以前、ゼルダToTKの特許が1度に31件も出願されていたというエントリを書いた。
ゼルダTotKで「普通」の挙動を実現するための特許がいろいろ出願されている件 - naoya2kの日記
最近忙しくて任天堂の特許ウォッチをできてなかったんだけど、最近下記のドンキーコングバナンザについての開発者インタビューの記事を見てボクセル技術が気になった。
www.nintendo.com
遅まきながら昨日調べてみたところ、任天堂の特許が8月1日に大量に公開されていた。なんと1日で43件も公開されており、そのうち41件にボクセルという単語が含まれていて、ドンキーコングバナンザに関する特許のようであった。
それにしても41件は多すぎるだろ。いいかげんにしてほしい。ざざっと眺めてみるにしても、1件を3分で確認したとして2時間かかってしまう計算になる。実際それくらいかかったんだけど、だから本当に斜め読みしかできていない。

いくつか紹介していきたい (それにしてもバナンザをボナンザと書いてしまわないか心配である)。
特開2025-113122 (2024/06/27出願)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-113122/11/ja
バナンザはボクセルを使っているという話である。これまでの世間でいちばんメジャーなボクセルといえばマインクラフト。
マインクラフトのボクセルに入っている情報はブロックの種類という一種類の情報だった(たぶんその他にも耐久力みたいなのはありそう)。バナンザは違う。ボクセル毎に複数のマテリアルIDとその比率、そして密度という情報が格納されていて、それを用いて、
・ゲームプレイ時にはボクセルから表示用ポリゴンのメッシュと接触判定用ポリゴンのメッシュを生成する
・その判定用のメッシュを用いてキャラと地形との接触判定が行われる
とのことだ。ボクセルで接触判定をしていないところがポイントだ。
プレイヤーキャラとボクセルが元になった地形などとの接触が判定されたとき、そのメッシュの元になったボクセルのマテリアルIDに応じた処理が行われる。たとえばそのマテリアルIDが溶岩だったらプレイヤーのHPが減る、などだ。
ところでバナンザでは地形だけがボクセルなのではなく、敵キャラなどのオブジェクトもボクセルでの内部表現がされていることがあるようだ。少なくとも持てる岩とか氷塊みたいなものはボクセルになっているようで、でも複雑なポリゴン形状を持つ敵キャラはさすがにボクセルからメッシュを生成しているわけではないだろう。そのあたりどう使いわけているのかの詳細も書かれているかもしれないがまだ全文を読めてないのでわからない(ごめん)。
代表図面は下図のようになっていてボクセルが変更された分だけメッシュを更新するようになっている。

ボクセルの処理の説明がいろいろされているが、たとえばSVO(Sparse Voxel Octree)を使って簡略化されていて、その簡略化後の頂点に基づいてメッシュが生成されるという記述があったりする。


このすぐ上に公開されていた特開2025-113123は、この接触判定に関する部分がちょっと違っている。でもやってること同じなような…
・接触判定用のメッシュを作る際に、元になるボクセルから、メッシュのマテリアルIDの情報を生成してメッシュのデータに持たせておく
・接触が判定されたときには、特開2025-113122では元のボクセルのマテリアルIDを使っていたが、その代わりに生成されたメッシュのマテリアルIDを使う
特開2025-113149 (2024/10/10出願)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-113149/11/ja
「ライトに当たると性質が変わる敵」を実現するというだけの内容。夜に殴っても倒せない敵が出てくるんだけど光が当たっている場所に誘導すると形や材質が変わった感じになって殴れるようになるという。

