※「レジェンズZA」二次創作です。3万9千字ほどあるのでお暇な時にでもお読みください。
タワーの下でFと別れたセイカは即座にスマホを取り出し、サビ組ボスのカラスバに連絡した。ZAロワイヤルのアプリを通じてではなく、本人のスマホに直接、電話をかける。呼び出し音の1コールめが終わりもしないうちに、カラスバが応答してくれた。どうやら暇していたらしい。あるいは、セイカからのコールだとわかったとたんに仕事を放り出して応答してくれたのかもしれない。どちらにせよセイカには好都合である。
「どうしたん、直にかけてくるなんて珍し…」
カラスバが言い終わらないうちにセイカは話し出す。
「Fさんがなんかかっこつけたセリフ言ったと思ったらあの服のまんまオ・ルヴォワールされてしまいました! そっちに顔だしたら捕まえてくれます!?」
いくらミアレ広しといえどサビ組の話をさえぎって無事に済む人間は数少ない。ミアレで暮らす者の基準ではもはや暴挙であるが、今はその暴挙が必要な時だとセイカは判断した。早くしないとFがミアレを出てしまう。ことは一刻一秒を争うのだ。
「はあ⁉ なんでおまえが捕まえてへんねん‼ あの人に着替えてほしかったら、おまえが捕まえてからこっちに連絡するのがスジちゃうんか⁉」
セイカの読み通り、カラスバが怒ったのは自分の言葉をさえぎられたことではなく、セイカがカラスバの恩人であるFことフラダリにボロを着せたまま見失ってしまったことだ。怒りの矛先がセイカに向けられていることにはちがいないものの、カラスバへの侮辱だとは思われていないので身の危険はないだろう。たぶん。
「それはそうなんですけどっ。ジガルデとバトルした直後で疲れててっ。そこまで頭がまわらなかったんですっ。なんとかしてくれませんかねえ? カラスバの親分さん」
「なんで今さらあのポケモンとバトルしてたんか、そこらへんの事情はあとできくとして。そういうことやったらしょうがないなあ。うちのもん総出でミアレじゅう探させるさかい、セイカは事務所で待っとき」
セイカに「親分さん」と呼ばれてカラスバは機嫌をなおしてくれたらしい。これもセイカの読み通りである。「組長さん」や「親分さん」というかしこまった呼び方は、いざという時のために取っておいた。カラスバの自尊心を満たす呼び方をすれば多少のことは水に流してもらえるだろうと計算したからだ。今のところは計算通りである。
「わかりました。ありがとうございます。ジプソさんにもよろしく」
「わかっとる。ヌーヴォの連中にはおれから連絡しとくさかい、セイカはユカリ嬢に連絡しとき」
「いや、そこまで大事にしなくても」
「なんやおまえ、おれの言うことに文句あるんか?」
カラスバが真顔で声のトーンを落とした。親分さんと呼んだ程度では、カラスバの怒りはおさめられなかったらしい。セイカの計算は早くもはずれてしまった。
「あの時、誰のおかげで屋上まで行けたと思てんねん。おまけに3回も落ちよってからに」
カラスバの言う「あの時」とは、アンジュが暴走した時のことだろう。いくらミアレの危機とはいえ泣く子も黙るサビ組があそこまで献身的に動いてくれるとは思わなかった。彼らは人間ハシゴになってセイカを屋上まで届けてくれたのだ。ハシゴもホロベーターもなくなって困っていたところだったのでとても助かった。
「あの時の貸し、まだ返してもろてへんけど?」
「ごっ、ごめんなさいカラスバさんっ。あの時のお礼はいつか必ずっ」
「冗談やて。とりあえず、ユカリに連絡してからこっちおいで」
カラスバがほほえみ、セイカは胸をなでおろした。どうやら先ほどの真顔と声のトーンは怒りの演技だったらしい。カラスバには役者の才能がある気がする。
「ユカリさんに連絡したら、シュールリッシュで待てって言われて、ユカリゾーンで囲われるのがオチですよ。事務所には行けなくなります」
「確かに。あのお嬢やったらそうするな。それやったら、おとなしく囲まれとき」
「え、いいんですか?」
「ええも悪いもないわ。さけられへんもんはさけられへん。ええからはよ連絡せえ」
「わかりました。ヌーヴォのみなさんにもよろしく」
「ほな、またあとでな」
カラスバが電話をきり、通話が終わった。ここで一息つくとあとでカラスバに怒られてしまうので、セイカはすぐにMSBCのリーダー・ユカリへ連絡する。こちらもアプリ経由ではなく電話だが、すぐに応答してくれて助かった。カラスバも即応してくれたことから考えるに、ミアレでは1コール以内に応答することが礼儀なのかもしれない。
「まあ、セイカさま! お電話くださってうれしいですわ。ご用事はなにかしら? またなにか、ミアレの危機でもありまして?」
街の危機などそうそうあってたまるかと思うセイカだが、さすがに言葉にはしない。よく考えれば、ZAロワイヤルの上位ランカーがクエーサー社を通さずに直接連絡してきた時点で警戒するのは当然なのだから。
「いや、街の危機ではなくて。ただちょっと、お願いしたいことがあって」
「あなたのお願いでしたら、いつでも大歓迎ですわ。お礼はいりませんから、またバトルの機会をいただけるかしら?」
「はい。もちろ…いや、そこはお願いの内容をきいてからじゃないんですか? わたしの依頼を受けること大前提で話してません?」
「もちろん、お受けしましてよ。わたくしにできないことなどないのですから。なんでしたらMSBCのメンバーだけでなく、ホテルの従業員を動員してもよろしくてよ」
「お申し出はありがたいですけど、そんなことしたらホテルの業務がまわらなくなりませんか?」
「なりませんわ。休んでいる従業員に、休日出勤を命じればいいだけですから。現場は問題なくまわりましてよ。なんでしたら、警察にも協力を要請しましょう」
「休日出勤の強制はパワハラですよ! あと、警察には絶対に知らせないで!」
「もしかして、サビ組に関係ありますの? でしたら、なおさらお受けしますわ。カラスバさまにセイカさまを独り占めされたくありませんもの」
「どういう理屈ですか…まあ、サビ組に関係してるのは事実ですけど」
「やはりそうですのね。それで、ご依頼の内容は?」
「Fさん、じゃなくて、フラダリさんを探してほしいんです。あの格好のまま、ミアレを出ようとしてるみたいで」
「あの格好? ユカリトーナメントにいらした時のファッションのことかしら?」
「そうです。あの、見るからにボロボロの」
「それはいけませんわね。あれはあれでまとまりのあるファッションでしたけど、ずいぶんと使い込まれているようでしたから。わたくしが、あの方のお召し物を見繕いましょう。フラダリさまの捜索はハルジオとMSBCのメンバーに任せますわ。セイカさまはシュールリッシュにおいでください」
「わかりました。助かります」
「最上階でお待ちしておりますから、くれぐれも寄り道なさいませんよう」
「は、はい。それじゃ、またあとで」
セイカは画面に手を振ってから通話を切った。相変わらずユカリは待たされるのが嫌いなようだがセイカを猛烈に気に入ってくれているので非常時には頼りになる。カラスバとちがってユカリは警察まで動かせるので、機嫌を損ねた時の危険度はサビ組の比ではないが。機嫌を損ねない限りは平和に暮らせるだろう。たぶん。
「ポケセンいって、タクシー拾うか…」
直行しないと後々まずいことになりそうなので、ホテルZに戻って着替えるのはあきらめて最寄りのポケモンセンターにむかう。幸いにしてタワーを囲うワイルドゾーン20のすぐそばにもポケモンセンターがあり、スタッフとはすっかり顔なじみになっている。
「おはようございます。セイカさん…もしかして、徹夜されました?」
セイカがカウンター前に立つと、制服を着た受付嬢が声をかけてきた。セイカが目の下にクマをつくって現れたからだろう。
「あ、わかります? 実は、夜通しポケモンと戦ってて」
言いながらモンスターボールを6個、回復マシンにセットする。普段は正直者のセイカだが、さすがに「ジガルデと戦っていました」とは言えないので、嘘ではない範囲でごまかした。ジガルデもポケモンにはちがいない。生態系の守護者というだけで。
「道理でクマが…あなたはミアレ最強トレーナーだとうかがっていますが、無理はなさらないでくださいね。はい、みんな元気になりましたよ」
受付嬢は回復マシンを操作し、ポケモンを回復させてくれた。セイカはマシンに手を入れてモンスターボールをすべて取り出し、懐に入れてから礼を言う。
「ありがとうございます。優しい言葉、染み入ります…」
セイカは久方ぶりに受けた気遣いに思わず涙ぐむ。AZが亡くなってからは気遣われたことがなかった。MZ団のみんなも、他の上位ランカーたちも、セイカは強くてあたりまえだと思い込んでいるようで、たまに連絡を受けると仕事の依頼かバトルの誘いばかりだった。
「失礼ですが…普段、どんな方とつきあってるんですか?」
「え、えーと…気さくだけど後先を考えない子と、顔が恐くてタダ働きさせる人と、待たされるのが大嫌いでわがままな人と…あとは、よそ者に期待しすぎな人たち、ですかね」
「…重ね重ね失礼ですが、もう少しご友人を選ばれたほうがいいと思いますよ」
この受付嬢は何も知らないからこんなことが言えるのだ。「気さくだけど後先を考えない子」がクエーサー社長の孫を、「顔が恐くてタダ働きさせる人」がサビ組のボスを、「待たされるのが大嫌いでわがままな人」がMSBCのリーダーを、「よそ者に期待しすぎな人たち」がクエーサー社のことを指していることを知れば手のひらをかえして「とても良いご友人をお持ちですね」と言うに決まっているのだから。
それがわかっていても、セイカは受付嬢の言葉がうれしかった。思えば自分は強がりすぎていたのかもしれない。みんなの信頼を得ようとして、誰にも弱みを見せたことがなかった。それがまずかったのかもしれない。
セイカは決めた。これからは自分もみんなを信じて、少しずつ弱みを見せていこうと。自分が誰にも弱みや欠点を見せないように緊張しながら接していたせいでみんなの良いところがわからず、あんな失礼な人物評をしてしまったのだ。
「すみません、タクシー呼んでもらえますか?」
「はい。このセンターからお乗りになるなら呼べますが」
「お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢がタクシー会社に配車依頼の電話をかけてくれている間にセイカは考える。思えば自分だって、ミアレの人たちのことは表面的にしか知らない。自分も無意識のうちに「上位ランカーは強くて当然」だと思っていたのではないか。「強くて当然」な人たちが心底から困っている時に、頼ってもらえるほど信用されているだろうか。彼らが弱みを見せてくれても自分は動揺するだけで「こんなの、この人じゃない」と思ってしまうのではないか。
「セイカさん、タクシーが来ましたよ」
「あ、すいません。ぼーっとしてて。ありがとうございます」
受付嬢に声をかけられて我に返ったセイカがセンターの外を見ると、道路に一台のタクシーが待機していた。
「お気をつけて。いってらっしゃいませ」
「はいっ。必ず戻りますっ」
思わず大げさな言葉が出てしまったが本心だ。セイカはワイルドゾーン20とバトルゾーンを往復して暮らすようになってから久しくホテルZに帰っておらず、ルージュ地区にあるポケモンセンターを拠点にしている。このセンターは、セイカにとって我が家も同然だ。
「セイカさまですね。どちらに行かれますか?」
セイカがタクシーに乗り込むと運転手に行先をたずねられた。気がつけばセイカは、名乗る前に名を呼ばれるほどの有名人になっていた。これもプレッシャーのひとつではあるが、ミアレに受け入れられた気分になれるので悪い気はしない。
「ホテル、シュールリッシュへお願いします。ユカリさんを待たせてるので、急ぎでお願いしますね」
