後編です。
事件の関係者や事件の概要について書いた前編は、
こちらからどうぞ。
後編では、事件の捜査と裁判について掘り下げています。
後にも先にも、殺人事件の裁判でここまでの最強弁護士が揃ったことはないでしょう。
殺人事件でこれだけの証拠が揃っていたら、弁護側は、裁判でまず”減刑”を目指すのが普通だと思う。でも、OJの最強弁護団の目標は”無罪”に持ち込むことだった。
これがこの裁判の大きな特徴だと思う。彼らの目的は、最初から無罪一択。
OJにはそれだけ自信があったのだろうか。それだけ弁護士達を信用していたのだろうか。
それとも、本当に無罪だったから、、、??
人種差別、警察の失態、証拠の信憑性、、、
この裁判ではいろんなことが議論されたけど、その結果からして明確となった事実は、全米トップの弁護士を集めるお金さえあれば、殺人からも逃げ切れると言うことだったと思う。
Rich people always win...
主な重要人物たち
マーク・ファーマン刑事
初動捜査に関わった殺人課の刑事の一人。
事件当日は非番だったが、応援として駆り出された。過去の人種差別的言動から、裁判では一番のキーパーソンとなる。
カール・ダグラス弁護士
裁判の主任弁護士コクランの右腕。
インタビューでは、裁判についてとにかくドラマティックに語っており、とにかく話が上手かった。インパクトも説得力も大。
マイク・ギルバート
OJの元マネージャーで、シンプソン夫婦とは家族ぐるみの友人だった。
事件の裏側で起きたOJとのやりとりや、夫婦の関係性についても語っている。
証拠と動機

警察(LAPD)は、OJの犯行を裏付ける物的証拠や目撃情報を十分過ぎるほど集めていた。
殺人現場では、犯人のものと思われる帽子や手袋が見つかっており、犯人のものと思われる足跡はOJの靴と同じサイズだったし、OJの車、自宅周辺、寝室では血痕や、ニコールのDNAも見つかっていた。
インタビューで、殺人科の刑事だったトム・レンジも言ってたけど、これだけ物的証拠が揃っていたから、早い段階で、OJが犯人だと確信していた。
当時、DNAはまだ新しい技術で、指紋等と比べたらまだ世間に知られていない手法でもあったため、陪審員やメディアもどれだけ重要な証拠かを理解していなかった可能性もあったらしい。
OJには、事件の前から家庭内暴力の告発があった。
ニコールは証拠として写真も残していたし、友人や姉妹に相談もしていた。そのOJとの共通の友人は元LAPDで、ニコールの姉妹とそのことを証言している。
ニコールが警察を呼ぶ事態になることがすでに何度かあり、殺人事件に駆けつけた最初の刑事の一人、マーク・ファーマン刑事は、事件以前、ニコールの家庭内暴力の通報を受けて現場に駆けつけたことがあった。
その記録から、OJの動機であると主張された。
殺人の証拠も、動機も、全てOJを指しているように見えたし、他に容疑者もいなかったことから、LAPDはOJを任意聴取し、DNAの採取も行う。
OJの素直な協力やDNA情報の提供は、彼の無罪を示しているのか、それとも協力的な元夫を演じていたのか。
これが普通の事件なら、多分ここまでの証拠・動機があれば犯人を有罪にするのは簡単だったはず。
しかし、彼らは運が悪かった。
事件の容疑者の弁護士全員が、全米ナンバーワンと言われるドリームチームだったのだから。
弁護団の戦略

人種差別主義者として叩かれまくったマーク・ファーマンは、実は事件の前に、OJの家庭内暴力でナタリーが警察に通報した際、彼女の家に向かい会話もした刑事だった。
だとしても、この事件がセレブが関わっていて、裁判では全米トップの弁護士達に自分たちの仕事を細かく分析されるとは思わなかっただろうし。
そうして生まれた、レイシスト刑事による「LAPDの証拠植え付け疑惑」。
