衆議院が1月23日、解散されました。高市早苗首相が自らへの「白紙委任」「全権委任」を主権者に求める総選挙が、27日に公示されます。支持率が高い今のうちに議席を増やし、政権を安定させたいとの思惑が透けて見えます。「人気投票」になってはならないと思います。
26年度予算の年度内の成立は絶望視されています。選挙の準備期間が短く実務を担当する自治体を圧迫。2月上旬の厳冬期の投票は、受験生や高齢者、障害者にも負担が大きいことが指摘されています。なぜ今なのか。「今なら支持率が高いから」。納得できる理由はこれしかありません。納得はできますが、容認するわけにはいきません。
高市首相は19日の記者会見では、自身が首相でいいのか、主権者に直接問う、といい、国論を二分するような政策を推し進める意気込みも口にしました。与党が安定多数の議席を得れば、賛否が分かれる政治課題について熟議で合意の形成を図るのではなく、自身が主権者の信任を得たことを大義名分に、採決を強行していくことを危惧します。と言うより、ほぼそうなるだろうと考えざるを得ません。それぐらい、“独裁志向”を隠そうともしない、あけすけの会見でした。
人は知らなかった事実や考え方に接したときに、意見が変わることがあります。民主主義で少数意見を尊重することの意義はここにあります。意見の相違があれば合意形成に向けて熟議を重ねるのが民主主義の本義です。高市首相の言動からは、この本義を尊重しようという姿勢が感じられません。政策以前に、社会で物事を決めていく、その手続きの考え方がこの上なく危険です。
衆院選で問われるのは、この高市首相が求める「白紙委任」「全権委任」を容認するのかどうかです。
※参考過去記事
解散翌日の24日付の東京発行の新聞各紙を見てみました。朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙。東京に住むわたしにとっては“地元紙”です。

19日の高市首相の会見に対しては、朝日、毎日、日経、東京の4紙は批判的、産経は支持、読売は批判か支持かからは距離を置いているように感じました。24日付の各紙のトーンもほぼ変わりません。ただ日経は、高市批判からニュートラルに軸足が移ったようにも感じます。
24日付紙面では、朝日新聞は社説に「政策抜きの『一任』はありえぬ」の見出しを立てました。「『国論二分』の危うさ」の小見出しも目に入ります。
毎日新聞は1面に「白紙委任とせぬために」との編集局次長の署名記事を載せました。社説にも「白紙委任はありえない」の小見出しがあります。
東京新聞は特報面で「衆院解散 有権者の信問うポーズで…/重要政策転換 強行突破再び?」と、この解散と総選挙の本質に迫っています。社説(中日新聞と共通)は「首相の人気投票にしない」の見出しです。
朝日、毎日、東京の3紙からは、高市首相が望んでいるのは主権者からの「白紙委任」であり「全権委任」であること、そのために「人気投票」を仕掛けてきていることが読み取れると感じます。

高市内閣の支持率は高い一方で、自民党の支持率は伸びていません。高市首相が思惑通りに「白紙委任」「全権委任」を得るかどうかは、高市首相を支持しているけれども、必ずしも自民党は支持していない層が自民党候補に投票するかどうか次第ということになりそうです。
高市首相の支持率と自民党の支持率との大きな差に、いわゆる「推し活」の感覚で高市首相を支持している層の存在がうかがえるように思います。仮に、その感覚のままで投票してしまえば、高市首相の思惑通りの「人気投票」です。そうなってはならない、との意識を社会で広く共有することが必要です。高市政権の政策を支持する立場であっても、「人気投票にしない」「『白紙委任』『全権委任』はしない」との点は共有できるはずだとも思います。
以上はそのまま、新聞や放送のマスメディアの選挙報道の課題に通じてくるように感じます。一昨年の東京都知事選、衆院選を経て、兵庫県知事選では、真偽不明の情報が入り交じっていたにもかかわらず、「SNSがオールドメディアに勝利した」との言説が流布しました。ことの当否は別としても、有権者の投票行動に対して、SNSの存在感が高まったことは確かです。マスメディアにとっては、何を書いたか、何を発信したか以上に、その情報をどう発信しているかが、より重要だと感じます。その情報が主権者に届いているのかどうかです。
高市首相が望んでいるのは「白紙委任」であり「全権委任」であること、そのために「人気投票」を仕掛けてきていること。そのこと自体が社会で認識され共有されることが必要であり、そこにマスメディアはどう寄与できるのか。この選挙では、そういったことも念頭に、マスメディアの報道やデジタル空間での情報流通を追ってみたいと思います。
以下に、東京発行6紙の24日付朝刊紙面について、1面、総合面、社会面の主な見出しを書きとめておきます。
■朝日新聞
▽1面
「高市政権を問う/衆院解散 来月8日投開票/安保政策 抜本強化掲げる」/「2大勢力 新興も存在感」
「外国人 生活保護見直し検討/政府が厳格化 人道上の支給対象」
▽総合面
・2面「見据えるのは 国か個か/自民 『安部路線』を継承 保守層に照準/中道 『生活者重視』政策軸なお揺らぎ」/対決も融和も 新興政党に独自色」
