
おはようウルカ。
男は自動車の窓から腕をだらりと垂らしている。
この細い道で大きなトラックとすれ違えば、腕は乱暴に潰され、ひき千切られるかもしれない。
それでも男は腕を中へ引き下げようとはしない。
腕は潰れ、ひき千切れるかもしれないし、そうならないかもしれない。
そうならないかもしれないのであれば、腕を中へ引き下げる必要はない。
そう思っている。
両側に深い鼠色をした塀が続くこの道は、蛇の腹のように不規則に曲がっている。
呑まれた卵が奈落に落ちるスピードとこの自動車と、いったいどちらが速いのだろうか。
細い鼠色の道は唐突に途切れ、硝子の破片のような街が横長に広がった。
もとは墨色のアスファルトが、傾いた陽光で金色に表情をかえている。
ペテンのように道端で潰れている動物の死骸にカラスが群がっている。
男は死骸が自分の飼い犬ではないかと想像するが今度も違っていた。
陽光が潰れた死骸とカラスをてらす。
死骸は太々しくいつまでも潰れたままで、カラスは勇ましくとがった管楽器の様な音を立てて飛び立つ。
一羽、また一羽と黄金色の空に穴をあける。
小さな穴は亀裂をつくり、やがて黄金の空を粉々に砕くだろう。
男は自動車の窓から腕をだらりと垂らしている。
カーステレオからは使い古されたポップスが流れている。
首にある下手くそなイレズミが、汗と埃で薄汚れている。
交差点を右におれて少しいった所にあるコインランドリーで自動車をとめる。
男はコインランドリーに入ると着ている服をすっかり全部脱いで、洗濯機に投げ入れる。
コインを三枚とりだす。
コインはブーツの隠しポケットのなかにある。
ぐるぐるとまわる洗濯機をみている。
男は自分の服が無抵抗にもみくちゃにされている様を見るのが好きだった。
それは一方的な暴力であり、浄化だった。
暫くして洗濯機は素っ頓狂に甲高く鳴ったかと思うと、気怠そうに動きをとめた。
本当に全く静かになった。
男は幾分綺麗になった自分の服を着ると、気持ち良さそうに伸びをする。
そして深く息を吐くと、再び自動車にのりこむ。
男は自動車の窓から腕をだらりと垂らしている。
大きなトラックとすれ違えば、腕は乱暴に潰され、ひき千切られるかもしれない。
それでも男は腕を中へ引き下げようとはしない。
腕は潰れ、ひき千切れるかもしれないし、そうならないかもしれない。
そうならないかもしれないのであれば、腕を中へ引き下げる必要はない。
そう思っている。
雑音がきえる。
本当に全く静かになった。
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