2024年5月19日(日)14:00公演
新国立劇場オペラパレス
椿姫

お世話になっております。
三島でございます。
この日は中村ヴィオレッタにおかえりなさいを言う気持ちで新国立劇場に行って参りました。
「エフゲニー・オネーギン」ぶりの新国立劇場です。ワーグナー先生はお見送りしたので久しぶりにオペラパレスへ入りました。久しぶりに来ると新国立劇場のチープさに驚きます。我が国が誇るオペラ劇場なのですが最高に安っぽいです。
中村恵理さんは2022年に代役として同演目、同演出に出演。約2年後の2024年5月に本役として帰ってきました。すごい挑戦だと思います。2022年は代役いうフィルターがあったからこそ評価された部分が少なからずあったと思います。誰かに評価されるために舞台にいるわけではないですが、2022年の公演を見た人は前回以上のものを求めてくる。比較されるのは過去の自分。こんなにしんどいことはない。大きな劇場で大きな役のオファーを断ることはキャリア形成のためにはあり得ないと思いますが、よく戻ってきたなと思います。まずその決意を讃えます。
それでは感想言ってみよー。
前回と書いてある部分は2022年公演の話をしています。
(以下敬称略)
オペラを見ている感
久しぶりにオペラの中身に集中できました。全員の技術面が完璧であったわけではありませんが聞き流せるくらいのレベルでした。あれ?なんで?と頭の中が止まってしまうことがなかったです。私が勝手に止まっているだけなんですけど。そういうことがないのはありがたいです。
オペラって音楽が第一でジャンルもお芝居ではなくて音楽なのですが私はお芝居として見ることを望んでいます。それはつまり面での品質を保証してくれることを要求しています。
お芝居として1番面白かったのが、2幕1場のヴィオレッタとジェルモンの会話の場面。ヴィオレッタが「私は死にます!」と宣言する部分。”Morrò!”と歌ったときにジェルモンが鼻で笑いました。小馬鹿にしたような笑い方です。驚いた。怖っと思ってしまった。
ジェルモンの本性です。あなたの苦しみはよくわかるよ、私の願いを聞き入れてくれてありがとうと優しいこと言ってますが絶対本心じゃないじゃん。多くの人が理解していることだと思いますが露骨に表面に出されると衝撃が大きい。内心は死ぬほど馬鹿にしてたんだな。まじ嫌なやつ。「死ぬ!」って言ったのを笑うんだよ。怖過ぎでしょ。カスティーリョが演じるジェルモンって裏社会の人っぽいなあと思ってみていたらこの場面で追い裏社会がきた。
最後に部屋から出る部分も話の決着はついたからさっさとこの女から離れたいような感じが出ている。全くもって紳士じゃない。ヴィオレッタのことをよく思っていないのがわかりやすい。
中村ヴィオレッタは前回よりも女の子ぽさがありました。前回はアルフレードに対してお姉さんのような振る舞いをしていて一生懸命面倒をみているようにみえましたが、今回の関係性は対等に近いかと思います。無理していない感じが良い。
前回は落ち着いて自分が歩かなければいけない運命を強く受け入れているような気がしましたが、今回は受け入れつつもどこか逆らいたい雰囲気がありました。前回と同じ仕様のヴィオレッタがいると思っていたのでこの変化に驚きつつ同じように演じることをしない中村の意思を感じました。中村は2回目ですがアルフレードとジェルモンは違う歌手なので相手が変わることによる変化を楽しんでいるのではないかなと思います。私も楽しい。
アルフレードは背が高い。ビジュアルだけだとシュッとし過ぎてアルフーレドなのか?と思っていたのですが、表情のあどけなさや感情を抑えきれていない行動に若さを感じしっかりアルフレードであることが確認できました。中村と絡んでるとドキドキするような美しさがあります。色気があるわけではないのですが幼さゆえの危うさがあります。2人が噛み合ってない感じが立場の違いを表現できています。
ヴィオレッタに捨てられて床に寝転んでしまうほどショックを受けたり、そこからの反動で乗り込んでいき感情を爆発させたり、その行動を後悔したりと忙しく繊細な心理描写が上手です。
前回はソーシャルディスタンス公演だったので絡みが少なかったのですが、今回は寄り添って歌う場面が多いので同じ演出でも違うものを見てるみたいでなんだかお得です。
お歌のお話
オペラの中身に入っていけたのでお歌の事は書かなくてもいいんじゃないかと思いますが、歌手の声の印象と気になる部分は書いておきたいので数行書いて終わりにします。
中村はもっと上手に歌えると思いましが別人かと疑いたくなるくらいおかしかったわけではないので良いです。上手な方だと思います。
1幕1場のアルフレードとの会話で”Ah,se ciò è ver,fuggitemi”からの高音と細かい音型のはまりが悪いのが気になりました。その後の”Dimenticarmi allor”は音が変わるごとに切れ目ができてしまった。音のラインを崩さずに歌える人なので頑張って欲しい。“Sempre libera〜”の最高音は出していたけれど遠慮がちでハマりきっていなかった。すぐ降りてきたし。ここは上げなければならないものか。