・3面「政策 どう選択/競う負担軽減策 財源確保は/与野党 食料品税率ゼロ照準」
▽社会面
「最短準備 焦る 困る」「投票所の入場券『速達で送るしか』」「豪雪地『掲示板間に合うか』」
・第2社会面
「外国人政策 共生より秩序/高市政権、政府基本方針を全面書き換え」
▽オピニオン
多事奏論「『私が首相で良いか』解散 『白紙委任』はできません」高橋純子・編集委員
■毎日新聞
▽1面
「自維連立に審判/衆院解散・総選挙 27日公示、来月8日投票/戦後最短 16日間決戦」「1235人が立候補準備」
「白紙委任とせぬために」田中成之・編集局次長
▽総合面
・2面「『積極財政』責任問う」「消費減税 金利に影響」「対中関係 どう改善」「防衛費増額 争点に」
・3面「自民『首相頼み』前面」「危うい 公約『生煮え』」「中道結集 広がり欠く」
※4面に政府の外国人政策基本方針
▽社会面
「消えぬ遺恨 構図一変も/各党 思惑入り乱れ」
・第2社会面
「『国民不在』『目先優先』/軽い首相発言」
■読売新聞
▽1面
「高市政権信任問う/衆院解散 総選挙/来月8日投開票」「中道公約 食品消費税『恒久ゼロ』」「立候補1200人超予定 本社集計」
「『2年限定 国債頼らず』/首相 食品消費税ゼロ財源」
▽総合・3面
スキャナー「首相頼みVS組織票/自民『信任投票』狙う 党支持は回復せず/中道『大義なし』批判 党の知名度不十分」
※2面に政府の外国人政策基本方針
▽社会面
「超短期決戦 火ぶた/前議員ら 訴え浸透に課題」
■日経新聞
▽1面
「政権安定へ短期決戦/衆院解散 来月8日投開票/首相『与党で過半数』」
▽総合・3面
「社保改革、解散で後回し/与野党、負担軽減前面に/『痛み』の議論回避」
「世界と市場を意識せよ」吉野直也 ニュース・エディター
※4面に政府の外国人政策基本方針
▽社会面
「寒波の衆院選 大雪に苦慮/2月投開票36年ぶり 準備期間短く/ポスター掲示板減・候補者説明会なし」
■産経新聞
▽1面
「衆院解散 高市政権問う/戦後最短 16日間決戦/1200人近く立候補予定/来月8日投開票」「連立拡大見えず首相賭け」
「外国人の在留管理厳格化/政府基本方針 税未納防止を明記」
▽総合面
・2面「積極財政 追い風に/財源、市場は疑問視」「外国人政策『秩序』強調」
・3面「野党結集 構図一変/自維で競合、協力手探り」「中道、政策浸透カギ」「参政、30議席獲得狙う」
▽社会面
「真冬の熱戦 街へ地元へ/公示まで数日『ひたすらやるだけ』」
・第2社会面
「5日前擁立 新人奔走」
「国民の不安払拭に前進/外国人政策基本方針/日本語、社会規範教育にも力」
■東京新聞
▽1面
「くらし後回し解散/予算審議犠牲 総選挙へ/首相『政策最優先』から一転/戦後最短16日間 27日公示、来月8日投開票」
「『選挙やっている場合か』/止まらぬ物価高 店も客も苦悩 築地の卵焼き店」衆院選2026 政策の現場から
▽総合面
・2面「裏金『もう終わった話』/自民公認の当事者何思う」
・3面「消費減税 市場は警告/長期金利上昇/円安/インフレ」
※2面に政府の外国人政策基本方針
▽特報面(20、21面)
「衆院解散 有権者の信問うポーズで…/重要政策転換 強行突破再び?」「暮らしより国家中心 鮮明/対中、安保…戦争する国へ」
「少数配慮ないがしろ続く」「ジェンダー政策 中身見て/旧統一教会、裏金 疑惑うやむや」
▽社会面
「疑問拭えぬまま決戦へ」解散の日ドキュメント
以下は6紙の24日付の社説です。リンク先の各紙のサイトで全文を読むことができます。
■朝日新聞「冒頭解散 衆院選へ 政策抜きの『一任』はありえぬ」/『国論二分』の危うさ/裏金問題の反省忘却/情報空間を守るには
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16388219.html
■毎日新聞「衆院解散・総選挙へ 脱ポピュリズムの論戦を」/白紙委任はありえない/問われる政治の枠組み
https://mainichi.jp/articles/20260124/ddm/005/070/133000c
■読売新聞「衆院解散 多党化時代迎え重み増す選択 理念だけでなく政策見極めたい」/首相は続投の是非問う/中道の現実路線本物か/民主主義脅かす偽情報
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20260123-GYT1T00802/
■日経新聞「与野党は政治の責任競う論戦を」/政権枠組みの姿を示せ/負担と改革の議論必要
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK231840T20C26A1000000/
■産経新聞「衆院の解散 危機乗り切る首相は誰か 日本守り抜く論戦を期待する」/新しい連立の是非問う/若者の変化注目したい
https://www.sankei.com/article/20260124-Y3X3OMLZJJKEXFKNTENM7ZOAXA/
■東京新聞(中日新聞と共通)「衆院解散、8日総選挙へ 首相の人気投票にしない」/『強い経済』への展望なく/「熟議の政治」実現の岐路
https://www.tokyo-np.co.jp/article/464180