フジテレビの港浩一社長が1月17日、記者会見し、タレント中居正広さんと女性の「トラブル」について、弁護士ら第三者が加わった委員会を設け調査することを明らかにしました。東京発行の新聞各紙も18日付朝刊で、社会面を中心に比較的大きな見出しで報じています。ただ、その内容や関連記事の有無などでは、各紙の間に差異もあります。当事者の男性が、旧ジャニーズ事務所所属当時の活動でテレビ界に大きな影響力を持つに至ったと言っていいこと、フジテレビという在京キー局の関与が焦点に浮上していることから、この事例は一昨年来の旧ジャニーズ事務所元社長の性加害と同根ではないのか、と考えながら、経緯に注目しています。元社長の性加害では新聞も含めた「マスメディアの沈黙」が問われました。その反省と教訓が今回の報道にどう反映されているのか、いないのか。新聞を含めたマスメディアの組織ジャーナリズムも問われていると考えています。
まず、「トラブル」の用語に対し、大きな違和感を持っています。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)とも、記事中で「トラブル」と表記し、見出しでは「中居さん問題」「女性問題」などと「問題」も使用しています。ここまでの経緯を見れば、中居サイドから女性に解決金の支払いがあったことは間違いがなく、一般的な社会常識に照らせば、何らかの不法行為があったと受け取るのが自然です。先行している週刊誌の詳細な報道によると、核心は女性への「性加害」であり、それへのフジテレビ社員の関与の有無です。当事者の男女間が和解済みであることを理由に、ことの詳細を公には認めていないとしても、従来の事件事故報道の例も踏まえて考えれば「性加害疑惑」「性加害問題」との表現も選択肢にはあるのではないか、と感じます。
ただし、当事者の直接取材に限りがある現状で「性加害」と報じることに新聞やテレビが躊躇を覚えることは理解できます。かといって「トラブル」との表現では、男性も女性も、どっちもどっち、との印象を抱かせかねません。現に「当事者間は解決済み。何が問題なのか」との中居擁護の意見もネット上で目にします。フジテレビが社長会見で調査を約束するまでの事態になっているのは、核心が「性加害」であり、社員の関与の有無であるからこそです。この事例のその本質を反映する用語を使って報道するためには、取材で事実に迫っていくしかありません。ジャニーズ事務所元社長の事例で、沈黙を続けていたマスメディアに突き付けられたのが、まさに「取材で事実に迫る」というこのことでした。同根ではないかと感じる理由の一つです。
フジテレビ社長の会見では、これまでフジテレビとして説明していなかったことへの謝罪があり、次いで調査委員会の設置の表明がありました。会見のもようはいくつかの新聞がデジタル版で詳報しています。記者たちからはさまざまに質問があったようですが、フジテレビ側は今後の調査を理由に回答していません。
調査の公正さは重要だとしても、調査を始めるのがなぜ今になってなのか、という疑問があります。会見での説明によれば、同社が問題を認識したのは2023年6月のこと。この時期、テレビ界で何が起こっていたかを考えれば、フジテレビの調査は遅きに過ぎるのではないか、とすら感じます。
2023年3月、英国の公共放送BBCがジャニー喜多川・元ジャニーズ事務所社長の性加害を取り上げたドキュメンタリー番組を放映しました。かつてジャニーズJr.として活動していた歌手のカウアン・オカモトさんが4月12日、東京の日本外国特派員協会で記者会見し、性被害を自らの体験として語りました。この会見を共同通信がリアルタイムで速報したのを機に、日本の新聞も元社長の性加害を報じ始めました。そして8月29日、ジャニーズ事務所が設けた社外専門家らの「再発防止特別チーム」が、性加害があったとの調査結果を公表。9月7日に、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長(当時)らが記者会見で謝罪し、被害者への補償を表明しました。
再発防止特別チームは性加害が継続した背景事情として「マスメディアの沈黙」を指摘していました。テレビ各局はそれぞれに自己検証の番組を放映。フジテレビは10月22日に25分間の番組を放送しています。報道局長、編成制作局長、情報政策局長も出演しました。
まさに、ジャニー喜多川元社長の性加害を巡る当事者としての自覚が問われ、検証と教訓化が進んでいたはずの時期に、フジテレビは同時にジャニーズ出身の大物タレントの「性加害問題」に対応していたことになります。女性側へ必要な配慮をするのは当然として、それでも現段階でなぜ何も説明できないのか、調査もこれからとは、いったいこれまで何をしていたのか、など、フジテレビへの疑念は会見によってかえって深まった観があります。ただし、現状で詮索するのは控え、調査で何が明らかになるのか、それをどう公表するのか、しないのか、経緯を注視しようと思います。
東京発行の新聞6紙が18日付の朝刊で、フジテレビの会見をどう報じたか、主な記事や見出しを以下にまとめました。

経済専門紙の日経新聞については後述します。一般紙5紙でいちばん扱いが大きいのは朝日新聞です。思い起こすのは、元社長の性加害に対する「沈黙」の新聞各紙の自己検証です。社内調査の結果に加え、その結果に対する社外識者の意見、指摘、批判までも紙面に掲載したのは朝日新聞だけでした。「検証」の名に値する検証を社会に見える形で行ったのは、全国紙、通信社の中では朝日新聞だけだったと受け止めています。
以前、このブログで、もしかつてのようなテレビと巨大芸能プロの相互依存が復活することになるかもしれないとしたら、それでいいのかを衝くのは新聞の役割のはずだとして、以下のように書きました。
それでいいのかどうか。そこは新聞が衝くのが、マスメディアの中の役割分担でもあるはずです。しかし旧ジャニーズ事務所を直接取材していた全国紙や通信社では、朝日新聞以外は自らの「沈黙」について、自己検証と呼べる検証は見当たりません。朝日以外は、「どのペンでそれを書くのか」ということにならないか。ひいては日本のマスメディア界に、この性加害の問題に対してきちんとした教訓が残らずに終わってしまうことになりかねません。そうなることを危惧しています。
今回の「性加害問題」について、新聞各紙の報道のトーンは朝日新聞も含めて、フジテレビの当事者性を問う論調が強いと感じます。同じ系列の産経新聞は別として、新聞はフジテレビを追及する側に立っている、との認識なのかもしれません。それはそれとして、新聞各紙にも問われていることがあります。ジャニーズ事務所元社長の性加害への「沈黙」からどんな教訓を得たのか、です。フジテレビの調査の経緯それ自体とともに、新聞がどう報じていくかも、日本のマスメディアのありようのトータルの問題ではないかと考えています。
