
「ここだよ!」の任務とは
朝日新聞のエッセイ「オトナになった女子たちへ」で益田ミリさんが、行列での任務?について書いていた。そもそも益田さんが言う「行列における任務」とは、自分の前後にいる人が行列を抜け出して、また戻ってくるときに「ここだよ」と一声かけてあげることなのだ。普通ならその人たちは自分の都合で列を抜け出したのだから、最後尾に並ぶのが筋である。だが、益田さんは「ちょっといいですか」といちいち断られなくても、「全然構わないですよ」と言いたいのだ。どう考えても、それは親切心からとった行動なのだが、益田さんは、「任務」なのだと位置づける。彼らが、最後尾に並び直そうとするのを、間髪入れず、「ここだよ」と教えてあげる。そんな絶妙のタイミングで声を掛けられ、さも当然のように列に戻ったら、誰も文句のつけようがない。横入りだと皆から、白い目で見られ、糾弾されることもないだろう。文句のでる隙が無いから、「ここだよ」はそんな場面で効くのである。
益田さんは「ここだよ!」の声掛けを躊躇なくできるタイプのようだが、私には勇気がなくて真似はできない。でも、私自身、列に並んでいて、急に列を抜けたくなる時は滅多にない。いつも席はちゃんと取ってから、カウンターで注文するものも決めているのでその必要がないのだ。それでも、人によっては何か思いついて、急に列を離れてしまうこともある。以前もブロブに書いたかもしれないが、誰でも知っているコーヒーチェーン店で、警察沙汰になったトラブルが起きた。高齢の男性が押されて、その勢いで転倒して頭を打ったと訴えていた。
男性にケガはないようだが、頭を打ったのだから大事になりかねない。高齢の男性と若いサラリーマンとのトラブルで、二人はカフェの注文カウンターの行列に並んでいて、隣同士だった。折しもお昼休みで店は賑わっていた。あと何人かで自分の番だと思っていたら、すぐ前に並んでいた高齢の男性が何も言わずに、急に列を抜け出して、サンドイッチやケーキのあるショーケースの方に歩いて行った。サラリーマンの彼は何事?と訝しく思ったが、気にしなかった。ところが、高齢の男性が戻って来て、何ごともなかったかのように自分の前に入ってきた。その時の彼は虫の居所が悪かったのだろうか、横入りした高齢の男性が許せなかった。
その時、高齢の男性が素直に謝っていたら、警察を呼ぶような騒ぎにはなっていなかったはずだ。だが、彼の言い分は、「こんなことで馬鹿にされてたまるか」で、プライドの問題を持ち出した。ああいえば、こういうで油に火を注いだものだから、二人共自分の言い分を譲らなかったらしい。それで、サラリーマンが高齢の男性を押したら、転倒して、運が悪かったのもあるだろうが、頭を打ってしまったらしい。
私は実際の現場は見ていないが、どう考えても、高齢の男性の自己中心的な行動がトラブルの一因だと思われる。だが、もしあの場面で、益田さんのような任務を担っている人がいたら、おじさんに「ここだよ!」と教えてあげることができたはずだ。残念ながら、世の中皆が親切で、気が利く人ばかりではない。トラブルに見舞われたくなかっら、常にわきまえるしかないのが現実だ。そして、高齢者の方々も、誰もが皆年寄りを馬鹿にしているだなんて、絶対思わないで頂きたい。
ところで、益田さんは何を隠そう、「行列に並ぶのが好きな人」らしい。エッセイにイラスト付きで「並んだら、手に入るという、シンプルさは嫌いじゃない」と書いている。そうか、列に並んで、自分の貴重な時間を差しだしさえすれば、必ず手に入るのは決して損な選択ではないのだ。因みに私の場合は昔は行列に並ぶのは苦にならなかったが、年を取った今は行列にそれほど魅力は感じない。
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