弁護団は、ひたすらOJの”じゃない可能性”を主張しまくり、陪審員の心に”不確実性”を植え付けることができればそれで十分だとわかっていた。
捜査をしたLAPDの鑑識、刑事は、これだけのハイプロファイルな事件に対して証拠の管理が曖昧すぎたのではないかと思う。
鑑識担当だったデニス・ファンを含め、刑事達の証拠管理は明らかに適当だった。
容疑者の弁護団が”殺人を無罪にすること”を目的として集められた一流チームでなければ、これだけの物的証拠に疑いをかけられることはなかったはずだけども。。。
実際に起きていようがいまいが、存在していようがなかろうが、裁判で陪審員達に提示されない限り、無かったも同然になる。それが裁判の怖いところだと思う。
LAPDが殺人のDNA証拠を収集していた場合、それを逆手にとって、
今やDNAは動かぬ証拠として使われるけど、当時はまだ新しい手法だった。
エンタメ裁判

この事件が特殊なのは、全てTV中継されたことだと思う。
裁判のテレビ中継を許可したのは、日系のイトー裁判官。そもそもこの決断が一番の間違いだったと思う。これで世論は、法廷でのパフォーマンスに長けたセレブ弁護団の思う壺に。
ジョニー・デップ&アンバー・ハートじゃないんだからさ。(この事件も特殊だけど)
ドキュメンタリーにアジア人は出てこなかったから誰も言わなかったけど、彼が判事に選ばれた理由は黒人でも白人でも無かったから。
メディアでの注目度の高さから、関係者が証言したがらなかったり、裁判で証言を予定されていた目撃者も、マスコミの介入によって不採用になったり。
弁護団によって事件は人種問題にされていたから、OJに不利な証言をしたら黒人に対する差別主義者だと言われかねない状況になってたわけ。
被害者に同情する人は多くいても、検察側の証人になって良いことなんて何もなかった。
結果、被害者の苦しみを代弁する人が少なかったこともあって、誰に殺されたかではなく、”OJが有罪か無罪か”それにばかり注目された裁判だったと思う。
ドキュメンタリー上でも、OJと被害者の(元妻)友人としての有力な証言(OJの居候ケイトーは、キャラクターとしては目立ってたけど、決定的な証言はしていない。)は一人だけだったし、案の定、弁護側にボコボコにされてた。
彼は黒人だったけど、この証言以来口を聞いてくれなくなった黒人の友人もいたそう。この人は元LAPDで、この裁判で一番、被害者と正義のために犠牲を払った人だと思う。
早過ぎる評決

さらに、その注目度から、この事件を知らない陪審員なんて見つからなくて当然だし、陪審員は裁判期間中ホテルで完全隔離されていたそう。(裁判期間は約9ヶ月)
匿名だと言っても、長い間家を離れて仕事を休まなきゃいけないし、少なくとも家族は、自分が陪審員をしていることを知っていたはず。
この事件の陪審員をしていること自体へのストレスとプレッシャーは半端なかったはず。
陪審員は、人種問題が繊細になっていた当時のLAで、国一番の黒人セレブが容疑者の事件での判断にはより慎重になったはずだし、だからこそ、弁護団が必死でアピールした”じゃない可能性”は無視できなかったはず。
結果、彼らはOJを有罪とは言い切れなくなってしまった。
ドキュメンタリーでは、マーシャ・クラーク検事は何度も優秀だと言われてるけど、裁判中の決断や陪審員の選び方を見ていても、彼女の戦略が賢いとは言い難かった。
この事件は、弁護士が優秀ならどんな犯罪からも逃げられるということを証明してしまった。
ただ、弁護団の報酬は計5億円以上と言われていて、この裁判のあとOJは一文無しになりましたとさ。
前に何かのレビューで言ったかもしれないけど、"Missing White Woman Syndrome(白人女性行方不明症候群)"という言葉がありまして。