セイカは無意識にユカリの名を出していた。脅しに聞こえなくもない不穏な言い回しだが、普段から不穏な言動ばかりする人々に囲まれているセイカには違和感がなく、運転手を震え上がらせていることには気づいていない。セイカには一片の悪意もなく、ただ探偵マチエールの「ミアレでは依頼人の名を出したほうがうまくいく」という教えに従っただけだ。
「は、はいっ」
ホテル・シュールリッシュ創業者一族令嬢ユカリの名をきいたとたんに運転手は背筋をのばし、アクセルを踏み込んでタクシーを急発進させた。万が一セイカを遅刻させようものなら自分の責任にされてしまい、無力なタクシー会社は自分を解雇するだろう。失業者にならないため、MSBCに睨まれないため、明日もミアレで暮らすために。セイカを乗せたタクシーは制限速度ギリギリの猛スピードでシュールリッシュへの最短ルートを突き進む。
「信号は守ってくださいね。あと、時間制限はないので気にしないでください」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ。時間の約束をしてるんじゃないんです。ただ、すぐにむかいますと言っただけで」
「よけいに悪いじゃないですか‼」
「人をはねるよりマシでしょう。信号、赤ですよ」
「!!」
運転手はすんでのところでブレーキを踏み、タクシーは急停車した。危うく横断歩道に突っ込むところだった。
「あ、ありがとうございました…速度と信号は厳守します」
「ええ。安全運転でお願いします」
「だったら、ユカリ様のお名前を出さないでください。ミアレの住民は肝を冷やしますよ」
「すみません、適度に急いでほしかったもので」
「かしこまりました。それでは、制限速度内でとばします」
運転手は言葉通り、制限速度上限いっぱいで運んでくれたのでセイカはものの10分ほどでシュールリッシュの前に着いた。
「すごい! さすがプロですね! ありがとうございました。代金はちょっと待ってくださいね。ユカリさんに払ってもらいますんで」
「そ、そうですか…まあ、お知り合いなら…」
運転手としてはユカリに関わりたくないので一刻も早くこの場を去りたいのだが、多めにチップをもらえる機会を逃すのは惜しい。しかたなしに停車ランプをつけたまま待機し、セイカが電話をかけるのを見守る。ミアレの住民多しといえどユカリの連絡先を知る者はそういない。
「ユカリさん、ホテルの前に着きました。タクシーのなかで待機してるので、代金は払ってもらえますか?」
「もちろんでしてよ。今、ハルジオに持っていかせます」
「ありがとうございます。腕のいい運転手さんのおかげで早めに着けたので、チップは多めにお願いしますね」
「わかりましたわ。それではまたあとで」
「はい」
セイカがタクシーのなかで待つこと3分。見慣れたホットパンツ型メイド服を着たハルジオがホテルの正面入り口から走り出てきた。長い三つ編みがなびく様はとても絵になっている。ユカリはこの効果を狙ってハルジオの髪型を決めたのだろう。
「お待たせいたしました、セイカさま」
「今はお仕事モードなんですね。まだ捜索に出てなかったんだ」
「それで、料金はおいくらでしょうか?」
「そういえばまだきいてなかった。運転手さん?」
「あ、はい。に、二千円です…」
「さようですか。ユカリさまからは『言われた金額の10倍を払うように』と言われていますので、2万円お支払いしますね。少々お待ちを」
ハルジオはポケットからクレジットカードを取り出したのでセイカは驚いた。てっきり札束を取り出すと思っていたので意外だ。このクレジットカードがユカリ名義のものだとしたら、ユカリは自分のクレジットカードを他人に預けられるほど神経が太いのだろう。
「クレジットカード決済でお願いいたします」
「かしこまりました。それでは、この端末にタッチをどうぞ」
ハルジオは運転手に差し出された端末にクレジットカードを接触させ、支払い金額を入力して決定ボタンを押す。労働者にチップを払うミアレでは、ただタッチしただけで決済されることはまずない。チップが不要なのはバスとスーパーマーケットと美術館くらいだ。その他の商店ではチップが必要なので、支払い金額は客が自ら入力することになっている。今回は2万円だ。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
運転手の期待通り、今回のチップは相場よりもずっと多い。運転手はつい先ほどまでユカリに関わりたくないと思っていたことを忘れ上機嫌でシュールリッシュ前から発車し、タクシー乗場へ戻った。
「それでは、ユカリさまのところまでご案内いたします。予想よりお早くお着きになったので、ユカリさまはご機嫌です」
「それはよかった。わたしだって、あの人は怒らせたくないですから」
タクシーから降りたセイカはハルジオのあとについてシュールリッシュのエントランスホールに入る。いつも通り、お金持ちそうな観光客がたくさんいて、あちこちで歓談している。実に平和な光景だ。この人たちはきっと、サビ組か警察が踏み込んでこない限りのんきに話し込んでいるだろう。このホテルもセイカに守られたことは知りもせずに。
「ミアレの救世主」がここにいるというのに誰も見向きもしない。なんだか不思議な気分だ。もしかしたら、ユカリも他の街に行ったらこんな気持ちになるのかもしれない。ユカリだって、たまには「誰にも知られていない」場に行くべきだろう。今のセイカのように。
「ユカリさんもたまには他の街に行けばいいのに」
ハルジオとともに乗ったエレベーターのなかでセイカはつぶやいた。
「視察旅行なら何度もされています」
「それだってどうせ、同じ階級の人たちにしか会わないんでしょ。どうかと思うなあ」
「…」
ハルジオは沈黙した。今日のセイカは珍しくダウナー系というか、妙に批判的だ。しかし心配には及ばないだろう。さすがにユカリ本人の前で無礼な口をきくほどセイカはバカではないはずだ。
「着きました、最上階です」
ふたりを乗せたエレベーターは上品な到着音を鳴らして最上階に着いたことを知らせ、ゆっくりとドアを開いた。
「ユカリさま、セイカさまをお連れしました」
MSBCホールの真ん中、バトルコートの中心で待ち構えていたユカリにハルジオが報告した。
「ありがとうハルジオ」
メイドといえば使用人だろうに、ユカリはいちいちハルジオに礼を言う。ユカリの一族に代々仕えているメイドではなく、ユカリと個人的に契約している専属メイドだからか。
「セイカさま、お待ちしておりましたわ。お茶の用意はできていますから、どうぞおかけください」
ホールの奥にあるテーブルに、遠目にもわかるほど高いケーキスタンドが据えられている。大量のお菓子を用意してくれたようだが、そもそもお茶を飲むかどうかをきかないあたり、やはりユカリは独善的である。かりにも「セレブ」を名乗るのであればここは「お茶でもいかが?」ときいてほしいところだ。この短時間で準備したということは、お茶もお菓子も自分だけで勝手に決めてしまったのだろう。しかしそれを指摘したところで「セイカさまの好みは把握しておりましてよ」か、あるいは「わたくしのセレクトにまちがいはありませんわ」と返されるのがオチなので、あえて指摘しない。
「はい。どうも」
みんなに少しずつ弱みを見せてうちとけていこうと思っていたセイカだが、ユカリへの態度は変えなくていい気がしてきた。きっと、ユカリにとってセイカとのつきあいは一時の気晴らしにすぎない。セイカがミアレを去ればすぐに忘れるだろう。そんな人間に弱みを見せたところで脅迫の材料にされるだけだ。この点はカラスバも同じだが。サビ組への態度も変えないほうがいいかもしれない。
「うわ、近くで見るとすごい!」
ユカリとともにおとなしく席についたセイカが改めてケーキスタンドの内容を見ると豪華絢爛だった。5段もあるうえに、すべての段がお菓子かパンで埋め尽くされている。
「セイカさまが朝食を抜いてまでかけつけてくださったのですから。このくらいは当然でしてよ。ハルジオ、お茶をお淹れして」
「はい」
ハルジオがポットからカップへ紅茶を注いでくれた。もうすでに茶葉の抽出は終わっていたらしい。なんとも手際が良い。
「ありがとう。そういえば、まだ何も食べてませんでした。いただきます」
セイカはさっそくテーブルに置かれたトングを手に取り、ケーキスタンドからクロワッサンを取り皿へ移す。クロワッサンにかぶりつく前に紅茶を一口すすると、アールグレイのようだ。セイカの好みに合わせてくれたらしい。夜通しバトルしたあとで呼び出されて内心不機嫌だったが、大量かつ美味しそうなお菓子やパンを前にして機嫌がなおった。きっと、1階にあるレストランで出されているものから選んでくれたのだろう。たとえ好みからはずれたものでも、それなりに高級でおいしいにちがいない。
「お礼には及びませんわ。わたくしのセレクトではありませんから」
「あれ、そうなんですか」
手づかみでかぶりついたクロワッサンは香り高く、とてもおいしい。さすが、ホテルのレストランで出されているだけのことはある。
「ええ。うちのレストランでお出ししているものを、すべてお持ちしました。ですから、スタンドはもう一台、控えておりましてよ」
続いてパウンドケーキを一切れ取り、デザートフォークでつつきながら食べていたセイカにユカリは何気なく言った。セイカの聞き間違いでなければ、ケーキスタンドがもう一台あるという。
「まさかぜんぶ食べろなんて言いませんよね!?」
セイカは確かに空腹だが、さすがにケーキスタンド2台分をたいらげられる胃袋は持っていない。いくら食べ放題とはいえ、胃の容量には限りがある。かといって、食べ残してユカリの機嫌を損ねたくもない。ここはきちんとユカリの意図を確かめなければいけない。
「いいえ。わたくしはただ、お友達にひもじい思いをさせたくないだけでしてよ」
「え、お友達なんですか、わたし」
ユカリは出したものをすべて食べさせる気ではないとわかって安心したが「お友達」という表現には驚いた。てっきり、ユカリは友達が不要な人間だとばかり思っていた。
「あら、ご迷惑でしたかしら?」
ユカリが珍しく眉を下げ、悲しそうな顔をした。ユカリのこんな表情は初めて見る。ここで返答を誤ればミアレに留まることはできないだろうなどと計算する間も置かず、セイカは無意識に答えていた。
「いいえ。迷惑じゃありませんよ。たまに『押しつけがましいな』って思うことはありますけど」
「え、ちょっ、セイカさま!?」
「黙りなさいハルジオ。セイカさま、どうぞ続きを」
「どうも。えーと、悪意は感じないので大丈夫です。ユカリさんみたいなセレブからすると、他の階級の人をもてなす時点でリベラルっていうか、偏見のないほうなんだと思うし」
早くもパウンドケーキを食べ終えたセイカはスタンドからデニッシュを取り、かじりながら応えた。ユカリにはセイカを急かした自覚があるのだろう。普段着で会っても文句は言わなかったし、何も食べずにとんできたセイカを気遣って朝食を用意してくれた。よく考えれば、ユカリは「セレブ」にしては慈悲深い人間だ。
「ええ。実際、その通りでしてよ。わたくしは、階級を問わず強い方々とおつきあいしたいんですの。でも、お父様とお母様はユカリトーナメントに否定的でしたわ。『バトルのために下級市民とつきあうのはやめなさい』と叱られました。特に、サビ組のおふたりをお招きすることには猛反対されましたわ」
「それでも招いちゃったんですね」
「当然でしょう。わたくしが、他人の指示に従う人間に見えまして?」
「貴族って、親のいうことをきくもんじゃないんですか?」
「わたくしはわたくし自身にしか従いません」
「そ、そうですか…」
ユカリの生活態度にはかなり問題がある気がする。この調子だと、おそらく縁談も片っぱしから断っているだろう。ユカリが一人っ子ならいいが、兄か姉でもいて跡継ぎの心配がないのなら、そのうち両親から縁を切られてしまうかもしれない。ご両親の寛容さがいつまで続くか見物だと思うが、言葉にすると無礼を通り越して侮辱なので口には出さない。そのかわり、テーブルのそばに控えているハルジオについて確認する。
