
監督が「悪人伝」のイ・ウォンテ。これで観ることにしました。
国家を揺るがす権力闘争の表と裏を予測不能な展開で緊迫感たっぷりに活写したサスペンス映画。
1992年の韓国国政選挙を背景として、公認で国会議員選挙に出馬した地方政治家が突然公認を取り消され落選。落選を巡る地方政治家と政治フィクサー、これに絡むヤクザ、悪徳商人らの戦いをミスレリアスに描く仰天の展開、その結末で国会議員の正義が問われる。これが面白い。フィクションと言いながら、1993年の政変に繋がるというただのエンタメ作品ではなかった。韓国らしい映画でした。
監督:イ・ウォンテ、原案:イ・スジン、脚本:イ・ウォンテ、撮影:キム・ソンアン、編集:ホ・ソンミ チョ・ハヌル、音楽:チョ・ヨンウク
出演者:チョ・ジヌン、イ・ソンミン、キム・ムヨル、ウォン・ヒョンジュン、キム・ミンジェ、パク・セジン、キム・ユンソン、ソン・ヨウン。
物語は、
1992年、釜山。政治家のヘウン(チョ・ジヌン)は党の公認候補を約束され、国会議員選挙への出馬を決意する。しかし国政を裏で支配する権力者スンテ(イ・ソンミン)が、自分の言いなりになる男に公認候補を変えてしまう。激怒したヘウンは、スンテが富と権力を意のままにするために作成した極秘文書を手に入れて彼に復讐しようとする一方で、ギャングのピルド(キム・ムヨル)から選挙資金を得て無所属で出馬する。地元の人々から絶大な人気を集めたヘウンは圧倒的有利に見えたが、スンテが逆襲に打って出て、事態は果てしない権力闘争へと発展していく。(映画COMより)
あらすじ&感想:
〇1992年3月、釜山。ヘウンは党の公認を受け、故郷なら勝てると国会議員に立候補した。
ヘウンは民生党の公認として故郷、雲海台地区から立候補することにした。「決して不正をしない、弱者に寄り添い正義を貫く」と選挙出馬表明した。
盧泰愚大統領は大統領選挙と総選挙のため“全国開発計画”を発表した。この中で“釜山を世界最高レベルの国際都市にする”と示した。これに基づき、ヘウンは「雲海台地区を売るな、売ったら追い出される。当選したら私がこの土地を守ります」を売りに選挙運動を開始することにした。地元民から歓迎されていた。

しかし、民生党本部では次年度大統領選資金の必要性から資金源を釜山港の開発に目をつけ、釜山を裏で動かせるフィクサーのスンテがこれを引き受け公認をヘウンから本部の指示通り動くソウル大出身のパク・ヨンシクに変更した。シンテは“この地域はまるで70年代だからできる“と考えていた。(金大中事件の時代)
〇公認取り消しにより、形勢不利に陥ったヘウンが採った策。
ヘウンは同窓生で市総合建設本部の本部長ムン(キム・ミンジェ)に副市長昇進を約束に金庫にある“対外秘”「雲海台の開発計画書」の写しと3億ウオンを入手した。この土地開発情報を親友のヤクザのキム・ピルドを介してファンリョ開発社のチョン・パンモ(ウォン・ヒョンジュ)に “当選した暁には100から1000倍にして返す」と約束して売り、借金で10億ウオンの選挙資金を作った。
ヘウンは無所属で出馬。ピルドの配下を使って集まった金を3万ウオンと7万ウオン入り封筒を作ってばらまいた。釜山毎日新聞はヘウン有利と報じた。

ヘウン有利にシンテが打った手は、
スンテは組織を使って、選挙管理委員会のパク課長(キム・ユンソン)に“娘の移植手術をアメリカで受けさせる”を条件に海雲台地区の選挙名簿、投票用紙の原本とシリアル番号を盗ませ、海上で取引した後、パク課長を殴り海に捨てた。組織によって投票用紙に候補者名を記入、投票箱に納められた。韓国ではこの時代、こんな荒っぽい選挙違反行為も可能だった。
