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『カモガワGブックスVol.5 特集:奇想とは何か?』寄稿のお知らせ&感想

海外文学レビュー&評論同人誌『カモガワGブックス 特集:奇想とは何か?』に「奇想マンガの巨匠たち」という原稿で参加させていただきました。

自分の原稿はさておき、「奇想」という捉えどころのない、それでいてどうしようもなく魅力的なテーマに様々な角度から切り込む刺激的な内容になっています。

ぜひ広く読まれてほしいので、感想を残します。

 

note.com

 

 

 

レビュー・論考

「狂気の沙汰か、SFか!? 偏愛海外奇想短編10選」:鯨井久志 

カモGの主催者であり、翻訳者としても活躍されている鯨井氏の「偏愛海外奇想短編10選」です。

偏愛とは言いますが、SF周辺の作家からバランスよく編まれた10選になっております。SF作家たちがどのように奇想と戯れてきたのか、その歴史と広がりを感じられることでしょう。

 

「奇想的宇宙SFの世界」:坂永雄一

こちらは打って変わって、宇宙を題材にした奇想SFという狭い括りの中から8つの作品が紹介されています。SF作家である坂永氏の豊富な知識量に裏打ちされた、読み応えあるレビューです。

奇想SFを「奇想的アイデアの核があって、その展開を科学的に行う方向性」と「SF的な作品世界に、突き抜けて奇妙なイメージやロジックを挿入するという方向性」の二つに分類する明快さにも膝を打つ思いでした。

 

ラテンアメリカ奇想小説パレード」:蛙坂須美

実話怪談作家であり、海外文学全般に造詣が深い蛙坂須美氏によるラテンアメリカ奇想小説の紹介レビューです。

正直に言って、今回掲載されているレビューの中でも、最も王道で骨太な選書に圧倒されました。挙げられている作品すべてが傑作で捨て所がなくて、選書の強度がただただ高いです。奇想を抜きにしてラテンアメリカ小説の読書案内として見ても、優れたレビューと言えるでしょう。

 

「奇想が殺す——推理小説と奇想について、偏愛する短篇を三つほど」:鷲羽巧

京都大学推理小説研究会に所属する鷲羽氏による、ミステリからみた「奇想」に対するレビューです。

「奇想」という語はミステリジャンルでもよく使われる言葉ではあるのですが、その使われ方はどうにもぼんやりしていて捉えどころがありませんでした。また、単に突飛で変なトリックやロジックということで言えば、「バカミス」という用語もよく使われるものであり、「奇想ミステリ」と「バカミス」の違いについてもはっきりした定説はないわけです。そこに一つの基準を導きだした鷲羽氏の視点は刺激的です。

 

「奇想溢れる悪夢の饗宴——奇想ホラーブックレビュー」:昏月鯉影

怪奇・幻想文学の同人誌『Buttered-Fly』を主宰する昏月氏による国内・海外奇想ホラー小説のレビューです。

ホラーと奇想は相性が良いので、作例をあげるだけなら枚挙に遑がありません。そこで無理に網羅的に語るのではなく、選者の偏愛が感じられるセトリになっています。2010年代の角川ホラー文庫だけでも語りがいがありますね。

 

国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索を用いた「奇想」および「奇想小説」の語誌の概観」:下村思游

現役の司書でもある下村氏が、国会図書館デジタルコレクションのデータベースを駆使して、「奇想」あるいは「奇想小説」という胡乱な語の用例や語誌を明らかにする論考です。

「奇想」って誰がいつ使いだしたんだ?という素朴な疑問に応えてくれるものであり、痒いところに手が届くとはこういうことを言うのでしょう。

 

「最近の奇想ゲームについて(主にSteamで買えるやつ)」:千葉集

最近はゲーム関係のライターの仕事が増えているらしい千葉氏による奇想ゲーム紹介です。

古典作品ではなくて、Steamで買える近年のゲームに絞ったところが興味深いです。ほとんど知らないゲームの話なのですが、素直に自分でもプレイしたくなる楽しさがあります。

 

「奇想マンガの巨匠たち」:茎ひとみ

拙稿です。頑張って書きました。変なマンガの歴史を感じていただけると幸いです。

原稿内で紹介できなかったけど、最近気になる奇想マンガ家の作品を貼っておきます。

 

to-ti.in

 

manga-no.com

 

「つばな単行本未収録作全レビュー」:鯨井久志

言うまでもなく超偉大な漫画家・つばな先生の単行本未収録作全レビューです。

入手困難な作品が多いですが、頑張って読みましょう。国民の義務です。

ちなみにお得情報ですが、「純ちゃんといた日々は私の全てだよ。」はこちらから読むことができます。

 

leedcafe.com

 

「なぜ奇妙であることが面白いのか—— 「奇想とは何か?」試論」:鯨井久志

なぜ「奇想」が面白いのか?

