つづきを展開
僕は「メンカリ君」と呼ばれるようになった。
名前じゃない、商品名だ。国家が僕につけた在庫ラベルだ。
すべての始まりは「婚活パスポート義務試験」だった。
18歳から強制的に受験させられる。合格しなければ、就職も進学もできない。僕は何度も挑戦した。塾に通い、赤本を開き、模試を受けた。けれど結果はいつも同じだった。
不合格。
試験の問題はくだらなかった。
「初デートでクーポンを使うときの適切な言い訳を記せ(配点10点)」
「交際半年で相手の親に年収を聞かれた場合の模範解答を選べ(配点15点)」
「既読スルーを3日続けた際の危機回避戦略を述べよ(配点20点)」
僕は真面目に答えた。けれど、年収350万円の現実はどうにもならない。配点の半分は「経済力」だった。努力や誠意は点数にならなかった。
結果、僕は「婚活パスポート3級すら不合格」という烙印を押された。
不合格者の処遇
国家からの通知は一枚の紙だった。
「あなたは婚活パスポート受験において不適格と判定されました。本日付で『メンカリ』に登録されます」
抗議も許されなかった。アプリに自動登録され、僕は「訳ありメンズ」として出品された。
商品の説明欄には、冷酷な数値が並んでいた。
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年収:350万円
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学歴:地方私大卒
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清潔感スコア:5.0
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家事スキル:中の下
「ジャンクではないが、プラチナの対極に位置します」
そんなキャプションがついていた。笑えるほど残酷な商品紹介。
初落札の日
配送ダンボールに詰められ、僕はとある家庭に送られた。
奥さんは玄関で受け取ると、笑顔でこう言った。
「あなたは掃除と洗濯担当ね。うちの夫はプラチナだから、存在は秘密よ」
僕は頷いた。抗うことはできなかった。
子どもには「新しいロボットのおじさん」と紹介された。
その夜から僕は、黙って雑巾を握り、洗濯機を回した。
誇りは剥がれ落ちた。人間ではなく、商品だからだ。
不合格の瞬間から僕の未来は決まっていた。
婚活パスポート義務化は「教育制度」でも「恋愛支援」でもなかった。
それはただ、男を効率よく商品化するための前処理だったのだ。