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弾けて混ざれ! 転職ぴょんぴょん物語

年収150万円UPあざーす

 

私は笑うべきなのだろうか、それとも泣くべきなのだろうか。いや、あなたが笑ってくれるなら、私は泣いてみせることもできる。そう、私はいつでも観客の望む表情を選び取ってきた。拍手が欲しくて、私は転職という舞台を、ぴょんぴょんと跳ね回ってきたのだ。

最初の跳躍は、ただの偶然だった。新卒で入った会社は、古びた机と埃を被った規則と、誰も読まないマニュアルの山が支配する場所だった。そこで私は、呼吸ができないと感じた。いや、むしろ「呼吸できないふり」をしていたと言ったほうが正確だろう。なぜなら、私はもうそのときから、転職という救済の物語を頭の中で構想していたのだから。

転職すれば、年収が上がる。地位が変わる。肩書きが光る。そうして私は、まるでボールのように職を弾ませながら、次から次へと跳んだ。ITベンチャー、広告代理店、コンサルティング外資系――。履歴書はいつも更新され、私は「成長」「挑戦」「次のステージ」という言葉で飾り立てた。面接官の目が輝くとき、私は自分の物語がまだ有効であることを知った。

そうして跳ねているうちに、私は気づいた。観客ができていたのだ。SNSのフォロワーたちが、私のぴょんぴょん跳躍を喝采で迎えてくれる。「また転職ですか?さすが行動力ありますね!」――この言葉が、私にとっての報酬だった。収入が増えるたびに私は「証拠」として給与明細の数字を暗示的に示し、オフィスから見える夜景を背景に「努力は裏切らない」などと呟いた。

努力?本当に私が努力していたのか?

跳躍の軽さを努力と呼ぶのなら、努力とは何と安っぽい言葉だろう。私は跳ねるために跳ねていた。そこに目的はなく、ただ「次」があるということが、私を支えていただけだ。

だが観客は残酷だ。拍手の音は次第に小さくなり、フォロワーたちは飽き始めた。彼らは私の跳躍の高さを求めるようになった。五十万の年収アップでは足りない。百万円、二百万円の上昇がなければ「すごい」とは言わなくなった。

私は限界を悟った。跳べる高さには、天井がある。

ある夜、バーの隅で、私は己の影に向かって語り始めた。いや、影というより、私のもう一人の自分だ。彼は笑っていた。「お前は猿回しの猿だ」と。私は憤ったが、心の奥では同意していた。観客に芸を見せ、飽きられぬように芸を変え、餌をもらう――。私はただの見世物にすぎなかった。

それでも私は逃れようとした。次の転職を探し、求人票にかじりついた。だがどれも、私の欲望を満たすものではなかった。年収は横ばい、ポジションは似たり寄ったり。私は跳べなくなっていた。

そのとき、私は気づいた。私はもう地上に落ちているのだ。

観客の声も聞こえない。SNSに投稿しても、反応は冷え切っていた。「また転職ですか」と呆れる声が混じり、かつての賞賛は皮肉へと変わった。私は必死で笑った。弾けるように、混ざるように。だが笑いは空虚だった。

思い返せば、私はただ「混ざりたかった」のだ。社会に、成功者の物語に、他人の憧れに。混ざることで自分の実在を確かめようとした。だが混ざれば混ざるほど、私は薄まっていった。炭酸水の泡のように、弾けては消え、混ざっては溶け、最後には何も残らなかった。

あなたは笑うだろうか?私の物語を聞いて。いや、笑ってほしい。私はあなたの笑いにすがって、まだ自分が存在していると信じたいのだ。

だが、もう誰も私を笑ってはくれない。

私は独りで跳ね、独りで落ちた。ぴょんぴょんと軽快だったはずの跳躍は、やがて鈍い墜落音へと変わった。いまや私は「転職の達人」とも「キャリアの冒険者」とも呼ばれない。ただ「落ちた人間」として、闇の底で語り続けるしかないのだ。

――弾けて混ざれ!と叫んだあの頃の自分は、今の私をどう見るだろうか。

いや、そんなことはどうでもいい。私はまだ、語り続けている。転落の物語を。あなたが聞いてくれる限り。




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