今年のRISC-V Summit 2025でのKrste Asanovic のState of the Union(一般教書演説) を読んでいく。
RISC-Vは今どこにいるのか
RISC-Vは今や安定した成長期に入っている。
RISC-Vは組み込み用途での地位を確立した上で、現在はアプリケーションプロセッサやAIアクセラレータへの本格的な採用が進んでいる。
オープンな標準ISAという特性が、長期的なエコシステム構築の強みとして認識されつつある。

各業界(Vertical)への展開
RISC-Vは今、複数の産業分野ごとに最適化を進めている。
対象はサーバー、宇宙、組み込み、自動車、HPC/AI、Android、DSPなど多岐にわたる。
これらの取り組みは SIG(Special Interest Group) や Joint Working Group によって進められており、業界ごとに必要なソフトウェア基盤やライブラリの整備が行われている。
単なる命令セットの標準化を超えて、「業界全体で使えるRISC-Vソリューション」を実現する段階に入っていることが印象的である。


RVAプロファイルの進化
2024年に「RVA23」が正式リリースされ、現在は「RVA23p1」というマイナー更新が進行中である。
1〜2回/年のペースでSupervisor関連オプションを追加しながら安定化を図っている。
次のメジャーバージョンである「RVA30」は数年先を予定しており、現時点ではRVA23の定着に注力している段階である。
また、組み込み向けの「RVMプロファイル」、自動車MCU標準、そして CHERI対応プロファイル なども策定が進んでおり、安全性と信頼性を重視した方向性が明確である。


セキュリティ拡張の進展
近年、RISC-Vの標準化活動で最も活発なのがセキュリティ関連拡張である。
SPMPやIOPMP、Supervisor Domains、RISC-V Worldsなど、多層的な保護機構が設計・標準化されつつある。
特に「Confidential Computing」や「軽量メモリタグ付け」といった仕組みは、クラウドから組み込みまでを視野に入れた設計となっている。

DSP拡張とP命令セット
長年開発が続けられてきた「RISC-V P拡張」が、ようやく安定段階に達した。
これは整数や固定小数点演算を高速化するための拡張であり、100以上の新命令が定義されている。
今後はベクトルレジスタ(vレジスタ)を対象としたベクタDSP拡張も計画されており、FFTや複素数演算などのサポートが検討されている。AI処理と信号処理の融合を意識した設計である。

Long Instructions(>32b)への対応
RISC-Vは当初から可変長命令を採用しており、命令エンコーディングの拡張性を確保している。
今後は32ビットを超える「ロングインストラクション」の正式化が進む見込みである。
これは命令枯渇に直面する他ISA(ARM, x86など)に対して、RISC-Vがいかに長期的な進化を前提とした設計であるかを示すものといえる。

RISC-VとAI:スカラ+ベクタ+マトリクス
AI時代に向けて、RISC-Vはスカラ・ベクタ・マトリクス演算を統合的に扱えるアーキテクチャを志向している。
単一のRISC-VコアでAI処理と通常処理を両立できるため、レイテンシ低減とハードウェア効率の向上が期待できる。
さらに、新しいAI向けデータ型(BF16、FP8など)を取り込み、低精度演算の正規化(bulk normalization)をISAレベルで扱う提案も進行中である。


マトリクス拡張の多様なアプローチ
マトリクス演算をどのように命令体系へ組み込むかについて、RISC-Vコミュニティでは以下の4つの方向が検討されている。
- Dot-Product型:小規模実装向け。DSP用途にも適する。
- Matrix-in-Vector型:ベクトル命令を拡張してマトリクスを表現。
- Vector-Matrix型:既存RVVにマトリクス状態を追加。
- Separate-Matrix型:完全独立のマトリクスISAを定義。



まとめ:次のステージへ
「RISC-Vの基盤は整った。これからは各業界での完成度を高めるフェーズに入る。」