あらためて問われると、非常に手ごわい問いです。しかし、そこから逃げることなく考えを深めようとする時、この論考が助けになってくれることでしょう。

個人的には、精神病理学の視点から奇想を捉えなおそうとするあたりを、特に面白く読みました。

 

 

翻訳

キャサリン・マクリーン「シンドローム・ジョニー」:鯨井久志 訳
特別解説 キャサリン・マクリーンのために:大島豊

人類を襲った伝染病の恐怖と、その陰にあるひとりの男の暗躍。伝染病による人類種の進化についてのSF短編です。

アフターコロナの時代であるからこそ、ある意味でリアリティーのあるお話です。冷静に考えると、DNA二重らせん構造も発見されていない時代に、これを書いたキャサリン・マクリーンの知性に平伏せざるを得ません。

 

リドリー・ウォーカー——『ある幻想の未来』より
ラッセル・ホーバン『リドリー・ウォーカー』(第一章研究訳):阿部大樹

アメリカ合衆国のSF作家であるラッセル・ホーバンによる幻の傑作長編の第一章研究訳です。

不勉強ながら本作のことは全く知らなかったのですが面白かったです。

典型的な核戦争後のポスト・アポカリプス的世界観が描かれているのですが、特筆すべきはそこで記述されている言語にあります。作者が創造した未来世界の英語方言によって物語が記されているのです。その仕掛けが、読者を否応なく作品内世界に没入させる効果を発揮しています。「日本語訳不可能」と言いたくなりそうな作品ですが、訳者の阿部氏はどのような手を使っているのか……。細工は流々仕上げを御覧じろ。

 

 

創作

ハナビラ・オプティミスト:石原三日月

第1回カモガワ奇想短編グランプリを「窓の海」で受賞した石原氏による、新作奇想短編です。

石原氏は、「窓の海」を読んだ時から、突飛なヴィジュアルイメージを読者の眼前に突きつけてくる力強さに惹かれておりましたが、本作でもそうした魅力は健在です。登場人物のやり取りにユーモアもあり、心地よい読書体験でした。

 

小さなはだしの足音 :坂永雄一

「歩行」が生活必需品ではなくなり、人類にとって趣味のようなものになった世界で、姿が見えない足音と邂逅した夫婦は、全人類の運命を変える事件に巻き込まれることになる。

やはり奇想小説を読む前の心持ちとしては、とびっきりの変なほら話を浴びせられて、最後は妙にさわやかな気持ちで読み終わることを期待しているわけですが、その期待を完全に満たしてくれました。

 

 

第2回カモガワ奇想短編グランプリ受賞作品

大賞  レターパックで現金送れ/は詐欺です「くるぶし考」 

クルブシが季語になった世界を描いた作品です。……とだけ書くと意味不明なんですが、読んでみると不思議と馴染みます。おそらくこの作品の面白さは小説でしか成立しないでしょう。一読した印象以上に、よく読むと文章が練られています。日本語の機能を最大活用してやろうという感じでしょうか。

 

優秀賞 春眠蛙「潰しに関する覚え書き」

書評家が本当の意味で「作家潰し」をしている世界を描いた作品です。

本作の魅力は、独特の饒舌体から繰り出されるユーモアのつるべ打ちがすべてでしょう。あまりに露悪的な内容なので、生理的に拒絶しそうになりましたが、読み終わるころには大好きになってました。

個人的には、チンパンジーバンドウイルカの売春行為の証拠として、警察にて立派な胡桃と二〇センチメートルの夜光貝の貝殻が保管されているくだりが特に好きです。

 

優秀賞 藤井佯「幽玄の惑星」

誰でも見るだけで相手の動きを完璧に真似ることができるようになるという不思議な効能を持つ花が発見された世界で、その花を食べた朱鷺たちに猿楽を教える世阿弥の話です。

前の作品が文体によって無理やり奇想を押し通した作品だったとしたら、こちらは提示されるイメージの優雅さによって奇想を押し通しています。

 

 

 

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