シャフトオタクたちが織りなす雑然たる饗宴こと『もにラジ』。第8回では2025年4月新作アニメ『忍者と殺し屋のふたり暮らし』第1話について、シャフト批評合同誌『もにも~ど』の共同編集者であるabさんとmochimizさんと感想会をしました。
放送直後の突発的な集まりということもあり、各自が自由に語り合う、ある種の熱量の奔流のような場となりました。一見すると、アニメの面白さにあてられて語りが止まらなくなっているように見えるかもしれませんが、そこには作品やスタジオとしてのシャフトを読み解く上で重要な論点がいくつも含まれていたように思います。ぜひ、その熱気ごと含めて一読いただければ幸いです。
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◆参加者プロフィール
mochimiz(@mochimiz09982)
『青騎士』のリニューアルに伴って本棚のレイアウトを再検討しているオタク。
『アオハル』然り、サブカル作家を青田買いする漫画雑誌が何故青色に拘る傾向にあるのかつねに微妙に気になっている。
ab(@ab.denki.gg)
唐揚げ定食美味しいです。
あにもに(@animmony)
とはいえシャフトアニメを観るオタク。忍野忍ばない。
『Be My Friend』も好きだし、『Pride of the Underdog』もきっと好き。
【『忍者と殺し屋のふたりぐらし』について】
あにもに:本日は、急なお誘いにもかかわらずお集まりいただき、誠にありがとうございます。今期放送が始まったテレビアニメ『忍者と殺し屋のふたりぐらし』が素晴らしかったため、急遽感想会を開催することとなりました。『にんころ』は、2021年2月より『コミック電撃だいおうじ』にて連載が始まった、ハンバーガー先生の作品です。『電撃だいおうじ』といえば、『ガヴリールドロップアウト』(2013年)や『ひとりぼっちの○○生活』(2013年)といったアニメ化作品でも知られる雑誌です。まずお聞きしたいのですが、皆さんは『にんころ』のアニメ化が発表されたとき、原作をご存じでしたか?
ab:自分はアニメ化が発表された際に初めて知りました。
mochimiz:『にんころ』自体は読んだことがなかったのですが、ハンバーガー先生の他の作品には目を通したことがあります。こかむも先生や入江亜季先生らを擁していることで強い存在感を放っていた『青騎士』でも連載を持たれていましたし、『めしにしましょう』(2016年)で知られる小林銅蟲先生とも仲が良く、自分の張っているアンテナには引っ掛かりやすい作家です。あるいはもっと簡単な言葉で表現してしまえば、SNS戦略に強い印象はかねてよりありました。
あにもに:これは率直に言って良いと思うのですが、アニメ化が発表された際には、やはり少し驚きがありましたよね。
mochimiz:ちょうど『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』や〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズンが絶賛制作中の時期だったはずですし、新作を立ち上げて大丈夫なのか、と思われた方も多かったのではないでしょうか。
ab:『にんころ』のアニメ化が発表されたのは、たしか昨年の4月頃だったと思います。当時は放送媒体も未発表だったので、OVAかOAD形式になるのではと予想していました。あるいはWebアニメのような、変則的な形態をとるのではとも思っていました。例えば『アサルトリリィ ふるーつ』(2021年)のような形式ですね。
mochimiz:Web配信系だと『アサルトリリィ ふるーつ』は全13話ありますが、『悪魔のメムメムちゃん』(2018年)のような単発作品という線も充分に考えられました。テレビシリーズだとすれば5分枠のミニアニメが適切なのではないか、という声も多かったように思います。
ab:しかしいざ放送が始まってみると、30分枠のテレビアニメとして制作されていて、その力の入れように驚かされました。『ヴァージン・パンク』や『廻天』といった劇場作品の大作が控えている中、もっと省エネ的な作りになるかと思っていたのですが、想像以上に本気のシャフト作品でした。
あにもに:先週から放送が始まりましたが、皆さん第1話をご覧になっていかがでしたか?
ab:第一印象としては、2000年代のシャフトによるコメディ作品である『さよなら絶望先生』(2007年)や『ひだまりスケッチ』(2007年)を彷彿とさせるようでした。放送前には、シャフトオタク界隈で「令和の『ぱにぽにだっしゅ!』(2005年)になるのではないか」と冗談交じりに言われていたのですが、本当にその雰囲気を感じさせてくれる、実にシャフトらしい純粋なコメディ作品でした。もともとシャフトはコメディを得意としていたスタジオでしたが、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)の特大ヒット以降はシリアスな作品が占める割合も増えていましたから、本作のような路線への回帰は素直に嬉しいです。
mochimiz:『まりあ†ほりっく』(2009年)や『荒川アンダー ザ ブリッジ』(2010年)、それから『それでも町は廻っている』(2010年)などがあった頃のスタジオの空気感に近しいものを感じますよね。後々詳しく触れていきますが、『ニセコイ』(2014年)を強烈に想起させるような表現もありました。
あにもに:ここまでの本格的なコメディ作品は『幸腹グラフィティ』(2015年)以来になるかもしれません。それもすでにもう10年近く前の話です。mochimizさんはどのような印象を持たれましたか?
mochimiz:すべてのシーンがハンバーガー先生とシャフトのファンへのサービス精神に満ち溢れていて、毎日繰り返し愉しく観ています。作画部のみにフォーカスしても、まず山村洋貴さんと阿部厳一朗さんによるアバンがあり、長田寛人さんと川田和樹さんがもはやベテラン級の活躍をされており、それから今回メインアニメーターとしてクレジットされている山田詩乃さんや許有真さんといった若手の台頭もあり……こう挙げていくとやはり凄まじいですね。スタジオ全体が一丸となって生み出した会心の一撃という感触を受けました。
ab:今回はメインアニメーターとして、伊藤良明さん、山田詩乃さん、許有真さんの3名がクレジットされています。これだけでベテランから若手まで揃い踏みであることを予感させるような、とても良いスタッフ編成だと思います。
mochimiz:仕上げや撮影を含めた全体の完成度も非常に高く、ここまでのものを内製できてしまうスタジオというのは、いまのアニメ業界ではなかなか見られないように思います。大胆なことを言ってしまえば、シャフト作品のあらゆる第1話の中でも歴代トップクラスのクオリティかもしれません。
あにもに:自分も同感です。正直に告白すれば、ハンバーガー先生もシャフトも少し過小評価していた部分があったかもしれません。完全に良い意味で裏切られたと言いますか、シャフトの紛れもない魂が感じられて嬉しかったです。
mochimiz:『絶望先生』、『ニセコイ』、『3月のライオン』(2016年)、と簡単にいくつか思い浮かべてみるだけでも、シャフトがアニメ化を手掛けてきた漫画作品は大ヒットしているものばかりですからね。そういった巨大IPと比べてしまうと知名度的に劣るのは一面の真実です。しかしながらそこはさすがの久保田光俊社長の慧眼と言いますか、当たり前のことではあるのですが、知名度がすべてでは全然ないわけですよね。社内の環境や業界全体の動向をつねに探りつつ、純粋にいま作れる一番面白いアニメとは何かを見据えた結果がここにあるのでしょう。
あにもに:まさしく、胸を張って面白いと断言できる作品に仕上がっていたことがまず何よりも喜ばしいです。「今期はこれだ!」と。もちろん、元より一ファンとして真剣に作品を追いかけるつもりではありました。それは義務でも使命でもなく、純粋な興味と敬意で、時には不安や期待の入り混じった複雑な感情と共にアニメ鑑賞は始まるものですが、そのような中で、いざ放送が始まってみれば、演出も作画も脚本も、あらゆる面で高い完成度を誇るフィルムにただただ夢中になっている自分がいました。そういう意味では、やはり原作選びの段階からある程度成功を収めているのだと言えます。
ab:それと実は、巨大IPであるかそうでないかにかかわらず、もともと『にんころ』は多くのシャフトファンからの注目を集めていました。というのも、本作は監督の宮本幸裕さんにとって、初めてのテレビシリーズ単独監督作になるためです。これまでのように総監督として新房昭之監督がうえにいる形ではなく、宮本監督が単独でトップに立っています。
あにもに:宮本監督は『五等分の花嫁∽』(2023年)でも単独で監督を務めていらっしゃいましたが、あちらは前後編の2話構成でしたから、1クールまるごとのテレビシリーズを監督されるのは今回が初となります。
ab:宮本監督の実績を簡単に紹介すると、いま「新房シャフト演出」として知られる演出スタイルを体系化したのが、他ならぬ宮本監督です。社内に存在すると言われている「シャフト演出マニュアル」も、もともとは宮本監督が作成されたものなんです。
mochimiz:直近では『月刊ニュータイプ』2025年1月号で吉澤翠監督の口から語られている通り、その演出マニュアルは『まどか』の制作にあたって作られたことも特筆に値します。『まどか』のテレビ放送と同年に発売された『月刊アニメスタイル』第4号でも同様の言及が新房監督からあり、これらの情報を総合すると、マッドハウスからの移籍組を中心としたシャフトでの制作経験が浅いスタッフたちをサポートするための「情報のインフラ整備」が『まどか』にはまず必要で、演出マニュアルはその中間成果物にあたるわけですね。そして実際にそれが奏功して『まどか』が歴史的なヒットを収め、その後も10年以上にわたって有効活用されているということになります。
あにもに:さきほど便宜的に初監督作と紹介しましたが、だから実際には宮本監督は明確にシャフトの中核で強烈な存在感を放ち続けてきた演出家です。他社で言うところの監督のポジションにあたるシリーズディレクターを、シャフトで最も多く手掛けてきたのが宮本監督です。
ab:そういった実情がありながらもどうしても影に隠れがちだったのが、宮本監督のファンとしては長年惜しい思いでした。もちろんここには新房監督という巨大すぎる存在がシャフトのトップにいるという背景があるのですが、ここ数年の脱新房的な流れやオルタナティブを模索する動きも手伝ってか、宮本監督の存在感が濃くなってきたように思います。
mochimiz:「脱新房」というのは、例えば『RWBY 氷雪帝国』(2022年)の鈴木利正監督や、『アサルトリリィ BOUQUET』(2020年)や『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』(2022年)の佐伯昭志監督のラインに顕著ですね。これらの作品において宮本監督が演出を担当した話数は抜きん出て「シャフトっぽい」と評されることが多いのですが、「脱新房」以前ならばもうちょっと全体が均されていた印象です。
あにもに:「総監督」と「監督」の役割の違いも軽く整理しておきたいですね。
mochimiz:制作現場によって多少の違いはあると思うので一概には言えませんが、新房監督が「総監督」を務めていた場合は、企画段階での脚本打ち合わせや絵コンテのチェック、アフレコといった作業に関わる一方で、実際の制作工程における素材管理や処理演出といった部分は、監督やシリーズディレクターにあたるスタッフが担当しているようです。
あにもに:『まどか』の制作で言えば、演出打ち合わせやレイアウトチェックなど、実作業の中心を宮本監督が担っていました。そうした企画監修と処理演出の分担体制が、シャフトの制作フローのある種の伝統になっています。
mochimiz:アニメの制作フローを把握している読者ばかりではないと思うのでもう少し嚙み砕いておくと、これまでは新房監督が持っていた最終的な決定権が、今回は宮本監督に移っている、という事実を添えてもいいでしょう。これは言うまでもなく作品作りに大きな影響を与えます。
あにもに:少し変な例えですが、半大統領制のようなものとして理解してもらうと分かりやすいかもしれません(笑)。大統領と首相がどちらも存在する国で、例えばフランスならば、いまのエマニュエル・マクロン大統領は知られていても、首相の名前はあまり知られていない、という構図と重なるものがあります。
ab:たしかに外交は大統領である新房総監督が担当して、内政は首相の宮本監督が担っているという関係と言えるかもしれませんね。だからこそ、今回は単独でクレジットされた宮本監督に、大いに期待が寄せられていたわけです。
mochimiz:『ネギま!?』(2006年)の頃から実直に積み重ねられてきた長年の実績も大きいと思いますが、直近の仕事ぶりもあってこそでしょうね。先に挙げた「脱新房」の流れにある3作品における担当回も素晴らしいですし、『五等分の花嫁∽』に至っては、原作者である春場ねぎ先生や全国津々浦々の莫大な数のファンたちからの期待を一身に背負いながら、シャフトの誇る若手スターアニメーターである長田寛人さんをオープニングアニメーションの絵コンテ・演出・作画監督に起用するなど、他のスタッフの成長を促してもおり、驚異的な貢献を果たしていました。
ab:『アサルトリリィ ふるーつ』第4話も卓越していましたよね。もはや『ぱにぽに』の域に達しています。
mochimiz:あれは神懸かっていました。配信された当時あまりに衝撃的すぎて、普段あまりスマホゲームをプレーしないのにもかかわらず、『アサルトリリィ Last Bullet』(2021年)だけは毎日何度も起動していた記憶があります。わざわざ高山カツヒコさんを招いて爆発オチで締め括るという徹底ぶりひとつ取っても、『ぱにぽに』のバイブスそのものですね(笑)。
あにもに:誤解を恐れずに言えば、宮本監督は新房監督以上に「新房シャフト」を体現している演出家と評することができます。まさに「新房シャフト」そのもので、現場のスタッフの多くが宮本監督に影響を受けていると言っても過言ではありません。
ab:その宮本監督が、今回『にんころ』で期待以上の作品を届けてくれました。本当に面白くて、笑えて、可愛らしいアニメに仕上がっています。今期のダークホースと呼ぶにふさわしいと思います。
【第1葉「忍者と殺し屋の出会い」】
あにもに:さっそく本編の話題に移りましょう。まずはアバンタイトルについてですが、いきなり忍者アニメの長大な歴史を踏まえた盛大なパロディが展開されるという、誰もが予想しえなかった嬉しいサプライズから始まりました。これは1960年代のアニメネタですね。

