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パーフェクト・デイズ

普通の生活が、こんなに輝いて見えるなんて

 今回の旅行の帰国便の機内で、ヴィム・ヴェンダース監督の『パーフェクト・デイズ』を見た。私はいつも飛行機に乗ると、機内映画を物凄く楽しみにしているだが、デバイスの画面にこの映画のタイトルを見つけたときは小躍りした。予期せぬ嬉しい出会いに心が震えた。旅行前に、何度新聞の映画批評を読んだだろうか。ぜひ見て見たいと思っても、その時だけ盛り上がるだけで、情熱が続かなかった。実際には身体が動かず、そのうちと諦めていた。正直言って、映画評を読んだだけで、なんたることか、映画を見た気になっていた。2時間半というけっこう長めの映画だが、不思議なことに退屈しないと、ある評論家は書いていた。私はその意味がわからず、その理由が喉から手が出るほど知りたかった。それなのに、行動を起こせなかったのは、私の性格に問題があったからだ。瞬間湯沸かし器のごとく、燃え上がるが、すぐ冷める、飽きっぽい性格は生来の物で、治りはしない。情報が次から次へと入って来るので、そのうち、綺麗さっぱり忘れて、気にもしなくて、それで終わりのはずだった。

 だが、この映画『パーフェクト・デイズ』は向こうから私の目の前に現れた。何という幸運なのだろう、不徳にも、すっかりこの映画のことを忘れていた不埒な私に、この映画を見る機会を与えてくれたのだ。映画評を散々読んでいる私には予備知識は五万とあった。役所広司さん演じるトイレ清掃人は、毎日毎日、判を押したような規則正しい生活をしている。朝まだ暗いうちに起き、布団を片付けて、階段を降りる。1階の洗面所で髭を剃り、身だしなみを整える。普通はそのあと、朝食でも食べるのに、彼は何も食べずにアパートを出て、外に停めてある仕事用の車に乗り込む。アパートの前にある自販機で買って飲むコーヒーが彼の朝食だ。

 車のエンジンをかけると同時に音楽のカセットを取り出してセットする。それらの曲は日によって変わり、全て私には未知の曲だが、なんだかとても魅力的に感じられる。車内に流れるノリノリの音楽を聴きながら、彼の何の変哲もないが、規則正しく美しい一日が始まる。車を運転している役所さんの顔はこれから仕事に行く人、それもまさかの公衆便所を掃除に行く人とはとても思えないほど楽しそうに見える。まだ暗い町の中にスカイツリーが浮かび上がっている。その光景から想像すると、彼は墨田区あたりのアパートに住んでいるらしい。そこから毎日渋谷辺りまで車を飛ばして、幾つもの公衆トイレを掃除して回っている。それが彼の仕事で、彼の仕事ぶりはまさに表彰に値するほど、完璧で無駄がない。役所さんはこの役を演じるにあたって、プロの掃除人から教えを請うた。信じられないかもしれないが、便器の縁裏まで、鏡で確認するほどの周到さには仰天した。何もそこまでやらなくても、いや、そのくらい適当でいいのではとも思えるが、そこはプロの掃除人の譲れない流儀があるのだろう。プロの仕事に脱帽せざるを得ない。

 何の変哲のない日常も、やるべきことを一つ一つ丁寧にこなすことで、一転、きらりと輝いて見える。そんなことをふと思ったのも事実だ。毎日同じことを繰り返していると、たまにはぞんざいになったりもする。適当に済ますこともあるが、意識して「丁寧に」を心がけると、その瞬間が喜びに繋がるかもしれないのだ。役所さん演じるトイレ清掃人は、仕事の後銭湯で一日の疲れを流し、行きつけの店で一杯やるのが日課だ。完璧に一日の仕事を終えて、とても満足そうな顔をしている場面がとても印象的だった。

 この映画の中では、何も事件は起きないが、気になるのは、彼の過去を匂わせるエピソードが何気なく出てくるところだ。彼はテレビは見ないし、映画館にも行かないが、古本屋で文庫本を買って寝る前に読んでいる。どれも、私には未知の作家ばかりだが、ひょっとしたらかなりのインテリなのかもしれない。古本屋の女主人とは顔なじみで短いながらも言葉を交わす仲だ。

 よく考えてみると、普通の人がまさかトイレ清掃人になるなんてことは、何かない限りありえない。そう考えるのは私の偏見だろうか。その何かとは、人生における大事件に他ならないが、この映画の中にもその伏線となるカケラは散りばめられていた。

mikonacolon

 

 

 




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