「ハルジオさんは捜索に出さないんですか。まだここにいますけど」
「はじめはハルジオにも出てもらうつもりでしたけれど。他の者の給仕は受けたくないので、あきらめましたわ」
「ハルジオさんのこと、めちゃくちゃ気に入ってますね」
「ハルジオの給仕は完璧ですから。専門校に入学させたかいがありましたわ」
「学費を払ってまでメイドに仕立て上げたんですか!?」
セイカは、そろそろ生菓子に移ろうとシュークリームにのばしていたトングを思わずひっこめた。昔は不良だったらしいハルジオにメイドが務まっているのは不思議ではあったが、まさか専門学校に入学までさせていたとは。
「ええ。学費といっても大した金額でありませんでしたから、わたくしのポケットマネーから出しておきました」
「ということはハルジオさん、本物のメイドなんですか」
セイカは気を取り直してシュークリームを取りながらハルジオに確かめる。
「はい。入学を命じられた時は驚きましたが、おかげさまでメイドのスキルを身につけました」
ハルジオは、ユカリが学歴にまで干渉してくるとは思いもしなかった。しかし、いつかユカリの下を離れて生きていくのなら、手に職は必要だ。メイドのスキルは身に着けて損はなかった。
「そのおかげで自慢のドラゴンメイドになりましてよ」
「ど、ドラゴンメイドですか…なんか、オタクっぽい響きですね。ユカリさんの言葉とは思えない」
「サブカルチャーは若者のたしなみでしてよ」
「はあ…そういうもんですか。それで、フラダリさんはみつかりそうですか?」
小ぶりなシュークリームを食べ終えたセイカはケーキを吟味しながらユカリにたずねた。MSBCのメンバーを総動員したのだとしたら、そろそろFをみつけてくれるかもしれない。
「いまはまだなんの報告も入っていませんわ。一応、いしやとクエーサー社には見張りを立たせましたけれど」
「なんでその二か所に? 見張るならフラダリカフェでは?」
Fとフラダリが同一人物だと知っているのなら、フレア団関連施設の跡地を見張って当然だろう。浮浪者となった彼が、無人の空きテナントになっているフラダリカフェをみつけて生活拠点にしていてもおかしくはない。今日中に旅立つ気だとしても荷物を取りに現れる可能性はある。
たとえFがフラダリカフェでは寝起きしていなくても、カフェの奥にはフレア団が使っていたラボがある。最終兵器の自爆によって崩落した部分が多く研究拠点としては使い物にならないものの、建物としてはまだ使える。照明は点いているし空調も生きている。おまけにベッドまで残されているとなれば、本当にあそこで寝起きしていたかもしれない。
「ヌーヴォの方々と事を構えるつもりはありませんでしてよ」
「あそこがヌーヴォの拠点だって知ってたんですね」
「ええ。フレア団の残党を見過ごすほど愚かではありませんわ」
驚いたことにユカリは「ヌーヴォ」を名乗る者たちがフレア団の残党であることまで把握していた。見過ごさないというのは、要注意団体として監視しているという意味か。神出鬼没なユカリのことなので、もしかしたら本当にミアレじゅうを見張っているのかもしれない。
「さすがはユカリさん。情報力もすごいですね」
「当然でしてよ。わたくしは、ミアレのために動くセレブですから。常日頃から、ミアレ住民の動向を視ています」
セイカはようやく理解した。カラスバがユカリの招待に応じてわざわざトーナメントに参加した理由を。ミアレにおいて、ユカリの監視をくぐり抜けられる人間などいないからだ。下手に「先約がある」などと嘘をつき、その日に外出しなかったら、すぐにばれる。ミアレじゅうに監視網を持つお嬢さまに嘘は通じない。嘘が通じないから気乗りしなくてもおとなしく参加するしかなかったのだろう。いざとなったら警察まで動かせる、合法権力者ユカリの機嫌を損ねないために。
「それで、なんでいしやとクエーサー社なんです?」
セイカはスタンドから取ったオレンジのムースケーキをつつきながら質問する。オレンジムースケーキを選んだのは、柑橘系のほうがアールグレイに合うと考えてのことである。シメはチョコレート系にしよう。
「メガストーンが手に入る場所だからですわ。キーストーンさえ見せれば、ミアレでは誰でもメガストーンが買えますから」
「なるほど。旅立つ前に戦力を増強しようとしたら、どっちかに現れるかもですね」
言われてみれば可能性はあると思いながら、セイカはスタンドを横目で見た。シメはチョコ系とは決めたものの、エクレアとザッハトルテ、どちらがいいだろう。
「ええ。フラダリ様が、ろくな戦力も連れずに旅立つことは考えられません。そこまでうかつな方ではありませんでしてよ」
「伝聞ですけど、フラダリさんって、ミアレを壊そうとした人じゃないんですか? 世界を滅ぼしたかったとして、真っ先に故郷を対象にしたような人が、思慮深いとは思えませんけど」
セイカは選んだザッハトルテを取りながらコメントした。フラダリという人物は一部では尊敬されているようだが、あのラボで聞いた「平和のためには命の数を減らすしかない」というメッセージからはとても思慮深さは感じられなかった。セイカには、かつての彼が尊敬されていた理由がわからない。
「まあ。セイカさまは怖いもの知らずですのね。さすがは旅行者ですこと」
ハルジオの顔は青ざめていてユカリは愉快そうに笑っているが、セイカにはふたりの反応の意味がさっぱりわからないので素直にたずねる。
「どういう意味ですか?」
「ご存じないようですから、お教えしましょう。フラダリ様は、カロス王家のお生まれでしてよ。学業を終えられてすぐに、王位継承権を放棄されましたけれど。今でも王族のおひとりでいらっしゃることには変わりありません。家系図にもまだお名前がありましてよ」
「そ、そうだったんだ…ぜんぜん知りませんでした」
セイカは思わずザッハトルテをつついていた手を止めた。まさかFが元王族だとは思いもしなかった。今の、平気でボロを着ている様子からは想像もできない。もしかするとカラスバも知らないことかもしれない。
「カロスにおいて、王族を批判したらタダでは済みませんわ。覚えておいてくださいね」
「まさか、あの人がまだ捕まってないのって…」
「王家がカロス警察に命じたからですわ。みつけても逮捕するなと厳命されたそうです。ご子息が牢へ入れられるのをいとわれたからでしょう。さすがは王家、すばらしき親子愛ですわ。わたくしたちも見習わなければ」
「…それ、本心じゃありませんよね?」
ザッハトルテの完食を目指して再びデザートフォークを手に取ったセイカはユカリにたずねた。まさかとは思うが、ユカリはそんな法を無視した公私混同に心から賛同しているのだろうか。
「考えなしの親子愛には賛同しかねますが、フラダリ様はお美しい方でしてよ。あのように高貴でお美しい方が、牢や実験施設で生涯を過ごすなど、ありえません。ですから、王家のご命令はまちがいではありませんわ」
「いやまあ、確かに顔立ちの整った人ではありますけど。ユカリさんが絶賛するほどですか」
「容姿だけのお話ではありませんわ。あの方は、生き方までお美しい方でしてよ」
「…そうですか」
セイカはザッハトルテを完食し紅茶をのみほして朝食を終えたが、これ以上の言葉はみつからない。Fの過去をよく知らないこともあるが、すべてを平等に焼き尽くそうとしたことを「美しい」と評するユカリの感性もわからない。ユカリにも、何か焼き尽くしたいものがあるのだろうか。
「逆におききしたいのですけど、セイカさまはなぜ、フラダリ様にお会いしたいのかしら? 先ほどまでのお話では、とてもフラダリ様の支持者とは思えないのですけれど」
「そういえば、なんでだろ。ボロボロの服が心配だから? ジガルデを完成させてくれたお礼を言いたいから?」
セイカはハルジオがカップに紅茶のおかわりを注いでくれているのを見守りながら首をかしげた。言われてみればセイカとFには大した接点がない。かつての彼を恩人や名士とみなしてあおぐ人たちはともかく、セイカ自身には彼を慕う理由がない。
「どちらもちがいましてよ。きっとあなたは、フラダリ様について行きたいのでしょう」
「そうなのかな…」
「自分はここにいてはいけないと思われているのでしょう。なぜならあなたは、人間ではないから」
「え!?」
予想外の言葉に驚き固まってしまったセイカの懐からロトムスマホが飛び出し、カラスバからの着信を知らせた。アプリではなく電話の着信音が鳴り響いている。
「この着信音は、お電話ですわね。どなたかしら?」
「カラスバさんですけど、あの、さっきの話は」
「またのちほど。まずはお電話をおとりください。カロスでは、3コール以内に応答しないと死刑でしてよ」
「マジですか!?」
道理でふたりとも即応してくれたわけだと、一瞬は納得しそうになった。冷静に考えればそんなはずはないがカラスバを待たせるのは良くない。セイカは急いで応答した。
「…呼び出し音が3回鳴ったで。危ないやん。次からは気ぃつけや。4回めが鳴ってしもたら死刑宣告やで」
「ユカリさんの冗談ではなくて!?」
「冗談ちゃうで。セレブとサビ組にはリンチが許可されとるからな。裁判抜きで殺してええことになっとるから、気ぃつけや」
「わかりました、けど…」
「けど?」
「あとでジプソさんに確認します」
「冗談ちゃうって言うてるやん。セイカ、おれの言うこと信じられへんの?」
「はい。ジプソさんも同じことを言ったら信じますけど」
「なんでやねん。相変わらず直球で失礼なやつやな。まあええわ。とりあえず報告な。フラダリさん、捕まえたで」
「捕まえた!? みつけた、ではなくて!?」
「おまえが言うたんやん。顔だしたら捕まえろって。うちの事務所に来てくれたさかい、ロズレイドのツルで縛ったで」
「Fさん、けっこう強いですよ!? よくそんなことが…」
セイカにはふたつの意味で予想外である。ひとつは、カラスバが恩人に手をあげたこと。もうひとつは、あの凄腕トレーナーFがあっさりと捕まったことだ。Fの手持ちが主人の危機を見逃すはずがないので、カラスバがバトルでFの手持ちを全滅させたあとでなければ捕縛することはできないだろう。しかし、失礼ながらカラスバがFに勝てるとは思えない。まさか、茶に毒でも入れたのだろうか。
「おまえの考えはお見通しやで。大方、おれがフラダリさんに毒でも盛ったと思てるんやろ」
「ちがうんですか?」
「ちゃうで。エレベーターから降りたところを不意打ちしたんや。まさかロズレイドが天井にはりついてるとは誰も思わへんからなあ。あっさり捕まったんやけど、その時のコメントがまた笑えるで」
天井にはりついてエレベーターの真上で待機していたロズレイドは、見慣れぬ人物が降りてきたとたんにトゲのないツルをのばして巻きつけ、その人物を捕まえた。ツルに捕らわれたFは最初こそ驚いた顔をしたものの怒りや恐怖は見せることなく、天井から飛び降りてきたロズレイドを褒めたたえた。Fいわく、カラスバのロズレイドは「ミアレ屈指の美しさ」らしい。着地の姿勢が美しく、肌にツヤがあり、花の発色が良く、香りは上品である。そのうえ、トゲのないツルを使えるほど知能が高い。
「うちのロズレイド、照れ屋やねん。せやから、ほめられるのは苦手なんや。フラダリさんの時なんか、ほめられすぎて困った顔してたわ。危うくこんらんになるところやったで」
ロズレイドはFを傷つけてはいないが、ツルを巻きつけて両腕を封じた。それなのにFは怒った顔ひとつせず、穏やかに言葉を重ねてロズレイドをほめるものだから、ロズレイドは反応に困ってしまったのだろう。人間だって、捕まえた相手からほめられたら混乱するにちがいないのだから。
「言葉だけでポケモンを混乱させるとは。Fさんすごいですね」
