
ブルータリストとは打放しコンクリートやガラスなどの素材をそのまま使用した建築物のこと。
ホロコーストを生き延びてアメリカへ渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家の数奇な半生を描いたヒューマンドラマ。
第81回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、第97回アカデミー賞(2025)で主演男優、撮影、、作曲の3部門を受賞した作品。楽しみしていた作品、WOWOW初放送で観ることが出来ました。
ホロコーストを生き延びアメリカに亡命したユダヤ人建築家。田舎町の大富豪に請われ、教会を含むコミュニティ・センターの建設を担当することになる。聡明な慈善家を目論む実業家との葛藤の中で、民族、宗教、差別による妨害に苦しみながら建築の意義を追い続ける建築家の姿を描いた物語。
設計図からミニチュアモデル、資材搬入、建設工事へと出来上がっていくコミュニティ・センター建設、これをよしとしない各種の妨害行為、実業家の思惑、さらに亡命した家族の愛を絡ませる壮大な物語になっている。
冒頭で描かれる建設家が強制収容所からペンシルバニアの田舎町に着くまでのシーンを観ると分かりますが、語り口が最小限の説明でテンポよく進み、絵の構図は独特、美しい。音楽とよくマッチングして状況や人物の感情がじかに伝わってくる妙な感慨に浸る作品。215分の尺が長いとは感じなかった。
建築家はアメリカで生きることが出来なかった。彼は2度目のホロコストに出会った。
ユダヤ人建築家とアメリカ社会の軋轢から現在顕在化しているアメリカの移民問題、またユダヤ人建築家の思想・信条からイスラエル・ガザ戦争にけるイスラエルのやり方に問題提起していて、政治的なテーマを含んだ作品だと面白く観ました。
監督:「ポップスター」のブラディ・コーベット、脚本:ブラディ・コーベット モナ・ファストボールド、撮影:ロル・クローリー、編集:ダービド・ヤンチョ、音楽:ダニエル・ブルンバーグ。
出演者:エイドリアン・ブロディ、ガイ・ピアース、フェリシティ・ジョーンズ、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ、ステシー・マーティン、イザック・ド・バンコレ、アレッサンドロ・ニボラ、他。
物語は、
ハンガリー系ユダヤ人の建築家ラースロー・トートは第2次世界大戦下のホロコーストを生き延びるが、妻エルジェーベトや姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためアメリカのペンシルベニアに移住した彼は、著名な実業家ハリソンと出会う。建築家ラースローのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築を依頼。しかし母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には、多くの困難が立ちはだかる。(映画COMより)
あらすじ&感想:
建築家のラースロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は強制収容所ヴーベンヴァルトで米軍に開放され従弟のアティラ(アレッサンドロ・ニヴォラ)を頼りアメリカに渡る。一方妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)とラースローの姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)は強制収容所ダツハウでロシア軍に解放されたが未だ落ち着き先が決まらない。
冒頭、ラースローは移動中(音響のみ)、エルジェーベトがアティラに当てた手紙で本人とジョーフィアはダツハウに留まっていることが分かる。ラースローが米国に着いたとき目に入った自由の女神像は逆さであったり横位であったりとこれが彼の頭に中のアメリカだった。
上陸してブロッセルで身体を洗いセックスして“解放されて初めて”生“を感じ”、25ドルとクーポンの配給を受け、バスでペンシルバニアの田舎町に住むアティラを尋ねた。バスステイションでラースローがアティラに再会し抱擁、そこで妻が生きていると聞かされ嗚咽するシーンはその喜びが伝わるとてもすばらしいシーンだった。