2幕2場の”Alfredo,Alfredo,di questo core〜”部分の柔らかさがとても美しかったです。優しくアルフレードに向けて歌っている。届いていないけれど。哀愁があり美しかった。とても丁寧な歌い方でした。
3幕のアルフレードと一緒に歌う場面の”De’ corsi affannicompenso avrai”は中村が世界一上手と言っていいくらい完成度が高い。死に際だから元気に歌ってしまうと場面と合わなくなってしまうのに元気に歌う歌手が多い。中村はきちんとしたpianissimoで病気で呼吸が上手にできていない息切れの表現ができる。
ジェルモンのグスターボ・カスティーリョはメインのお歌の2曲の出だしから2フレーズくらいまでは力が抜けており響きも集まっていて綺麗です。だんだん広げ出す癖があるのか曲の最後の方は絶叫1歩手前みたいな歌い方をしていました。2幕2場の終幕間際の全員で歌う部分は1人だけ声の目立っているのでもうちょっと調和してもらえると嬉しいです。
アルフレードのリッカルド・デッラ・シュッカはイタリアのアトリご出身との事ですがイタリア語ネイティブに求めたい母音の明るさはありません。イタリア人なのにイタリア語がヘロヘロしてるのが気になりますが、日本人歌手でも日本語で上手に歌えないことはよくあるので気にしないようにします。そういう人もいます。
やや大雑把な発声ですが、高音を勢いに任せて出さないところは良いことです。声を出すときに声がそのまま前に来るのではなく、奥にいって後ろから出てくるような声の出し方は満点です。大変抽象的ですが正しい声の出し方ですね。
1幕1場で舞台袖から歌うときに出だしの音が力んでいました。二重母音っぽく聞こえる現象が起きてました。
オーケストラと合唱
オーケストラは終始大人しめです。4月にエレクトラ(シュトラウス作曲)というスーパード派手オーケストラのオペラを聞いていたので今の私はこれぐらいでちょうどよかったです。なんか癒された。
3幕の“Addio, del passoto”のテンポ感が謎でした。無駄に緩めているような。このお歌って淡々とした中に感情が爆発するような部分があるのが面白いのではないのか?緩めると方向性変わってしまわないか?中村も歌いにくそうだった。
2幕1場のヴィオレッタの”Non sapete〜”と歌っている間に入ってくる音の主張が少なかったのが気になる。同じく3幕のヴィオレッタの”Prendi;quest’è l’immagine〜”と歌っているときに一緒に演奏している死への階段を登っていく音型(と勝手に呼んでいる)にも同じことがいえる。もっと主張が強くてよかったのではないかと思います。
合唱団は相変わらず歌はお上手で。なによりです。そして相変わらず動けない。なによりです。新国の合唱団の動きは褒められるところはないけれど癖になる。安心する。登場シーンの足のバタバタ音が目立った。その歩き方はコンビニ行くときの歩き方だから。2幕2場の女性陣のくねくねした動きはどうにかならないでしょうか。前回もそうだったので想定はしていましたが気になる。ここはカットでいいんじゃないかって思うくらいださい。
中村恵理
もっともっともっと上手に歌える人だと思いますがそれでもよく歌ってくれました。ヴィオレッタが本当に似合います。蝶々さんではなくヴィオレッタなのです。本格的にレパートリーに蝶々さんを迎えたことにより声の疲労や発声の崩れが心配でした。前回のような繊細なお歌は聞けないんじゃないかと思っていましたが丁寧に、軽く、そして細やかに歌ってくれて安心しました。
ヴィオレッタが似合う理由は死に向かって歩いて行く女を演じることが上手だからです。これは前から私が言っていることです。
いわゆるベルカントの範囲内で物凄くドラマチックに歌って表現してくれるところが大好きです。新国立劇場だけでなく様々な劇場で恵まれた共演者・スタッフと共にヴィオレッタを演じてほしいです。ヴィオレッタとして何度も死んで何度も生まれ変わってきてほしいです。
日本人のヴィオレッタは不安だと思って観劇ををためらっている方がいたらなんの心配もいらないので劇場に行ってください!と言います。保証しますよ!
以上です。
ヴェルディのオペラってよく考えられているなあと改めて実感。歌わせるための音楽が存在しますね。
和士くんは良いキャスティングをしました。自分が振らなくても良いキャストもってこれるんだね。
千秋楽までにどんどんよくなっていくのだろうな。楽しみ。
おしまい。
指揮:フランチェスコ・ランツィロッタ
演出・衣裳:ヴァンサン・ブサール
ヴィオレッタ:中村恵理
ジェルモン:グスターボ・カスティーリョ
フローラ:杉山由紀
ガストン子爵:金山京介
ドゥフォール男爵:成田博之
ドビニー侯爵:近藤 圭
医師グランヴィル:久保田真澄
アンニーナ:谷口睦美
ジュゼッペ:高嶋康晴
使者:井出壮志朗
フローラの召使:上野裕之
合唱:新国立劇場合唱団