「ぜんぜん怒らへんのな、あの人。感情までなくしたんかと思ったら、おれのロズレイドを大絶賛しはって。昔よりもわけわからん人になっとったわ」
「それで、今はどうしてるんです? Fさんは。まさか、まだぐるぐる巻きのままですか」
「そんなわけないやろ。今はお着替え中や。ジプソが手伝うとる」
「Fさん、着替えてくれたんですね。断られませんでした?」
「いっぺんは断られたけどな、説得したんや。この世にあと100本しかないワイン見せてな。着替えてくれへんかったら、この酒を叩き割って床のシミにしますけど、それでもええですかって」
これを聞いたハルジオはまたしても青ざめ、ユカリはまたクスクスと笑い、セイカは驚愕した。まさかカラスバが恩人まで脅すとは思わなかった。カラスバは目的のためには手段を選ばない人間らしい。
「思いっきり脅してるじゃないですか! 説得って言いませんよそれは!」
「美食家はわかりやすくて助かるわ。ちょっとええ酒みせたら、すぐにおとなしくなるさかい。高い酒は、自分で飲むもんやない。脅しに使うもんや」
「自分で脅しって言ってるじゃないですか」
「裏社会では、脅迫のことを説得って言うんや。覚えとき」
「わかりました。覚えておきます」
「着替え終わりはったみたいやな…ほな、三人でそっちに顔出すわ。ヌーヴォの連中にはそっちにむかうように言うてあるから。ぼちぼち着くやろ。みんなで待っときや」
「横から失礼しますわ、カラスバさま。わたくし、そのワインに興味がありますの。よろしければお持ちいただけませんこと?」
Fがシュールリッシュよりも先にサビ組の事務所へ立ち寄ったことにはノーコメントで沈黙を守っていたユカリがついに口を開き「この世にあと100本しかないワイン」を所望した。
「ソムリエとツマミ、用意してくれるんやったら持って行ったるけど」
カラスバはあっさりとユカリの要求に応じた。おそらく、あまりにも高級なワインを持て余していたのだろう。ユカリにその存在を匂わせれば飲みたがることを見越して、自分とFも適切な状況でこのワインを飲めるように誘導している。相手に「利用されている」と思わせず密かに目的を達成するあたり、さすがはカラスバだ。
「もちろんご用意しますわ。グラスも最高級のものをそろえておきますから、どうぞお早めに」
「言われんでも直行するわ。人を急かすのもいいかげんにしときや」
カラスバがユカリをたしなめる。その口調は子を叱る親のようだ。カラスバからするとユカリはわがままな少女にすぎないのだろう。少なくとも権力者に対する態度ではない。呼び出しには応じても口調を改める気はないらしい。
「これは失礼いたしました。それでは、またのちほど」
ユカリがまるでスマホの持ち主のように画面に手を振ったのを見て、セイカは小さくため息をつきながら通話を切った。
「セイカさまとカラスバさま、お手柄ですわ。カラスバさまへのお礼はソムリエとアペリティフで良いとして。セイカさまは何がお望みかしら?」
ユカリはワインの専門家である人間を表す「ソムリエ」という語と、酒のツマミを表す「アペリティフ」という語を同列に扱っていて何気なく怖ろしい。ユカリは本人が思っているよりもかなり差別的な人間であることがうかがえる。
「えーと。できるだけ穏やかな別れ、ですかね」
もうすぐこのホールで、我が強く腕の立つトレーナーが一堂に会するのだ。何事もなく穏便に解散できれば上出来だろう。元はと言えばセイカがカラスバに知らせたことが始まりだが、早くも事態はセイカの手を離れつつある。Fの使命が美しい世界をつくることなら、セイカの使命はFを無事に旅立たせることだ。
「まあ! なんて無欲な方ですこと! それでは、わたくしからのお礼はお洋服にしましょう」
「もしかして、普段着で来たこと、怒ってます?」
「そんなことはありませんでしてよ。それは団員のユニフォームですから、普段着ではないでしょう。怒ってはいませんわ。ただ、わたくしが見立てたものを着てほしいだけです」
「…わかりました、着替えますよ。どうせもう用意してあるんでしょう」
「もちろん、お着替えは用意してありましてよ。ですが、朝食はもうよろしいのかしら? もっと召し上がってくださいな」
「今から着替えないとFさんの到着まで間に合わないでしょう。ごちそうさまでした。ハルジオさん、案内してください」
「かしこまりました」
セイカは再び紅茶を飲み干してから席を立ち、ハルジオの後についていく。
「どうぞこちらへ」
ハルジオが足を止めたのはホールの壁際に立てられた金色の衝立、いや、金屏風の前だった。ユカリには屏風と衝立の区別がついていないのか、あるいはわざと屏風を衝立のかわりにしているのかもしれない。セレブの趣味はいまひとつわからないが、カラスバには叱られそうな使い方だ。
「お着替えはこの裏にご用意してありますのでお召しください」
「はい。それじゃ、カラスバさんたちが来たら教えてください」
「いえ、お手伝いするように言われていますので」
ハルジオはセイカと一緒に屏風の裏にまわった。本当に着替えを手伝えと命じられているのもあるが、ここまで来ればユカリに聞かれることなく会話ができる。
屏風の裏は更衣室のように整えてある。チェストとハンガーラックを置き、多めにハンガーをかけておいたのでセイカが脱いだ衣類の置き場所には困らない。
「悪いなセイカ。好みでもねえもん着させちまって」
ハルジオはセイカが脱いだ順に帽子・ロゴマーク入りブルゾン・白いTシャツを受け取ってハンガーにかけながら素の口調でユカリの横暴さを謝った。MZ団のロゴ入りブルゾンは団員の証だから思い入れがあるだろう。おまけにポーチはガイから、帽子と靴はピュールからもらったものだときいている。セイカは服装のこだわりがないからこそ、人からもらったものを身に着けているのだ。ハルジオはセイカの気分を害してしまったのではないかと心配している。
「いいんですよ。ユカリさんの命令じゃしかたないでしょ」
「そりゃそうなんだけどよ。ユカリさま自身はいつも同じ格好なんだぜ。クローゼットには、おんなじ服がズラッと並んでるんだ。初めて見た時はびびったぜ」
「マジですか。ということはあの服、普段着なんですね。てっきりバトルウェアだとばかり…」
通常の生地ではポケモンが技を放った時、その余波に耐えられず避けてしまう。そこでアパレル各社は撥水生地、防火生地、絶縁生地、防毒生地など、バトル専用生地を開発した。アパレル各社はこれらの生地を使ったウェアを街着とは別にバトルウェアとして販売している。トレーナーはバトルウェアの専門店か、ブティックにあるバトルウェアコーナーからウェアを選ぶ。
しかしこれはあくまでも一般トレーナーの話である。四天王やジムリーダーなど専門タイプを持つ者はそれぞれのタイプに合わせた特注品を着ていることが多いのでユカリもそうなのだと思っていた。
「いや、普段着は普段着なんだよ。ただ、常日頃バトルウェアを着てるってだけで」
「うわあ。ユカリさん、意外とバトル狂ですね。いつも道着のシローさんみたい…だけど、この街だと違和感ないかも。ブティックに置かれてる服、よく見たらぜんぶバトルウェアだし」
ミアレのブティックで何度か買い物して気がついた。買った物すべてに「バトルウェア認定品」のタグがついていることに。一着数千円の安価な服にもバトルウェアのタグがついていることに驚き、ミアレではバトルウェアでない衣類の販売が禁じられているのかと思った。
「気がついたか。実は、それもユカリさまの命令なんだ。ミアレのトレーナーを強くするため、どこでもバトルウェアを買えるようにしろって…」
「ミアレの全ブティックがユカリさんのわがままに従ったと!?」
「わがままだと思うか? ご本人的には改善のつもりなんだぜ。おかげでブティック目当ての観光客も増えたし」
「そういうもんですか…で、わたしが着るものは? もうジーンズ脱いでいいですか」
「っと、ああ。悪い。もう脱いでいいぞ。おまえが着るのはこれだ」
「え、めっちゃドレスじゃないですか!?」
ハルジオが3段チェストの中段から取り出してセイカに見せてくれたのはノースリーブかつオフショルダーのロングドレスだった。今回の主賓は元王族とはいえ、ここまでしっかりした礼装を求められるとは思わなかった。
「重要なのは、ドレスだってことじゃない。袖もポケットもないことだ」
「え、どういう意味…」
「いいからジーンズ脱げ。着せながら話すから」
「あ、はい」
セイカはジーンズを脱いでハルジオに手渡す。ハルジオはそれを受け取ってハンガーにかけ、下着姿になったセイカにドレスを着せにかかる。
「いいか。よく聞けよ。はっきり言って、ユカリさまはおまえを信用してない。だからこのドレスには袖もポケットもないんだ。こうすりゃ、モンスターボールが隠せないから。ボールはミニバッグに移してもらう」
言いながらハルジオはセイカに着せたドレスの背面ファスナーを閉めた。ロングドレスといっても結局はワンピースの一種なので、下からはかせて背中のファスナーを閉めるだけで着せられる。ロングドレスへの着替えはあまり時間を要しない。
「ボールを移すのはいいですけど…信用されてないって、どうして? さっきはお友達って言ってくれたし、あの時は手伝ってくれたのに」
「あの時はミアレの危機だったし、おまえはフラダリ様に信頼されてたから。ユカリさまはミアレとフラダリ様のために、おまえを見逃してきた。本当はずっと、気に食わなかったのに」
「…それって、わたしのこと『人間じゃない』って言ったのと関係あります?」
「たぶんな。ユカリさまはフェアリー使いだから、おかしなものの気配に敏感なんだ。おまえのこと、人間でもポケモンでもないって言ってた」
「そ、そんなわけない、わたし、わたしは…」
実を言えばセイカにはミアレに来る以前の記憶がまったくない。気がついたら荷物を持ってミアレ駅にいたのでとりあえず外へ出たらガイが声をかけてくれてMZ団のメンバーになり、今に至っている。セイカ自身「自分は人間である」という確信はないが、そのことはあえて考えないようにしてきた。記憶がないことを隠し続け「みんなに人間とみなされているうちは人間だ」と自分に言い聞かせてきたのに、ついに「人間ではない」と言われてしまった。どうすればいいのだろう。
「セイカ、おちつけ。うちはおまえの体のつくりなんて気にしない」
「わたし、ただの人間かもしれないじゃないですか!」
「いや、残念ながらそれはない。ユカリさまの勘ははずれないし、趣味の悪い冗談は言わない。ユカリさまが人間じゃないって言ったやつは、本当に、人間じゃないんだ」
「そんな…」
「それでも、うちはセイカを信じる。おまえはあの時、あのバケモノを倒して、ミアレを守ってくれた。おまえの出自がどうあれ、うちはおまえを信じる」
「ハルジオさん…ありがとう」
セイカの目から涙がこぼれた。
「涙をふけ。ユカリさまの前で気を抜くな」
ユカリはセイカを警戒しているが、MZ団を敵だと思っているわけではない。ひとつ、MZ団はミアレに害をなす集団ではない。AZの息のかかったMZ団はむしろ住民を守る一団であり、ミアレの治安維持の一端を担っている。だから、よそ者の集まりでも見逃してきた。ふたつ、万が一、MSBCとMZ団が敵対することになっても問題ない。デウロとピュールは怖れるに足らないし、ガイは今やクエーサー社の社長見習いだ。たとえセイカを傷つけられても独断で動ける立場ではなくなった。ガイは確かに強いが単独で殴り込んでくることはまず考えられないし、たとえ殴り込まれてもユカリならば勝てない相手ではない。以上、ふたつの意味でユカリはMZ団を敵だと思っていないので、いざとなれば構成員のセイカを消すことに迷いはない。それが、ミアレにとって最善だと判断したならば。
「おまえはミアレの害になるって判断されたら、消されるぞ。わかったか?」
「わ、わかりました…えと、バッグは…」
「ミニバッグはこれだ」