ab:白土三平先生原作の『忍風カムイ外伝』(1969年)や『サスケ』(1968年)のアニメのオマージュですね。フォントと配置の工夫が徹底的に凝らされたクレジットが印象的でした。この後すぐにクレジット入りのオープニング映像に入ってスタッフの情報が露骨に重複するのもひとつギャグとして面白いです。画面全体に対する文字の占有率がいかにも1960年代のビジュアルですよね。
mochimiz:このアバンは山村さんがコンテを担当されていて、作画は山村さんと阿部さんがたったふたりで手掛けています。レトロなアニメへのリスペクトを、これほど真正面から、しかも非常に高い完成度で打ち出せるのは、やはり山村さんならではですね。カウントダウンイラストのデザインにまでこのこだわりが滲出しており、一足早くいわゆる「担当パートバレ」が発生していたのも面白かったです(笑)。どこまでも丹念に扱われる素材の、ひとつひとつのにおいや手触りが現前する感覚すらありました。
ab:撮影処理のレベルもとんでもなく高水準ですね。個人的にすごく好きなのが、熊と忍者に追いかけられるさとこを俯瞰のロングショットで捉えるカットにおいて背景描きとセル描きがあまりにも露骨に区別されている崖の表現です。「ここ、絶対に崩れるだろう!」と思わせておいて、全然崩れないという(笑)。その裏切り方がアニメならではのギャグで絶妙でした。
あにもに:最後のカットで一気に現代的で立体的なカメラワークが繰り出される構成もまた面白かったです。そのまま本編に繋がっていく導入として巧みでした。
mochimiz:レトロな画面と最新のアニメの画面をシームレスに接続しようという意図が充分に伝わってくる画面でしたね。なので、abさんが指摘した崖の表現は、お約束的に崩れるだろうと予感させておいていや崩れないんかい、とツッコませておいて実は時代の境界線の役割を果たしている、という二段構えのネタなのだと自分は考えています。
あにもに:とても示唆的な視点だと思います。こうした境界線というのは、映像作品においては画面の質感の加工やアスペクト比の変更といった形式的な約束事で表現されるのが通例であり、このアバンもその文法に則っているわけですが、興味深いのは、そこにさらにメタ的な表現が重ねられている点です。そして、その重層的な構成の果てに置かれているのが、阿部さんのカットで、レトロと現代という時間軸の断絶を、ある種物理的に貫通するかのような強度のある作画です。
mochimiz:アバンの大部分の作画は山村さんが手掛けているようですが、最後のカットに阿部さんを起用しているのはおそらくかなり意図的なものですよね。なにせエフェクト作画や背景動画をふんだんに盛り込んだリッチで重たいカットですから、ここは『ヴァージン・パンク』の梅津泰臣監督をして「シャフトの至宝」と言わしめる阿部さんで行きたい、というプランがもともとあったのだと思います。
ab:初っ端の「令和七年」という渋いナレーションにも思わず笑いました。あの文字は山村さんの手書きなんでしょうか?
mochimiz:いや、どうでしょうね。山村さんの筆文字はインク溜まりや全体のフォルムのまとまりに特徴があって、『ティロフィナーレ本』(2011年)などのいわゆる「スタッフ本」への寄稿イラストで拝見できることが多いのですが、少なくとも『かってに改蔵』(2011年)のオープニングアニメーションほど顕著な個性は出ていないように感じました。もっとも、『改蔵』の筆文字もノンクレジットですので、立ち位置的には有り得る話かとは思います。
あにもに:ちなみにこのナレーションはエンディングでクレジットされていませんが、音響監督の亀山俊樹さんご本人の声とのことです(笑)。さとこ役の三川華月さんが、dアニメストアのWEB先行上映会の同時視聴スペースで話していました。それと、アフレコで最初に収録したのがこのシーンだったそうで、叫ぶだけの台詞だったので、これで正しくキャラクター紹介になるのか……と不安だったというエピソードも語っていました。
mochimiz:しかし実際には、ほとんど叫んでいるだけなのにさとこのキャラクター性がとても端的に伝わってくる素晴らしいアバンですよね。逃げ方ひとつとっても個性的なんです。他の忍者たちはきちんと忍者走りをしているのに、さとこだけ動きが妙にちんちくりんで(笑)。
あにもに:あのぐにゃぐにゃ走りですね(笑)。冒頭からもう彼女のユーモラスな一面が全開で実にさとこらしいなと思いました。これはまず話の構成が見事で、原作では空腹で倒れているさとこにこのはが無情な蹴りを入れるシーンから始まっていますが、アニメではこうした逃走劇をオリジナルで付け足すことによってキャラ紹介に深みを持たせているわけです。また、このアバンでは彼女の忍術も初披露されていました。熊を葉っぱに変えていて……。
ab:いや、厳密には最初は熊じゃないんですよ。追っ手の忍者の身体を掴んで一緒に崖から落ちたとき、すでに忍者を葉っぱに変えてしまっていました。このアバンはだから、さとこの能力の説明も充分に果たしています。
あにもに:よくよく考えてみると、さとこの忍術はとんでもない能力です。マイペースな性格も相まって落ちこぼれのような描かれ方がされていますが、リアルに考えても最強の部類に入るのでは……。
mochimiz:危なくなったら何でも葉っぱに変えてしまえるわけですからね(笑)。逃げにも攻めにも使えます。
あにもに:あと面白いのが、一体何から逃げているのか最初は分からないんですよね。視聴者からしてみれば悪者に追われているんだろうなと推測するのが自然です。ところが実際には、どちらかと言えば抜け忍のさとこの方が悪いことをしている側だったという逆転の構図が後で本編で明かされます。サスペンスの構造です(笑)。
ab:ハンバーガー先生もツイッターで仰っていましたが、最初にチェックしてOKを出した絵コンテが、次の打ち合わせ時にはまったく別物になっていて驚いたそうです。こうなってくると元のバージョンも気になります。
アバンの謎のアニメ、最初の絵コンテ見た時は全然別のものだったけど、それにオッケーしたのに次の打ち合わせの時に突然これになってて「え?なに?」って聞いたら「なんかテンションが上がっちゃって……」って言われて笑った。 #にんころ
— ハンバーガー (@HundredBurger) 2025年4月3日
mochimiz:「全然別のもの」とは言ってもそもそも逃走劇ではなかった、というのはさすがに考えにくいので、見せ方や構成を大胆に変えたのでしょうね。もともとはふつうに16:9の画面で最新のルックで逃走劇をやる予定だったけど筆が乗ってまるごと1960年代パロディを志向することになった、そしてそれに従ってコンテの内容があちこち変わった、という話のように思います。それにしたって凄まじいですが。
ab:このアバンは山村さんのアイデアなんでしょうか。それとも宮本監督の発案なんですかね?
あにもに:このネタが溢れる感じは山村さんな気もしますが、いずれにせよこのアバンが作品の最初に据えられたことで、『にんころ』は取り急ぎここまでの振れ幅は表現として許容してしまえるんだぞ、というアニメ的な宣言になっています。
ab:当初はそれほど注目していなかったアニメファンにも、アバンだけでガツンと衝撃を与えられたのではないかと思います。掴みとして強く、インパクト充分です。このスタイルでまるごとやるような話数があっても全然おかしくないし、絶対楽しいです。
あにもに:何よりもこの自由さに惚れ直します。これだけの幅を持たせることができるというのは、ある意味で原作を、そしてファンを最大限信頼している証でもあると言えます。続いて本編に入りましょう。本編のコンテは、宮本監督とキャラクターデザインを担当されている潮月一也さんによる連名でした。
mochimiz:まず何より、タイトルカードの登場が嬉しかったです。

