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義母が置いていったもの No.402

義母と最後に会ったのは今年の元旦だった。わたしは秋から忙しく、とんとご無沙汰していたのだ。元旦の昼頃、施設に着いたら、タイミング悪く、ちょうどバスで初詣に出かけようとしているところだった。ドアがまだ空いていたので「お義母さん、いってらっしゃい。」と言うと、義母はバスを降りる素振りを見せ、手をわたしの方に向かってパタパタとさせた。スタッフさんが「ダメダメ」と言うとドアが閉まり、バスはスーッとわたしの前を通りすぎ、地元の巨大門松で有名な宝満神社へと向かって行った。

3月の101歳の誕生日を目の前にして、弱々しくなってきた義母は初詣なんて行きたくなかったかも知れない。元々、行楽に行ったり、友達同士でのワイワイするタイプではなかった。施設に入ったら団体行動が多く、もちろん断ることもできるが、年寄りながらに気を使うことも多かったかもしれない。

今年の正月は寒かった。「あの初詣で見事にみんな風邪ひいた。」と夫が言っていた。年々脂肪も筋肉もこそげ落ちてしまった義母には寒さがひびいたらしく、入院レベルの風邪となってしまった。それから約1ヶ月の入院生活。面会は基本家族だけ15分のみとコロナ以降なかなか厳しいルールに替わっている。

しかもこの時期予約制になっていた。またすぐいつものように元気になって帰ってくると思って、わたしは一度も行かなかった、というか15分のための100㌔の距離はなかなかきつく、正直その間、義母を思い出すことも減っていった。わたしもそれなりに歳を取ってたくさんのことをこなせなくなってきている。

 

やっと退院の連絡が来た。迎えに行った夫は今までと様子が違うと言う。食欲はまったくなく、栄養ゼリーのようなものを少し食べる程度で元気もないらしい。

「そろそろかもね。」と夫に告げた。夫も正直もう無理して生かせても幸せじゃないし、自然にまかせようということになった。元々、尊厳死協会に入会していた義母からも言われていたことだ。義母の最期をあわてず迎え、また葬儀のことなどを不謹慎ながらもぼんやりとシュミレーションしていた。

2月4日立春 お昼の食事前にみんなが集まるリビングで息を引き取ったと夫から連絡があった。

かかりつけ医の同級生H君が施設に来て死亡と診断された。何十年も義母がお世話になった温和な先生だ。幼い頃は義母が営むピアノ教室にも来ていて、診察でも常に長びく話を根気強く聞いてくれたにちがいない。義母が大好きな先生だった。

家族葬で身近な親戚だけで、そっと見送ろうと思ったが、東京、愛知の孫や甥、姪っ子たちもたくさん来てくれた。本家だったので幼い頃、何度となく、親に連れられお世話になったと言っていた。成長した面子が集まって義母も大満足だったことだろう。そしてお通夜から告別式は滞りなく行われた。

えっ?と思ったのは夫はなにもかも棺桶に入れようとしたことだ。大量の写真、義母が編んだセーター、ボランティアの賞状類などをギチギチに詰め込んだ。何でも取っておきたがる人なのに、この時は今までにない思い切りのよさに不思議な違和感を覚えた。そしていつも傍に置いていたしゃべる犬のぬいぐるみ、こうたくんだけはわたしが寂しくないように義母の足元に置いた。

 

義姉はあいさつの時「母はいつも人の心配ばかりしてる人でした。みんながんばってるからもう何も心配しなくていいよ。」と言って火葬場へと向かった。

焼却が終わった義母の骨は小さく細く、ポロポロになってしまった。いつも全力で生きてきた義母がすべてをこの世で使いきったように見えた。

自宅へ戻った夜、義姉と三人でお茶を飲んで居た時「どんな気持ち?」と聞くと「骨になったけんね。」と夫は心なしかスッキリした感じでつぶやいた。

葬儀から1週間が過ぎ、わたしも北九州の自宅へ戻り、実家に住む夫と電話で話していると、『何か歌おうか??』『どうしたの?』どこかで聞いた声。棺桶に入れたぬいぐるみの音源が、主を亡くしてさびしくひとりで話していた。機械の部分は棺桶に入れられず抜いていたのだ。

「お義母さんが乗り移ってるみたい。怖いけん捨てて。」と非情なことを言う嫁に、「かわいそうやん。」と夫は捨てたくなさそうだった。勝手にしゃべる箱は怖かったが、「かわいいね~。」とやさしく話しかけていた義母の笑顔が忘れられないのかもしれない。大往生を見送って、すがすがしい気持ちと親子じゃないとわからない複雑な気持ちが交差しているのだろう。

このおしゃべりな箱を捨ててと言うのは、もう少し先にしようと思った。

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