
予想外の展開に呆然
左足を骨折して、禁足状態の私に、知人の桐原さんから電話があった。桐原さんは3年前から、夫婦で市営住宅に住んでいる。先日来年度の理事を決めるにあたって、寝耳に水とも言えるいざこざがあった。彼女は去年の4月から住んでいる階の理事をやっているが、次の理事はすでにAさんがやるものとの暗黙の了解があった。そのことは前理事であるBさんから散々聞かされていた。またAさん本人にも、普段からそれとなくBさんは親切に言及していた。理事の仕事についても説明していたので、何の問題もないと高を括っていた。ただ、一つ心配だったのは、Aさんが外国人であることで、日本語が分かるかどうかだった。だが、Bさんは、「ご主人なら日本語がわかるから問題ないわよ」と、彼女の不安を一掃するような発言をした。
それなら、次期の理事はAさんで決まりと、何の疑いも持たなかった。2月の時点で、自治会から次期の理事についての届け出用紙を受け取ったとき、迷うことなくAさんのお宅を訪ねて理事の件をお願いした。すると、「わかりました」と快く引き受けてくれた。そこで、桐原さんは、正確に言うと、桐原さんの夫は、届け出用紙を差しだして、次期の理事の署名の欄にサインをして、自治会に出してくれるように頼んだ。
ところが、詰めが甘かったようで、具体的なことを言うのを忘れたせいか、その用紙はいつまでたっても自治会には提出されなかったらしい。日本人なら、文面をさっと読めば子供にでもわかることが、外国人にはわからなかったのだ。要するに、桐原さんは「読めばわかるだろう」と勝手に考えて、いちいち子供に言って聞かせるようにはしなかった。署名欄を指差し、「ここにあなたの名前を書いてください」とか「自治会の会長のCさんは14号棟の12階なので、そこの玄関ポストに入れてください」だのとは言う必要がないと考えた。
そもそも、相手が理事をやる気があるかどうかについても確かめようとはしなかった。それはすでに決まっていることだったからで、前任のBさんのお墨付があったからで、まさか、最後の最後にAさんがドタキャンするだなんてことは想像できなかった。桐原さんの団地では外国人が結構多いが、彼らもちゃんと理事の当番を引き受けている。なので、Bさんが理事をできないということはありえない。と、皆は考えた。それに理事の仕事は毎月の自治会費を集めることと回覧板を回すことで、難しいことなど何もないはず。それでも、首を縦に振らないのは、やはり面倒臭いからやりたくないからではないか。
それで、「日本語があまりよくわからないから」とか「自治会費を納める日が仕事だとできないから」とかと言い訳をして断ろうとするのだろうか。桐原さん自身はAさん一家のご主人とは面識はないが、前任のBさんよると日本語の能力は十分あるとのこと。それだからこそ、BさんはAさんを次期の理事に決めていたのだ。実を言うと、桐原さんは自治会費の納入についてAさんに毎月のように悩まされていた。月末になってもいっこうに払ってくれない。こういう場合、催促の紙を入れるのが常套手段なのだが、毎回となるとさすがにうんざりした。忘れているのか、どうかはわからないが、とにかく悩みの種だった。仕方がないので、文書でそれとなく抗議し、プレゼントまで持ってお願いに行った。自治会費は月末までに払うのが決まりになっているが、25日以降ならいつ払ってもいい。もしかしたら、Aさんは日本語の意味がわかっていないのかもしれないと疑ったことも確かだ。
Aさんが桐原さんに対して放った「わかりました」の一言は一体全体、どんな意味だったのだろうか。なぜ、わからないのなら、それなりに尋ねてくれなかったのだろうか。日本人なら、安請け合いとでも言えるだろうが、桐原さんには裏切られたとしか思えない。適当に受け流されて、かわされた感が否めない。
mikonacolon