ハルジオはチェストの上段からミニバッグを取り出し、セイカに手渡した。掛金は金色で高級そうだが本体は黒くて四角く、あまりドレスには似合わなさそうだ。セイカはパーティ用のミニバッグを初めて見たが、バッグというよりポーチのような大きさである。
「これにボール6個も入りますか? ギリギリだなあ」
「おまえ、6個ともいつも上着に入れてるだろ。懐に入るものがそれに入らないわけねえよ。いいからさっさと入れな」
「はい」
「話し込んじまったな。時間かかったわけをきかれたら、靴のことでもめたって言っておけ」
「あ、そういえば、靴はかえなくていいんですか」
「おまえにハイヒールは無理だ。絶対に転ぶし、そもそも立てないだろ。イヤだから断ったって言え」
「わかりました。髪型は?」
「おっと。忘れてた。髪飾りつけろって言われてたんだ。これ」
ハルジオがまたチェストから取り出したのは白い百合を模した髪飾りだった。
「髪型はそのままでいいから、向かって右上につけろって言われてたんだ。セイカ、じっとしてろ」
ハルジオのほうが高身長なのでセイカを座らせる必要はない。ハルジオはセイカを立たせたまま、セイカの正面にまわった。指示通り、顔にむかって右上に髪飾りをつける。
「盗聴器つきですかね」
「発信機かもしれねえぞ」
「何か仕込まれてることは否定しないんですか」
「可能性はあるからな。シュールリッシュにいる間はおとなしくしててくれよ。頼むから」
セイカには伝えないが、ハルジオはユカリから「味方のふりをしろ」と指示されている。それに従って演技するべきなのはわかっているが、ハルジオ自身、セイカを信じたいと思う。できることならMZ団と対立したくないしセイカを攻撃したくもない。
「わかってますよ。わたし、MSBCの拠点で暴れるほど無分別じゃありませんから」
「マジで頼むぞ。おまえに味方してるって知られたら、うちの身が危ないんだからな」
「わかってます、わかってますよ。それじゃ、行きましょう」
セイカがドレスを身に着けミニバッグを持ってハルジオとともに金屏風の後ろから出ると、ヌーヴォのふたりが仕事着のままユカリとお茶をしていた。ハルジオとセイカが気づかないうちにエレベーターから降りてきていたらしい。ふたりとも仕事着のままということは、カフェの営業を中断してまで駆けつけてくれたのだろう。
「セイカさん。お先にいただいています。ここのクロワッサンも、なかなかおいしいですね」
バトルの時には険しい顔で陰を見せるグリだが普段の口調は丁寧で礼儀正しい。カフェで出しているクロワッサンはお手製とのことなので、今はあえて他人がつくったクロワッサンを食べて勉強しているらしい。相変わらず真面目な性格だ。
「いえ、おかまいなく。わたしこそ、先に食べたので」
「セイカか。一瞬、どこのお嬢さまかと。なんか、妙にめかしこんでるな」
グリーズはセイカが想像した通りの応えをくれた。おそらくカラスバも同じことを言うだろう。
「わたくしがセイカさまに、着替えてほしいとお願いしたんですわ。今日はフラダリ様にお会いする日ですから。王子様に失礼があってはいけません」
「王子様? 大げさだろ。そりゃ、元王族だとはきいてたけど」
「現王族でしてよ。あの方は、まだ家系図にお名前があるのですから。おふたりにも着替えてほしかったところですが、そろそろタイムアップですわね。エレベーターのランプをご覧くださいな」
セイカたちがエレベータードアの上についているランプを見ると、2階の位置が光っている。
「ほんとだ、もう着くな」
「みなさん、起立してください。フラダリ様のお越しでしてよ」
ユカリにうながされ、ヌーヴォのふたりが席を立つ。5人が見守るなか、エレベーターランプが3階を示した。エレベーターは上品な到着音を鳴らして来賓の到着を告げ、ゆっくりとドアを開く。
「お待たせ。みなさんお集まりやね」
ドアが開ききってすぐにエレベーターから降りてきたのはカラスバだった。服装はいつもの装飾過多な改造背広だ。普段のカラスバを見知っている者からすれば普段着と言えなくもないが、あの服装が「サビ組ボス」という立場を象徴している以上、カラスバが異なる服装で外出することは考えられない。一応は背広らしき形をしているので、おそらく彼は冠婚葬祭のいずれであろうとあの服装で出席するのだろう。
「フラダリ様、どうぞ」
大柄なジプソはエレベーターから半身を出してドアが閉まらないよう押さえながら、後ろにいるFに声をかける。
「ありがとう」
Fがジプソの横を通ってエレベーターから降り、ようやく主賓がホールに姿を見せた。意外にもFはカジュアルな服装だ。カラスバがFに用意したのはライダースジャケットだった。新品を身に着けているので世捨て人には見えないが、貴族にも見えない。どちらかというとバイク乗りに見えるし、ロックバンドの歌手に見えないこともない。
カラスバがあえて恩人にライダースジャケットを選んだのには理由がある。Fがフラダリと名乗っていた頃、初めて会った時の服装に近いものを選んだ。かつての彼はファー付きの革ジャケットを着ていながら襟元にはきちんとスカーフを巻いており、なんとも言えない服装をしていた。第一印象は「ロック歌手を目指して家出した貴族青年」だ。それ以外にこの奇妙な服装の説明が思いつかず、今でもカラスバの記憶に残っている。
「お待ちしておりましたわ、フラダリ様。あいにくとハルジオを迎えに出せませんでしたが、エレベーター係に不手際はございませんでしたか?」
ユカリはカラスバが見立てたFの服装にコメントする前に、迎えに不備がなかったかをたずねた。さすがのユカリも身分が上の相手に対しては態度を変えるようだ。ハルジオに全面の信頼を置いている分、他の従業員は信用できないらしい。
「お招きありがとう、ミズ・ユカリ。エレベーター係には問題ありませんでしたよ。そもそも、いっしょに乗っていませんから」
「まあ! なんてことでしょう。大変失礼いたしましたわ。まさか不在だったとは…」
「いや、エレベーター嬢は悪くないで。おれとジプソで降ろしたさかい」
「なんですって?」
カラスバの思わぬ言葉に、ユカリは珍しく怒りをあらわにした。ハルジオの顔がひきつり、ジプソはボスを守るべくカラスバの斜め前に立つ。カラスバはユカリの怒りにまったく動じず、エレベーター係を降ろした理由を説明する。
「あのお嬢ちゃんが乗ったままやと、ソムリエの兄ちゃんとワゴンが乗せられへんかってん。重量オーバーのブザーが鳴ってもたから、お嬢ちゃんには降りてもろたで」
横暴といえば横暴だが妥当といえば妥当な判断だ。カラスバは反社会的勢力のボスであることを考えると他人のテリトリーで好き勝手にふるまってもおかしくはない。むしろ本領発揮である。
「そういうことですから、彼女のことは叱らないでください。ミズ・ユカリ」
「…かしこまりましたわ、フラダリ様。ソムリエ、アペリティフの準備をなさい」
「かしこまりました」
ジプソの後からワゴンとともにエレベーターを降りて待機していたソムリエが応え、ワインとアペリティフの準備にとりかかった。
「それではフラダリ様、こちらへどうぞ」
ユカリはFを特等席へ案内した。テーブルに真っ白なクロスがかけられた、バトルコートが一番よく見える席だ。セイカの時とちがってケーキスタンドは据えられていない。そのかわり、これからワインのつまみが山ほど出されるにちがいない。
「ありがとう」
Fがユカリに礼を言い、席についた。Fは王族の生まれだが、一貴族にすぎないユカリに礼を言っている。先ほどはエレベーターでジプソに礼を言っていた。出自の割には謙虚な態度だ。王族は王族でも自ら王籍を返上した身だからか、それとも単に彼の人となりなのか。
「で、おれの席は?」
ジプソとともに黙ってユカリのあとをついてきていたカラスバが問う。自分はFと同席して当然という態度がにじみ出ており、他のテーブルにつく気はまったくないことが伝わってくる。
「どうぞ、フラダリ様の右隣へ。ただし、従業員の邪魔はしないようにお願いしますわ」
「あたりまえやろ。おれがユカリ嬢のメイドに手え出すかいな」
「それでしたらけっこうでしてよ。わたくしは左隣りに座りますから、セイカさまは、お向かいの席へどうぞ」
カラスバと同じくおとなしくユカリのあとについてきていたセイカだが、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「ちょっと! ユカリさん!」
「どうされました?」
「なんで席が四つしかないんですか! Fさんの身内はむしろ、ヌーヴォのふたりですよ! ふたりの席を用意する気がないんなら、私は座りませんからね! 着替えて帰ります!」
「そういや、セイカえらくめかしこんでるやん。さてはユカリ嬢に着せられたな?」
「今はそういう話じゃないでしょ!」
「おお、こわいこわい。そんで、どうしはるん? ユカリお嬢」
「…わたくしが悪かったですわ」
『!?』
ユカリ本人とFを除き、ソムリエを含めた全員がユカリの謝罪に驚愕した。ユカリは「自分の判断は常に正しい」と思い込んでいる人間だ。自分の案に不備がないか確かめることはめったになく、たとえ誤りを指摘されても認めることは少ない。しかし皆無でもないので、今回は珍しく己の不備を認めてくれたらしい。
「ヌーヴォのおふたりには、大変失礼しました。今すぐ、お席をご用意しますわ」
「おふたりのお気持ちはありがたいですが、けっこうです」
グリーズとともに黙って成り行きを見守っていたグリはきっぱりと断った。
「グリさん? どうして」
「この期に及んで丸テーブルにつかせようとすることが気に入らないからです。こういう椅子とテーブルを使うと、どうしても席次ができます。送別会にまで序列を持ち込むのはどうかと思いますね。セレブというと聞こえはいいですが、結局は差別主義者ですよ」
「グリ、それはさすがに言い過ぎ…」
「忘れたんですか? グリーズ。自分たちはフラダリ様の出立を見届けるために来たのであって、古いワインを飲みに来たわけではありません。おれは長椅子でけっこうです」
「そうだったな。じゃあ、わたしも長椅子に座る。こっちのほうが立ちやすいし。この顔ぶれで無事に済むわけないから、備えないとな」
「どういう意味やねん。言っとくけどな、おれもジプソもフラダリさんは引きとめへんで」
ジプソが黙って椅子を引き、カラスバは着席した。宴会にまで序列を持ち込むのが気に入らないのはよくわかるが、これ以上ホストを怒らせ主賓を放置するのはよくない。
「おれはむしろ、おまえらヌーヴォのほうがフラダリさんを引きとめるかと思っとったけどな」
「心外ですね。おれたちが、フラダリ様のご意志を無視するわけないでしょう」
「そう言ってくれると安心やね。で、ユカリ嬢は?」
ハルジオが椅子を引き、ユカリも着席した。セイカがどこに座るのかは本人に決めさせる。これ以上、主賓を待たせるわけにはいかない。早く席次を決めないとソムリエがグラスを置けず、グラスを置けなければワインを注ぐこともできない。
「わたくしも、フラダリ様を引きとめるつもりはありませんわ。立場上はそうするべきですが」
「ふうん。お嬢さんにしてはものわかりええやん」
「わたくしも、フラダリ様のご意志を尊重したいのです。カロスを出て広い世界をご覧になりたいのでしたら、お止めする理由はありませんわ。セイカさまは?」
セイカはモンスターボール入りのミニバッグをローテーブルに置き、長椅子でグリとグリーズの間に座っていた。積もる話のありそうな三人の会話に混ざるのは気が引けたからだ。
「わたしも、Fさんには無事に旅立ってほしいです…心細いですけど」
いくらMZ団の一員とはいえ学生でもなく観光客の体でホテルZに滞在しているだけのセイカにFは「ミアレの秩序を守る覚悟があるのか」「ジガルデにふさわしいトレーナーになれ」と言った。言われた時の印象は「悪意はなさそうだけどわけのわからない人」だった。一度バトルして初めて、美しい人だと気づいた。ジガルデ戦では見守ってくれて心強かった。できることなら、自分がミアレを発つ決心をするまで見守っていてほしかった。けれど「美しい世界を望んでいる」ときいて、留めるべきではないと思った。ミアレを出ればきっと、志を同じくする仲間がみつかるだろう。