ab:こちらは『美少年探偵団』(2021年)のエンディングディレクターを勤めた面白法人カヤックの天野清之さんによるものですね。
mochimiz:最近あらためて多くのテレビアニメ作品を見返しているのですが、フォーマットを意識してひとつの話数を作ることの重要性を強く感じます。特に幾原邦彦監督の作品などはその点において群を抜いて素晴らしく、タイトルカードの存在が分かりやすくそれを裏付けています。そしてこのようなフォーマットへのこだわりはシャフトが一貫してとってきた姿勢です。昔の作品だとやはり『ひだまり』が傑出しているでしょうね。近年では佐伯監督のラインでもタイトルカードに対する強い意識が見られ、個人的にもかなり好みのビジュアルです。
ab:他にも『化物語』(2009年)や『Fate/EXTRA Last Encore』(2018年)など、本当にどれを例に取ってもいいですが、シャフト作品におけるタイトルカードの演出はつねに高い完成度を誇っています。その流れが『にんころ』にも引き継がれているのは、とても喜ばしいことです。
あにもに:第1話から変則的な構成を採る作品も昨今は少なくありませんが、その中で『にんころ』は形式を丁寧に組み立ててきましたね。そこには、テレビアニメとしてのフォーマットをめぐる自覚的な意志が感じられます。毎週の放送でタイトルカードを見ること自体が楽しみになるという体験は特別で、こうした形式的な「楽しみ」があること自体、視聴者として幸せです。
mochimiz:そして次に注目すべきは、タイトルカードが挿入された後の、Aパート冒頭の4カットでしょう。最初のカットはこのはの目元を大きく映す美麗な止めの画で、これ単体で強い印象を残します。きちんとした資料を提示できるわけではないのですが、第1話のAパートをこのように始めるアニメ自体がほとんど無い気がします。さらにそこから連続でカメラがポン引きすることで、映像が段階的に展開されていきます。まず最初の引きで、大沼心監督が『夏のあらし!』(2009年)の頃から使い始めた多角形のライティングが現れるのが興味深いですね。

ab:このライティングがまた見られるのは嬉しいです。『バカとテストと召喚獣』(2010年)や『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(2013年)など、SILVER LINK.に席を移した後の大沼心監督作品でも頻出していましたね。
mochimiz:この演出は、まるでスポットライトのようにキャラクターに注意を集中させる効果を持っています。2カット目はだから、今はこのはを見てくれ、と視聴者に訴えかけているわけですが、そこからさらにカメラを大きく引いて教室全体を見せる3カット目で、その訴えはなおのこと切実さを伴ったものへと変貌します。
あにもに:教室内におけるこのはの立ち位置すらも、たちどころに把握できてしまうのがこのカットの素晴らしい点ですね。彼女がクラスの中でやや浮いた存在であることや、座っている席の特殊性が、一目で伝わってきます。
mochimiz:教室の窓際後方の隅は、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)がきわめて自覚的であるように、いわゆる「主人公的」なポジションですよね。ある種のアニメ的なお約束です。そして4カット目ではカメラが窓の方を見据え、落ち着き払った態度で「帰るか……」とだけ呟くこのはを強烈な逆光と共に映し出します。アバンでポンコツさを見せつけていたさとことは何から何まで対照的に、クールでミステリアスなこのはの一面をたったの4カットで説明しているわけです。
あにもに:窓の外の光がまるで出崎統監督作品のように白飛びしていて、それが画面の半分以上を占めているものですから、視覚的なインパクトも絶大です。
ab:一見ポップでカラフルな教室ですが、窓の方を向くと全然違う印象になる、という美術設定の妙もビジュアルに貢献していると思います。
mochimiz:光量を最大限に活かすためか、窓の下部が透過率の高いガラスで埋まっていますね。一般的な学校の教室であれば、窓の下ってふつうは光を一切通さない壁になっているイメージが強いです。今期の近傍シャフト作品のひとつに数えられる『小市民シリーズ』の、先日放送された第11話を参照してみると、やはり壁です。瓜野くんは主人公になりたくてもなれないんですよ……。

