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※DRS=Drag Reduction Systemの略。ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
ドライバーたちは口々に、ディプロイメントが切れたときのパワー不足を訴えた。ダブルでハンディを背負っているホンダのパワーユニットは、他メーカーに較べてディプロイメントが切れる時間――つまり、160馬力のERS(エネルギー回生)アシストなしの1.6リッターV6ターボエンジンだけでの走りを強いられる時間が長くなってしまう。
問題を抱えたターボチャージャーとMGU-Hは、原則として開発が凍結されている現在のF1のルールでは、そう簡単に修正することはできない。毎レース新しいものを投入し、セッションごとにエンジンを載せ換えていたような、かつてとは時代が違っていた。
「ディプロイメント不足の問題を解決するためにはレイアウト変更が必要で、確認項目が多すぎますし、それには膨大な時間と労力がかかってしまう。問題点はわかっていても、対策できないことがたくさんありました」(新井総責任者)
このディプロイメント不足に大きく足を引っ張られ、参戦1年目のホンダはファンの期待に応えるだけの結果を残すことができなかった。他メーカーが2014年のレギュレーション改定の3〜4年も前から研究開発を行ない、レギュレーション策定にも参画してきたのに対し、ホンダは2013年5月のF1参戦発表からわずか1年10ヶ月で完成させなければならなかった。
ただ、レギュレーション改定から1年遅れで参戦したことについて、「1年も様子見したくせに」と揶揄する声もあるが、それはまったくの見当違い。スタートが遅かっただけに、ライバルよりも短い期間で仕上げねばならず、準備不足のままシーズンに突入してしまったのが不振の原因と言えるだろう。
実走データも、実走テストもないなかで開発を強いられ、なおかつライバルたちが1年の実戦経験とデータをもとに、48%も改良を許された2015年型パワーユニットと戦わなければならなかった。
「通常の開発を考えれば、2014年の開幕なんてとても間に合わない。2015年だって相当厳しいくらいで、本当なら2016年からの参戦というのが妥当なところ。実際に社内では、『2016年からにすべきだ』という声もありましたから」
新井総責任者が再三そう繰り返してきたように、たしかに「ホンダのF1復帰」は1年早かったのかもしれない。
しかし、栃木県の研究所『R&D Sakura』では常に開発が進められてきた。今季型で戦い続けねばならないコース上では苦戦を強いられていても、そのデータをもとに、裏側では進歩が続いていた。
2016年に向けて、各メーカーのパワーユニットには32トークン(※)、つまり全体の48%を変更することが許される。ホンダはディプロイメント不足の問題を解決すべく、TCとMGU-Hのレイアウト変更を含め、すでに来季用の真新しいパワーユニットの開発を進めている。
※パワーユニットの信頼性に問題があった場合、FIAに認められれば改良が許されるが、性能が向上するような改良・開発は認められていない。ただし、「トークン」と呼ばれるポイント制による特例開発だけが認められている。各メーカーは与えられた「トークン」の範囲内で開発箇所を選ぶことができる。
「ディプロイメントが足りないという問題を解決しなければ、レースにはならないと思っています。得意・不得意というサーキットがあるようでは、シーズンを通して良い結果は残せませんから。それをオフの間にしっかりと直して、新しいパッケージで来シーズンに臨みたいと思っています。来年の開幕前テストまで3ヶ月しかないので、すぐに(基本設計・製造を終えて)確認しなきゃならない段階に入っていきますし、あっという間です」
2016年3月20日の開幕戦オーストラリアGPに先立って、2月22日からはバルセロナで開幕前のテストが行なわれる。1年早かったかもしれない......と、悔やんでいても始まらない。今は知性と努力で、他のどのメーカーよりも速い進歩を遂げ、その1年を取り戻すことだけに集中するしかないのだ。
(次章に続く)
米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki