そんな“手倉森ジャパン”の切り札として推薦したい選手が一人いる。それが柏レイソルの“IJ”こと伊東純也だ。
U−23日本代表には昨年11月に行われた候補合宿で初招集され、今年1月のリオ五輪最終予選では予備登録入りを果たしたが、まだ日の丸を着けてプレーした経験はない。では、そんな彼を推す理由は何か――。
4月24日の明治安田生命J1リーグ・ファーストステージ第8節の鹿島アントラーズ戦で彼が見せた驚異的なスピードとドリブルをご記憶の方は多いだろう。前半アディショナルタイム、縦へ仕掛けてスピードに乗った彼は、マークに寄せてきた選手の直前で機敏に妙技を披露。両足でボールをポポーンと軽快に弾いて縦に出る“ダブルタッチ”で相手を抜き去ると、そのまま日本代表DF昌子源も振り切って約40メートルの独走ゴール。63分にもフルスピードで右サイドを切り裂き、武富孝介の追加点をアシストした。伊東は5月1日に行われた第9節ヴィッセル神戸戦でもゴールを決め、目下2試合連続得点中。リーグ戦4連勝で一気に4位浮上を果たした柏にあって、躍進の立役者となっている。
柏は現在、下平隆宏監督がU−18時代にも指導したGK中村航輔、DF中谷進之介、MF小林祐介、MF中川寛斗ら“リオ世代”が主軸になっている。ロンドン五輪代表の大津祐樹、日本代表経験を持つ田中順也、ブラジル全国選手権得点王のエデルソンらがリザーブに回る厳しい争いがある中で、伊東はチームに適応し、その“個”でアクセントを加えている点も見逃せない。
「おー純也 伊東純也 やたらと速い」とは柏のゴール裏が歌うチャントの歌詞。「やたらと」、「とんでもなく」、「恐ろしく」といった修飾語を付けなければ、彼のスピードは表現できない。多くの快足選手がいる中でも、彼が現在のJ1で最速なのではないかと思うほどだ。
何より特筆すべきは、一歩目から抜群に速いこと、そして相手に寄せられてもスルッと抜けてしまうしなやかさを併せ持つことだ。「前からのプレスは得意」と自認するように、その速さは守備面でも生かされている。あれだけのスピードとスムーズな重心移動で追い回されるDFは、悪夢を見るような思いだろう。
伊東が世に知られるようになったのは、実はごく最近。神奈川大を卒業してプロ入りしたのは昨年のことだった。大卒2年目ながら早生まれ(1993年3月9日)のため、ギリギリでU−23日本代表入りの資格を持っている。プロデビューを果たしたヴァンフォーレ甲府では、新人ながら30試合に出場して4得点をマーク。まだ“青田買い”の感はあったが、柏が彼を引き抜いた。
神奈川県横須賀市で生まれ育ち、中高では全くの無名だった“IJ”。彼が所属していた神奈川県立逗葉高校は1997年度の第76回全国高等学校サッカー(帝京高と東福岡高による“雪の決勝”があった大会)で全国8強に入っているが、彼の在学期間は全国とは無縁。高3秋の高校選手権予選は県のベスト32で敗退している。ちなみに伊東と逗葉高の3年次に同級生だった小野裕二(横浜F・マリノスユース→横浜FM、現シントトロイデン/ベルギー)は高校在学中にJ1デビュー。17試合に出場して3得点を挙げている。しかし、当時の伊東は比較すらできない次元にいた。
ただし、高3の頃には県内で知られた存在になっており、関東大学リーグ1部の神奈川大に推薦入学を果たした。当時のキャプテンは佐々木翔(サンフレッチェ広島)で、同級生にも高木利弥(モンテディオ山形)、星広太(福島ユナイテッドFC)といった後のJリーガーがいた。