あにもに:次に路地裏のシーンへと移っていきます。そこでこのはが、行き倒れている忍者のさとこに突然蹴りを入れるという展開が描かれるわけですが、その行動に明確な理由が無いというのが、何とも言えない味わいです。
ab:このあたりも一見ただのギャグシーンのようでいて、このはというキャラクターの説明になってもいますよね。感情が無いようにも思える一方で、空腹で倒れている人を完全に放置したりはせず定食屋へ連れていきます。
mochimiz:この多戸屋という定食屋、言うまでもなく大戸屋のパロディなわけですがそれはそれとして、外観を示す平面的な背景美術がちょっと面白いです。というのも、なんだかやけにパステルカラーで、あんまりノーマル色に見えないんですよね。どこか〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズンの『撫物語』(2024年)のアイキャッチで描かれた「なでこプール」的な雰囲気すら彷彿とさせるような。しかしながらご飯を食べ終わった後のふたりはこの背景の上をノーマル色で歩いていきます。

あにもに:たしかにここの色使いは特徴的です。また、モブの描写も潔いです。多戸屋の店内にいる客や、街中を行き交う通行人など、まったく描写がなされていません。
ab:そういえば、この多戸屋は西荻窪がモデルみたいですね。ツイッターで場所が特定されているのを見ました。
mochimiz:遠くに山々が見えていたので、都内だとしてももっとずっと西のほうかと思っていました。山梨県が望める場所とか……それはもう青梅あたりになってきちゃうのかもしれませんが。『にんころ』の背景美術は全体的に東京よりもビルが低く、空が広い印象があります。
ab:もしかしたら静岡アニメなのかもしれません。実際に、静岡でロケハンしている可能性はありそうです。
あにもに:場面が再び路地裏に移ると、突如として草隠ふみこという奇抜なファッションの忍が現れます。とても「何かを忍ぶ」存在には見えません。

ab:コスプレ大好き一族は漫画・アニメ的な表現としては正解です。この路地裏はシャフト背景の真骨頂でしょう。真横のレイアウトなど、きわめて代表的です。
mochimiz:特に鉄柵をナメて敵対する二者を水平に配置する構図は『まどか』第5話のさやかと杏子の戦闘シーンを強烈に想起させます。これは近年最大級の近傍シャフト作品にあたる八瀬祐樹監督の『アンデッドアンラック』(2024年)に引用されていたことからも見て取れるように、非常に象徴的な演出です。それからふみこのシーンでは、赤ベタ背景に集中線を組み合わせたカットが登場したのも良かったです。『ニセコイ』で多用された表現ですね。

ab:この集中線は他のシャフト作品でも使われていましたっけ?
あにもに:『荒川』などにはありました。ただ自分の見立てでは、集中線は基本的にシャフトの演出マニュアルにおいて、禁止、あるいは極力使用を控えるように指示されている表現ではないかと考えています。『荒川』や『ニセコイ』のようなコメディ色の強い作品においては意図的に使われている一方で、例えば〈物語〉シリーズには登場しません。
mochimiz:たしかに、ふみこがさとこを問い詰める最中に勢いあまって里の秘密を漏らしてしまうこのシーンはコメディ色が強めですね。至って真剣な面持ちなのがアホの子っぽくて可愛いです。しかしながらこの直後、ふみこはこのはに結構ショッキングな感じで殺されますよね。
あにもに:個人的に強く印象に残ったのは、やはりその死体の描写です。きわめて生々しく、視覚的にも過度な刺激を伴うものでした。ここにひとつ興味深い視点があると思っていて、率直に言えば、この死体のカットはおそらく新房監督であれば入れなかったであろう絵だという感覚が自分にはあるのです。つまり、このカットをあえて入れたあたりに宮本監督ならではの感性が反映されているのではないかと。
ab:たしかに、一般的にはアニメにおいて死体の直接的な描写は避けられがちです。黒塗りにしたり、カメラアングルを工夫したりすることで、ストレートな表現を避ける手法はいくらでも存在する中で、あえて明示的に描いています。この選択には、確固たる意図を感じました。
あにもに:このカットに相当するコマは原作には存在しておらず、やはり死体の描写は控えられています。それをここまで容赦なく描いてみせたのは、宮本監督の判断によるものだと思います。実際、新房監督は上品な演出を志向する方ですから、こうした描写はこれまでも抑制されてきました。
ab:『まどか』における描写からも、それはよく伝わってきます。「残酷」と評されることの多い作品ですが、注意深く観てみると、ここまで露骨な表現はありません。この後すぐに死体を葉っぱに変えて処理してしまう展開には、色変えの演出も含めて強いコントラストが生まれていました。川田さんを登板させて凄まじい背景動画のカットを作り、多くの作画リソースを割いていたのも印象的です。
mochimiz:このように整理していくと、宮本監督なりの倫理観が見えてくるようにも思います。『にんころ』の持ち味であるブラックジョークには非人道的な行為を平気でしてしまう部分も含まれているのだけど、そのすべてをギャグとして処理するのではなく、現実的に考えたら全然笑えないという感覚を、きちんと視聴者に共有しておきたいという意図があるのではないでしょうか。
あにもに:こうした姿勢は、ある意味では『絶望先生』にも通じるものがあるかもしれません。『絶望先生』にもまた、自殺という重たい主題をどのようにギャグとして扱うかという問題意識がありました。死体を安易にコミカルに描かないことで、ギャグでありながらも、同時に非倫理的な行為が行われているという現実を突きつけてくるわけです。
ab:実際、第1話だけですでに3人も殺していますからね(笑)。
あにもに:続いて登場するのが、草隠みちるというアニメのオリジナルキャラクターです。原作には存在しないキャラであるという点が興味深いところです。