「それが本心なら、ミズ・ユカリには連絡しないでほしかったですね。カラスバくんとグリにだけ挨拶したら、すぐにミアレを出るつもりでしたから」
「うっ。すみません」
「いや、それはおれが指示しましてん。ユカリ嬢にも手伝ってもろたら、フラダリさんを早くみつけられると思て。事務所に来てもらえるとは思っとらんかったもんで。すみませんでした」
「まあ、珍しい。カラスバさまの謝罪が見られたのは愉快ですわね」
「愉快なんかい!」
「ですが、わたくしを除け者になさるのはひどいですわ、フラダリ様」
「あなたと、あなたの一族のためです。王族を誘拐すれば死罪になるのはご存じでしょう。カロス刑法には時代錯誤なことに、連座制と死刑制が残されています。わたしを誘拐したと断じられれば、あなたと、母方の貴族家は首をはねられるでしょう」
『⁉』
またしても、ユカリとFを除いた全員が驚愕する。まさか、ユカリはそこまで覚悟のうえなのか。
「存じております。ですが、殿下を送り出すことも王室からのご命令ですので」
「…そうなのですか」
「ええ。ここから先の話は内密に。ソムリエ、そのワインはすべて、フラダリ様へ」
「かしこまりました」
聞いてしまうこと自体が危険な話になりつつあることを察したソムリエは急いで全員の前に足つきグラスを置いた。慎重にワインを開栓し、中身をFのグラスに注ぐ。100年前に1000本だけつくられ、あと100本しか現存しないワイン「ロマン・コネッティ1381」は王族にこそふさわしい。
「その一杯を注ぎ終わったら退出しなさい。残りはハルジオにまかせて」
「かしこまりました」
「今日、この場に誰が来たのかは口外しないように。口を滑らせたら解雇では済みませんでしてよ」
「承知いたしました」
ソムリエは内心で恐怖におののいていたが声もワインを注ぐ手も震えない。就業時間中はソムリエとしての強い職業意識が全身に行き渡っているからだ。
「ありがとう。怖ろしいめにあわせて申し訳ない」
Fはワインを注ぎ終えたソムリエに感謝と謝罪を伝えた。一従業員を巻き込んでしまったことは申し訳なく思っている。一市民が王族に関わるとろくなことがない。このソムリエの平穏な人生を祈るばかりだ。
「お気遣いに感謝いたします、フラダリ様。ハルジオさん、あとはよろしくお願いします」
「わかりました」
「それではみなさま、失礼いたします」
礼をしてエレベーターに乗り込むソムリエを、数人が手を振って見送った。
「フラダリさん。悪いですけどその酒、一口だけゆずってくれません? 実はそれ、サビ組が差し押さえたものですねん。借金のカタにとりあげまして」
「サビ組がミアレの夜を守っているのはわかっていますが、市民には手を出さないように」
「わかっとります。ただね、それは元々サビ組のもんなんで、おれにも味わう権利はあるかと」
「まあ。てっきり、フラダリ様のためにお持ちになったとばかり思っていましたわ」
「それもあるけども。おれかてたまにはええ酒のみたいし。ユカリお嬢は? 一口もいらんの?」
「わたくしはけっこうでしてよ。サビ組では持て余すでしょうから、お持ちいただきたくてああ言っただけですわ。ハルジオ、みなさんにアペリティフをお配りしなさい」
「はい」
ハルジオがワゴンに用意されたアペリティフの配膳をはじめた。まずは丸テーブルについている三人の前へ小皿を置いていく。
「なんや。ユカリ嬢、おれを利用したんか」
「ええ。お怒りになりまして? カラスバさま」
「誰もこれっぽっちのことで怒らへんて。無理やり開けたら、このワインがかわいそうやからな。世話してもろて助かったわ。ツマミもうまそうやし」
「そう言っていただけると助かります、けれど…フラダリ様、どうされました?」
Fはうつむき、左手で右目を覆っていた。よく見れば肩が震えていて、痛みを堪えているように見える。右目が痛むのだろうか。常に閉じられている左目とちがって、色素は薄くても健康そうなのに。
「フラダリ様、痛みますか? 体調がすぐれないようでしたら、すぐに医師を…」
「心配いりません…ただ」
Fの右目から一筋の涙が流れた。Fは左手で涙をぬぐい、言葉を続ける。
「あなたたちの成長が、うれしくて…」
『はい?』
あなたたちというのはおそらくヌーヴォとサビ組のふたりのことを指しているのだろうが、成長というのはどの点をさしているのだろうか。
「粗暴な少年が文化背景を解するようになり、遠慮がちな少年が自分の意見を述べるようになった。あなたたちが成長してくれて、わたしはうれしい」
Fが言及したのはカラスバとグリだ。カラスバは貧しい生まれでありながらワインの価値を理解し利用したこと、グリが気に食わないことをまっすぐに伝えたことを指している。
「…遠慮がちな少年って、グリさんのことですか?」
「たぶんな。グリは感情の起伏が少ないやつだったから。子供の頃は今より無表情で、心がないんじゃないかと思ってた。自分の意見とかぜんぜん言わなかったし」
「そんな心配をされていたとは知りませんでしたが…今はもう大丈夫ですよ。おれにだって自我はあります。自己主張もしてますよ。ほどほどにね」
「脅し方までほめられるようになるとは驚きやな…おれはただ、値の張る酒をおさえただけです。この世にあと100本しかない酒やっちゅうことは、手に入れたあとでわかったんですわ」
「それでも、あの脅し方は適切でした。裕福な人間を妬むばかりだったあなたが、相手の文化背景を理解して、脅し方を考えるようになった。相手が嫌がることを理解するのは、歩み寄りの第一歩です。道徳には多少反していますが、成長は成長でしょう」
「独特な視点のほめ方やな…さてはフラダリさん、自分の教え子はみんなかわいいんやね?」
「…そうかもしれません」
セイカは丸テーブルを見守っている。ハルジオは丸テーブルについた三人が話し込んでいる間にも淡々と仕事を続け、全員にアペリティフを配り終えていた。ただひとつ気になる点は、Fの前には一皿も置かれていないことだ。どうやらFはワイン以外のものを断ったらしい。その理由が「食欲がないから」なら、ユカリとカラスバに心配されているだろう。セイカも彼のことが気がかりだ。
「っていうか、いいのかセイカ。ユカリとカラスバに、フラダリ様のこと教えたのはきみだろ。みんながここにいるのはきみのおかげなのに、完全に蚊帳の外じゃないか。せっかくめかしこんでるのに」
「服のことにはふれないでください。これは、ユカリさんの不信の現れなので…グリーズさん、わたし、人間ですよね?」
「なに言ってんだよ。あたりまえだろ。誰かに言われたのか? きみは人間じゃないって」
「面とむかっては言われてないですけど…ユカリさんには疑われてるみたいで」
「恩知らずなやつだな。みんな、きみに助けられたのに」
「あの時はべつに恩を売りたかったわけでは…あるのかな?」
「おい。それはちょっと信用ならないぞ」
「わざとじゃなくてっ、たぶん、無意識に…」
記憶がないことが不安だった。信用されているという確信が持てなかった。それでもみんなはミアレのために集まってくれたから、みんなの前でジガルデとともにアンジュを鎮めて見せれば、警戒心の強い人にも受け入れてもらえると思った。計算といえば計算で、下心といえば下心だが意識にはのぼらなかった。
「もしかしてきみ、ずっと、信用されるために動いてたのか? ランク上げも、メガシンカ狩りも、探偵の助手も」
「狩りはしてませんよ、鎮めただけで…でも、他のことはそうかも」
「道理で八方美人な態度だったわけですね。なぜかいつもほほえんでいて、不気味でしたよ」
「グリが言うのかよ。きみだって『強いけど何を考えてるのかわからない』って言われてるくせに」
「何度きいても無礼な人物評ですね。心外です」
「まあ、グリさんのほうがわたしよりは信用されてるでしょうね…ミアレっ子でしょ?」
「ああ。わたしもグリもミアレで生まれ育った。でも、フレア団の2世だからな。信用度はたいしたことない。きみの問題は、生まれじゃなくて態度のほうだ」
「えっ。なにか、気に障ることしました!?」
「ほら。なにか言われるたびに、そうやって縮みあがる。いつもおどおどしてる。そのくせ、バトルの時は煽ってくるし。どっちが本性なのかわからなくて怪しいんだよ、きみは」
「あ、そういうことか…すみません。バトルとなるとテンション上がっちゃって、つい…」
「バトル好きは本当なんですね」
「はいっ。それはもう! 今はリワード戦100連勝を目指してて! 最近はチケットのために、バトルゾーンに入り浸ってます!」
「おっ。やっと本性見せたな。それが本当のきみか。バトルのこととなると、うれしそうに話すな」
「あ、すみません。つい大声で…」
「いいんだよ。あっちの、高貴な丸テーブル組のことはそっとしておこう。せっかくこっちにいるんだ。気軽に楽しめよ」
「いや、そうはいかなさそうですよ、グリーズ。フラダリ様が、ワインを持ってこちらへ来ます」
グリに言われて丸テーブルに視線を移すと、いつの間にかFが席を立っていた。その手にはキャンバス地のワインバッグが握られている。どうやら例のワインは飲み切られず、Fへの餞別になったらしい。
Fは長椅子のそばに立ち、ヌーヴォの二人に命じる。
「セイカと話したいことがあります。ふたりとも、席をはずしてください」
「はい。行きますよ、グリーズ」
グリーズがうなずき、二人は席を立つ。丸テーブルではカラスバが手招きしており、二人の席が用意されていた。このメンツで話す機会はそうないので、これはこれで有意義な時間になるだろう。
「失礼します」
「あ、はい。どうぞ」
Fがセイカの隣に腰かけた。主賓ではあるが接点の少ないFが、わざわざセイカと話しに来てくれたことをうれしく思うのと同時に、何を言われるのか不安でもある。
「ワイン、お持ちになるんですね。誰かへのお土産ですか?」
真剣な本題をきく前に他愛のないことを話したくて、セイカはワインのことをたずねた。
「そうです。王族の知り合いがいまして。彼も、このワインにふさわしい人ですから。いっしょに、カロスの宝を味わってほしいのです。一度開栓したものなので、文句を言われそうですが」
「Fさんに文句を? よほど親しい人なんですね」
「ええ。彼は歴史学者で、初めて会ったのは学会でした。語彙と性格に偏りはありますが、志の高い人物ですよ。今では大切な、わたしの仲間です」
「Fさんを待ってる人がいるんですね。ひとりじゃないんだ。よかった…」
「心配してくれたんですね。ありがとう」
「いえいえっ。わたしが勝手に心配しただけですから。あの服のままで行くのかな、とか、誰もついていかなくてもいいのかな、とか…Fさんのほうが大人なのに」
「いいんですよ。他人を気遣えるのは善いことです。あなたの心は美しい」
「あ、ありがとうございます。なんか、照れますね」
「…そろそろ、本題に入っても?」
「あ、はいっ。ど、どうぞ」
セイカは緊張した。Fの真剣な表情からして、よほど深刻な話らしい。
「突然ですが、あなたはミアレの通称を知っていますか」
「はい。一応は。たしか、歴史都市、でしたっけ。古都って書かれたポスターもありました」
「ええ。それでまちがいはないのですが…近年、王家からは別の名で呼ばれています。武装都市と」
「え、武装って、どういう…」
「反逆都市と呼ばれる日も近いでしょう。このまま、ミアレのトレーナーが強くなり続ければ」
「ど、どういう意味ですか…?」
「端的に言えば、陰謀論の一種です」
「陰謀論…?」
セイカにはまだ話が見えないが猛烈に嫌な予感がする。本音を言えばこの先は聴きたくない。しかし、聴かないわけにはいかない。
