
お役御免で、すっきり
市営住宅に住む知人の桐原さんに、整形外科の帰りに偶然会った。なんだか、以前よりすっきりとした顔つきになっていた。その訳を聞いてみると、開口一番に「聞いて、やっと理事をやめられたの。今は解放された気分でホッとしてる」と嬉しそうに話す。先日、次の理事をやる人に引き継ぎをしたばかりで、今は自由な自分を満喫しているところだそうだ。普通は来週の土曜日にある理事会で引き継ぎをするのだが、あまりにも出席率が悪いので、自治会費の納入の際にしてしまおうということになったらしい。毎月集会所に自治会費をまとめて払いに行くと、必ず役員から、理事会に出席するように促されるが、敷居が高くて・・・などと、言い訳をして誤魔化していた。
そもそも、昨年の4月に役回りということで、仕方なく理事になった。一番最初の理事会に行かなければならない、いや、行った方がいいに決まっているが、腰が重くて動けない。なぜかと言うと、理事会に参加することは、やる気をアピールする事であり、そうなると、理事会の役員をやらされるのは明らかだからだ。桐原さんが住むA棟と隣にあるB棟を合わせて、約31名の理事がいるのだが、毎月の理事会に出席するのは、わずかに4,5名で、しかもその顔触れは決まっていた。正直言って、自治会費を集めることだけでヤキモキしている桐原さんには、これ以上の仕事の負担は耐えられなかった。最初は桐原さんも後ろめたさを感じてはいて、理事会に出席しないと、今現在自分の住んでいる団地で何が起きているのか、あるいはどんな問題があるのかさえ、わからなかった。もちろん、何か重大なトラブルがあったときなどは回覧板で知らせてもらえるのだが、その詳細は知る由もない。
桐原さんが想像した通り、自治会の役員を決めるのは困難を極めていた。特に会長のなり手がなく、皆会長の重責を担うのを嫌がるのだからどうしようもない。一昨年はひとりでは重すぎるとの意見から、なんと4人で会長の職を引き受けることになった。昨年は有志の人がいてくれたから、何とかなったが、この先どうなるかはわからない。それで、昨年から、理事会の役員に少額でも慰労金を出そうということになった。会長は3万円とか、副会長は2万というように、ささやかながらも報酬を出せば、なり手が増えるのではと考えたのだ。因みに、桐原さんも千円だがお小遣いを貰った。だが、この千円で今までの一年間の心労が癒されるのかと言えば、そんな事はありはしない。
たかが理事、されど、理事で、やるべきことはごくシンプルだ。毎月自分の住んでいる階のお宅9軒から自治会費を集めて、回覧板を回すだけのこと。だが、毎月きちんと集まるかというと、そんなにうまくいかないのである。少し考えてみればわかるが、至極簡単なことが、実際には一番難しい。筋書き通りにはいかないのは世の常なのだろうか。毎月25日から月末までに払ってくれれば何の問題もないはずなのだが、現実にはそれが難しい。ある外国人のお宅などは、どうやら「払えばいい」という考えのようで、遅れても、何でも払えばいいと思っている節がある。こんな考え方は意地が悪いのかもしれないが、以前などは「忘れてました。ごめんなさい」で済まされてしまったこともあった。要するに、こちらが催促のメモでも玄関ポストに入れない限り、忘れていることに気付いてくれないのだ。パブロフの犬のごとく、条件反射で自治会費のことを思いだすらしい。それならそれで、こちらも対策を練り、この人はそう言う人と諦めて、催促のメモのコピーでも用意して置いたら、もう悩まされないのでないだろうか。
桐原さんは、「今はホッとしているけど、4年後にはまた理事の役目が回ってくる」と歎く。「その時もしまだ生きていたら、今度こそ惑わされないようにしたい。自分の大事な時間を他人に脅かされないようにしたい」と心に誓っていた。
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