
若い頃は空気を読まない人間だったが、先輩の一言が
若い頃、私は仕事というものは自分次第で、自分がしっかりしていれば大丈夫なのだと思っていました。つまり、組織の中で与えられた役割を卒なくこなしてさえいればいいのだと信じて疑いませんでした。ミスなくテキパキと仕事をしていればいい、誰にも文句を言われる筋合いはないと思い込んでいたのです。ですから、ある日先輩から「たまには周りを見たほうがいいわよ」と忠告されたときは何のことだかわからずポカーンとなってしまいました。どうやらその頃の私は今でいう「空気を読まない人間」で、周りにいる人たちのことなど気にもしない能天気な奴なのでした。目の前にある仕事のことしか考えず、周りと足並みを揃えようとする協調性もない人間で、昼休みには自分から話をするわけでもなく、ただ他人の話を聞いているだけの変な奴。彼らからしたらそれが私なのですが、当時は全く周りを眺める余裕などなかっただけのことです。
先輩の忠告は周りから何か言われる前に自分の行動を変えるようにという有難いアドバイスでした。職場で自分がまるで異分子のように思われていることにさえ、言われなければ気づかなかったわけですから。よく観察してみると、周りの人間の自分に対する物言いに少しとげがあったり、皮肉が含まれているようにも感じたのです。今まで気にも留めなかったことが何だ気になってしようがないのです。明らかに自分の心の平安は消えて、気持ちが乱れ始めたのです。それからは少しづつ周りに溶け込めるように自分なりに努力してみました。人というのは不思議なもので、猜疑心の塊としか思えなかった人が意外に優しかったり、またその逆もあったりとなかなか興味深いのです。
考えてみると、人の心模様は複雑でいろんな感情に支配されているのです。だから相手が違えばその時によって湧いてくる感情も変化するのは当然です。でも私は仕事に感情を持ちこむのはできるだけ避けるようにしています。むしろ機械のように何も感じない人間になりたいとさえ思うこともあります。人間関係が複雑になってくると、一時避難の意味でも少しは自分を解放しないとやっていけないからです。職場において、できれば遭遇したくはないのですが、ある瞬間怒りの感情がふつふつと湧いてくることがあります。そんなときはどうするのか、どうやって平静さを取り戻すかというと、目を閉じて相手を視界から消すしかない。そうやって何秒かしたら怒りの感情がすうっと消えて自分に戻れる、これはある精神科医の著書に書いてあった方法です。
実際にはこんな風にうまく行くわけもなく、ありったけの自制心でもって怒りを無理やり抑え込むしかありません。最近は自分の怒りをコントロールするアンガーマネジメントが注目されています。普段から自分の怒りが生まれる原因を知っておくと、いざという事態にうまく対処できるのだそうです。世間で起こる出来事を見ていると、なんと怒りで身を亡ぼす人が多いことか、だからこそ怒りをコントロールする必要があるのだと実感します。
さて、空気を読まない人の話に戻ると、昔知り合った女性にひとりそんな人がいました。当時私は書道教室に通っていて、そこで銀行に勤めている彼女と出会ったのです。彼女は20代半ばを過ぎたばかりの美人で、傍目にも自信ありげな雰囲気が漂っていまました。ある時そんな彼女と一緒に食事をしていたら、「私はいつも定時に帰っているのよ」と言ったのです。同席していた私を含めた3人は彼女の発言を聞いた途端、食べるのをやめました。「ええ~っ、どうしてそんなことができるの?」と皆仰天しました。「時間になったらさっさと帰ればいいのに、どうして帰らないの?」
私たちの当惑ぶりが面白いのか、彼女は当然とばかりに涼しい顔です。「仕事が終わったのに残っている方が変だと思わないの?」とごもっともなことを言われても言い返す言葉が見つかりません。休みの日にピンポンとチャイムが鳴って、ドアを開けたら誰かが送ってくれたお花が届いたとかという自慢話も聞かされました。「あの人からだわ!」彼女のファンの男性からだそうです。それにいつだって華やかなブランド物のワンピースを着ていて、私たちとは明らかに一線を画していたことは確かなのです。
mikonacolon
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