「ええ。その内容はこうです」
都市国家ミアレはカロス王国からの独立を企んでいる。プリズムタワーから放たれた光は王宮を狙ったものである。光が曲がったのは、誤った操作による誤爆である。
「よって、あの日の出来事は、未遂に終わった反逆である」
「反逆ですって!?」
セイカが応える前、派手な音とともに椅子を蹴り倒して立ったユカリが悲鳴のような声をあげた。ここまで動揺したユカリは初めて見る。
「フラダリ様‼」「もう一度‼」「はじめから‼」「説明を‼」「王宮がなんやって!?」「誤解ですわ‼」
丸テーブルについていた全員が席を立ち、青ざめた顔で冷や汗を流しながら口々に叫んでいた。
動揺する彼らを見てセイカは改めて認識した。これは現実なのだと。
「静粛に」
Fの一言で全員が口をつぐんだ。テーブルの上ではグラスがいくつか倒れており、テーブルクロスには水が広がって染み込んでいるが誰も注意していない。
「ありがとう。さて、困りましたね…住民には何も告げずに去る予定だったのですが」
「ちょっ、こんな重要なこと黙ってるつもりだったんです!?」
「ええ。カロスを出るわたしには、もう関わりのないことですから」
「あなたはミアレを守りたかったんじゃないんですか!? わたしに、ミアレの命を頼むって言いましたよね!?」
「あれは、ジガルデが動けば収まる程度の災害でしたから。さすがのジガルデでも、現代兵器を迎撃できるかどうかはわかりません。あれから二週間です。そろそろ、軍が動いてもおかしくは…」
「撃たれた時点で戦争じゃないですか‼ 何か、回避する方法は!?」
「そうですわ‼ なにか、必ず、方法があるはずです‼」
「なにか、というのは?」
「王家の疑いを晴らす方法です‼ なにか、あるでしょう!?」
「王家の疑いを晴らすことは困難です。なにぶんミアレは閉鎖的で、内でなにが起きているのか、外からはわからない。王宮から見たミアレの印象はこうです。何も備えることなどないのに、強いトレーナーがむやみと多い。彼らはいったい何を企んでいるのだろう、という…」
「そんな、言いがかりじゃないですか‼」
「特に自然災害が多いわけでもなく、あらゆる地盤が安定している都市で、住民を強くする理由は? やっとテロリスト集団が一掃されたのに、夜な夜なバトルゾーンが開催されている理由は? オヤブンなどという危険な個体を都市部に住まわせ、なおかつ無限に供給している理由は?」
「ンなもんクエーサーにきけや‼ おれらは、あいつらが提供したサービスに乗っかっただけや‼ ロワイヤルも‼ みんなが同じ基準で評価されたら平等やろ!?」
「警察が治安維持の一部を外部に委託している理由は? カラスバくん」
「ぐッ…」
カラスバは言葉に詰まった。サビ組が警察と組めるほど有名かつ信用のある組織になったことで満足していたことがまずかった。外部から見れば不審に思われることまでは頭がまわっていなかった。
「5年前、カロス王家の資金援助を断ってまで、外資企業クエーサーにミアレの復興をゆだねた理由は? ミズ・ユカリ」
「あの程度の災害で王家のお手を煩わせることのないようにですわ‼ それに、カロス企業にはどこも断られました‼」
「彼らに断られた時点で気づかなかったのですか? すでに疑われていると」
「彼らが断ったのは、フレア団の後始末をしたくなかったからでは…?」
「そんな子供じみた理由が真実のわけがないでしょう。世間知らずですね、グリ」
「でででもっ。なにか、なにかありますよね!? ぜんぶいっぺんに説明できる理由が‼」
「話を急いではいけません、セイカ。方法は三つありますが、どうしても犠牲が出ます」
1、実際に大災害を起こして「自分たちはこれに備えていたのだ」と言う。2、あれは通りすがりのテロリスト集団が起こしたことであり、自分たちは被害者であると言う。3、あれは純然たる事故であり、当事者の誰にも悪意はなかったのだと言う。
「さて、ここで問題です。どの説がもっとも説得力があるでしょう。セイカ」
「え? えーと…3番?」
「なわけあるかあぁぁぁ‼ 必要なんは事実やない‼ 王家が納得する理由や‼」
「その通りです。かといって1番は論外なので、ここは2番でいきましょう。おれの首を差し出します」
「グリさん!? どうして」
「おれが、フレア団残党の首領だからです。ヌーヴォはミアレを追われますが、ミアレは救われます」
「いけません、グリ。そんなことをすればヌーヴォの信用は地に落ちます。あなたの意志が完遂されない」
「なにいってんだ‼ フレア団の尻ぬぐいを押しつけて逃げようとしてるくせに‼ 他に方法なんかないだろ‼ わたしも出頭する‼」
「グリーズ、おれ一人で行きます」
「ダメだ‼ 弟を置いていく姉がいるわけないだろ‼」
「ヌーヴォのガキどもはひっこんどり。ここは、おれの首を差し出す。ジプソ、悪いけどおれと心中してや」
「わかりました。お供します」
「警察とつるんでる、エセ反社は黙ってろ。公権力のイヌにミアレを壊す利点はない。おまえらに悪役は務まらない」
「へえ。グリ坊も言うようになったやん。かばってくれとるん?」
「ちがう。あんたの首には価値がないって言ってるんだ」
「えらい言われようやな。おかげでええ案を思いついたわ。なにも、住民を差し出す必要ないやんな」
「あんた、まさか」
「そこにちょうどええのが一人おるやん。やたら強いよそ者が」
全員の視線がセイカに集まった。みんなじっとセイカを見ている。
「なあセイカ。悪いんやけどな、おれらのために死んでくれへん?」
「え、え?」
「なにも本当に死ねとは言わんって。社会的に死んでほしいんねん」
「社会的にって? もう少し具体的に…」
「そうやな、王宮に行って大暴れしてもらおか。そんで、ミアレを滅ぼそうとしたのは自分やって名乗りをあげて、捕まらんとトンズラして、そのまま行方不明になるってのはどうや?」
「どのクチが言ってんだこのクソ反社‼ セイカ、耳をかすな‼」
「ハルジオ!? あなたこそ、なんて口を…」
「うるさい‼ 観光客ひとり守れないでなにがセレブだ‼ あんたなんか仕える価値もない‼ セイカ、いっしょにミアレを出よう‼ な!?」
「や、でもっ、誰かが王宮に行かないとっ」
「だから、セイカが行けばいいやん」
「あんた子供を生贄にする気か‼ 見損なったぞ‼」
「見損なったもなにも。さっき、クソ反社て言うたとこやん…それで、セイカはどうしたいん?」
「え、わたし、自分の意見言っていいんですか?」
「ええよ。よう考えたら、住民の証言にはなんの価値もあらへんからな」
「その通りです。シュールリッシュはブルジョワ階級。サビ組は暴力団。ヌーヴォはフレア団の残党。この場の誰の証言も、王家にとっては信用に値しません」
「要するにやな、住民やと、誰が行っても『こいつ自分の都合でしゃべっとるな』って思われるだけなんや。よそ者のおまえだけなんやで。おれらとなんの利害関係もなくて、客観的なことが言えるのは」
「あ、そうか」
「せやから、王宮に行くんはセイカで確定。そのかわり、何をどう言うかはおまえの自由や。この際やから、嫌いなやつは売ってもええで。おれとか」
「冗談言うな。あんたがいなくなったらサビ組が消滅するだろ。ミアレの治安が悪くなる」
「そっちこそ冗談言うなや。暴力団がのさばってるほうが治安悪いやろフツーは」
「カラスバさま。こうなったら認めるしかありませんわ。ミアレはありふれた街ではないことを。だからこそ、疑われたのですわ」
「なるほどな。つまり、おれらが優秀すぎたせいで疑われたわけや」
「ええ。ミアレが輝きすぎたのが原因ですわ。むしろ誇るべきでしょう。ついに独立を疑われるほどになったのだと」
「ユカリさんポジティブすぎません⁉ 事態は深刻なのでは⁉」
「ええ。まちがいなく、かなり深刻でしてよ。ですからフラダリ殿下にも、王宮で証言していただきたいところです。殿下、これをお持ちください」
ユカリがどこからともなく取り出して見せたのは、ビロード張りの小さなケースだ。受け取ったFが開けると、中身は金色の指輪だった。
「これは…?」
「ご覧のように王家の紋章が入った、シーリングリングです。あいにくと金メッキですが、それが使われた封書は、すべて王室の親書として機能するそうです。お手紙にお使いくださいませ」
「なぜこんなものをあなたが持っているのですか」
「王室からのご命令とともに預けられました。殿下にお会いすることがあればお渡しするようにと、全カロス貴族におふれがありましたので」
「…そうですか。わかりました。これを身分証のかわりにして、王宮で証言しましょう。あれは事故である、と。ただし、条件があります」
「条件?」
「近々派遣されてくる調査団に、いっさい嘘はつかないこと。どんな質問にも嘘偽りなく答えなさい。わずかでも疑念が残れば、後日、ミアレが空爆されます」
『はい!?』
「もうそこまで閣議決定されましたの!?」
「ええ。調査団の報告内容を吟味し、疑わしい場合は空爆すると決定されました。軍が動けば、あなたたちの命はありません。さすがのホロ障壁でもミサイルは防げないでしょう。セイカ、みなの命を預かる覚悟はありますか? わたしたちの証言に、みなの命がかかっています」
「ううう…どうして毎度こんなヘビーなことに…」
「セイカ、今までのあなたは行動によって誠意を示し、信頼を得て、ミアレを守ってきました。しかし、王宮では証言しか許されません。言葉だけで誠意を伝えなければならない。あなたにそれができますか?」
「行動…そうか、行動! いいこと思いつきました!」
「なんですか?」
「わたしが持っている伝説のポケモンを、王室に献上しましょう! そうすれば疑いが晴れるはずです! 名付けて負けイヌ作戦!」
「なるほど。降参したヨーテリーのように腹を見せて恭順の意を示せば、王室に赦されると…」
「そういうことです。王族の人たちは序列社会に生きてるから、自分が最強になれば文句ないはず!」
「おまえ王族をなんやと思っとるねん! イヌっころとちゃうぞ!?」
「いいえ。セイカに一理あります。要するに彼らは自分たちよりも強いものが嫌いなだけなのです。伝説のポケモンを得られれば、カロスで最強になれる。何より、王室として箔がつきます」
「そういう問題ですのん? 伝説って、モノによっちゃ神さんみたいなもんやってきいてますけど。そんなお飾りみたいな扱いして、怒りまへん?」
「怒る? 誰がです?」
「いや、その、ポケモンの子らが。おれがポケモンやったらイヤやけど。飾りみたいにじろじろ見られたり、よその人間に見せびらかされたりするんやと思うと…」
「カラスバくん。この期に及んでポケモンたちを気遣うとは…」
「っ。すいません、つい…」
「本当に、成長しましたね。サビ組は暴力団だときいていますが、あなたは優しい。その優しさが損なわれないことを願いますが…セイカ、どうしますか?」
「うーん。カラスバさんの言うことも一理あるんですけど、今はこれしかないと思うので。それに、この子たちは強いですから。気に入らないところからは、きっと自力で逃げられますよ。大丈夫」
「それはそれで大丈夫やない気がするけども。とりあえず、その作戦でいこか。みんな、異論ないな?」
全員が黙ってうなずいた。今のところはセイカの案が最善に思える。兵器になりうるほど強いポケモンは時の政権に献上して恭順の意を示したほうが事態は丸く収まるだろう。
「ほな、セイカ、フラダリさんのことよろしくな。ちゃんとお守りしてや。あと、王宮で暴れたらあかんで。その子らは絶対にボールから出さんといてや」
「絶対に?」
『絶対に』
セイカを除いた全員の声が見事に重なった。ひとたび王宮でポケモンを放とうものなら反逆罪に問われるだろう。セイカもFも近衛兵ごときに捕らわれる者ではないが、その場は逃げきれてもミアレの疑いが晴れなければ、空爆は免れない。伝説のポケモンはけっしてボールから出してはいけない。
