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みぞれの中に不在があらわれる

大雪の予報が出ていたので、早めに家に帰ることにした。どうしてこんな日に出社しているのかと言われても、気が向いたからとしか言えない。オフィスの中には私の他にも「気が向いた」っぽい人たちが山ほどいたが、夕方のミーティングで「早めに帰ったほうがいいのでは」とチームの人々に言われて「今はまだ止まってないけど、まさかということもあるな」と思い始めたのだった。私鉄各線を信用していないわけではないけど、各種アプリ内の「お知らせ」に「運休のお知らせ」が掲載されてからでは遅い。
荷物をまとめて「また後で」とチャットに書き残して、パソコンを閉じる。じっと机に向かっているだけでも暑かったオフィスを出ると外は雪というかみぞれがどかどか降っていて、慌てて折り畳み傘を開いた。

電車の中はオフィスと同じか、それ以上に暑い。
なんとなくDuolingoをやりながら、ふっと見上げた車窓の外には電車の速さでみぞれ混じりの雪が線のようになっていた。Duolingoを閉じてXやブラウザをだらだら眺めながら、こういう風景にはおそらく坂本龍一の「happyend」が似合うだろうと思って再生した。2009年3月20日のもので、当時はその日のライブがiTunes Storeですぐ配信される、というのが売りだったように思う*1
2009年のplaying the pianoのツアーは、2回行った。3月と4月の2回行ったけど、当時は3月ではなく4月のセットリストのほうが嬉しかった。ヨーロッパの方で教授が「la femme chinoise」と「behind the mask」をやったらしい、というのは当時の仲間内で話されていたことで、だから4月に「behind the mask」が演奏された時は客席で嬉しさのあまり硬直したのだった。
でもみぞれに合いそうなのは「happyend」だろうと思った。2009年のことを思い出しながらなんとなく再生して、突然涙で視界がちょっとだけ滲んだ。

私は、なんでこんなに気楽に「happyend」を聴いているんだろう。もっと真面目な気持ちで、ちゃんと向き合って聴くべき音楽だったんじゃないのか。それが目の前に風景に合うからといって、こんな軽い気持ちと態度で聴いちゃっていいんだろうか。いや、当然良いのだけど、自分への態度としてそれでよかったのかがわからなくなった。
やっぱりこのライブよかったな。
最近の、最後のライブ演奏だった(ライブというか収録というか、だったけど)「Opus」と比べると音に元気があるな。そんなことを思いながら、もう聴けないことがやっぱり悲しくなって、泣けてしまったのだった。号泣ではなく、じわっと涙が滲んだ程度だったけど。

チケット代に悪態をつき*2、メディア収録が入る日に品行方正なセットリストに悪態をつきながらも*3坂本龍一のライブには結構行っていたと思う。色々な事情で私の足が遠のいて、それから教授が病気をやってライブをやらなくなってしまった。歌舞伎町の映画館の音響で「Opus」は見るべきだろうと思って行ったけど、なんで歌舞伎町なんだよ*4、そんな悪態をつきながら見に行った。
でももうそんなことが言えない。(!そんなことは当然言うべきではない!)
トニー滝谷」は映画を見ていないけどサントラ仕事では一番好きだった。「/04」に入っている「perspective」は歌モノとして一番好きなので「Service」収録のものよりよく聴いている気がする。サンレコか何かで「隣の部屋で何かが鳴っている感じにしたくてこういう音にした」みたいなのが書かれていたこともなんとなく覚えている*5HASYMO名義でやった「Riot In Lagos」もDVDがダメになっちゃうんじゃないかってぐらい見た。毎年誕生日に「Riot In Lagos」を聴いていたけど、それもいつからかやらなくなった。

遺作になった「12」はまだ聴けていない。本当に何もかもが終わってしまいそうで怖い気がする。なんとなく無意識的だと思うけど、教授の音楽をきちんと聴くことを避けている。昔の作品は聴いているのに。
今行われている展覧会も、いつ行こうかと思っていたらスノボの予定や年末の忙しさに追われて、気がついたら3月になってしまっていた。ICCでやった時にあまり見れなかった「LIFE: fluid,invisible,inaudible...」をぼんやり眺めたかったのに。来週行く予定だけど、インスタ映えスポットとしての紹介とか、インフルエンサーみたいな人が紹介する動画が流れてくるのはなんだかなと思う。行きたいし目にしたいけど、そこで見たら何かが終わってしまうんだろうか。一区切りついてしまうのか。寂しい。見に行きたい。好きだった。よくわからなくてまとまらない感情が、ずっとある。

あなたがいきなりいなくなるから、感情のやりどころがない。

「happyend」の舞台演出は、YMOのwinter liveを彷彿とさせるような、蛍光灯の直線を模した照明か映像が浮かんでは現れるものだったような気がする。今映像も見ずに書いているから思い込みかもしれない。会場で見たplaying the pianoではなくて、JAPAN TOUR 2005の映像で見たものだったかもしれない。明滅する直線。
降り注ぐみぞれが、黒い空に白い直線を引いたように落ちてくる。地元の駅について、もう一回「happyend」をかける。家までの短い距離。悪態をつきながら見に行ったライブだって、素晴らしくて、演奏(とおしゃべり)が聴けてよかったと思いながら帰った。アンコールでみんないつも思い思いの曲が叫ばれてたと思うけど割と多かったのが「tong poo」だったと思う。でも当然演奏されなくて、客席の電気がつく。「Opus」のセットリストに入っていたのは最後の「サーヴィス」だったんだと思う。ねえそういうの要らないから2009年にやっといてよ。いや、そういうのじゃなくて、なんでいなくなっちゃったんだろう。いなくなる前にもっとなんか、見ておけばよかった。いなくなってから結構経つのにまだこんなことばっかり考えている。なんか。なんか、本当に感情のやりどころがない。それにまた気づいてしまって、しんどい気持ちになった。

*1:いま調べたけどちゃんとニュースが残っていてありがたい。最短24時間以内に配信されていたとのことです。 https://www.cdjournal.com/main/news/sakamoto-ryuichi/23211

*2:いつか銀座のヤマハでやったライブのチケット代が1万円を超えていたときのことです

*3:戦メリ、energy flow、ラストエンペラー、aquaなどは大変いい曲ですが私個人は違う曲を聴きたい

*4:歌舞伎町は私からすると怖い街なので

*5:覚えているだけなので全く記憶違いである可能性が高い




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