ab:みちるのシーンは、長田さんが大半の作画を手掛けています。もはや長田さんを招くために作られたキャラと言っても差し支えありません。
あにもに:登場から戦闘、そして退場に至るまで、ほとんどすべてに長田さんが関与していますからね。
mochimiz:長田さんご自身が演出を担当されているフィルムを除けば、長田さんのパートが約40秒ものあいだ連続しているというのはかなり珍しい事例です。『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(2020年)や『RWBY』での活躍を思わせるような、徹底的に長田さんの作画が堪能できるシーンになっていました。
ab:アクションシーンの大部分を長田さんが手掛けているというのは、とても満足度が高いです。どんな忍術を使うのかと思いきや、殺傷能力の高い鎖鎌を複数操って振り回すというフィジカルに特化したキャラクターで、可愛らしさと凶暴さが共存していました(笑)。
mochimiz:ご本人のツイートを見る限り、鎖鎌のようなものを実際に購入してそれを参考に作画されたようですね。『アサルトリリィ BOUQUET』のオープニング映像の作業時にダンボールで塔の模型を自作されていたのを思い出しました。必要に応じて立体物を手元に用意するその周到さに毎度感服させられます……。
— ひろんど (@hirondo217) 2025年4月12日
あにもに:オリジナルキャラクターの登場自体は、放送前から公式プロモーションでもしっかりと告知されていた要素ではありますが、まさかここまで本格的なアクションが用意されているとは予想していませんでした。ところで、ここは今でこそいわゆる「作画的見所」として耳目を集め、長田さんが日々称賛の嵐を受けているパートですが、放送前から長田さんの担当だということをピンポイントで看破していたオタクは見かけなかった気がします。
mochimiz:煙の固まり方にそれらしさはありましたが、自分もみちるのパート全体が長田さんの担当だとは予想できていませんでした。これはひとえに、長田さんの作画に認められてきた非常に激しい影付けや白黒ショックコマの使用が今回はかなり抑制されていたためです。自分はもちろんあのテカテカ感、ビカビカ感も好きなのですが、『にんころ』の作風に合わせるならばこれが正解なのだと思います。
ab:長田さんは、これまでの作品ではキャラクター表にとらわれない、大胆な見せ場の作画がとても魅力的なアニメーターでしたが、今回はたしかに比較的キャラクター表に忠実な描き方をされていたように感じました。作品ごとにそうした描き方を使い分けられるというのも、やはり確かな実力の表れかなと。
mochimiz:それだけ普遍的なスタイルへと昇華されており、それでいて技術的にこれまでより高い水準に達してもいるということですね。色変えのカットでのSD表現や4つ連なった鎖鎌が宙に構えられるカットでのパースを効かせながらの画ブレなど、難易度の高そうな新しい見せ方にも果敢に挑戦し、見事に成功していました。今回、確実に長田さんの手札は増えたと思います。
あにもに:煙から登場する際の細かい動きにも高い精度が見て取れました。
mochimiz:ああいった精緻な日常芝居は、『五等分の花嫁』(2019年)第1期におけるシャフトグロス回である第11話などでも確認できます。ゲレンデで「金太郎くん」を探してきょろきょろする二乃の系譜を感じました。
ab:みちるが顔を上げる様子を正面から捉えたカットのなびきなどにも長田さんならではのニュアンスがありますね。これはアクションシーンでもよく見ます。SNSで感想を見ていても、この場面の作画には驚いたという声が多く挙がっていました。原作に戦闘らしい戦闘は無いため、今回のようなアクションシーンはアニメならではの見せ場として際立っています。今後またアニメオリジナルキャラクターが登場したら、それは戦闘シーンの予告として機能するのかもしれません。
mochimiz:余談ですが、AnimeJapan 2025の『にんころ』ステージで一部先行公開された映像には未完成のカットがありましたね。みちるに鎖鎌を投げられてさとこがのけぞるところです。
あにもに:AnimeJapanの先行公開版でも充分に完成版だと思っていたのですが……。
mochimiz:自分もそうで、シャフトがかつて繰り出してきたダミーカット満載の未完成映像とは訳が違うので驚きましたね。先行公開版では白ベタの背景に集中線が組み合わされて流線背景のような印象を受けましたが、放送時にはしっかりと描き込まれた背景動画が追加されていました。
ab:みちるが殺された後、このはの誘いに対してさとこが一瞬だけ間を置いてから返答するのも良いですよね。「どう考えてもヤバいけど、断ったら殺されるんじゃないか」という葛藤が充分に伝わってきます。

mochimiz:あの間を止め絵1枚のインサートで表現しているのが素晴らしいですね。表情やフレーミングも絶妙です。
あにもに:戦闘シーンが2回描かれたことも大事で、それぞれのシーンで、さとこは物を葉っぱに変える能力を、このははアサシン的な戦闘能力を披露しています。互いの力を示し合うことで、二人の関係性に説得力が生まれています。
mochimiz:利害の一致が端的に表現されていますよね。殺し屋ランキングで上位を目指したいが現場の後処理を不得手としてきたこのはにとって、さとこの能力はうってつけです。もちろんここにはこのは自身がいつでも葉っぱに変えられてしまうリスクが潜在しているわけですが、他方で抜け忍であるさとこには食い扶持もなくつねに追っ手の危機にさらされていて、こうなると住む家があって殺しのスキルも高いこのはと組めるのはかなり有利です。
あにもに:ところでこのみちるのシークエンスは、このはがさとこに「私と組んで、お仕事しない?」と壁ドンするシーンと「で、返事を聞きたいんだけど」と催促するシーンに挟まれています。つまり物語的にはみちるのシークエンスが一切なくても成立するんですよね。それでもあえて差し挟んでいるのが興味深いです。
ab:ふみこの方は明確な戦闘描写がありませんでしたから、みちるのシークエンスは追っ手の忍者の戦闘能力を補完する意味でも重要な役割を果たしていたのだと思います。
mochimiz:話が逸れますが、ここでアイキャッチについても触れておきたいです。WEB先行上映会の映像は変則的な構成でエンドクレジットが無かったため、〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズンにおける仕事ぶりから、徳留夢奈さんが作画を担当しているのだろうと予想していました。

ab:徳留さんはSDキャラのイメージが強いですからね。〈物語〉シリーズだけでなく、『五等分の花嫁∽』の担当パートでも五月のデフォルメは印象的でした。〈物語〉シリーズで「章テロップ演出」という特殊な役職に就いていたことも予想に関与したのではないでしょうか。
mochimiz:ただ、今回のアイキャッチの絵柄には明確に違和感を覚えてもいました。徳留さんの絵はこんなに肉付きのいい感じではないですよね。これが徳留さんご自身の作風の変化によるものなのか、あるいはまったく別のアニメーターによる仕事なのか、しかしだとしたら他にこのようなSDキャラを描くアニメーターはシャフトにいただろうか……といった調子で断定できない状況が続きました。蓋をあけてみれば、今作のメインアニメーターのひとりである山田詩乃さんがアイキャッチも担当されていたという顛末です。
あにもに:最初に山田さんがメインアニメーターを務めていると知った時には驚かされました。また、今作ではプロップデザインも共同でクレジットされています。山田さんは本当につい最近まで動画および第二原画のセクションをやられていた方ですので、凄まじい躍進です。
ab:エンディングアニメーションは絵コンテ・演出の岩本里奈さんにメインアニメーターの山田さんと許さんのふたりが加わって、たったの3人で原画を担当されていましたが、その中でも山田さんの個性は表れていたように思います。
mochimiz:アイキャッチと見比べると諸々符号するというか、いろいろなことが分かってきますよね。おそらくエンディングのサビのSDキャラはほとんどすべて山田さんが描いたものでしょう。今まで表出していなかったけどこれが山田さんの持ち味だったのか、と非常に感慨深い気持ちになりました。今後のシャフト作品でも重要な立ち位置を担っていかれることと思います。
あにもに:アイキャッチには、今後各話ごとに変化していくのではないかという期待もありますね。議題を本編に戻すと、みちるの死体の後処理が済んだ後、このはとさとこがタイトル通り「ふたりぐらし」を始めることになります。