日経新聞については、他紙と違って総合面で扱っていることが目を引きました。企業経営、ガバナンスの問題であるとの位置づけです。ビジネスの問題の視点で今回の「性加害問題」をとらえるなら、最終的にはテレビとタレントのウインウイン関係を成り立たせてきたのは何か、という問題に行き着くように思います。それは好きなタレントのためにファンが使うお金です。企業がCMにタレントを起用するのも、ファン層の購買力に期待してのことです。こうした点で、ファン層にもある種の当事者性があります。この週末、日本生命やトヨタなどのスポンサー企業が、フジテレビでのCM放映を控えるとの動きが報じられました。この「性加害問題」の社会性が分かりやすく可視化されてきていると思います。
【追記】2025年1月19日9時55分
フジテレビの17日の記者会見を新聞6紙がデジタル版ではどう報じたか、目にした範囲で主な記事とそのリンク先を記録しておきます。
■朝日新聞
「フジテレビ社長、中居さん問題で謝罪 弁護士中心の調査委員会設置へ」
2025年1月17日 16時55分(1月17日 17時43分更新)※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/AST1K1TMGT1KUCVL04XM.html
「フジテレビ社長が中居さん問題で記者会見 冒頭発言全文」※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/AST1K2JL6T1KUTIL01QM.html
「女性側代理人『人生を再スタートしようと懸命に努力』 中居さん問題」
https://digital.asahi.com/articles/AST1K2TXYT1KUTIL01VM.html
「フジテレビが中居さん問題で会見 記者との一問一答」※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/AST1K35K1T1KUTIL01PM.html
「フジ社長『私も調査対象です』 中居さん問題、回答避ける場面目立つ」※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/AST1K3RFRT1KUCVL02XM.html
「中居さん問題のフジテレビ会見、識者はどう見た?『一歩目から誤り』」※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/AST1K3QNNT1KUTIL02DM.html
「フジ社長、中居さん問題謝罪 調査委の設置を表明」(紙面掲載記事)※有料記事
https://digital.asahi.com/articles/DA3S16128789.html
■毎日新聞
「参加者限定、回答避けたフジ会見 中居さん問題で調査委を設置」
2025年1月17日 20時18分(最終更新 1月17日 22時11分)
https://mainichi.jp/articles/20250117/k00/00m/040/312000c
「台湾メディアも速報 中居正広さん巡るフジテレビ会見」
https://mainichi.jp/articles/20250117/k00/00m/030/305000c
「週刊誌締め出したフジ会見 記者クラブ幹事社『残念な形』 撮影制限も」
https://mainichi.jp/articles/20250117/k00/00m/040/300000c
「1時間40分のフジ会見、『回答控える』繰り返す 中居正広さん問題」
https://mainichi.jp/articles/20250117/k00/00m/040/265000c
「中居さんトラブル アナウンサーと懇親会『往々に…』」などフジ会見詳報3本 ※有料記事
https://mainichi.jp/articles/20250117/k00/00m/040/377000c
※ほかに短文の会見内容の速報10本
■読売新聞
「フジテレビ、中居正広さんとのトラブルは1年半前に把握済み…閉鎖的な会見に識者『問題小さくしたい』」
2025年1月17日 20時26分
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20250117-OYT1T50168/
「フジテレビが調査委 外部弁護士ら 中居さん問題 社長謝罪」※朝刊記事、読者会員限定
https://www.yomiuri.co.jp/shimen/20250118-OYT9T50020/
■産経新聞
「中居正広さんの女性トラブルでフジテレビ社長が謝罪 弁護士らの調査委員会設置へ」
2025年1月17日 17時10分
https://www.sankei.com/article/20250117-4BQB5KVQRJJARNFTRPBYRX35AI/
■日経新聞
「フジテレビ、中居さん巡る社員関与を外部委員会で調査」
2025年1月17日 16時44分 (1月17日 17時51分更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC176JE0X10C25A1000000/
「『2023年に事案認識』 フジテレビ港社長の冒頭発言要旨」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC178170X10C25A1000000/
「フジテレビ記者会見詳報、港社長『企業統治欠陥ない』」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC179IK0X10C25A1000000/
「フジテレビ、後手に回った調査委設置 見えぬ事実関係」※会員限定
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE167940W5A110C2000000/
■東京新聞
「中居さん問題、調査委立ち上げへ フジ社長、『説明できず』と謝罪」
2025年1月17日 20時47分 (共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/379898
「【フジテレビ社長会見】中居正広さんの番組終了は『臆測が生じることを懸念してタイミングをはかった』」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/379977
「テレビ局なのに『動画NG』ってどうなの? フジ社長会見、『中居正広さん問題』のモヤモヤ解消ははるか彼方」(特報部)※会員限定
https://www.tokyo-np.co.jp/article/379996