「アベノミクスとリフレ政策 」
リフレーション政策は深刻な不況に陥ってデフレ状態(物価下落と経済活動停滞が慢性化)となっているときに、本来もっとも健全な経済状態であるゆるやかなインフレ状態=リフレーション状態へと持ち上げるための経済政策です。物価目標の値は完全雇用が実現できて、なおかつ急激なインフレが起きない程度に設定します。日本の場合ですと年2%程度だと云われており、アベノミクスの量的・質的緩和政策のインフレターゲットもそれに設定されました。

しかしながらこのリフレーション政策を導入するときに散々「ハイパーインフレが起きる」などとオオカミ少年のように騒ぎ立てた経済学者や評論家がいっぱいいました。前回の記事「軍部が引き起こした軍事費の膨張とと終戦後のハイパーインフレ」で述べた日本の終戦後における悪性インフレの再来となるなどと脅されたものです。
でも結局アベノミクスがはじまってから5年間ひどいインフレなんか起きませんでした。今多いのは「リフレーション政策をやっても物価が上がらないから失敗」という誹謗ですが、おかしなことに「ハイパーインフレが起きる」などと言っていた人がそれを言っていたりします。結局は場当たりでものを言っているだけでしょう。単なる難癖です。
アメリカのサブプライムローンショックが元で起きた世界同時不況のときに震源地のアメリカをはじめ、イギリスやスウェーデンなどのヨーロッパでも大規模な量的緩和政策が実行されましたが、これが原因でハイパーインフレを起こしたなどということはありませんでした。
(もしそんなことを言ってくる人がいたら私は徹底的に聞き質しますよ)
岩石理論を唱える人たちは「ある日突然」という言葉を繰り返すだけです。デフレ脱却後の出口戦略で日銀が買い取った国債を市中へ再放出すると国債が暴落するなどという論者がいますが、中央銀行が一気にどかんとそれをやるようなことはしません。
リフレーション政策は無制限に貨幣を供給するというものではなく、実際の物価状況やGDPギャップ、失業率などを見計らいながら進められます。物価上昇が起きるということは需要(GDP)が生産・供給(潜在GDP)を超えたときです。潜在GDPと実際のGDPの差がGDPギャップです。それともうひとつデフレとインフレの状態を捉える方法としてワルラスの法則を活用する手があります。

デフレのときは財市場の超過需要よりも貨幣市場の超過需要が大きすぎる状態(流動性選好が強すぎる)です。逆にインフレの時は財市場の超過需要が大きく、貨幣市場の超過需要が小さくなります。

ちょっと前に「財政赤字は国民の資産だからどんどん殖やした方がいい」だとか「(無制限に)国債をどんどん発行して財政出動をしろ!」「発行した国債は日銀が永久国債として引受させればいい」「政府貨幣は借金から生まれたお金ではないからいくらでも刷れる」などという暴論に対し私は断固反対しました。
しかしながらその逆の「量的緩和をやったらハイパーインフレが起きる」などというのもそうした人たちと同類で、両者ともいくら市中の財やマネーが不足しているのか、あるいは溢れているのかを数値で把握しようとしない人たちでしょう。
そしてまたハイパーインフレの恐怖を煽る人たちが、これまで発生したハイパーインフレがどのような経緯で発生したのかをきちんと検証してきたのかも疑問です。いまこうして私がハイパーインフレの事例研究をしているのも、その原因を正確に突き止め防止するためです。
この記事を書く前に統計学者・経済学者である矢野浩一駒澤大学准教授がリフレーション政策の根幹理論である合理的期待仮説(インフレターゲットやコミットメントにつながる考え)について興味深いコラムを書かれているのを見つけました。
この記事を読みますとはじめの方に「ハイパーインフレの教訓」という見出しの項目が現れます。
これまでに起きたハイパーインフレがどのような形で鎮静化させられたのかを調べていくと、実は政府がハイパーインフレを抑えるという予想を国民に与えたからだと矢野氏は仰います。この予想をつくることを合理的期待形成と言い、矢野氏は「民間が政府の将来の政策を予測し、その予測に基いて行動をする」だと説明します。この仮説を提唱したのはトーマス・サージェント教授やロバート・ルーカスJr・キッドランド・プレスコット教授らでした。合理的期待形成はデフレ脱却だけではなく、その逆のハイパーインフレの沈静化にも活用できる考えなのです。
トーマス・サージェント教授は若いときに「四大インフレーションの終焉」という論文をまとめ「ハイパーインフレーションの終焉には政策レジームの変化(政策ゲームのルール変更)が必要であり、それに伴うインフレ期待の低下が重要な役割を果たした」という見解を示しました。
この説明を聞きますと「リフレーション政策をやるとハイパーインフレガー」がいかに馬鹿げたものかがわかりますね。こういうことを言う経済学者や評論家は逆をいえば本当のハイパーインフレのリスクがあってもその発生を防止するノウハウを身に着けていないということになります。
リフレーション政策や金融政策で物価上昇なんか起こせないという学者も、結局は自分は何もできませんと言っているも同然です。そんな無能者は学会から追放すべきでしょう。
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