投票結果はヨンシク:49.7%、ヘウン:33%でヘウンが落選した。
〇スンテは選挙資金を作るため雲海台の土地売却を始めた。
スンテはムン本部長を呼び「雲海台の開発計画書」を説明させた。すでに地価が高騰しており、開発計画の縮小を命じ、公表させた。さらに本部にある現金を2台のトラックでソウルに輸送した。
新聞記事で開発計画変更を知ったハンモは「買った土地がゴミになった」と「車3台分の人員をピルドの事務所に送れ!」と指した。(笑)
〇落選したヘウンに、ハンモからの借金取り立てが始った。
ハンモは直ちにヘウンに“契約金の10%の返還、明日まで作れ!”を要求してきた。
ハンモは次に「ピルドは生け捕りだ!」とピルド運営のキャバレーを襲撃した。両組合員がこん棒で殴り合う騒然とした格闘シーン。ハンモの襲撃は失敗した。
ヘウンとピルドは開発計画を変更したムン本部長を呼び出し訊問した。
ムン本部長は“誰の依頼で変更したか”は喋らなかった。ヘウンは椅子でムンを殴り倒し、ピルドに“以後、俺の言うとおりに動くこと“を約束させた。
〇ヘウンは新聞“釜山毎日”で開発計画変更の罪を暴くことにした。
ヘウンは昵懇の編集部長の許可をとり、ソン記者(パク・セジン)に録音を撮らせた。
「一夜で地図が変更になり最低でも1600億ウオンの損害だ。告発者は信用できる」と“対外秘”「雲海台の開発計画書」の写しを「これを見たやつは殺される」と渡した。
〇ハンモがヘウンの借金支払い不履行を検察庁に訴え出た。
担当検事グアンドウは「あなたこそ違法資金提供と贈賄罪に引っかかる、自首ですか?」とハンモの告訴を拒否した。
ヘウンは「ハンモが検察庁に暴露したら俺は終る。検察長に会って口封じするからお前はハンモを待ち伏せし、口留めしてくれ」と連絡して地方検察庁に奔った。
ヘウンは検事長と面識があり、ハンモの告訴取り下げを依頼した。検事長はグアンドウ検事から状況を聞き、これを受け容れた。その夜、ヘウンは検事長とアンドウ検事をモーテルに招き女を抱かせそれを写真に収めた。モーテルのシステムが面白い。日本ではどうなっているのか?(笑)
一方、ピルドは検察庁の食堂でめし食っているハンモを連れ出し、車で海辺に運び酒を飲ませドラム缶にセメント詰めにして海中に沈めた。
〇スンテが釜山毎日の記事を読み激怒、ムン本部長を事務所に呼び尋問。
スンテは先ず釜山毎日に圧力をかけた。記事が書けなくなったソン記者は“誰かの圧に屈した”と部長に辞意を伝えた。
次に釜山市庁に駆け込み、ムン本部長を捕まえ自分の事務所に連れ込んだ。ヘウンはスンテの車を追った。
スンテは“何故対外秘が表に出たか”と聞くが、ムン本部長はこれを否定した。ムンの顔の傷を見て、スンテは「気をつけないとあの世に行くよ」と脅し、ムン本部長を帰した。
〇そこにヘウンが現れ、スンテに開発計画変更に伴う損害を請求した。
ヘウンは「大統領選挙で焦ったあなたが金で解決した代償を支払ってもらう。これを野党に売り飛ばせばどうですか」と切り出し、損害額1600億ウオンを提示した。スンテが「何割だ」と聞くので「無所属で戦うには一割程度必要です。復讐です」と答えた。スンテが「復讐には2つある。相手を葬るか、味方にするかだ。中途半端に手を出すと私に殺されるぞ!」と忠告した。ヘウンが帰り始めると「それを手離したらお前は終わりだ」と声を掛けた。

ここからヘウン&ピルドとスンテの戦いが始まった。
