【J1 PHOTOTハイライト】2ndステージ・8節 1-1で迎えた37分、ボランチ柏木の縦パスをペナルティエリア内の右寄りにいた梅崎が中央へ折り返す。それをフリーでいた興梠がヘッドで落とす。そこに走り込んだのが、武藤だ。
テンポの良いコンビネーションプレーの前に、文字通り手も足も出せずにいた仙台DFの間隙を縫って背番号19はゴール前へすっと潜り込み、GK六反の動きを見切り、その頭上を越すコントロールショットを放った。
ボールはゴールネットに吸い込まれ、スタジアムは歓喜一色に! 古巣・仙台との一戦。この試合に懸けていた武藤の想いを、サポーターも知っていた。武藤のチャント(応援歌)が、埼玉スタジアムに地鳴りを起こすぐらいに、熱く、力強くこだました。
「僕のゴールと言うよりも、みんなで崩したゴール。最後は、ボールに触るだけで良かった。あのコンビネーションは、何回も繰り返してきた形でもある。一連の流れからしっかり完結できました」
武藤は変わらず謙虚に、そう強調した。
もちろんアタッカーとしてのゴールへのこだわりは強く持っていた。なにより、埼スタに初めて仙台を迎えた一戦である。「特別な想い」でピッチに立ったことを、武藤は否定しなかった。
「仙台戦とあって、特別な気持ちで臨んだ。気合が入っていた。ゴールを『決めたい』と思っていた。試合後、槙野さんも『やるなあ』と褒めてくれました(笑)」
75分には意外な形で、アシストを記録する。
移籍後初めてCKのキッカー役を担うと、まっすぐに伸びるボールを蹴り込み、ズラタンのジャンプヘッドによるゴールをもたらした。本来であればキッカーを担当する柏木や梅崎はすでに途中交代し、ピッチを去っていたからだ。
「最初はゴール前に立っていたら、『おい武藤、行け』と言われたんです。(東アジアカップでプレースキッカーをしており)代表でたくさん蹴っていたのが活きたのかもしれないですね。それに、ズラタンが決めてくれたから、なんとなく良いゴールに見えたんだと思います」
これまた謙遜である。思い切りの良い小細工なしの、かつ抑えのきいたまっすぐなキックは、彼の性格がそのまま表われていたようでもあった。
そして、やはりこの日の武藤がなによりも熱く語ったのが、古巣との対戦についてだった。
仙台がなりふり構わず3バック(守備時は5バック)で来ることには、かなり驚かされたと言う。
「ずっと、4バックに自信を持ってやってきたチームですからね。だから(ほぼ同じシステムで来ると知り)むしろ、僕としてはチャンスだと思った。多分、初めてなんじゃないかな? このシステムはウチのほうが長くやってきているので、負けるわけにはいきませんでしたからね」
仙台が不慣れな布陣で臨んできたことも、「必ず点を取りたい」という想いを、いっそう駆り立てる要因になった。武藤にとっては、自身の成長を印象付けた一撃。それは試行錯誤しながらも低迷する仙台の目覚めを喚起する一撃になったとも言えた。
試合は3-1で、浦和が今季三度目、第2ステージに入り初めての3連勝を飾った。第2ステージの順位は4位に上がり、年間1位の座をキープした。
ヒーローインタビューを受けたあと、武藤は埼スタのゴール裏の一角にいた仙台サポーターの前で立ち止まって、頭を深々と下げて一礼した。
どういう反応が返ってくるのか不安だったそうだが……山吹色のスタンドからは温かな拍手とともに「頑張れよ!」という声が送られた。
古巣のサポーターの反応を、武藤は素直に喜んだ。
「仙台でキャリアのスタートさせてもらって、4年間お世話になったので感謝しています。拍手で迎えてくれたのは、とても嬉しかったです」
この日の活躍は、間違いなく大きな意味を持つだろう。
第1ステージの浦和の優勝も、武藤の活躍ぶりも、「勢いがあるから」というひと言で集約されることがあった。だが、浦和の最大の武器であるコンビネーションから、仙台守備陣を翻弄して決めたこの日の通算10点目は、乗っている「勢い」だけではなく、その実力が「本物」であることを印象づけた。
仙台時代は昨季の4ゴールが年間最多で、4年間の通算は6ゴールしか奪えていなかった。そんなくすぶっていたストライカーがミシャスタイルと遭遇し、日本を代表するアタッカーに変貌を遂げようとしている。
先の東アジアカップで日本代表に初選出された武藤は、北朝鮮、中国戦と2試合・2ゴールと結果を残した。
それでもハリルホジッチ監督から「もっとゴールにこだわれ。Jリーグでも、まだまだ得点数が少ない」と発破をかけられた。チーム内で最多得点を決めているとはいえ、「浦和ほど多くのチャンスを作れるチームにいるわけだから、もっと点を取らなければいけない。そこが第2ステージの課題」と、武藤も認識していた。
だからこそ、この10点目もあくまで通過点だと捉える。
今後の目標を聞かれた武藤は、次のように語った。
「浦和に入団する時の記者会見で、背番号の数(19番)ぐらいは決めたいと言っているんですよね。それは心の奥にあった願望だったと思います」
第2ステージの残りは9試合。1試合1得点ずつ狙う――そんな意気込みが伝わってくる。
今週の27日(木)には日本代表のロシア・ワールドカップ2次予選カンボジア戦、アフガニスタン戦に臨むメンバーが発表される。ヨーロッパ組が今もっとも乗っていて、高い得点率を誇るこの男を、ハリルホジッチ監督がどのように判断するのか注目される。
その時――招集された際のスタンバイはできている。武藤は期待を込めて言う。
「やることは変わらない。海外組がいるなかでプレーできればいろいろな面での差が分かるはずだし、刺激も受けるから、呼ばれたい。ただ、僕は僕でもある。レッズでのプレーが評価されているのだから、ここでのプレーを見せたい」
心待ちにしていた古巣との一戦を経て、武藤はさらなる高みへ――新たな領域に踏み出した。そのサクセスストーリーはこの先、いったい、どんな展開が待っているのだろうか。
――◇――◇――◇――◇――◇――
『サッカーダイジェスト』8月27日(木)発売号で、
武藤雄樹選手の独占ロングインタビューが掲載されます。
先の東アジアカップを経ての変化、学生時代などサッカー人生のターニングポイント、そして浦和での決意など、様々なテーマについて語ってもらっています。ぜひ、ご一読ください!
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)