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浅古泰史+善教将大編著『数理とデータで読み解く日本政治』(日本評論社)

 日本の政治制度や政策についての本ですが、タイトルにあるように「数理とデータ」という角度から迫っている所に本書の特徴があります。

 「数理とデータ」とあるように、データ分析だけではなく、ゲーム理論などの数理的な理論を使った分析がいくつかあるのも特徴と言えるでしょう。

 「選挙制度」、「地方分権」、「メディア」など、政治学の教科書がとり上げそうなテーマが並んでいるわけですが、「数理とデータ」にこだわったことによって、既存の分析とは一味違う考え方を知ることができます。

 

 目次は以下の通り。

 

序 章 なぜ日本は多くの問題を抱えたのか?(浅古泰史)
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第Ⅰ部 日本政治のしくみと現状
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第1章 選挙制度——日本が特異なのか?(小川寛貴)

第2章 投票参加——なぜ投票率は低下しているのか?(善教将大)

第3章 政権担当能力——なぜ自民党は強いのか?(小野弾)

第4章 利益誘導政治——利益誘導のかたちは変わったか?(池田文)

第5章 女性議員——なぜ少ないのか?(芦谷圭祐)

第6章 地方政治——地方自治体は大統領制なのか?(砂原庸介

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第Ⅱ部 日本の政治・経済が直面する問題
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第7章 財政赤字——なぜ積み上げられてきたのか?(荒渡良)

第8章 社会保障——なぜ制度改革が必要なのか?(御子柴みなも)

第9章 地方分権——地方分権は成功したのか?(後藤剛志・渡邉高広)

第10章 安全保障——日本の対外コミュニケーションは効果的か?(小浜祥子)

第11章 中央銀行——日本銀行は政治から独立しているのか?(清水直樹)

第12章 女性労働——女性の社会進出を阻むものは何か?(室賀貴穂)

第13章 メディア——権力を正確に監視できるか?(小俵将之・岸下大樹)

 

 

 以下、面白かった章を中心にいくつか内容を紹介したいと思います。

 

 第1章 小川寛貴「選挙制度:日本が特異なのか?」

 二大政党を志向する小選挙区制と多党制を志向する比例代表制の混在といった問題だけではなく、選挙ごとの定数の違いに着目しているところが興味深いです。

 例えば、世田谷区に住んでいると衆院選は定数1、参院選は定数6、都議選では定数8の選挙を行うことになるわけですが、当然ながら候補者を出す政党数も違います。

 こうなると有権者は政党間競争をうまく捉えられないのではないか?となってきます。衆院選で二大政党を志向していても世田谷区の有権者にはそれは例外的であり、多党制的な環境が一般的になるのです。

 

 第2章 善教将大「投票参加:なぜ日本の投票率は低下しているのか?」

 日本の投票率が低いことはここ最近ずっと言われていますが、日本の投票率が低下したタイミングは90年代です。

 その要因としては政治不信の高まりなども考えられますが、この時期は特に農村部での投票率の低下が目立っており、保守系政治家の動員圧力の弱まりなども原因になっていると考えられます。

 衆議院選挙制度中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変更され、同時に農村と都市部での定数の不均衡が是正されたこともあり、政治家からのはたらきかけ、農村部の有権者が選挙から得られる効用の双方が減少したと考えられます。

 

 第3章 小野弾「政権担当能力:なぜ自民党は強いのか?」

 自民がしぶとく政権を維持し、立民が伸びない理由ともされる「政権担当能力」について、その内実にヴェイランスという概念から迫り、政権担当能力の評価についての左右の非対称性を見出す論考になります。

 一般的に自分の考えに近い政党の政権担当能力を評価する傾向があるとはいえ、自分より右に離れている政党よりも自分よりも左に離れている政党に対する評価の落ち方が大きくなっています。これが自民の「強さ」と立民の「弱さ」につながっているのではないかと。

 

 第6章 砂原庸介地方自治地方自治体は大統領制なのか?」

 日本の地方自治では長を住民が選挙で選ぶ二元代表制をとっているが、議会に長の解職権があることから実は「大統領制の議会制化」が起きているのではないか?ということを指摘しています。

 多くの都道府県議会では自民党の一党優位となっており、議会自民党が長に対して大きな影響力を持っています。そんな中の例外が大阪維新の会ですが、これは選挙区の定数が少ないという大阪の特殊な状況によるものであって、地方ではなかなか政党間競争が起きにくい状況となっており、こうした制度的要因も都道府県における議会自民党の影響力の強さにつながっています。

 

 第8章 御子柴みなも「社会保障:なぜ制度改革が必要なのか?」

 日本の社会制度の問題点を指摘する論考ですが、最後に移民受けれについても触れていて、反移民の感情は再分配の反対にも結びついていると指摘されています(移民が社会保障に依存していると考えているから)。

 しかも「移民に対する否定的な認識や反発によって低下した再分配政策への選好は、移民についての正しい情報が与えられたとしても維持される(Alesina,Minano and Stantcheva 2023)。」(181p)とのことで、これは非常に厄介な問題ですね。

 

 第9章 後藤剛志・渡邉高広「地方分権地方分権は成功したのか?」

 日本の地方分権はあまりうまくいっておらず、むしろ中央集権に戻していくべきではないかと論じています。

 基本的に競争は良いことだとされていますが、「底辺への競争」と言う言葉があるように、競争はときに福祉の切り下げや無理な減税を招く恐れもあり、競争がむしろマイナスをもたらすこともあります。ふるさと納税のことを考えれば、必ずしも自治体同士の競争が全体の効用を高めるわけではないということはわかるでしょう。

 ここで指摘されている理論のように、人は簡単に自治体間を移動するわけではないと思いますが、「地方分権=善」にように思われてきた日本の言論に一石を投じる内容だと思います。

 

 第13章小俵将之・岸下大樹「メディア:権力を正確に監視できるか?」

 メディアについてデータを使って分析するのではなく、ゲーム理論を使って分析するという一風変わったアプローチです。

 理論と実際の関係をもっと詰めてほしい気もしますが、日本のYahooに見られるようなニュース・アグリゲーターの存在が与える影響は興味深いです。ニュース・アグリゲーターの存在は報道の精度を低下させるかもしれないが、自身の価値観と非整合な記事をクリックするようになるかもしれないと。

 

 

 




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