芍薬、絹の吐息で揺れる朝
新緑の森が息をひそめる中、
芍薬が一輪、空に溶けるように咲く。
その花びらは、絹を撫でる風のような艶、
朝露をまとい、陽に抱かれながら
橙から檸檬へ -移ろいゆく光のグラデーション。

友禅の筆、千年の記憶をすくう
職人の手が描く糸目糊の輪郭は、
波紋に映る月の吐息。
絹の肌に沈む雅の気配は、
指先を通じて、静かに語りかける。

初夏の風に乗る香り
芍薬は、凛とした姿で佇みながら
風の詩を染め上げる。
花鳥風月を映す緑陰のキャンバスに、
香りが絹の奥へと沁みわたり、
その瞬間、森がひと息ついたように静かになる。

手仕事が紡ぐ一瞬の永遠
染めの温もりが、時を閉じ込める。
新緑の世界は、芍薬の息吹とともに
今も、かすかな輝きを宿している。
まるで、光の糸で記憶を縫い留めるかのように。
