
アプリが万能というわけでもないらしい
私はタクシーに滅多に乗らない。どこへ行くのも、歩いて行く。駅構内の人混みが嫌いだし、それに私の住んでいる地域は交通の便が悪いからだ。バスは一応走ってはいるが、目当ての場所には行ってはくれない。と言って、自転車は人が邪魔になってそう自由には乗れないのが現状だ。なので、歩いて行くのが一番の移動方法だと言える。そんな私も最近は左足の調子が悪く、長く歩けなくなった。それで、歩いて1時間ほどかかる病院で診てもらおうと思った。そこは一昨年に胃カメラをやった病院で、今度は整形外科にかかろうとした。
だが、今度ばかりは足が痛くて、とうてい1時間の距離は歩けない。いや、30分だって無理そうだ。どう考えても、タクシーで行くしかなかった。私の家の近所ではタクシーは拾えない。歩いて10分の大通りに行かないと拾えないが、そこまで歩いて行けるかどうか自信がなかった。楽をしようと思った。タクシーを前もって予約したらスムーズにいくのではないか、と考えたところで、以前同僚が何かの時にタクシーを予約しようとしたら、当日でないと無理と断られたと言っていたことを思いだした。そうか、当日なら何とかなるのか、それなら当日の朝の少し前にタクシーを呼べばいいのかと判断した。なにせ、病院に行くことはとっさに思いついたことなので、何とかなるだろうと高を括っていた。
昨日の朝、洗濯物を洗濯機に放り込んでボタンを押した私は、あるタクシー会社に電話をした。すぐに「音声ガイダンスに従って操作してください。すぐの場合は1を、予約の場合は2を押してください」というAIの声が聞えた。1時間ほど後にタクシーを頼みたかったので、予約の2を押した。少し待つと男性の担当者が出て、「予約はいつの何時ですか」と尋ねられ、次に「どこからどこまでご利用ですか」と聞かれたのでこちらの希望を伝えた。その後「少しお待ちください」と言われて待つと、「申し訳ありません。その時間帯は予約がいっぱいです」とつれない返事。そうなると返す言葉もなく、おずおずと引き下がるしかない。
さて、困った、どうしようかと頭を抱えた。せっかく病院に行こうと決心したのに、最初から出鼻をくじかれてしまった。しかし、物事は思い立ったら何とかというではないか、とにかく外に出たら、幸運は舞い込んでくるかもしれない。といつものように希望的観測というか妄想のようなことを思いつつ、タクシーでもいないかと目を凝らしながら通りを歩いた。だが、いつもいないのだから、その日に限っているという奇跡など起こるわけもない。そのうち、タクシーを捕まえる一番確実な方法は駅に行くことではないかと思いついた。いつもは乗る気もないので気にもしなかったが、いつだって駅前のタクシー乗り場にはタクシーが五万と客を待っていた。あれを利用しない手はなかった。結局私は歩いて15分もかかる最寄りに駅に行き、そこからタクシーに乗ることになった。どう考えても、地理的に言うと、方向が違うがそんなことは行ってはいられない。明らかに大周りになろうが、タクシーに乗ってしまえばあとはこっちのものだ。
タクシーに乗り込むと、開口一番、運転手さんに「タクシーを予約しようとしたら断られてしまって」と訴えた。すると、その人は「へえ~、それはおかしいですね」と首を傾げた。「どこに電話したのですか」と聞かれたので、ある大手のタクシー会社の名前を言うと、「私は自分でタクシーを呼ぶときはA社の無線室に電話を掛けます。そこなら大抵来てくれますから」と教えてくれた。あとでタクシーの領収書を見てわかったのだが、その人は個人タクシーの人だった。ついでに、以前から疑問に思っていたことを聞いてみた。それはマスコミで便利だと宣伝しているタクシーアプリのことで、皆が便利だと騒いでいるが本当のところはどうなのか、知りたかった。
その運転手さんは「私はそういうのはやらないんですが」と断りつつ、知り合いの運転手の何人かがアプリを導入していると言う。あれはどうやら利用者が何台も予約する傾向にあるようで、指定された場所に行ってみたら、タクシーを呼んだはずの客がいないことが何回かあるらしい。要するに、運転手の側から言うと、迎車料金を踏み倒される可能性が高いのだ。世間で便利でもてはやされるタクシーアプリも万能ではないらしい。
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