
REDWING COLUMN NO.116 レッドウィング旧オロラセット875 メンテナンス編
今回は日本国内で人気を博した、1990年代半ばの赤味MAX期のオロラセット旧875のメンテナンス。
オロラセットレザーについて簡潔に説明すると、初期の1950年代はオレンジっぽい茶色だったものが
1990年頃から赤味がかり始め、1995年頃には茶色っぽい要素が極端に少ない赤に近い色となる。
その赤い色は本来のオロラセットと懸け離れているということで、1996年に色の見直しと細分化が始まり
初期の茶色をオロイジナルや現行オロレガシー、90年代の色味をオロラセット・ポーテージが引き継ぐ。
自分の所有するこの875は、オロラセットの色味の見直しがされる数か月ほど前の個体となる。

撮影環境で色の感じは違って見えてしまうけど、レザーからオイルが抜けて来ると赤のビビットさが
徐々に落ち着いて来て、オレンジやピンクっぽくなったようなと思うと大体メンテナンスの頃合い。
ちなみにこれは2022年12月中旬で、この時からそろそろしっかりとしたメンテナンスをしなければと
そう思いながらも、オロラセットの他のモデルのオイル入れついでにちゃちゃっと済ませていた。

今回の旧オロラセット875メンテナンスで用意したのは、毎度お馴染みのこれらのアイテム。
適当なシューキーパー、埃落としと仕上げ兼用の馬毛ブラシ、ウェルトや細かい部分用の竹ブラシ。
茶系クリーム仕上げ用のミニブラシ、レッドウィングのレザードレッシング(現在のコンディショナー)に
オロラセットの部分補修用として使うのは、モゥブレィのレッドブラウンカラーのシュークリーム。
クリーナー類はそれぞれモゥブレィのステインクレンジングウォーター、カビ予防のモールドクリーナー
内部の保革にクリームエッセンシャル、拭き取りと塗布用の布類、緑青除去のつまようじに多目的な綿棒。
ここには載せてはいないけど、紐を洗う為の洗剤と歯ブラシも別途用意して使っている。

こんな風に表面の塗膜が削れた傷や、屈曲するバンプなどは負荷が掛かって芯が露出している。
色付きの乳化性クリームは全体に塗るのではなくて、自分はこういう細かい部分に使うようにしていて
オイル入れをした後のレザーの様子を見ながら、クリームを使うかは各部分で判断することにした。

紐を外してシューキーパーを入れて、馬毛ブラシを使って隅々までブラッシングからメンテナンス開始。
紐を通したままでのブラッシングは季節ごとに必ず行っていて、梅雨入り前が一番重要だと思っている。

この875が何故後回しになってしまうかは、ハトメ裏にびっしりと生える緑青(ろくしょう)のせいで
表から見ても気付きにくいけど、裏側はいつの間にか復活していて、これがまた取り除きづらい。
緑青とは金属が酸素と水分に触れると発生する錆のことで、その金属を腐食から守る効果があり
いかにもな色味をしているものの毒性は低い為、無暗に取り除く必要はないとされている。
緑青のメリットが分かった上でも、やはり見た目という意味でなるべく綺麗にしておきたいところ。

紐の当たる場所に緑青が移っていて、この色味では目立ってしまうので綺麗にしておくことにした。
洗剤は香りの強いタイプではない方が良いと思い、ちょっと贅沢にもダルチザンのジーンズ用を選び
紐に染み込んだ油分や汚れを浮き立たせる為に、ぬるま湯に溶かして他作業の間に漬け込んだ。

これに関しては急がば回れということで、つまようじで少しずつ掻き出して綿棒で拭き取りを繰り返す。
緑青はレザーに含まれる油分量が多いほど発生しやすく、取り除きにくいウェットな質感になり
自分の所有するレッドウィングの中で犬刻印875が最も厄介で、それを難易度上級にするとしたら
この半円犬タグ875は中の上ぐらいはあり、一足分をこれぐらいまでにするのは二時間近く掛かった。
上手いこと背景をぼかせることが出来て、憂鬱な作業や閲覧注意的な感じが表現出来たかもしれない。

緑青は色んな部分に残ったりするので、隅々まで再度ブラッシングをして次の工程の準備。
ウェルトのステッチには高確率で緑青の細かい欠片が乗っているので、しっかりと確認しながら行う。
あまり使うことのないウェルトブラシがぴったりではあるけど、これは歯ブラシでも全く問題ない。

