一つ前の記事にも関連する内容なのですが、防衛省の「隠蔽体質」の根深さを示しているように思えますので、別の記事にして書きとめておきます。
防衛省が7月12日に発表した4種の不祥事処分の一つは、海自隊員の潜水手当の不正受給でした。免職11人、停職48人、減給6人で懲戒処分は計65人。ほかに訓戒5人、注意4人で、処分者は計74人に上りました。以上は人事上の処分です。実は刑事手続きで逮捕者が出ていたことが18日、明らかになりました。防衛省は12日の発表では触れていませんでした。
※共同通信「海自、潜水手当不正で4人逮捕 一斉処分時公表せず、批判必至」
https://www.47news.jp/11214517.html
海上自衛隊による潜水手当不正受給で、海自は18日、海自の捜査機関である警務隊が昨年11月に虚偽有印公文書作成・同行使と詐欺容疑で隊員4人を逮捕していたと明らかにした。いずれも同12月に起訴猶予処分となった。4人のうち3人は懲戒免職となり、残る1人は依願退職した。
(中略)失墜した信頼の回復が急務となる中、逮捕者が出ていた事実に言及しなかった姿勢に批判の声が上がるのは必至だ。
NHKの報道によると、立憲民主党の18日の会合で防衛省が明らかにしたとのことです。
※NHK「防衛省“去年 元自衛官4人を逮捕” 海自で潜水手当 不正受給」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240718/k10014515491000.html
これについて防衛省の担当者は、18日開かれた立憲民主党の会合で、自衛隊内部の捜査機関である警務隊が元自衛官4人を逮捕していたことを明らかにしました。
会合のあと担当者は記者団に対し、いずれも去年11月に逮捕し、その時点で現職の自衛官ではなかったと説明しましたが、所属や刑事処分については捜査情報だとして明らかにしませんでした。
批判されて当然の“逮捕隠し”ですが、自衛隊では初めてではありません。わたしの報道の実務経験の中で、陸上自衛隊でも同様のケースがありました。一つ前の記事に「【追記】」として紹介しています。再録します。
報道の実務で印象に残っている事例です。支社局から提稿された記事を一元的に最終チェックする担当だった当時のことです。
ある陸自の駐屯地内で、尉官の隊員が、部下から金を脅し取っていたとして隊内の警察組織である警務隊に逮捕され、送検されました。その後、起訴猶予処分になりました。自衛隊の発表はその後、懲戒免職になった時です。しかも匿名でした。
なぜ「逮捕」という重大な権力行使をすぐに発表しなかったのか、なぜ今になって匿名で発表なのか。恣意的な広報の運用だと感じ、デスクと相談して自衛隊側の弁明を記事に盛り込みました。発表のタイミングは「部隊内で起きた上、逮捕時点では詳細も調査中だったため、発表を差し控えた」と、匿名については「すでに処分を受けており、個人に不利益を及ぼす可能性がある」とのことでした。
今も全国で似たようなことが行われているのではないかと思います。
「今も全国で似たようなことが行われているのではないかと思います」と書いた直後に、まさに同じことを行っていたことが発覚しました。一つ前の記事で紹介した事例は十数年前のことです。こうなると、ほかにもあるのではないかと考えるのが自然です。“逮捕隠し”が常態化していることを疑わざるを得ません。マスメディアの取材の課題です。
一般に、官公庁の不祥事で職員が逮捕となれば、警察や検察はすみやかに実名で発表するのが常です。報道も特段の事情がない限り実名が原則です。職務に絡んでの不正行為であればなおさらです。公務員の逮捕は、社会で共有すべき情報です。
しかし自衛隊では、警務隊が隊員、元隊員を逮捕しても「詳細は調査中」との理由で伏せてしまう。懲戒処分の発表では「既に処分を受けている」「個人に不利益を及ぼす」として匿名にしてしまう。不祥事の多発に加えて、「隠蔽体質」も問われるべきです。