mochimiz:多戸屋のシーンでもそうでしたけど、このはは本当に美味しそうにご飯を食べますよね。普段はクールな印象のある彼女が、食事のシーンでは一気に可愛らしくなるというギャップも魅力のひとつです。さとこにあげるのはケーキのフィルムに付着したクリームだけ、というところも何とも(笑)。
あにもに:もともと一人で食べる予定だったケーキの量が異常に多いというのも、このはらしいユニークさが出ています。このはも可愛らしいですが、虐げられているはずのさとこも健気で可愛い(笑)。
ab:このはの、ちょっとしたクズキャラっぽい一面が際立っていて、そこがまた面白いです。個人的に嬉しかったのは、食事の描写にかなり力が入っている点です。食事を美味しそうに見せるというのは簡単なようでいて、実際には高度な技術が必要になりますから。
あにもに:たしかに、食事の描写は本作の根幹をなす要素となるでしょうね。第1話に限って言えば、食事を中心に物語が展開しているとすら言えそうです。多戸屋における最初の食事、ふたりで初めて食べる夕ご飯、学校の昼休みのお弁当、そしてラストの中華料理店での外食と、合計4回にもわたって食事のシーンが描かれています。それぞれの食事の持つ意味が異なるのも、また重要です。
ab:もしかすると、食事の回数は『幸腹グラフィティ』を上回っているかもしれません。
あにもに:ひとつの話数で食事をする回数に限って言えばその説はあります(笑)。
ab:シャフトの作品史を体系的に考えると、食事の描写においてやはり『幸腹グラフィティ』の存在は外せません。「メシ作監」や「メシデザイン」を担当された伊藤さんの貢献がまず大きく、加えて色彩設計の渡辺康子さんによる色彩表現も印象的でした。さまざまな試行錯誤の成果が、その後の作品にも確実に受け継がれているのではないかと感じます。
あにもに:その点については自分もまったく同意見です。『幸腹グラフィティ』を経たことで、シャフト作品における食事描写のクオリティは明らかに底上げされました。その延長線上に位置づけられるのが『3月のライオン』だと思います。
mochimiz:『3月のライオン』における食事の描写は完璧でした。例えばそれは、主人公・桐山零の部屋と川本家の対比としても際立っています。零の部屋には、基本的には彼が生きていくうえで必要最低限のもの──将棋盤とベッドくらい──しかありません。他方で川本家は、まず第一に和菓子屋であり、また頻繁に零に手料理を振る舞う場面が描かれます。
あにもに:ベッドだってライバルの二海堂晴信から引っ越し祝いに半ば無理やり贈られてようやくあるものですよね。それに実際、零が一人でとる食事は、インスタントラーメンのような簡素なものが多くて。
mochimiz:スーパーで川本姉妹と偶然出会い、零が菓子パンとカップ麺ばかりを手にしているのを見かねて、あかりが彼を自宅に誘う場面があります。川本家の食卓が彼にとってどれほど大きな意味を持っているのかがよく分かる、非常に丁寧な描写です。食卓を共に囲むという行為が、人間同士の関係性をいかに深めるか。そうした精神が、近年のシャフト作品全体に通底しているように思います。
ab:そのような背景を踏まえると、食事が作品の中心的なモチーフとなるのは、シャフトの表現史において自然な流れであると捉えられます。
あにもに:たまに、「シャフトは実写表現が得意なのだから、『ひだまり』のように食べ物は実写にすれば良いのではないか」といった意見も見かけますが、それはアニメへの理解が浅いと言わざるを得ません。シャフトは演出重視のスタジオであり、場面ごとに最適な手法をつねに模索しています。
mochimiz:先日開催された「【新文芸坐×アニメスタイル vol.187】アバンギャルドアニメーションの傑作 『傷物語 -こよみヴァンプ-』」のトークショーでも尾石達也監督の口から語られていましたが、『月詠 -MOON PHASE-』(2004年)や『ひだまり』などで実写表現を取り入れていたのは、スケジュール上の都合が大きな要因だったようです。厳しいスケジュールで動画を海外に撒くと作画が崩れてしまうことがあり、それがキャラクターであればまだ許容できても、例えば携帯電話のような道具の類がぐにゃぐにゃだと生理的に許せない。であれば、いっそ写真を貼ってしまった方がいい、というロジックですね。
あにもに:つまり、無機物や直線的な造形に対しては、きちんとした硬い線で描写されるべきという意識があったということです。
mochimiz:もちろんこういった美意識は尾石監督の作品を考えるうえでゆめゆめ語り落とすことのできない強烈な個性であり、素晴らしい思想だと思いますが、同じスタジオの作品でも『幸腹グラフィティ』や『3月のライオン』、そして『にんころ』が目指しているものはそれとはまったく異なることを付言しておきたいですね。
ab:実際、『にんころ』ではスマートフォンの画面すら手描きで描かれており、画面内の文字情報まで手描きで表現されています。街中の標識も同様です。ちなみに、多戸屋の看板は明朝体でした。

あにもに:漫画的な描き文字をそのまま画面に取り入れている点も魅力的です。それから、エロマンガについて言及するカットの爛れた描き文字には笑いました。シャフトの中にエロマンガ・マイスターがいるものと見ました。そして、ハンバーガー先生の手書き風の文字を丁寧に再現しているのも非常に面白いです。
mochimiz:そのあたりは『【懺・】絶望先生』(2009年)や『3月のライオン』の表現とも重なる部分がありますね。これらの作品は、例えば「むっちり」などの擬音の描き文字が、画面に現れるのと同時に台詞でもナレーションでもない音声として発せられるのが特徴的です。
あにもに:そういえば、食事に関連してひとつ触れておきたいことがあります。自分はこれを通称「からあげ問題」と呼んでいるのですが、原作では定食屋で注文する料理が「チキン南蛮定食」だったのに対して、アニメでは「チキン南蛮からあげ定食」と、もう一品追加された内容に変更されているんです。
mochimiz:Aパート冒頭でも校内放送で『からあげ片思い』という楽曲が流れていますよね。まったく意味の分からないタイトルですが、何か今後の展開に絡んでくるのでしょうか。
あにもに:このいかにも奇妙な変更は個人的にはとても気になっています。というほど、別に大げさな話ではないのですが、チキン南蛮にからあげが付いてくるというのもやや不思議ですし、しかもそのからあげをさとこにシェアせずに一人で食べるこのはの姿もまた彼女らしいなと。「次は私も、からあげが食べてみたいです!」と述べるさとこに対し、「は? 次?」と冷たく返すこのはのリアクションも良いんです。この変更は、ハンバーガー先生のアイデアですかね?
ab:もしかしたらそうかもしれません。今回は、シリーズ構成として東富耶子(シャフトの共同名義)、脚本にシャフトの文芸を長年担当されてきた西部真帆さん、さらに脚本協力としてハンバーガー先生がクレジットされていました。それぞれがどういった役割分担をされていたのか、気になるところです。
あにもに:Bパートが後半に差し掛かって、学校でお弁当を食べるシーンあたりから、カット割りのテンポが急激に早くなっていきます。手裏剣やカチューシャなどを記号的に描いたカットも黒コマのように挿入されています。
mochimiz:この場面におけるキャラクターの極端な記号化はどこか『ひだまり』を想起させるような演出です。メガネだけを描いた色コマはもともと沙英を示すものだったはずですが、まるでこのはを示すものに上書きされてしまったような印象すら……(笑)。

ab:メガネの形が微妙に異なっていましたので、ギリギリセーフといったところで!
mochimiz:このあたりのカットの積み方の速さには、宮本監督らしさがはっきりと表れていると感じました。ここまでのスピード感は『アサルトリリィ ふるーつ』以来と言って差し支えないかと思います。『五等分の花嫁∽』にもコメディ要素は結構ありますが、ある程度抑制されていましたからね。
あにもに:直近の作品でいえば、『忍物語』(2024年)第3話では、まさに宮本監督らしい間を詰めたカット割りが存分に堪能できました。止め絵を小気味良く繋いでいくあの手法は、宮本演出の真骨頂と言えます。

ab:このはが食人族について嘘の説明をする、あの怒涛の長台詞のシーンについては、三川さんと花澤香菜さんのアフレコアフタートークでも語られていました。尺に収まるかどうか不安もあったようですが、息継ぎのタイミング等を細かく調整することで、うまくはまったとのことでした。
あにもに:なんだか『絶望先生』での斎藤千和さんの領域に達しているような……。
mochimiz:『【懺・】絶望先生』のアバンですね。あれもノリノリで真っ赤な嘘を喋り倒しています(笑)。
あにもに:聞き取れないほどの超高速台詞でありながら、画面上に表示されるテロップを読んでも、その情報がまったく頭に入ってこないという(笑)。
mochimiz:背景の実写演出は、『撫物語』でひたぎに恐れをなして逃げ惑う撫子と『かまいたちの夜』(1994年)の融合っぽい感じがしますね。ネタ満載です。
ab:直前におどろおどろしい食人族の話をしておきながら、次のカットではSDキャラによる可愛らしい絵面に切り替わるというギャップも効果的でした。
あにもに:そしてすぐに吉田さんの父親を殺すという、このノリがいかにもハンバーガー先生らしいというか。
ab:友人の父親をこのはが平然と殺し、そしてさとこもさとこで平然と葉っぱに変えてしまう、という二段構えです。どちらの倫理観もぶっ飛んでいるのに、不思議とバランスが取れてしまっています……。
mochimiz:その後の中華料理屋での食事の場面もスピーディーですよね。食事が提供されてから、手裏剣の色コマを挟んでわずか一秒で完食、という潔いスキップ演出です。
ab:ご飯を美味しそうに食べる様子はこれまでのシーンで描ききっているので、ここではテンポを優先しているのだと思います。素早いカットの切り替えと共に効果音が鳴るのもまた特徴的です。