今回はMIssingでは無いにしても、被害者が白人女性(特に美女)の場合、世間の注目が他のどんな被害者にも増して、報道も加熱するという現象があるのです。実際に。
ドキュメンタリーでも言ってたけど、もしこの事件の被害者がOJの最初の妻(黒人)だったら、ここまで注目もされなければ、議論にもならなかっただろうって。
さらに、クリストファー・ダーデン検事は、今現在の方が、事件当時よりも政治・人種間の溝は大きいって言い切っていた。だとしたら恐ろしいよ。
後日談として
インタビューでとっても饒舌だったのが印象的な、元弁護団のダグラス弁護士は、”正義とは、その人の立場によって変わる”と言っている。それはごもっともだと思う。
OJの無罪判決は、(超セレブとはいえど)黒人容疑者に無罪が言い渡された超レアな判決だったわけで、どんな事件でも大抵は無視され不利に扱われてきた黒人の主張が、かなり稀に聞き入れられて、しかも勝利した裁判でもあった(超セレブとはいえど)。
これは、今作の監督がインタビューでも言ってたことで、どれだけブラックコミュニティが不当な扱いに日々憤っていたかがわかる。と同時に、全米トップの弁護士を集めるお金さえあれば、殺人からも逃げ切れると言うことにもなる。
さらにダグラス弁護士は”自分はOJの無罪を心から信じているし、裁判で正しい判決が下されたことで、毎日心安らかに眠れる”って言ってた。
ただ、「OJがやってないなら誰がやったの?」っていう当然の質問は、インタビューで誰もしなかったと思う。
決定的だったのは、多分、OJの友人で元マネージャーのマイク・ギルバートの発言。
何もかも終わってから真相を聞いた時、OJが「あの時ニコールがナイフを持って出てこなければ、彼女はまだ生きたいただろう。」答えたって話。これは自白じゃないの?
このマネージャー胡散臭いとは思ったけど、インタビューでここまで決定的なことを言ったのは彼ぐらいだったから、これは本当のことかもしれない。
「OJは、裁判では”無罪(Not guilty)”になったけど、彼が殺人犯じゃないとは誰も言ってない。」。
このドキュメンタリーは、多くの人の疑いを確信に変える作品だったと思う。
どれだけ多くの証拠が集まっていても、裁判で採用されなかった有力な目撃情報があったとしても、元マネージャーの衝撃の告白があってもなくても、、、
法の元では、O・J・シンプソンは無罪である。
余談
このブログで、犯罪ドキュメンタリーや実際に起きた事件の記事を書いていると、ごく稀ではありますが、コメントをいただくことがあります。(コメント、とってもうれしいです!)
それを見て、私みたいに、犯罪ドキュメンタリーや記事をよく見ている人が、結構いるんだて、私のように深掘りしている方も多いな、と思います。
だって、すごく気になりますよね!
いろんな記事とかYouTubeとか見ちゃいますよね!!
記事とか漁っちゃいますよね!!!
そんな犯罪オタク(失礼)じゃなくたって、O・J・シンプソンの事件は、聞いたことがある人が多いんじゃないでしょうか(なんとなくでも)。
もうずいぶん前に終わった裁判だけど、今でも、OJが手袋をはめて見せる写真は有名だし「手袋が入らなければ無罪」なんて言うフレーズもなぜか知ってた。
これはよくあることだけれど、被害者が誰かよりも、”O・J・シンプソンの事件”として知られているのは言うまでもないでしょう。
私が初めてこの事件を知ったのは、多分テレビ番組「奇跡体験アンビリーバボー」だったと思います。笑
この番組、小さい時から大好きで、多分この頃から、私の犯罪事件への興味が深まっていったんじゃないかな。(マデリーンちゃん誘拐事件とかもアンビリーバボーで観た記憶あり笑)
これ、私だけじゃないはず!!