様々な顔を持つ漫画家・白井もも吉について、その作家業の全貌を振り返る。
白井もも吉は、読み切り作家なのか?
白井もも吉は、優れた読み切り作家である。
ここ数年で、様々な媒体に質量ともに充実した読み切り作品を次々と発表している。初めて「となりのヤングジャンプ」に掲載された『もっとヒーローになりたい』は、ジャンプで流行りのヒーローものの要素を盛り込みつつも、主人公をヒーローではなく、そこにヒーローの影武者、つまりヒーローの「偽物」を持ってくる。作者の個性がいかんなく活かされた読み切りだ。
サンデー系の紙面でも多くの作品を発表している。床に寝る行為を通して先生と生徒の不思議な絆が生まれる瞬間を描いた『床に寝る』。作者と同姓同名の登場人物・白井もも吉が孤独に耐えかねて人間のペットを飼い始める『人間のペットを飼いたい』は、作者得意の百合的なオチが素晴らしい作品だ。そして、なんといっても作者の変態性がいかんなく発揮された奇想読み切り、『極小ビキニ催眠ラボ』は出色の出来だ。
白井もも吉は、ちばてつや賞受賞作家なのか?
意外かもしれないが、白井もも吉は、ちばてつや賞受賞作家でもある。
2017年後期・第72回ちばてつや賞一般部門の奨励賞を『猫の夢』という作品で受賞している。猫の女の子を主人公にしたゆるいファンタジー作品は、同人作品の『にゃん年にゃー組 』などの作品にも受け継がれている。
白井もも吉は、コミティア作家なのか?
白井もも吉は、コミティアにも積極的に参加していた時期がある。
特にナンセンスなユーモアを基調にしながら、抒情的なメルヘンやラブストーリーを数々発表している。
例えば、世界を旅する文学少女と縫い針と蒲鉾の奇妙な出会いを描いた『たびぢ』、気温45度の猛暑の中を海水浴に行こうとする夫婦を描いた『夏の引力』、看護婦に甲斐甲斐しく世話される殺人鬼、ネコミミを切除手術したネコミミ少女、潰れたティッシュの謎、など、不思議なショートショート集『ショートショートメディスン』、ポッキーが年々太くなっていることに気が付いたギャル二人の会話劇『ギャルとギャル』、面白い会話ができない女が、髪型だけでも面白い人間になろうと髪を伸ばし続ける『毛の長い生き方』、蜘蛛と椅子の間に生まれた8本脚の椅子が自分の存在証明を求める『8本脚の椅子』などなど。残念ながら『すばらしいわたしのスイッチ』だけ入手できず未読である。
コミティア作品の中から一作ご紹介したい。『原付二台、ヤギ二匹、三輪車一台を持った女』。恋をしたことがない女が、原付二台、ヤギ二匹、三輪車一台を所有している女と恋に落ちる様を描いた。どこか寓話的でシュールな状況を描きながら、洗練された筆致によって洒落たラブストーリーに仕上がっている。現在もBOOTHにて購入可能である。
白井もも吉は、女子高生作家なのか?
実は、白井もも吉は、女子高生作家でもあった。
女子高生の時に、初投稿作『弁当びより』を投稿し、『しょうゆプリン』で週刊少年マガジン第86回新人漫画賞奨励賞を受賞。『フェレット未飼育日記』で商業デビュー。『みつあみこ』で初連載を経験している。
女子高生で商業誌に連載経験ありというだけで恐ろしく早熟な天才作家という他ないが、本当に驚くべきことは、ナンセンスなユーモアセンスや叙情的な百合展開など、この時点ですでに作家性と言えるものが完成されていることだろう。
ちなみに、フェレットを飼いたい妹が、自分の空想を膨らませて姉にプレゼンを行う『フェレット未飼育日記』が個人的ベスト。
白井もも吉は、偽物なのか?
さて、いよいよ本記事も終わりを迎えようとしているわけだが、現在の白井もも吉にとって代表作である『偽物協会』について語ろう。
本作は、「本物」の枠からはみ出てしまった「偽物」たちの集う場所である「偽物協会」を舞台にした連作である。脱毛したいサボテン、鳥になりたい石ころ、人の耳を嫌うイヤフォンなどなど、ナンセンスな世界観も作者の味として注目に値するが、何よりも「偽物」をテーマとしたところに注目したい。思えば、商業デビュー作『フェレット未飼育日記』から、最新作『もっとヒーローになりたい』まで、「本物ではない(偽物)」ということが作者の一貫したモチーフであることに気づく。自分が「本物ではない(偽物)」という欠落こそが、作者の創作を突き動かすものになっているのだ。だからこそ、『偽物協会』は「本物」になろうとする物語ではなく、「偽物」であることを受け入れていく物語になっている。自分が「偽物」であることを受け入れていくのは難しい。白井もも吉は、例外的にそれを可能にしている漫画家なのだ。
この文章を書いたのは2023年のことだったが、ここに再掲することにした。
というのも、白井もも吉は…また別の顔を……。