
怖いと思っていた人は普通の人だった!?
昨日そこでしか売っていない牛乳を買いに遠くのスーパーに出かけた。そしたら、偶然に団地に住んでいる知人のMさんに出会った。Mさんも私同様近所にスーパーがあるのにも関わらず、気が付くと足がこちらに向かってしまうのだ。いつものように暫し立ち話をした。Mさんが言うには、最近少し近所付き合いに変化があった。先日夫から頼まれた目薬を買いに行こうとして廊下を歩いていたら、見たことがない女の人が歩いてきた。Mさんは通り過ぎる時に「こんにちは」と声をかけたが返答はなかった。その人はエレベーターに乗って行ってしまった。Mさんは気にも留めず、階段を降りて下まで行こうとしたが、ふと眼薬の箱を持ってくるのを忘れたことに気が付いた。あれがないと目薬を選ぶときに自信がなくて悩んでしまうので、それが嫌でまた戻ろうとした。
急いで、自分の部屋まで行こうとしたら、何とまたあの女の人に出会ってしまった。今度は向こうから「お宅は何号室の人?」と声をかけられた。Mさんは708号室ですと即答した。すると、その人は「ああ、そうなの。見たことがない人だと思ったけど、新しく越してきたのねえ」と納得したようだった。Mさんはすぐに思い出した、この人なら知っている、引っ越してきたときにフレンドリーで話好きなTさんが嘆いていた人だ。どうしようもない女、それがTさんのその人に対する評価だったが、新参者のMさんには詳細は分からない。
あの時Tさんは「誰が行ってもドアを開けてくれないわよ」と激怒していて、それを真に受けたMさんはそれからはその人の部屋のインターホンを鳴らせなくなった。確かに2,3度引っ越しの挨拶をしようと、行ってはみたが応答はなかった。あの人は”怖い人”というイメージを植え付けられてしまったMさんは勝手に「あの人には挨拶しなくてもいいか、どうせ会うこともないのだから」と思うことにした。それなのに、その人に偶然に出会ってしまったのだ。Mさんは当時の自分の行動を後悔した。せめて最低限度の礼は尽くすべきだと思ったのだ。相手が出て来てくれなければ、せめて挨拶用に用意したお菓子と簡単なメモを入れた袋をドアノブにかけておくことだってできたはずだった。Mさんがそう思ったのは、その女の人が話をして見る限り、普通の人だったからだ。
それからMさんはもうひとりの”会うこともないであろう人”に出くわした。それは引越して間もない頃、理事をしていたSさんで、仕事の時間が不規則でいつ在宅か分からないのでと手紙をくれた人だ。丁寧で几帳面な文字で書かれた文面からは真面目な性格が覗われたが、たぶん会うことはないと思っていた。ただ、もし会えたら、聞きたいことがあった。あんなに長々と文章を綴れるのだから、きっと文章を書くのが好きなのだろうと推察した。それで、絶対何か文章を書く仕事をしている人なのだろうと見当をつけていた。こちらから、クオカードを頂いたお礼でも書こうかとあれこれ思案しているうちに時が過ぎた。
ところが、Sさんとの出会いは突然やってきた。Mさんが買い物から帰ってきて、いつものようにSさんの部屋を通りすぎようとしたら、何と玄関の前にSさんが立っていたのだ。今だとばかりにMさんは「もしかしたら、Sさんですか」と声をかけた。ちょうどこれから仕事に行くところだったようで、少ししか話はできなかったが本人と出会えたことが嬉しかった。Sさんによると、昔は公務員でデスクワークをしていたが、今は清掃の仕事をしている。Mさんの質問の文章を書くのが好きかどうかについては、まさにその通りで変な文章を書くのが許せないらしい。どうやら文章の書き方についてはこだわりがあるようだ。それにSさんはパソコンを全く使わず、手書きに徹している。
Mさんは自分はパソコンで書くので、そのため簡単な漢字もわからなくなることがあると本音を吐露する。それから、傍目からはひとりで気楽に生きていると誤解されるが、実は夫がいるのだと冗談を言った。すると驚いたことに、Sさんは自分もこの団地に入ったときは夫婦二人だったが、5年前に離婚して今は一人だと告白した。Sさんの仰天発言にMさんは思わず「どうしてそんなことに?」と聞きだしたくなる気持ちをグッと抑え込んだ。幸運なことにそこにTさんが通りかかり、立ち話はお開きになった。
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