〇1947年、ラースローはアティラの家具店で働き、部屋の改装事業受注に成功した。
アティラは妻オードリー(エマ・レアード)と家具店を営んでいた。ふたりはカトリックに改宗して生きていた。ラースローはユダヤ教の教会にかよった。
ラースローは小物の家具を製作しショーウインドウに展示していた。富豪ヴァン・ピューレン家の息子ハリー(ジョー・アルウィン)の目に留まり亡くなったお婆ちゃんの部屋の改装注文が入った。
ドイルズタウンのヴァン・ピューレン邸を視察して図書室への改装として書棚の設置、読書用照明、天井の改装を2000ドルで受注した。アティラ夫婦は大喜びし、オードイーはラースローに料理を御馳走してくれ、「もっといい事務所が見つかる」と彼の才能を惜しんだ。
図書室改装はラースローにとってはうまく出来たと思った。
天井修理に便利屋の黒人ゴードン(イザック・ド・バンコレ)を使った。彼がヘマをやってステンドグラスを割った。これ以外うまく出来たと思った。収集本の全てが初版ものであることに驚いた。家主は如何なる人物かと関心を持った。

そこに家主のハリソン(ガイ・ピアース)がやってきて「黒人を屋敷に入れた。息子が勝手にやった改装で亡き母親の意に添わない」と烈火の如く怒り支払いを拒否した。
ラースローはアティラから「給料を払えない、妻と関係を持った」と店から追放された。
ラースローは石炭貯蔵所で働くことにした。
同胞で従弟でも無下にされる社会。「イスラエル人で強制収容所に入っていたものにまともの仕事はない」とゴートン親子と教会の避難所で寝起きし、石炭貯で働くことにした。しかし、教会のミサには決して出席しなかった。
ハリソンがラースローの職場に訪ねてきた。
改装時の無作法な態度を謝り、ラースローの建築家としての実力を認め、「知的刺激を受けた」と邸に来るよう誘い金を渡した。ラースローは実力が認められたことが嬉しかった。
ラースローはハリソンから渡された金でゴートンを通して麻薬を手に入れ、クラブで遊び、女を抱き、ポルノ映画を観て劇場で寝た。(笑)彼は高い知識人でありながらだらしない快楽を貪る悪弊がある。説明はないがホロコストによる後遺症かもしれない。劇場を出て教会に戻る途中でハリソンが遣わした車に拾われヴァン・ピューレ邸に向かった。
〇ハリソンからコミュニティ・センター建設を依頼される。
ラースローはヴァン・ビューレン家とその支持者のクリスマスパーティーに招聘された形になった。ラースローは西欧で著名な西欧の建設家と紹介された。ラースローは自らの建築の目的を「立方体の説明にその構造以上の言葉がある。戦争で生き残った建物は災禍の記憶が人々を苦しめなくなったとき、建物が政治的刺激の変わりになる」と語った。ハリソンは「我々の会話は知的刺激に満ちている」と褒め称えた。
ラースローは自分の出地と今妻と会えない不遇を語った。隣席の弁護士マイケル夫妻はイスラエル人だがカトリックに改宗しており、副大統領にもコネを持つという。ラースローは苦笑いしたが、ハリソンの指示で妻と姪のアメリカ移住に手を貸してもらえることになった。
ハリソンは「貧しい出地から妻を娶り双子の姉妹をもうけ資産を作ったが妻と母の折り合いが悪く別れた。倒産しそうになったが亡き母親が献身的に支えてくれた。祖母の厖大な資産要求にも耐え、今の地位を得た」と滔々と喋った。
“ハリソンがどう見える?”見る人に任せる!“これが俺のやり方だ”とばかりに話は前に進む!
ハリソンは参加者全員を暗い坂道を登り丘に集めた。
ドイルズタウンの町を見下ろして「この丘にコミュニティ・センターを建設する」と告げ、「設計はラースロー」と指名した。ラースローは自信に満ちた顔で「教会、公会堂、体育館などを一体化した建物を作る。予算の範囲内で完成させる」と引き受けた。ハリソンは「金を気にするな!」と大見えを切った。

〇ラースローは測量し、図面を引き、建築物のミニモデルを作り、コミュニティ・センター建設がスタートした。
ラースローはミニモデルを見せながらハリソンに建設構想をブリーフィングした。特に強調したのは7メートルの塔とその塔を通た光で床に十字架描く機能。もうひとつ祭壇をイタリア産のカッカーラ大理石を使うこと。
これまでハリソンの建物に携わってきた建設業者のレスリー・ウッドロウ(ジョナサン・ハイド)が「塔の高さ高すぎるまた大理石はアラバマ産のシラコーガ大理石でよい」と財政上の理由で反対した。