紐を洗剤に3時間ほど漬けておいたところ、汚れが浮き出ていて緑青は大方がなくなっていて
気になる部分を使い古しの歯ブラシで擦り、揉み洗いをしてしっかり濯いで干して乾かす。
青黒く定着してしまった箇所は落ちず、若干放置期間が長かったので多少赤い変色も見られた。

今回の紐は画像左の方で、もっとはっきりとして分かりやすい別の物を右側に貼り付けておいた。
乾かすとこんな感じに少し緑青らしい跡が残ったり、びっしり付いていた場所は紐の繊維を侵食して
おそらく錆に関する化学反応なのだと思われるけど、黄色い部分が赤っぽく変色している様子。
これは全く気にならないし、洗ったことで紐に張りが戻って強度が増したように感じる。

いよいよここからがアッパー部分の本格的なメンテナンスということで、布とクリーナーを使って
レザー表面の汚れを落としはもちろんのこと、蓄積した古いオイルなどをリセットさせる意味もある。
自分はここ最近ステインクレンジングウォーターを使っていて、天然成分を主に配合している為
レザーと手肌に優しい上に、汚れと油分を取り除きながら適度に保湿してくれる効果がある。
洗浄力という意味ではステインリムーバーの方がやや強く、頑固な汚れ落とし=ステインリムーバー
デリケートに汚れ落としをしたい=ステインクレンジングウォーターなイメージの使い分け。

綿棒にステインクレンジングウォーターを染み込ませて、モカシンのステッチとウェルトの汚れ落とし。
正直こういう細かい部分についてはすごい地味だし、以前だったらスルーしがちだった。

汚れや以前使ったクリームの色味もあるけど、大部分はレザーの赤い染料なのである程度までにして
同様にウェルトのコバ部分からも色がかなり出て来る為、そちらもざっくりとした感じで切り上げる。

続いてはモールドクリーナーを布と綿棒に取り、アッパーとウェルトのカビ予防を行う。
ウェルトとアッパーの接合部分は特に重要な部分で、布の角を作ったり綿棒で塗り込む。
ウェルトのコバはここでも汚れ落としをすることになるので、先程の工程とセットという感覚。

クリーナー類の水分が落ち着くのを待っている間に、インソールの方を先に仕上げることにした。
このレザーインソールもアッパー部分と同様に、汚れ落とし→カビ予防→保湿の順番で行い
内部に余計なゴミを残したくないということで、繊維カスがほとんど出ないショップタオルを使用。
シャフト内側やベロ裏などの起毛している部分は、モールドクリーナーを直接噴射してもOK。

ブーツ内部に直接手を入れてインソールの状態を感じながら、クリーナーでゴシゴシと拭いたり
保湿用のクリームエッセンシャルを塗りこみ、最後は綺麗なショップタオルで乾拭きして仕上げる。
若干の汚れとレザー自体の色味が出ていて、やはりここもある程度のところで切り上げる。

こちらはインソールのビフォーアフターで、左がメンテナンス前で右が仕上げた後の状態。
元々状態は良好ではあったけれども、更に潤って手触りもしっとり&滑らかな感じになった。
オイル類をいくつか試したところ、クリームエッセンシャルだと伸ばしやすいので塗りムラが少なく
多めになってしまっても色が濃くなり過ぎない為、失敗するリスクはほとんどないので安心して行える。
ここのメンテナンスは丸洗い後が一番有効で、デメリットは着用時にしばらくつるつるするぐらい。

この旧875メンテナンス編で使うメインアイテムは、これまた旧アイテムのレザードレッシング。
これはミンクオイルや蜜蝋など全て天然成分を配合したオイルで、レザーの色に深みを与えたり
ブラッシングで自然な光沢感も生まれ、オロラセットには一番相性良いんじゃないかと思っている。
個人的には直接指に取って塗るのがおすすめで、自分の体温で溶けることで伸ばしやすくなることと
布などを使う場合よりも消費量を抑えることも出来て、そしてレザーの質感や状態が分かりやすい。
現行のコンディショナーとおそらく同じ成分と思われるけど、旧仕様の方が松脂の香りが強めに感じる。

ミンクオイル系は油分のホールド感が特に強く、柔らかくなり過ぎたり色味の変化が大きくなる為
何かと負荷の掛かるバンプやトゥをやや多めにし、それ以外の部分は様子を見ながら薄めに塗り込む。
履き口や普段は隠れる羽根の内側など、ウェルトも塗っておくと劣化を防いでくれるので忘れずに。
やはり冬場ということでオイルが硬めになり、指だけでなく手のひらも使って伸ばしておいた。

