はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」
丘の上の家に来ている。ものすごく静かだ。そして涼しい。窓から見える木々の緑。遠くの山。別荘地なので人が少ない。でもこの季節だから各地から訪れる人もいるだろう。夫が先月末、車で迎えに来た。車なら他人と接触しない。でも多分、月末には一人で東京に帰る。
夫が一人で住むこの家にはもう何回もきたけれどいつも長くても一週間位だった。夏が涼しいと昨年分かったので今年は三週間位いようと思う。夫は「一か月はいるんでしょ」と言う。リビングのテーブルにも夫の部屋にも「夫婦の写真」が飾ってある。ここに来るとわたしは何もしなくてよい。三食昼寝つきの贅沢が保障される。
今回、自分のパソコンを持ってきた。もちろんここにもパソコンはあるけれどゲームもこうしてブログも自分の物の方が使いやすい。東京にいる時はスマホばかり見ていた。ストレージがいっぱいですと表示されたのでキャッシュをクリアしたり写真をSDカードに移したりアプリをアンインストールしたりした。するとある日突然、起動したとたんにアダルトサイトが出てくるようになってものすごくビックリした。見た覚えも検索した覚えもない外国の気持ち悪いサイトだった。すごく焦ってウイルス対策を強化したりブロックサイトというアプリを入れたりした。でもまだ時々表れる。訳がわからなくて泣きたくなった。お手上げという感じがして「ヤフー知恵袋」で相談してみた。こちらはシニア女性ですと書いて助けを求めた。
結果、三人の方からアドバイスを頂き、それに従って分かる範囲で対策してみた(わからない用語もあってそれはできなかった)。そうこうするうちに夫が迎えにきたので東京を離れ、パソコンと数冊の本と鉢植えと着替えを少々もって静岡へとやってきた。もう、スマホをあまり開いていない。たまにラインをチェックする程度。だから対策が功を奏したのかどうかまだ分からない。
三食昼寝付きでは申し訳ないので何かしようと思っているけれど、その何かはまだ見つかっていない。夫は「いるだけでいい、のんびりしなさい」とのたまう。そう言って今朝はバイトに出かけて行った。散歩に行くなら、と鍵もおいていってくれた。
東京では寝苦しい夜が続いていた。ただでさえ不眠気味なので毎晩睡眠導入剤を飲んでいた。体調がよくないときはメマイも頭痛もあったしいつも便秘だった。それがここに来ると、何故かいつもぐっすりと眠れる。いろんなクスリから解放される。そう話すと夫はとても嬉しそうに笑ってくれる。
卒婚して別居、はわたしのワガママだった。それはよく分かっている。それをすんなり受け入れてくれた夫には感謝している。本当はきっと夫は別居したくなかったのだ。だから静岡に見つけたこの家にわたしが滞在するのを喜んでいる。スーパーで沢山買い物をしてわたしの好きな料理を作ってくれる。有難い。本心を言えば、わたしに執着することなく夫も趣味を見つけて楽しんだり男女問わず友達ができたりしてほしい。「田舎暮らし」をエンジョイしてほしいのだが、まだそこまではいかないようだ。紆余曲折ありながら40数年、結婚を解消することなくここまで来た。夫にはわたしを許せない事柄も多かったはずだ。それでもまだ、寛容であろうとしている。もう夫婦生活などとっくにないのに近くにいるだけで嬉しそうにしている。感謝しなくてはいけない。
ここでわたしの部屋は二階にあり、好きなようにそこで過ごしていられる。持参した本を読んだり、友人の原稿を読んだりしている。その原稿は彼がネットで文学賞に応募した控えで、借りっぱなしになっている。早川書房の「アガサクリスティー賞」に応募して、見事、一次予選を通過した。分量のある原稿なので少しずつ読み返している。
もちろん、夫はこういう事は知らないし、二階にはやってこない。一階のリビングやキッチンで夫と仲良く過ごしている。二階の階段を上る時ふと彼の原稿があるので彼が待っているような気持ちがする。二階は一人になれる場所だ。時々は一人になりたい。一人になって活字を読み、いろんなことを考える。彼とは20年位まえにネット上で知り合った。わたしにとってのインターネットとは彷徨うこころを受けとめてくれる場所だった。スマホの不具合にうろたえても、やはりこうしてパソコンでブログを書いている。ネット上には詩のサイトもあり不在を続けながらも「じぶんの居場所」のように思っている。便利に使えばこれほど便利なものはないインターネット。なくてはならないものの一つだろう。その時代に間に合って良かったと思う。