ラースローが「塔はコンクリート使用で堅牢で安い、イタリアの大理石は光り方が違う」と反対した。ハリソンは“ラースローを信頼する”と言った。イタリアの大理石には反ユダヤに対するメッセージが込められているのがあとで分かります。
市長にコミュニティ・センター建設をブリーフィングした。
建物の他に雇用者や完成後のスタッフ数をも説明した。記者から質問が出る前にラースローは自分がユダヤ人であることを明かし「後援者のヴァン・ピューレン氏は敬虔な“プロテスタント信者で皆さんが礼拝したくなる建物にします」と説明した。
建設資材の製造、運搬が始まった。
ペンシルバニアの鉄鋼所が活気づき、木材の伐採・製材が始まった。まるで今のトランプ大統領の経済政策を見る想いだった。この映像に合わせて、ラースローが懸命に妻エルジェーベトに「自分との関係、姪との関係が分かる資料・写真を弁護士のマイケルに届くよう、個人情報をこんなに渡していいのかと思う程に、促す手紙を書く姿が映し出される。
〇妻のエルジェーベトと姪のジョーフィアがドイルズタウンに到着した。
コミュニティ・センター建設事業が順調に進む中での到着だった。エルジェーベトは車椅子の人となり、それを介助するのが姪のジョーフィアだった。
ラースローはふたりをハリソンとその家族に紹介した。ハリソンはエルジェーベトがオックスフォードで英語を学びジャーナリストであることを喜びニューヨークの雑誌社で働く手配をした。ジョーフィアは一斉物を話さない。彼女の心は今だ強制収容所の中のままだった。
その席で息子のハリーが「レスリーがプランを建設家シンプソン(ミヒャエル・エップ)に見せた」と伝えた。ラースローは「塔の高さを3m下げるならその分を俺の給与で払う」と言った。
その夜のラースローとエルジェーベト。
エルジェーベトの体はそれに耐えられないが「ラースラーのしたことは全て許す」と懸命に彼に尽くものだった。いったい収容所で何があったかは語られないが想像に難くない。
ラースローはハリソンの案内で建設家シンプソンの視察を受けた。
ラースローは建物の構造・工法について丁寧説明した。レスリーは「経費が不足する、しかし、ラースローが自分で払うと申し出ている」とハリソンに報告した。シンプソン(ミヒャエル・エップ)が「誰が見ても異様な建物だ。それは全て君のものだ」と貶した。

ラースローとシンプソンがつかみ合いの喧嘩になったが、ハリソンが止めた。弁護士のマイケルが「シンプソンはカトリックだ。皆が安心する。シンプソンが必要だ」とハドソンに進言した。ハドソンは「地域社会を味方にするためシンプソンは必要だ」と返事をした。
ラースローの家族に対するいじめが始まった。
ヴァン・ピューレン家族のピクニック。参加したエルジェーベトやジョーフィアにハリーや彼の妹のマギー(ステイシー・マーティン)の嫌がらせが始まった。ユダヤ人の食べ物をあざけり、物を話さないジョーフィアをハリーが悪戯する。エルジェーベトもジョーフィアは見て観ぬ振りしていた。しかし、経費の問題は解決しておらず、ハリーから自費で払うことを求められた。
その夜、ラースローは妻に「建設に不足分の金を自腹で払いたい」と打ち明けた。
エルジェーベトは「自分が働くから大丈夫」と伝え、“どの建築部分の支払いか”を確認した。塔の高さを低くしない話を聞いて、「いいものが出来る」と満足した。

〇重大事故の発生でコミュニティ・センター建設が中止となった。
木材資材を運搬するヴァン・ピューレン社の貨物列車が転覆し、2名の瀕死の負傷者が出た。慈善家としての評価を恐れたハドソンは事業中止命令を出した。ラースロー家族はニューヨークに移住、建設会社の設計部署で働いていた。
〇1958年、弁護士のマイケルがコミュニティ・センター建設再会を告げに社を訪れた。
エルジェーベトは反対したが、ラースローは“完成させたい”とハリソンの元に戻ることにした。
〇ジョーフィアは恋人と建国間もないイスラエルに帰国することにした。
エルジェーベトは当初「ここで過ごせば仕事がある」と反対したがジョーフィアが語る「祖国に帰るのは私たちの義務、帰還こそが解放」という言葉に「自分もイスラエルに帰りあなたの子の子守をしたい」と賛成に回った。
〇ハリソンはラースローのためにイタリアのカッカーラ大理石を買うことにした。
