契約で移籍。代表デビューはキリンカップ2016決勝のボスニア・ヘルツェゴビナ戦。ポジションは攻撃的ミッドフィールダー。182センチ・72キロ。
中田徹●取材・文 text by Nakata Toru