つづきを展開
「速報です。厚生省は本日、全国二百か所目となるメンカリクリニックの開設を発表しました。これにより、地方都市にも不要男性の再起支援が行き渡ることになります――」
テレビのアナウンサーは明るい声で読み上げていた。画面の下には「再起支援」とテロップが流れる。しかし実態を知る僕には、それが「再商品化工場」という意味にしか見えなかった。
メンカリクリニックは急速に増殖していた。きっかけは婚活市場の完全崩壊だ。アプリ「メンカリ」で上位数パーセントの男――年収一千万、清潔感スコア9.5以上の「プラチナメンズ」――が独占的に落札され、残りの男たちは在庫の山に積み上げられた。売れ残った男は全員、強制的にクリニック送りとなる。結果、人口の大半が「メンカリ難民」となったのだ。
街は難民であふれた。公園には「売れ残り避難所」が設けられ、番号札を下げた男たちが並ぶ。僕の首にも「No.317 メンカリ君」と印字されたプレートがぶら下がっている。近所の子どもたちは僕らを見るたびに「アウトレットだ!」と叫び、石を投げて笑った。
新聞の一面は「在庫処分セール開始」。記事によると、メンカリは政府と提携し、値下げキャンペーンを全国で展開するという。見出しには「二束三文でも活用を!」。まるでジャガイモの余剰在庫処理だ。
クリニックは「再起」を謳うが、実際には商品価値を上げるためのパッケージ化工場にすぎない。清潔感を数値で補強し、誠実性を機械的に矯正し、年収シミュレーションで虚構の数字を上乗せする。だが、その「改良品」たちも結局は再び返品される。市場にはプレミアムメンズしか需要がなく、その他大勢は永遠に循環する不良在庫。
僕は再び収容されたクリニックで、数百人の男たちと一緒にリハビリを受けていた。白衣のスタッフは満面の笑みで告げる。
「皆さん、全国で数百万の男性がここに集っています。あなた方は未来を担う希望なのです!」
拍手が鳴り響く。しかしそれは録音だった。
ベルトコンベアに流され、頭髪を増毛され、肌を漂白され、AI講師に営業トークを叩き込まれる。終われば「再起認定証」が与えられるが、それはただの値札の更新だった。
夜、宿舎で同室の男がつぶやいた。「ここにいる全員、落札される見込みなんてないんだ」。彼はかつて大学教授だったという。だが年収は低く、清潔感スコアも平均以下。知識や思想は評価されず、プロフィール欄には「役立たず」と書かれた。教授は虚ろな目で笑った。「知性は資産じゃなく、ただのノイズらしい」
僕は言葉を失った。社会が男を数値化し、上位数パーセント以外を難民にした現実。弱者男性などという言葉すら贅沢だ。今や僕らは「廃棄待ちの資源」だ。
ニュースはさらに追い打ちをかける。「来年度から、全男性は二十五歳の時点で一度はメンカリ出品を義務化されます。未落札者は自動的にクリニック送りに」。女子アナは笑顔で言った。「これで婚活効率が一層高まりますね!」
僕は笑えなかった。効率とは、誰かを消し去る口実なのだ。
ある日、クリニックの中庭で暴動が起きた。数十人の男たちが「人間を返せ!」と叫び、フェンスを揺らした。だが警備ロボットが催涙ガスを噴射し、彼らはすぐに鎮圧された。その夜、暴動参加者の名簿が掲示され、〈不良在庫・廃棄処分〉の判子が押された。翌朝、彼らのベッドは空になっていた。
僕は震えた。抵抗すれば即、廃棄。従えば再生。だが再生しても需要はない。どちらにせよ出口は同じ。
クリニックは全国に急増し、やがて「男のデフォルト居住地」になった。駅前のビルには必ず「メンカリクリニック支部」があり、制服姿の若い男たちが列を作っている。かつての大学、職場、居酒屋――すべてが「不要男性供給所」と化していた。
僕は思う。これほどの施設投資と人員動員をしてまで、「上位数パーセント」以外を在庫扱いする意味はあるのか。いや、あるのだろう。支配層が望むのは効率と見栄え。雑多な人間性は邪魔にすぎない。
ある晩、宿舎で布団に潜りながら天井を見つめた。僕のプロフィールは更新されていた。〈清潔感7.2/年収シミュレーション550万/誠実性4.7〉。値段は12,000円に上がっていた。スタッフは喜んだ。「これであなたも再起成功です!」。だが笑えない。値段が上がっても、需要はゼロのまま。
僕は考える。メンカリクリニックが全国に急増した結果、男の大半がここに送り込まれた。つまり、**社会の標準はすでに「メンカリ難民」**なのだ。上位数パーセントだけが「人間」として扱われ、その他すべては「商品」として漂流する。
そんな世界で、僕らは何を目指すのか。再起? 愛? それともただ「値段相応」であること?
問いだけが胸に残った。
――もし、この現実とパロディに違いがあるのだとしたら、その違いはどこにあるのだろうか?