ハリソンは欧州の出張先からここに駆け付けた。ラースローは麻薬を持ってここに駆け付けた。ハリソンはカッカーラ大理石の掘削現場を見てその美しさに圧倒された。ここの映像が素晴らしい!ラースローと石切り現場監督のオラッツオが話す“ムッソリーニから大理石を守った話”に建築家ラースローの志の高さに圧倒され、慈善家だとうぬぼれている自分は本当に小物だと感じた。
大理石取得交渉が終ったあと洞窟の中で行われたダンスパーテーでのラースローの女を抱く乱れ方、そして坑内通路で寝る姿に「施しに頼って生きているだけだ!社会に寄生している。どうやって君に結果を望める。君は大きな可能性を無駄にしている」と幻滅し、ラースローを消し去ることにした。アメリカに帰国する際のラースローはハリソンの下僕に成り果てていた。
〇ラースローの工事現場の姿はこれまでのものと変わっていた。
エルジェーベトは心配し工事現場に出向いてラースローの仕事ぶりを観察した。
ラースローは工夫を捉まえ過失もないのに因縁をつけて解雇すると脅していた。ゴートンにさえ「口出しするな!消えろ!」と脅す。
エルジェーベトは帰りの車の中でラースラーに「あなたとの生活は限界だ。ここに居る理由がない」と訴えると「米国の人々は我々を望んでない、我々が嫌なんだ我々は無だ」と言った。エルジェーベトは「この国はあなたの何を奪ったの?」と問うた。
その夜、エルジェーベトは激しい発作に見舞われた。
薬は切れていた。ラースローは麻薬を打った。薬に溺れるエルジェーベトの姿にラースローは欲情した。何度も何度もエクスタシーを感じる中でラースローは“秘密”を打ち明けた。エルジェーベトは「この国は全てが腐っている。イスラエルに行く。ジョーフィアとその娘の元に。私の祖国に」とラースローに伝えた。
〇エルジェーベトはヴァン・ピューレン邸に押しかけハリソンの罪を問うた。
エルジェーベトはひとりで立ち椅子を押し邸に押し入った。迎えたマギーは驚いはた。関係者が集まりディナーの最中だった。エルジェーベトは「ハリソンは強姦魔だ、夫を強姦した」と何度も何度も叫んだ。参集者がひとりふたりと消えて行きハリソンが消えた。
ヴァン・ピューレンの家族、使用人が必死でハリソンを探したが見つからない。ハリーがキーで閉まった教会の扉を開けると床に十字架が光っていた。(ハリソンはここで自殺していた)
〇1980年、イタリアベネチアで開催された第1回建設ビエンナーレ。
ラースローはジョーフィアと彼女の娘とともに車椅子姿で参加した。娘が演壇に立ちラースローの作品を紹介した。
米国での最初の傑作“ヴァン・ピューレン・センター”は1973まで未完だった。建物はヴーヘンヴァルトが反映されている。また、亡き妻エルジェーベトの不在の喪失感を表している。このブロックは強制収容所の恐ろしい狭さを再現するため彼がいた独房と同じ寸法で設計されている。だが一か所衝撃的な違いがある。来訪者が20m上を見上げると劇的なガラス屋根が自由な思考を誘う。自由であること。
以下略。
最後にラースローはエレサレムで苦労しながら私を育てる若い母親ジョーフィアに「他人が何と言おうとも大切なのは到達点だ」と教えていたと語った。
まとめ:
まさかコミュニティ・センターが強制収容所がモデルであったとは!ラースロー家族はアメリカでは生きることが出来なかった。
分ろうが分るまいがテンポよくストーリーは進み、ラストで“ヴァン・ピューレン・センター”の建築概念と建築家ラースローの信念が明かされる結末。このやり方にいやな人もいるかもしれないが、ほんと、びっくりする結末でした。(笑)
テーマは現在のトランプ大統領による移民政策批判であり、ラースローの態度とエレサレムで苦労する姪のジョーフィアに与えた言葉「他人が何と言おうとも大切なのは到達点だ」がイスラエルのヘルツォグ大統領に重なります。
「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディがユダヤ人建築家ラースロー、「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズが妻エルジェーベト、「メメント」のガイ・ピアースが実業家ハリソンを演じたが、いずれもすでに演じた役を彷彿させ、面白く観ました。なんといってもエイドリアン・ブロディの鷲鼻が折れるほどに苦しめられたホロコスト被害者役、見事な演技でした。(笑)
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