mochimiz:そして、そのまま日が暮れて一日が終わっていき、エンディングに至るという流れが掛け値無しに美しいです。
あにもに:きちんと夜の場面で締め括られることによって、物語全体が整った印象を受けました。殺して、食べて、それで終わるという明瞭な構成です。こうした日常のリズムのような構成が、明確にフォーマット化されているように思います。
ab:『ひだまり』のエピソードが毎回ゆのの入浴シーンで締め括られていたように、「一日の終わり」を象徴的に描いていますね。今後、この流れがどこまで徹底されるのかはまだ分かりませんが、ひとつのルーティンとして意識されている可能性は高そうです。

mochimiz:Cパート後に「現在の殺し屋ランキング」が提示される演出も秀逸です。これも作品全体の完成度の高さを底上げするフォーマットへの意識の高さの表れと言えるでしょうね。『電波女と青春男』(2011年)における「現在の青春ポイント合計」のように、作品世界に奥行きを与えてくれる表現だと思います。
あにもに:順位の下に描かれている絵もまた素朴で素敵です(笑)。原作の表紙ネタでもあります。
ab:Cパートも面白かったです。まず、『ひだまり』を思わせる定番レイアウトが描かれているのですが、本編ではベッド側からカメラを配置して撮っていたのに対して、Cパートではその逆、つまり壁をぶち抜いたような位置にカメラが置かれているのです。前景にテレビや収納棚があってもお構いなしで、透けさせてしまえば良いというこの発想は素敵です。

あにもに:このCパートには、急に『絶望先生』の緩めの回に切り替わったような質感があって感心しました。クローゼットの中には『キルミーベイベー』(2008年)のパロディなども紛れ込んでいましたね。『にんころ』自体が、リアリティレベルを少し上げた『キルミー』という捉え方も、できなくはないかもしれません(笑)。
mochimiz:さとこがこのはの部屋のクローゼットをあけるとスローモーションで中身が溢れ出し、次のカットでは何事もなかったかのように振る舞われる、というシーンが、たったの4カットながらも強く印象に残りました。
あにもに:このはの作画が妙に艶っぽく描かれていたことにも注目したくて、アニメでは原作と比べて全体的に明らかに胸が大きくなっています。中華料理屋に向かう前、食べログのようなサイトで飲食店の評価をチェックするシーンでは、さとこがこのはの胸に顔を置いてスマートフォンを覗き込むという描写すらもありました。

ab:殺し屋ランキングの運営が提供する「サービス」についてこのはが説明するシーンもコミカルで面白かったです。マイナンバーカードが登場するのは、いかにも令和7年という現代的な設定です。
mochimiz:絆創膏+色変えは『ニセコイ:』(2015年)第12話を思い出しますね。お弁当を真俯瞰で描く構図も『ひだまり』などでよく見られた表現です。
ab:それからアバンは4:3、A・Bパートは16:9、Cパートはシネスコ、というぐあいに多様なアスペクト比を使い分けていく姿勢もまさしくシャフトのスタイルでしたね。
あにもに:次回予告はゆっくり茶番劇風でした。原稿はハンバーガー先生によるもので、思い返してみればPVの原稿もハンバーガー先生が担当されていましたね。

