
主人公の毎日はビターで苦い
NHKの夜ドラ『バニラな毎日』を見るようになってあっという間に10夜になった。実を言うと、このドラマを見るのが何だか嫌になってきていて、もういいかとビデオを見るかどうか迷った。だが、やはり怖いもの見たさ?に、見始めたのだから、嫌々でも最後まで見てみるかと思い直した。そもそもこのドラマを見る気になったのは、経営していた洋菓子店が潰れて、400万もの負債を抱えたヒロインがこれからどう生きるのかに興味があったからだった。それなのに、ドラマはお菓子で癒される話が続き、確かにお菓子作りは心のケアにはいいかもしれないが、肝心の借金はいっこうに減らないようだ。
毎回ドラマは心に問題を抱えた人がひとり限定の夜のお菓子教室にやって来る。そこではみなお菓子を作りながら、心療内科のセラピーのごとく悩みを吐き出す。お菓子教室を主宰する料理研究家の佐渡谷とパティシェの白井葵が話を聞き、慰めたり、励ましたりと何かと気を使っている。こうなると、お菓子教室ではなくて、お菓子セラピーの様相を帯びて来る。なんでも、このお菓子教室にやってくる人は佐渡谷の姪の精神科医に勧められてくる人なのだという。お菓子作りは人の心を癒すというコンセプトを元にしており、何か一つのことに熱中し、厳しい現実を忘れることが癒しになるという。
たった2時間余りのことだが、熱中するものがお菓子作りで、その後自分が精魂込めて作った作品を食べられるとしたら、2倍楽しめて、一石二鳥だ。このドラマを見続けることに違和感があった私も先日の回では、思わず膝を打った。それは母親を亡くした女性が自分は母親を見殺しにしたと嘆く場面があって、モンブランのクリームをデコレーションしていた時に、思わず手を止めてしまう。呆然とする女性に、白井が、「そんな気分じゃないかもしれないけど、少し食べてみましょうよ。そしたら何か変わるかもしれないじゃないですか」と助言する。
すると、躊躇しながらも、フォークでモンブランのクリームを掬って口に入れた。女性は泣きながらも口を動かしモンブランを味わい、意外なことにまたフォークで掬って口に入れる。それからは箸が止まらないかのごとく、フォークを持つ手が止まらない。どうなる事やらと戦々恐々で見守る佐渡谷と白井だが、モンブランを味わいながら女性が発した言葉にホットひと安心する。「悲しいのに、食べるのをやめられないんです。私ってなんて人間なんでしょう。悲しいのに、楽しいなんて」
要するに、その女性は自分は母親を見殺しにした悪い娘で、そんな人間は楽しい思いなんてするべきではないと信じて疑わない。それなのに、今はモンブランを食べて、美味しくて、楽しい思いをしている。自分にそんな資格はないのに、罪深い人間なのにと主張する。それでも、「やはり人は美味しい物を食べれば、自然と幸せを感じ、楽しくなる。それが当たり前で、別にそれでええんと、ちがうの」と佐渡谷は諭し、励ます。その瞬間、佐渡屋を演じる永作博美さんの印象が一気によくなり、アクが強くて、鬱陶しいなどというこれまでの悪評がたちまち霧散した。
よく話を聞いてみると、女性は子供の頃から何十年も引きこもっていて、母親だけを頼りに生きて来た。その母親が亡くなってひとりになってみると、悲しい反面ある意味ホッとした気にもなった。自分のために一生懸命尽くしてくれた母親に対してそんなことを思うなんて、自分はなんて罪深いのだろうと思わずにはいられない。
それはさておき、私はその女性に関してとても気になっていたことがあった。それは彼女がまるで自衛隊員が着るような迷彩服を着ていたからで、この人、もしかして自衛隊の人?と勘違いしてしまった。そんなはずあるわけもない、ドラマの最後で謎が解けた。あの服装は彼女が押しているあるグループのコスチュームだったようで、彼女のお気に入りの服だった。心配することはなかったのだ、彼女は口で言うよりもずうっと楽しくやっていた。母親を亡くしても、自分の人生をそれなりの楽しんでいた。
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