ことしの5月3日、憲法記念日の報道の記録です。
例年、いくつかのマスメディアは憲法記念日に合わせて、憲法に絞った世論調査を郵送方式で実施しています。月例の電話調査と比べ、時間をかけてじっくり考えて回答することが可能です。一般論として、その分、調査の精度は高くなると考えられます。
ことしは5月3日付の朝刊に朝日新聞と読売新聞が世論調査の結果を掲載しました。1日前の5月2日付朝刊では、共同通信が配信した世論調査結果の記事が、地方紙を中心に掲載されています。
岸田文雄政権が軍事費の大幅な増大を打ち出し、戦闘機の第三国への輸出解禁や、米軍と自衛隊の一体化などを進めていることに対して、憲法9条との整合性が問われています。その岸田首相は、任期中の憲法改正に意欲を見せています。こうした“憲法の現状”を踏まえて、各調査は改憲の時期や9条の評価などを詳細に、また重層的に尋ねています。朝日新聞、読売新聞、共同通信の3件の調査結果を見て、わたしなりに感じ取った民意の骨格は以下の通りです。
- 憲法改正自体は容認が多数
- しかし改憲の機運は高まっていない
- 改憲を急ぐべきだとも考えていない
- 9条をめぐる評価は多様
■改憲の必要性
憲法について「変える必要があると思うか」(朝日)、「改正する方がよいと思うか」(読売)、「改正する必要があると思うか」(共同)と、文言は少しずつ異なりますが、3件の調査とも改憲の必要性を尋ねています。改憲に肯定的か否定的か、回答状況は以下の通りです。
朝日新聞調査 肯定的53% 否定的39%
読売新聞調査 肯定的63% 否定的35%
共同通信調査 肯定的75% 否定的23%
共同通信は「必要があると思う」「思わない」のそれぞれに「どちらかと言えば」の選択肢も用意しています。詳しく見ると、「改正する必要がある」28%、「どちらかといえば改正する必要がある」47%で、肯定的回答が計75%。「どちらかといえば改正する必要はない」16%、「改正する必要はない」7%で否定的回答は23%です。
ひと口に「改憲志向」と言っても、憲法のどの点を変えるべきかによってもその色彩は異なってきます。9条改正にしても、「軍」や「戦力」の保持を明記すべきだとの方向性と、集団的自衛権の行使の禁止を明記すべきだとの方向性では改正の意味がまったく異なります。近年は、首相の衆院の解散権の根源とされる天皇の国事行為について、改正して首相の解散権を縛るべきだとの意見も目につきます。改憲の主張自体が多種多様になっています。いずれにしても、改正を否定しない意見は控えめにみても過半数に達していると言えそうで、改憲を議論すること自体は民意に反するわけではないと感じます。
■改憲の機運
改憲が必要とする意見が仮に多数だとしても、その機運が高まっているか、改憲を急ぐべきかは別の問題です。
改憲の機運については、朝日新聞と共同通信が尋ねています。朝日新聞調査では「高まっている」との回答は「大いに」と「ある程度」を合わせて28%なのに対し、「高まっていない」は「あまり」と「まったく」を合わせて70%です。共同通信の調査でも「高まっている」「どちらかといえば高まっている」が計31%、「どちらかといえば高まっていない」「高まっていない」が計67%と、同様の結果です。
改憲を急ぐかどうかは、共同通信の調査では「急ぐ必要がある」33%に対して「急ぐ必要はない」65%でした。読売新聞は、岸田首相の在任中に国会で改憲の議論が進むことを期待するかどうかを尋ねています。結果は「期待する」29%、「期待しない」68%でした。
民意は拙速な改憲は求めていないと言うべきだと思います。首相が自分の任期中の改憲にこだわって、急ごうとするのは、おかしな話です。
■9条
9条について、各調査ともさまざまな観点から質問しています。回答状況からは、9条に対して民意の評価は多種多様だと感じます。その中で、9条を変えるべきかどうか、朝日新聞の調査と共同通信の調査で、興味深い結果が出ています。
▽朝日新聞
以下は、憲法第9条の条文です(条文略)。憲法9条を変える方がよいと思いますか、変えない方がよいと思いますか。
変える方がよい 32%
変えない方がよい 61%
▽共同通信
あなたは「戦争放棄」や「戦力の不保持」を定めた憲法9条を改正する必要があると思いますか、改正する必要はないと思いますか。
改正する必要がある 51
改正する必要はない 46
朝日新聞の調査では、「変えない方がよい」が「変える方がよい」のほぼ倍に達していますが、共同通信の調査では逆に「改正する必要がある」が「必要はない」を上回っています。9条の条文を示すか示さないかで、回答にこれだけの開きがあります。改憲の論点について民意の理解は深まってもいないし、共有もされていないことの表れのように感じます。
憲法9条の条文は以下の通りです。一般に「戦争の放棄」と「戦力の不保持」を定めているとされます。わたしは放棄しているのは戦争だけでなく、武力による威嚇や行使も含まれていることに留意が必要だと考えています。
第九条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
憲法について議論を深めるのはいいのですが、結論ありきのように「改憲を急ぐべきだ」と主張しても、民意の支持は得られないことは、これらの世論調査の結果から明らかです。にもかかわらず、改憲を急ぐというのであれば、民主主義の理念を軽んじる態度だと言わざるを得ません。