〇ヘウンとピルドは開発計画修正指示したスンテを堕とすことにした。
〇スンテはヘウンとピルドの結びつき、ハンモが飲酒運転で崖から落ちた事件を知り、ヘウンとピルドを消すシナリオを考えた。
スンテはピルドが釜山では有名な高利貸暴力団であり暴力団追放でトップに踊り出たこと。選挙以降ヘウンと結びついていること、ハンモは不動産開発など手がけているが半分詐欺師で、選挙落選後のヘウンに金をせびっていたという噂から、ヘウンとピルドをハンモ殺しの犯人とするシナリオを考え出した。
スンテはピルドを呼び「誰に義理立てするかが大切だ。間抜けなのはバカ同士の義理立てだ!」と検察に呼ばれたときの心得を説いた。
〇ヘウンとピルドが逮捕され尋問が開始された。
ふたりの尋問を交互に見せ、ふたりの友情が崩れるのではないかと見せる演出がすばらしかった。
ピルドは「俺をなめているのか!ハンモは飲酒運転事故だ」で押しとおした。
ヘウンは「ハンモは私の後援会長、証拠もないのに容疑者扱いするな」から、検事の尋問に応じて「私は政治家だ、ヤクザを捕まえるべきだ。ヤクザだって殺す理由はある、金で揉めた、揉めたら消した、これがヤクザだ」と変化していった。
海に捨てられた選挙管理委員内のパク課長が生存していた。
パク課長がソン記者に接触し選挙名簿等を漏洩した経緯を喋った(録音)。
〇検察から解放されたヘウン。ソン記者からパク課長の録音を聞かされた。
ヘウンはパク課長の録音を聞き、パク課長を自宅に匿い詳しく聞いた。自分が選挙に落選したのかスンテの選挙違反であったことが分かった。
ヘウンは自分が検事に「ヤクザだって殺す理由がある、金で揉めた」と喋ったこと、スンテに会ったときに「誰に義理立てすべきか分かるだろう」と言われたこと、自分がピルドに「多少の金をもっているよだが、もっと大きな賭けにでろ」と言ったこと、これらを考えて、ヘウンは「この国をリセットさせる」と記者会見することにした。
〇ヘウンは拘留中のピルドを解放した。
ヘウンは検察長に電話し“モーテルの録音テープがあること”を告げて “ピルドの釈放”を要求した。ピルドは釈放された。
ヘウンはロシオ・モーテルでピルドに会い「証拠はない。シラを切り続ければ逮捕されないこの戦いは勝つ」と告げた。しかし、ピルドは「もうやめよう!」と言った。ヘウンは「お前は体を使え!頭は俺が使う」と言って、別れた。
ヘウンは記者会見の文案をソン記者と一緒に「明らかに不正選挙があった。民主主義の崩壊につながる」とまとめた。
ヘウンは法事でスンテに出合い、開発計画変更に伴う損害請求をやり直したいと提案した。スンテはこれを受け容れた。

〇ヘウンとスンテの二度目の会談。
ヘウンはスンテにテパク課長の写真を見せて「選挙違反で先生に逮捕令状が出る」と話し掛けた。スンテが「誰でもそんなことは経験している。暴露したければやれ、10月の補欠選挙で当選させる、どうか」と聞いてきた。ヘウンは「まず謝れ!選挙はまた時がくればできるが死んだ人間は二度と戻らない」と録音機を差し出すとスンテは「本当に済まなかった」と謝った。
そしてスンテはヘウンに「ハンモに謝罪しろ!ピルドが吐いた!こういうのを引き合いというのだ」と迫った。ヘウンは「こういうのをウインウインと言うんです」と答えた。スンテは「大したやつになった。本当はお前を殺そうと思ったが生かしておこう!よく覚えておけ!政治というのは悪魔との取引だ。権力を握るには魂を売らねばならない」と忠告した。ヘウンは「はい!」と答えた。
