
こんばんはウルカ。
部屋の隅に座っている。
白い部屋で、僕の周りには文字ばかりが敷き詰められている。
文字は当たり前のように真っ黒。
白い部屋にあいた意味を持つ穴。
こんなことなら、ソックスを履いて来るべきだったな。
僕は「凍えそうにしているつまさき」という文字を見てそんなことを思った。
つまさきは本当に本当に凍えそうで、それは見ているだけで腹立たしく不甲斐ない気持ちになった。
メリーゴーランドを思わせる、「メリーゴーランド」という文字は、真っ黒なのにとても煌びやかで、ぐいぐいと恐ろしいスピードで廻る。
僕は「メリーゴーランド」に乗っているはずの子供たちのことが心配になったけれど、僕の想像する子供たちはどれも塑像だったので、スピードも遠心力もちっとも気にしていない様子だった。
僕が想像したり感じたりすることは僕の中、あるいは別の所で文字に変換され、別の部屋に書き込まれる仕組みだと聞いた。
聞いたと表現してしまったけれど、実際はこの部屋に次々と書き込まれては染みるように消えていく文字を読んだにすぎない。
僕のいるこの部屋の文字は、誰が、想像したり感じたりしたことなのだろう。
僕が想像したり感じたりしたことはうまく文字に変換されているのだろうか。
何処かの白い部屋で染みるように敷き詰められては染みるように消えているのだろうか。
「暴音」という文字が膝を抱えて座っている僕の下に落とし穴のように広がって、それを見てしまった僕はフラミンゴを連想した。
おびただしい数のピンク色のフラミンゴが長い片足で水面を一斉に叩く。
水面は銅色のシンバルで出来ているから、もの凄い音になるだろう。
僕は急いで両手で両耳を塞いだけれど、僕の両手は銅色のシンバルでできていたから、おびただしい数のピンク色のフラミンゴが長い片足で銅色のシンバルでできた水面を一斉に叩く音は僕の銅色のシンバルでできた両手と僕の銅色のシンバルでできた両耳がぶつかる音にかき消された。
「る風呂につかるおくるくる」
「ように飛ぶ季節外れして妻の蟆子をさして狂ってい」
「本当だ」
「水銀燈が気色の風くように飛ぶ呂浸か」
「所のャワーば両手と両ピードも遠心耳が土グリーンねきっと」
「凍えそうにしているつま凍えそうにし」
「音は僕のむーい!ねえ、銅、本当に本当に」
なんだ、近所の土手じゃないか。
水銀燈が気色の悪いグリーンの光で闇を払っている。
ほら、頭がおかしい虫だよ。
僕らの目の前をくるくると円を描くように飛ぶ季節外れの蟆子をさして妻が言った。
虫にも頭がおかしいのとそうでないのがいるのかな...
本当だ、狂っているねきっと、あんな飛び方おかしいもの。
僕は自分の両手と両耳が銅色のシンバルでできていることを妻に悟られないように笑った。
さむーい!ねえ、今日お風呂浸かる?しばらくシャワーばかりだったでしょ?
うん、そうだね。
そうしようか。
それでさぁ、太田さんの旦那さんなんだけどさぁ、ニンジンが苦手らしくてさぁ...
こんなことなら、ソックスを履いて来るべきだったな。
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