この「隠蔽体質」は思った以上に根が深いかもしれません。今回の潜水手当不正受給の逮捕の事例は、起訴猶予で刑事処分が決着してから人事上の処分公表まで半年以上もたっています。「起訴猶予」とは、犯罪事実は認定しながら、刑罰を科すほどではないと検察官が判断して、裁量で起訴を見送ることです。無実ではなく犯罪事実自体はあった、という結論です。犯罪があったことを半年以上も伏せていたことは、意図的に隠していたということではないのか。このブログの以前の記事で指摘したことですが、特定秘密の違法運用の深刻さを薄めたいために、ほかの不祥事と“抱き合わせ”で発表した可能性をわたしは疑っています。そのために「隠蔽」の方針を変更して、この潜水手当の不正受給を持ち出したのではないのか―。12日の発表についての報道は「218人処分」という規模感に目を奪われた感がありました。その裏で防衛省が何を企図していたのか。マスメディアは12日の発表の経緯自体を取材で検証し、報じる必要があります。

【写真】海上自衛隊の公式ホームページより。「海上自衛隊の努力の方向性」として真っ先に「『人』の充実」を挙げていますが、手当の不正受給や不正飲食などの不祥事は、倫理感や社会常識の欠如が際立っています。隠蔽体質も加わり、病理は深刻だと感じます。
■追記■ 2024年7月20日22時10分
潜水手当の不正受給で昨年4月、4人が逮捕されていたことについて、防衛相への報告もなかったことが明らかになりました。木原稔防衛相は19日の記者会見で、自身が知ったのは18日深夜から未明だったと述べました。
※共同通信「防衛相が逮捕非公表謝罪、処分も 文民統制影響懸念、手当調査継続」=2024年7月19日
https://www.47news.jp/11219260.html
木原稔防衛相は19日の記者会見で、海上自衛隊の潜水手当不正受給を巡り、警務隊が詐欺などの疑いで4人を逮捕した事実を公表していなかったことに関し「適切な情報発信ができておらず、深くおわび申し上げる」と述べた。自身は「18日深夜から19日未明に知った」とし、文民統制(シビリアンコントロール)に影響しかねないとの懸念を示した。防衛省は関係者の処分を検討する。
4人逮捕を大臣にすら隠蔽していたことになります。その経緯は東京新聞が比較的詳しく取材して報じています。
※東京新聞「木原稔防衛相が知ったのは『野党より後』…ガバナンス欠如の防衛省自衛隊、元隊員の『逮捕』を8カ月報告せず」=2024年7月20日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/341170
木原稔防衛相は19日の記者会見で、海上自衛隊の潜水手当不正受給問題で元隊員4人が逮捕されていたことについて、約8カ月間報告がなかったと明らかにした。木原氏が逮捕の事実を知ったのは18日深夜。隊員らの一斉処分を公表した12日の段階でも把握していなかったことになり、「適切な発信ができておらず、深くおわび申し上げる」と謝罪した。大臣を補佐する本省内部部局(内局)が必要な情報をトップと共有しなかったことは「シビリアンコントロール(文民統制)」を揺るがす事態だ。(川田篤志)
(中略)
18日午後、立憲民主党の会合で防衛省担当者が逮捕について説明したことを機に、報道機関から問い合わせが相次ぎ、木原氏に報告した。防衛相の直轄部隊である警務隊による逮捕を共有していなかった理由について、19日未明に取材に応じた三貝哲・人事教育局長は「私が大臣に報告しない判断をした。判断ミスだった」と責任を認めた。三貝氏は19日付で退職した。
逮捕者が出た場合、通常は書面で大臣に報告されるが、不正受給問題の調査が継続中だったため報告しなかったという。結果的に、木原氏の事実把握は、野党より遅れたことになる。
調査が継続中だったから報告しなかった、というのは判断しても言い訳としても最低です。組織運営として、特に自衛隊のような軍事組織は、あらゆる事態を想定しておく必要があります。調査中であればなおさら、想定される最悪の事態をトップに報告して、対策を検討しておかなければならないのに、そうした基本が全くできていなかったことが露呈しました。シビリアンコントロール以前の問題として、トップへ情報がきちんと伝わらないのは、軍事組織として致命的な欠陥です。
自衛隊は中国の軍事力強化、北朝鮮のミサイル開発、ロシアのウクライナ侵攻などを理由に兵力の増強や米軍との一体化が進んでいます。しかし、その中枢部がこの体たらくでは、いくら膨大な軍事費を掛けて最新鋭の兵器をそろえてみても、想定通りに機能するはずがありません。特定秘密のずさんな運用の実態も明らかになっています。岸田政権の下で進んでいる軍拡路線は、その当否以前に、そもそも自衛隊には荷が重すぎるのではないか―。岸田政権の軍拡路線を社論として支持する、支持しないにかかわらず、この観点から、マスメディアは一連の不祥事を再検証するべきだと思います。