「その他の注意事項はフラダリさんからききや。王宮やと、作法とかいろいろあるさかい」
「ええ。そのあたりのことは、わたしが教えます…記憶はおぼろですが」
「…正直、いろいろ不安はあるけども。おふたりさん、頼んだで」
「はいっ。すべてはミアレのために!」
「問題は、この場の別れ方ですが。指名手配犯の逃亡幇助も重罪ですので」
『あっ』
数人から声があがった。そういえば、Fことフラダリは逃亡犯だ。カロス刑法だけでなく国際法でも罪に問われている現状では、彼は国際的な指名手配犯である。宴会のあとからして「ここにいるとは知らなかった」とは言えないだろう。かといってかくまうわけにはいかない。
「ここはひとつ、芝居をうちましょう。あなたたちはワインをエサにわたしを宴会へ招き、捕獲を試みたが失敗し、セイカをさらわれた、という内容の」
「なるほど。フラダリさんやったら、おれらをふりきれるかもな。ありえへんことやない。MZ団にはおれから連絡しとくわ。迫真の演技をお見舞いするで!」
「お願いしますわカラスバさま。ハルジオ、フラダリ様にコートをお着せしなさい」
「は、はいっ」
先ほど思いっきり無礼な口をきいてしまったハルジオは、ユカリが忘れてくれたことを祈りながらコートを用意した。Fが長椅子から立ち上がり、コートをはおる。
「ありがとう。いいコートですね」
「殿下にふさわしいように選んだ品ですわ。ご笑納くださいませ」
「わたしは王子といっても、傍流ですよ」
「それでも、フラダリ様が太子でいらっしゃることには変わりありませんわ。カロスの貴族一同は、殿下のご帰還を心よりお待ち申し上げます」
「…ありがとう」
Fがユカリに礼を言った瞬間に、ホテル・シュールリッシュが揺れた。カロスにしては珍しく地震だろうか。
「今の、地震ですか?」
「始まりましたね」
「え、なにが、まさか空爆!?」
「見ればわかりますよ。全員、屋上へ」
ハルジオの案内で全員がホテル・シュールリッシュの屋上へ移動する。セイカも、モンスターボール入りのミニバッグを持ってついていった。屋上からはプリズムタワーがよく見えるのだが、なぜか異変が起きていた。タワー上部、アンジュの頭部だった部分が崩落しているうえに、全体的に傾いている。
「プリズムタワーが斜塔になっとる。さっきの揺れはあれか。なにが起きたんや? フラダリさん、なにかご存じで?」
「相変わらず、せっかちで運転が荒い…もうすぐステルスが切れて、通信が入るでしょう。わたしの仲間たちから」
Fの言葉に疑問を抱きながらも一同がプリズムタワーをみつめていると、空中から銀色の戦艦が現れた。Fの言う通りステルス機能で姿を消してミアレ上空へ侵入したらしく、クエーサー社はまだ警報を鳴らしていない。
「うわっ なんですかあれ!?」
「わたしたち『ピースメーカー』の母艦、ネゴシエーター号です。わたしたちはあの船で、紛争地域を巡っています」
Fが持つホロキャスターが二ヶ月ぶりの着信を知らせて振動する。まるで、喜びに打ち震えているかのように。
「きましたね。彼らからの着信です。通話しますので、お静かに」
Fは懐からホロキャスターを取り出し、通話ボタンを押した。
「フラダリィィィッ アナタ、生きているならなぜ集合場所に来なかったんです!? おかげで街なかに乗りつけることになったッ このワタクシを待たせるとは、どんな神経をしているのです!?」
ホロキャスターが最初に映し出したのは長髪でモノクルをつけた男性だった。ヌーヴォの二人も知らない人物だが、開口一番に文句を言うとは無礼な人間だ。
「ちょっと、ゲーチス。久しぶりに会って最初に言うことがそれですか。まずは元気でいてくれたことに感謝しないと。ゲーチスがうるさくてすみませんね、フラダリ」
次に映し出されたのは眼鏡をかけて白衣のようなコートを着た男性だった。何やら独特な髪型をしているが、先ほどの長髪男とちがって常識的な人物らしく、まるで保護者のような話し方だ。
「いいえ。こちらこそすみません、アクロマ。送別会が長引いて、時間に遅れてしまいました」
「そうだったのか。きみが遅刻してくることはめったにないので、心配した」
三人目は若そうな男性だったが、髪は逆立ち頬はこけている。一見すると不健康そうだが、こう見えて健康なのだろう。声は震えていないし、フラダリのことを案じていたらしい。
「心配してくれていたんですね。ありがとう、アカギ。今日も、実験は失敗したんですね」
「ああ。残念ながら、感情の消去には失敗し続けている。そのおかげで、再会を喜べるわけだが」
「あなたの喜びの元になれてうれしいです。すぐに二人でテレポートしますから、甲板を空けておいてください」
『二人?』
ホロキャスターのむこうから三人の不思議そうな声がした。
「ええ。ここにいる、セイカを連れていきます。わたしたちをカロス王宮まで運んでください」
Fはセイカにホロキャスターをむけ、船にいる三人にセイカの姿を見せた。
「はあ!? そのバケモノをこの船に乗せる!? 冗談はやめなさい‼ お断りですよ‼」
セイカはびくりと肩を震わせた。ユカリから「人間ではない」という疑惑をかけられていたが、初対面の人間に「バケモノ」呼ばわりされて確信に変わる。やはり、セイカは人間ではないのだ。
「ゲーチス、二度と彼女を侮辱しないように。次に彼女を侮辱したら、あなたたちと縁を切ります」
「ぐッ…なにが、あなたをそこまで…その小娘がなんだというのですか!?」
「ミアレの英雄です。ジガルデに選ばれた、世界の調停者ですよ」
「調停者ぁ?」「ジガルデ!?」「あとで詳しくきかせてくれ」
ホロキャスターのむこうで三人が驚いているが無理もない。肩書きが大げさだし、秩序ポケモンが顕現するのは歴史的なことで、ジガルデが人間でない者をパートナーに選んだのは前代未聞だろう。
「そういうわけですので、彼女を船に乗せます。行先は王宮です。いいですね?」
「わかりました。それじゃ、お待ちしていますね、セイカさん。ジガルデに会えるのが楽しみです」
眼鏡をかけた男が笑顔で通話を切った。早くもジガルデに興味津々で上機嫌のようだ。
「わ、わたし、乗せてもらっていいんですか?」
「ええ。上背があって口の悪い男と、無口で人相の悪い男も乗っていますが」
「不安要素しかないですやん。セイカ、大丈夫なん?」
「間に入ってくれる男もいるので、大丈夫ですよ」
「さっきの、眼鏡かけた兄ちゃん? まあ、一番まともそうやったけど…フラダリさん、セイカから目はなさんとってな。女の子が男所帯に混ざってくの、心配やわ」
「セイカにはポケモンたちがついていますが…できるだけ配慮しましょう」
「ふたりとも、気をつけて。いってらっしゃい」
「いってらっしゃい? 帰ってきて、いいんですか?」
「もちろんやで。さらわれたけど逃げてきたって言えばええ。そうすればつじつま合うさかい。フラダリさんも10年後ぐらいに戻ってきてな。今よりええ街にしとくさかい」
「…わかりました。それでは。フラージェス」
Fは懐からモンスターボールを取り出し、フラージェスをくりだした。
「わたしたちを、あの船の甲板へ飛ばす準備を」
フラージェスが一声鳴いて応え、テレポート用の丸いバリヤーを形成してふたりを包み込んだ。
「ユカリさん。すみませんけど、わたしの服はホテルZに届けてください。202号室に」
「わかりましたわ。こっそり戻しておきましょう。フラダリ様に余計な疑いがかからないように」
「手間をかけますね。ありがとう」
「それじゃあ、みんな、いってきます!」
「ええ。おふたりとも、お気をつけて。Bon voyage!」
ユカリが貴族らしい完璧な発音でカロス古語の挨拶をした。これは見送りの言葉で「よい旅を」という意味だ。Fはこれに応える。
「Au revoir…フラージェス、テレポート!」
Fが命じた次の瞬間、ドレスを着てミニバッグを持ったセイカと、真新しいコートを着てワインバッグを持ったFがフラージェスとともにテレポートして消えた。今頃はあの甲板にいるだろう。
「ユカリ嬢、今、フラダリさんなんて言いはったん?」
「Au revoir…カロス古語で、意味は、さようなら」
「やっぱりか。戻ってくる気ないやんけ…くそがあぁぁぁッ」
カラスバが頭を抱えて叫んだ。
「なんでやあァァァッ なんで、あんな連中に英雄も恩人も預けなあかんねんッ おれは、サビ組は、いったいなんのために今日までッ…」
「ボス、お気を確かに」
「意外だなあ。ついさっきまで、セイカに責任おしつけようとしてたくせに」
「おれかてなあ、好きで責任転嫁したんやないわ! 不甲斐ない…おれの首にもっと価値があればッ」
「あまり思いつめないほうがいいですよ。おれも悔しいですが。外から見たミアレ…今後の課題ですね」
一同が見守るなか、ようやく鳴り始めた警報が響く空を横切り、銀色の船体はゆっくりとミアレの上空から去っていく。
「くそっ。こうなったら…ジプソ!」
「はい。なんでしょう、ボス」
「サビ組をもっと大きするで! ミアレで起きる悪いことは、ぜんぶ、おれらのせいにしてもらえるようにな!」
「わかりました。名案ですね」
「スケープゴートになる気ですか? 理解に苦しみますね」
「かまわへん。むしろ、望むところや。悪者にされるのも仕事のうちやからな」
「ご立派な志でしてよ、カラスバさま。わたくしは、MSBCの名に傷がつかないよう精進いたします」
「ああ。がんばりや。それじゃ、あとは会場を荒らして、演出したらおしまいやな」
「ええ。乱闘のあとがないといけませんので、みなさま、バトルのご準備をお願いいたします。ユカリタッグバトル大会、開催でしてよ!」
タッグバトルで会場を荒らしつつ憂さを晴らした一同は、荒れ果てたホールで気分よく飲み食いした。酒の肴になったのはフラダリとの思い出やセイカの印象だ。セイカは駅舎に設置された監視カメラの前で生成された者で、列車に乗り降りした記録どころか出生記録すらないことは、彼らにだけ共有された。
その日のうちにカラスバからガイにかけられた電話で「セイカの誘拐」を知らされたMZ団は、本当に「Fにセイカが誘拐された」と信じていた。カフェでガイがヌーヴォの二人と話すまでは。ヌーヴォの二人は、セイカがミアレのためFとともに王宮へ旅立ったことをガイに伝えた。猜疑心にかられた王族へ証言し、ミアレの空爆を回避するために。
後日、王室から派遣されてきた調査団に、上位ランカーたちは嘘偽りなく答えた。ひとりの少女がジガルデに選ばれ、ミアレを救ったことを。
セイカがカロス王の慈悲を乞い王室へゼルネアスとイベルタルを献上したところ、セイカたちの作戦はうまくいって証言は信用されたらしい。ミアレにネゴシエーター号以外の戦艦が来ることはなかった。ゼルネアスとイベルタルを手放したセイカは意外と「ピースメーカー」たちになじんでいるらしく、まだミアレに帰ってきていない。たまにMZ団の仲間やカラスバと通話しているが、誰から見ても楽しそうに現状を話してくれる。ピースメーカーたちは紛争地域を巡っているようだが、セイカの声から恐怖心は感じられない。セイカも、ミアレの外を見たかったのかもしれない。
プリズムタワーは斜塔になったが、ミアレは今日も平和だ。 END.
以上、おそまつさまでした。
※モミジが登場しないのはヌーヴォの二人があえて連絡しなかったからです。
※この世界線では「サイコキネシス」を覚えるポケモンは「テレポート」も使えるとしています。
※ポケモン世界では言語が統一されているようなので、現実のフランス語をカロス古語と設定しました。
2026/1/9追記:本文中にある「シーリングリング」は誤りでした。あとで調べたところでは、現実では封蝋に押印する指輪は「シグネットリング」または「シールリング」と呼ぶことがわかりました。しかし訂正するのもなんなので、作中世界ではああいう指輪のことを「シーリングリング」と呼ぶ、ということでどうかひとつ。