いやそんなの2Dでも3Dでもこれまでいっぱいあったじゃん、と思うかもしれないが、このあたりの特許の請求項はこうなっているのだ。
【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
仮想空間内の複数のボクセル空間毎に定義された複数のボクセルデータであって、ボクセル空間に含まれる複数のボクセルそれぞれについて、当該ボクセルが定義する空間が仮想的に中身に占められている度合いを示す密度と、当該中身の種類を示すマテリアルとが少なくとも設定されたボクセルデータを、ゲーム処理に基づいて更新させ、
:(中略)
少なくともいずれかの前記ボクセル空間に対して前記仮想空間内に設定された第1の判定形状が、前記ゲーム処理に基づいた第1の条件を満たす範囲に位置するか否かの第1の判定に基づいて、当該第1の条件を満たすと判定された前記ボクセル空間の前記ボクセルデータに含まれるマテリアルのうち、第1のマテリアルを第2のマテリアルに更新させる、ゲームプログラム。
つまり、上で紹介した特開2025-113123で説明されているような、「ボクセル自体に密度とマテリアルが設定されている」という条件の下で、光源に当たっているかどうかでマテリアルIDを切り替えるということが特許技術だという主張。単なる組み合わせじゃんという反論はできないこともないが、それでも、「複数のボクセルから成る敵のうち、光が当たっている(or 影に入っている)ボクセルの部分のみマテリアルが変化し、それに従ってポリゴンメッシュが生成されて接触時の効果が場所によって変わるんだ」みたいな説明をされるし、
「特開2025-113123で書かれているようにボクセルは複数のマテリアルIDを持っており、そのうちの一部だけが光に当たっているかどうかで変化するんで、これまでになかった効果を実現できているんだ」という主張もされていそう。
これと似たようなテイストで、「これまでの2Dゲームやポリゴンのゲームで当たり前に実現されてきたことをボクセルで実現しただけ」みたいに見える特許がたくさん出願されている。下記に代表例を紹介する。もちろんボクセルベースになることで多少の工夫が必要だったかもしれないし、その部分は特許に値するのかもしれないけど。このあたりの審査がどのような経過を辿っていくのかはちょっと気いになるところ。
特開2025-113185 (2024/11/26出願)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-113185/11/ja
物や声を投げて地形を破壊するとか、逆に岩が増えたりするとか。
ショットでトーチカが破壊されるのは、1978年のスペースインベーダの頃から当たり前のように存在していたんですがそれはどうなんですか? 今年40周年を迎えるシューティングゲームでもショットで壁を壊して進んでいく要素があり、1年後に出たその続編には同じようにして壊した細胞壁が時間経過で復活するような要素も入ってたんだけど、なんてどうしても思ってしまう。この特許はどうなんだ。

ボクセルであることに加えて、2人プレイでの操作などが詳細に記載されているので、そのあたりの細かいところには新規性があると思われ、今後分割でそれなりの特徴を持った特許に分かれていくのだろうと思われる。
特開2025-113173 (2024/12/13出願)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-113173/11/ja
誤って落下したあと復帰アイテムが使われて戻ってきたときの復帰位置。これまで自分が移動してきた履歴のうち、地面があるところを選ぶというもの。
メルヘンメイズの風船だよね…もちろんメルヘンメイズはボクセルでもないし、たぶん落ちてしまってから履歴から地面を探しているわけじゃなく、最後に地面に接地していたときの座標を覚えているだけだと思うので、仕組みは全然違うのだけど。

特開2025-113164 (2024/11/20出願)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-113164/11/ja
ボクセルの地面を破壊してできた岩や氷塊などのオブジェクト(こちらもボクセル)に乗れたり、移動時に便利に使ったりできるというもの
特開2025-113123で説明していたようにバナンザのボクセルデータには複数のマテリアルが設定されている。地形を破壊して持ち運びとか投擲可能なオブジェクトが生成されるとき、そのオブジェクト用のボクセルデータが作られるわけだが、そのボクセルにはその地形のマテリアルを元にしたマテリアルが設定される、というもの。
いろいろなマテリアルに応じたオブジェクトの効果が説明されており、これも今後分割されていく未来が予想できるような内容になっている。


結局のところこれらの特許群はどうなの?
ほとんどの特許の請求項に
仮想空間内に定義されたボクセルデータであって、
複数のボクセルそれぞれについて、
当該ボクセルが定義する空間が仮想的に中身に占められている度合いを示す密度と、当該中身の種類を示すマテリアルとが少なくとも設定された
第1のボクセルデータ
に基づいて、
当該第1のボクセルデータに対応する第1のボクセルオブジェクトのメッシュであって、
当該メッシュの頂点座標が少なくとも前記密度に基づいて決定され、
当該メッシュのマテリアルが少なくとも前記マテリアルに基づいて決定される
第1のメッシュを生成および更新させ、
みたいな枕詞がついているので、このようなボクセルを使ったゲームを作らなければ直ちにはこの特許群に抵触することはなく、丸パクリをすることがなければ現時点では危険はないだろうと思われる。ただし一番最後に挙げた特開2025-113164みたいなやつの場合、「ゲームに出てくるいろいろな要素をとにかく本文で説明するぞ」という意識で出願がされている。これは後に、この本文の一部がそのゲーム内でのオブジェクトの挙動の要素だけに着目した特許として分割出願されてきたときには、請求項から上記のボクセルに関する限定が取り払われたものになる可能性を秘めている。任天堂はきっとそういう攻撃ができるようにこれらの特許を出願している。露骨にパクリに見えるようなゲームを作らないように、他にオリジナル要素があるゲームを作っていく必要があると思う。
今回この43個の特許をとりあえず自分の目で眺めたわけだけど、きっと昨今の風潮だとAIに読み込ませて要約するといいんだって話になってると思う。それはそうなのかもしれないけどこのボリュームを実感するという体験は自分の目で確認しなければ得られないんじゃないかとも思う。そもそもこの特許群を見ているのは自分にとっては仕事でもなんでもなく道楽なわけだし。