全体にオイルを塗り終えたら、レザーにしっかりと浸透するまで放置タイムに入る。
油分が足りていない状態だとすぐに浸透する為、数時間後に見て余地がありそうなら更に塗り込む。
今回のメンテナンスはその必要がなかったので、このまま翌日まで放置して一先ず作業は中断。

そして翌日になり、浸透しきれない余分なオイルを布で拭き取って、更にブラシで馴染ませる。
この時に拭き取った布にオイルが入っているので、他のブーツの軽いメンテナンスとして再利用。
ブラシを敢えて使い分けずにいるのは、毛先にオイルが含まれ、同様に簡易的に潤わせることが出来て
これを繰り返すことでブラシが育って行き、使い続けた物とそうでない物では差が出て来るのが面白い。
もちろん色付きクリームやラフアウトなどは別にしていて、このブラシはそれらを除く多目的用。

冒頭の方に触れていた気になる傷の箇所には、モゥブレィの乳化性クリームで補色しておく。
補色の必要のない部分と白いステッチには干渉させないように、クリーム極少量を布に取って
その気になる部分に塗り込み、レッドブラウン専用ブラシで馴染ませて、更に乾拭きで仕上げる。
レッドウィング純正クリームのオロラセットよりも、このレッドブラウンの方が色味が近いのでおすすめ。

アッパーのメンテナンスも終了ということで、ビフォーアフターの画像で比較してみる。
左がメンテナンス前で右がメンテナンス後の状態となり、油分が枯渇している訳でもなかったのに
こう見ると色がぼやっとしていたようにも思えて、やはりメンテナンス後は迫力ある風合いになった。

もう少しアップでトゥやバンプを比較してみると、表面の光沢感も全く違って若返った印象があり
メンテナンス後は特に赤味の深さが増して、自分の中ではこれぞ90年代中期のオロラセットという感覚。
ウェルトのステッチも白くなって、味のある風合いと清潔感のバランスがとても良い感じに思える。

自分はオイルをバンプやトゥをメインに塗り、シャフトは柔らかくなり過ぎないように控えめな為
こういう比較画像だとメンテナンス前後の色の変化は、スマホで見ると分からないかもしれない。
当ブログのスマホ版は色補正がかなり強くなるらしく?、気になる画像があればPCでの視聴を推奨。

塗膜の剥がれや傷の比較画像も、同じく左がメンテナンス前に右がメンテナンス後の状態。
正直に言ってレザードレッシングだけでも、芯の色味を持ち上げてくれて馴染みつつあったので
乳化性クリームの補色はさほど意味がなくて、油分の少ないメンテナンス前の方が効果があったと思う。
下段のやや深めな傷だと、パテ埋め的なレノベイティングカラー補修クリームの方が精度が上がるけど
毛穴の質感を残したフルグレインレザーでは、補修感の強い不自然な仕上がりになってしまいそう。

バンプの負荷が掛かる屈曲部分は、レザードレッシングのみを塗布して乳化性クリームの補色は無し。
ミンクオイルはカビのリスクなどのデメリットも多いけど、一旦浸透すると潤う期間を稼げるので
室内での保管や定期的なブラッシングを欠かさなければ、メリットとなる特色や性能を上手く活かせる。
次回は全体的な色味の変化を感じ取るのではなくて、ここの具合に注目してタイミングを考えたい。

メンテナンス後は紐をびしっと通し、恒例の場所で撮影して肉眼で見た感じに近くなるように調整。
来年にはこの875も30歳になるのに現役バリバリ感というか、活き活きとしたオロラセットの色味は
たぶんここ何年かで一番良い状態に持って行けたかもしれないし、今後もこうであることが期待出来る。

自分が右利きのせいなのか左向きが多くなる傾向にあるので、サイドビューは右向きにしておいた。
余談にはなるけれども、レッドウィングジャパン公式ECサイトのラインナップでは右向きが継続品番で
以前から更新されないままの左向き画像のモデルは、生産予定のない廃番扱いになってしまうらしく?
どうやらプレーントゥ版のアイリッシュセッターは、一旦定番としての役目を終えることになるそうだ。

面向きや画像映えという意味で、触れることの少ないバックビューも意外と好きだったりする。
遡ってみると、この875のフルメンテナンスは約6年振りで、ブーツ修理プロの方から得られた知識や
自分なりの気付きと工夫の積み重ねなど、それに伴って揃えたアイテムと作業の細かさに工程の増加。
元々はメモや記録として書き始めたつもりが、その内容もだいぶ充実して来たと思うと感慨深くなる。