ヘウンが部屋を出ると、スンテは「納品を準備しろ!」とピルドに電話した。
〇ヘウンはパク課長を伴い迎えにきたピルドとピルドの配下を乗せた2台の車で記者会見場に向かった。
途中、海岸で休憩中にヘウンは車の中で目隠し、猿ぐるわされた。パク課長はドラム缶にセメント詰めされ海に沈められた。
ピルドが車からヘウンを引き出し、「遺言を言え!」と猿ぐるわを外した。「身体だけ使えだ」と答えると「糞みたいな遺言だ」と怒鳴った。車の中に炭火が入れられた。
〇記者会見が始った。
ムン本部長による対外秘漏洩の告白が始った。が、ヘウンが到着しない。ソン記者が電話を掛けようとして何者かに拉致された。「これから検察の取調べをうけるが、私を脅迫した人物はキム・ピルド社長です」と話すムン本部長の首から血が流れていた。
〇ピルドがヘウンに代って殴られ炭火が燃える車の中に放り放り込まれた。
ピルドは「汚い世の中だ」とヘウンに声を掛けた。「世の中は汚く人生は悲しいものだ」と答え、車から離れた。
〇9カ月後、ヘウンは国会議員となり、スンテから「国民のために政治をやれ!」と励まされ、スンテの案内で政府高官たちの元に赴いた。
まとめ:
国会議員選挙で生まれたヘソンとスンテの対決が“対外秘”「雲海台の開発計画書」を巡り、互いを殺し合う戦いへと進展していく。最後にはヘソンが親友のピルドを“スンテの支援を得るため”見殺しにするという仁義なき戦いとなった。「政治というのは悪魔との取引だ。権力を握るには魂を売らねばならない」という政治家の正義が描かれた。
ヘソンとピルドのお互いを思い合う葛藤に涙した!
ヘソンが検事の尋問に「ヤクザならやる。私ではなくピルドを捕らえるべきでしょう」と答えたが、パク課長の告白を聞き検事長を脅迫しピルドを釈放した。しかし、ピルドはヘソンから離れるようになった。最期、ヘソンは政治家になる自分には不要人物と中毒死させられるピルドを見殺にした。ピルドはヘソンにもスンテにも裏切られる。涙が止まりませんでした。政治家にはなりたくない、ならなくてよかったと思いました。
ハンモとピルドの闘争、ピルドによるハンモ殺害、ヘソンのピルド見殺しなど予期せぬ戦いでかつ迫力のあるアクションがあって、とても熱量を感じる作品でした。
フィクサー・スンテを演じるイ・ソンミン、
スンテは悪魔のようにみえて、国家を動かす覚悟のようなものがあり、最期にはヘウンをいっぱちの政治家を作り上げていく覚悟が感じられる重い演技を見せてくれます。
生真面目で素人っぽい政治家ヘウンがスンテと戦う中で、最期には親友のピルドを“ヤクザだ”と切り捨てる悪い男の顔になっていくチョ・ジヌンの演技は迫力があった。
キム・ムヨルは生一本気のヤクザ役がよかった。最後、スンテに騙されピルドの殺し役になるがそうはならなかった。 “自分の正義”を通す姿がすがすがしかった。
ラストシーンは国会議員となったヘソンとスンテがソウルの青瓦台を望むホテルで政府高官たちに挨拶するシーンだった。このシーン後、史実では1993年2月24日盧泰愚大統領が退任、1995年に政治資金隠匿が発覚し拘束された。
ヘソンと大統領の関係は描かれないが、なんとなく関係があるように思えるところが面白い。韓国の権力闘争をエンタメ作品として描きながら、このラストシーンが現実の韓国政治の闇を明かしたように思え、ただのエンタメ作品に終わらなかったところがよかった。政治家の正義、とても面白く観ました。
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