mochimiz:『ささみさん@がんばらない』(2013年)のようなパターンを踏襲していますね。『ささみさん』は本編の脚本作業で忙しかった高山さんに代わって原作者の日日日先生がエンディングの会話劇の原稿を担当していたという裏話がアニメーションファンブックで語られています。
ab:このように原作者が前面に出て、シナリオ作業にまで深く関与しているのは久々のケースかもしれません。西尾維新先生などもキャラクターコメンタリーは多数執筆されていますが、裏方気質ですよね。
あにもに:ある意味で、ハンバーガー先生ご自身がキャラクターとして機能しているのが大きいです。古くを遡れば『ひだまり』の蒼樹うめ先生や『まりあ†ほりっく』の遠藤海成先生が似たケースとして有名です。路地裏のシーンなど、さまざまな場面に黒板ネタのようにハンバーガーが登場していました。
mochimiz:声優陣についても触れておきたいのですが、さとこ役の三川華月さんは個人的にいまかなり注目しています。『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(2018年)の鈴木羽那という最近登場したキャラクターも演じており、そちらでも人気を博している方ですね。純粋なキャラクターを演じるのが本当に上手で、澄みきった声質が魅力的です。今期は『mono』でも主人公の子を演じていますね。
あにもに:このは役の花澤香菜さんも素晴らしかったです。こういった役柄を演じることはそれほど多くはありませんが、このダウナーで落ち着いた雰囲気の演技がたまりませんでした。もともと人気のある声優ですが、今ではすっかりシャフト作品の常連という印象があります。
mochimiz:花澤さんは、神谷浩史さんと並んでシャフトを代表する声優のひとりだと考えています。スタジオにとっても、作品にとっても、良き理解者と言える存在です。今回は主題歌の歌唱も担当されていますね。
ab:『やれんの?エンドレス』ですね。『五等分の花嫁∽』や『撫物語』でもオープニング主題歌の歌唱を担当されていたので、3年連続になります。
【OP・ED・スタッフについて】
あにもに:それではオープニングについても話しましょう。
ab:絵コンテ・演出を佐伯さんが担当されていました。そして、演出助手として徳留さんのお名前がクレジットされていたのは、ちょっとしたサプライズでした。
あにもに:徳留さんはシャフトの若手アニメーターですが、今回が初演出ということになります。どのように携わられたのか気になるところですが、おそらくは佐伯さんと一緒に試行錯誤を重ねながら、映像を作り上げていったのではないかと思います。
ab:原作のネタが相当豊富に盛り込まれていますね。
あにもに:シーン単位での引用も多かったです。このはがさとこを蹴るシーンをあえて入れてくるという判断ひとつ取っても、とてもユニークです。
mochimiz:サビの部分でメカ作画を活かすあたりに佐伯さんらしさを感じました。原画に砂田茂樹さんのお名前があったのもガイナックスの遺伝子を感じられて嬉しかったです。
あにもに:花澤さんによるオープニング曲『やれんの?エンドレス』はいかがでしたか?
mochimiz:素晴らしかったです。作編曲はTAKU INOUEさんで、『アイドルマスター』(2005年)シリーズの最重要コンポーザーのひとりなので代表曲は無限にありますが……最近ならばやはり星街すいせいさんの『Stellar Stellar』(2021年)ですかね。ともかくオタク音楽を考えるうえで絶対に語り落とすことのできない存在です。
ab:自分が驚いたのは、低音の効かせ方でした。ポップな印象と重厚な低音がここまでのレベルで同居しているのは興味深いです。
mochimiz:TAKU INOUEさんの編曲の特徴のひとつに生音のドラムと打ち込みのドラムの有機的な混在が挙げられると思いますが、『やれんの?エンドレス』は生音と打ち込みの切り替えが非常にラディカルで新機軸な感じがしました。Bメロ後半であれだけ派手にスネアを鳴らしておいてサビに入った瞬間全部抜くので、かなりの浮遊感が生まれます。これと呼応するようにオープニング映像で夜の街の空を飛んでいる様子が描かれるのが気持ち良いです。
あにもに:シャフトとのお仕事は今回が初めてですかね。言われてみれば浮遊感という意味では、このオープニングはよく見るとキャラクターたちが飛んでいるカットも多いです。
ab:Aメロ冒頭でさとこがいかにも忍者っぽく空を飛んでいるのも印象的です。サビ後半では実にさまざまなキャラクターが登場しますが、この子たちもみんな死んでしまうんですかね……(笑)。
あにもに:色使いもまた独特でしたね。イントロの色ベタから始まって、至るところに工夫が見られます。
mochimiz:このはがさとこを蹴る場面では模範的な色変え演出もありました。食事のシーンで締め括るという構成も良く、全体的にベテランらしく堅実で質の高い映像だったと思います。
あにもに:エンディングについてはいかがでしょうか。
ab:エンディングの絵コンテ・演出・作画監督は岩本里奈さんでした。岩本さんといえば、『ニセコイ:』第4話の特殊エンディングや、『マギアレコード』2nd SEASONのエンディングなどを手掛けてこられた方です。
mochimiz:実に個性溢れる可愛らしい映像でした。カラースクリプトには近年のシャフト作品で多くの動画を担当されていたDaniela Padilla Barqueroさんが招かれており、こういった、きっちり良い仕事をする人であれば役職や知名度などは関係なしに呼んでみる、という思い切りも素晴らしいですね。
あにもに:個人的にも相当好みです。楽曲のタイトルに「ダンス」とあったので、漠然と踊るのかなというくらいのイメージだったのですが、これほど可愛くまとまるとは……。何回見ても面白い映像です。
mochimiz:ポップな雰囲気は『ニセコイ:』第4話のエンディングに通ずるものがありますね。『マギアレコード』2nd SEASONのときはこんなにシリアスで美しいエンディングも作れるのか、と驚いたものでしたが、さらに腕を上げてポップな路線に回帰した感じがあります。
あにもに:増殖しているイヅツミマリンも可愛いし、抱きつかれて虚無の表情をしている姿も可愛いです。全体を通して満足度が高いです。岩本さんの作品の中でも、個人的には一番好きかもしれません。お二人はいかがですか?
mochimiz:一番、というと自分は『ニセコイ:』第4話の特殊エンディングもかなり高く評価している、というか『ニセコイ』自体が好きすぎるので即断は難しいですが、少なくとも比肩するくらいには良かったです。岩本さんはもう随分長いことシャフト作品に貢献してくださっていますが、これまではやや裏方寄りのポジションだったので、ついに固有の色が見えたことをとても嬉しく思います。
ab:ものすごく可愛らしいフィルムに仕上がっていると感じました。山田さんや許さん、そしてDanielaさんといった若手を大抜擢した手腕を高く評価したいですね。それと制作進行が脚本の西部さんというのも、ちょっと不思議なクレジットです。エンディングに関しては完全な社内制作を実現しているようです。
あにもに:本編も作画監督、原画、動画まですべて社内で完結しているという驚異のクレジットでシャフトオタク界隈が揺れました。
ab:もちろん、その他のセクションではフリーランスの方々や協力会社の力も加わっているとはいえ、これほどまでの完成度を社内中心で実現したというのは本当にすごいことだと思います。ここまで如実に「内製」であることが伝わってくるクレジットは初めて見ました。
mochimiz:いま、このクオリティの作品をほぼ社内スタッフだけで仕上げられるスタジオは、ほとんど存在しないのが現実です。現在のアニメ業界では、どうしても外部人材を広く集めて人海戦術で作るのが一般的ですから……。
ab:今回のクレジットで特に注目すべきなのは、アニメーション協力として、シャフトの新設スタジオである静岡スタジオAOIがしっかり明記されていた点でしょう。この一点だけでも大きな意義があります。
あにもに:われわれはアニメ化発表当初、まだスタッフ情報が未公開だった段階で、キービジュアルのキャラクターデザインが潮月さんの絵柄ではないかと考え、そこからバババッと推論がいろいろと飛んで、結論としては、今後、静岡県が重要になるだろう……と予想していたのですが、それが見事に的中した形です。
ab:昨年10月頃に、静岡市文化・クリエイティブ産業振興センターで開催された「ミライイノベーションデザイン展」で、AOIの紹介展示がありましたよね。その中に、放送前にもかかわらず未公開の『にんころ』の設定資料が置かれていました。ただ、あの時点では、ここまでAOIが主体になるとは思っていませんでした。
mochimiz:今年1月には、さとこがAOIに潜入するという主旨の貴重な動画が公開されました。ここでは例えば潮月さんによる原画作監修正作業などをがっつりと見ることができます。潮月さんは『にんころ』においてキャラクターデザイン・総作画監督を務めているだけでなく第1話のコンテも宮本監督と共同で手掛けており、「新房チルドレン」であることを自認しているので、作品のシャフトらしさに大きく貢献しています。このようなポジションの方がAOIに常駐しているという事実は大きいと思います。
ab:シャフトがここ数年、若手の育成に注力しているという話は耳にしていましたが、それがこうして実際の成果として現れたことには大きな喜びがあります。ベテランの方々の名前が先にあり、AOI出身の若手の方々が最後にクレジットされているという順番も意義深いです。
あにもに:若手を中心に、ベテランがしっかりと脇を固める体制が見て取れますよね。とはいえ、『ヴァージン・パンク』のメインアニメーターとして多忙なはずの阿部さんが、今回アバンの原画で登場した時点で、もう本当に驚きましたが(笑)。
mochimiz:今後はこの方たちがシャフトの新たな中核を担っていくのだろう、という希望を抱くに足るクレジットでした。われわれのようにスタジオ単位で追っている身としてはこれ以上の喜びはないです。
ab:プロップデザインにも触れておくと、山田さんと後藤早紀さんが担当されていました。後藤さんはAOIの第一期生にあたる方です。総括して、『にんころ』でこのようなクレジットを目にできたことは本当に嬉しいサプライズでした。非常に好調な滑り出しかと思います。
【今後の期待】
あにもに: 今後、皆さんが注目しているポイントはありますか?
mochimiz:まず気になるのは、今後どなたが演出として参加されるのかという点です。個人的には、吉澤翠さんや藤田星平さんあたりが登板してくるのではないかと予想しています。あるいは徳留さんの本格的な演出デビューもあるかもしれません。
ab:徳留さんは個人的にもすごく推しているのでぜひ来てほしいです。
あにもに:また、今後もさらなるアニメオリジナルのキャラクターが登場してくる気配があります。どんなキャラが登場するのか楽しみですし、忍術もユニークですし、どの声優さんが演じるのかも気になります。
ab:すでに豪華なキャストが揃っているだけに、オリジナルキャラにも相応のキャスティングが期待されますね。制作側の本気度がうかがえる部分なので、大きな見どころになると思います。
あにもに:それから、今後さまざまなパロディ要素も出てきそうです。シャフトらしい遊び心に溢れた第1話でしたので、他の忍者アニメのパロディなんかも登場するかもしれません。
mochimiz:この調子だと、『幸腹グラフィティ』第5話のように、作画で描かれる強い陽射しが突然登場したりするシャフトギャグすらもありえそうです。それと「蹴るだけ蹴って去っていくんですか!?」というさとこの台詞を受けてこのはが振り向くカットがありますが、ここからは「よつぎターン」の予備動作によく似た気配を強烈に感じました。
あにもに:分かります。あの場面、やけに意味ありげにスローモーションになりますよね。
ab: 脚本面でもネタの幅が広がっていきそうです。いまのところ、かなり自由度の高い構成に見えますし、どこかで本格的なアニメオリジナル展開が挿入される可能性もあると見ています。
あにもに:そしてまさにいま、この記事の編集中に、なんと第2話の絵コンテを八瀬さんが担当されるという事実が明かされました……。これにはさすがにシャフトオタク全員がひっくり返っていることと思います。演出は藤田さんが手掛けられるとのことで、放送前の予想を遥かに上回る新房シャフト波動が期待されています。
mochimiz:先に挙げた『アンデッドアンラック』もそうですが、八瀬さんは『炎炎ノ消防隊』(2019年)の監督としてdavid productionに移ってからも新房シャフト演出を誰よりも志向し続けている凄まじい演出家です! そしてdavidにいながらも『マギアレコード』や『RWBY』の重要な回でコンテを切るなど、近年謎めいた動きを見せ続けていたわけですが、まさか『にんころ』の第2話に来てしまうとは……。正直に言ってまったく心の準備ができていないのですが、とにかく楽しみです。
あにもに:第2話の放送は今日です。今後も期待が止まりません。本日はありがとうございました!
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— TVアニメ『忍者と殺し屋のふたりぐらし』公式 (@ninkoro_anime) 2025年4月13日
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