
長編デビュー作「コンプリシティ 優しい共犯」がトロント、ベルリン、釜山などの国際映画祭に招待され高い評価を得た近浦啓監督の第2作。森山未來が主演を務め、藤竜也と親子役で初共演を果たしたヒューマンサスペンス。
近浦監督作品を観るのは初めて。タイトルに惹かれ観ることにしました。
長年疎遠であった父が突然逮捕され息子が駆けつけると、父親は認知症を患っていた。ところが父と生活をしていたはずの義母が行方をくらましている。二人の間に、一体何が起きたのかと父親の記憶を探す旅にでる。
高齢者の認知症の怖さを観る作品かと思っていたが全く違っていた。父の消えていく記憶を探す旅の中で、父と義母の愛の深さ、そして息子が父との絆を取り戻していく、壮大な喪失と再生の愛の物語になっていました。
義母が残した日記と父親の手紙による回想の描き方が独特で分かり難いが、そこがミステリアスで物語に引張込まれます。
監督:近浦啓、脚本:近浦啓 熊野桂太、撮影監督:山崎裕、編集:近浦啓、音楽:糸山晃司、エンディングテーマ:佐野元春&THE COYOTE BAND。
出演者:森山未來、藤竜也、真木よう子、原日出子、三浦誠己、神野三鈴、利重剛、塚原大助、市原佐都子。
物語は、
幼い頃に自分と母を捨てた父が事件を起こして警察に捕まった。知らせを受けて久しぶりに父である陽二のもとを訪ねることになった卓(たかし)は、認知症で別人のように変わり果てた父と再会する。さらに、卓にとっては義母になる、父の再婚相手である直美が行方をくらましていた。一体、彼らに何があったのか。卓は、父と義母の生活を調べ始める。父の家に残されていた大量の手紙やメモ、そして父を知る人たちから聞く話を通して、卓は次第に父の人生をたどっていくことになるが……。(映画COMより)
あらすじ&感想:
遠くに皿倉山のアンテナが見える瀟洒な住宅地。立派な無線アンテナのある家に銃を持った物々しい警官隊が駆けつける。黒い鞄を持ったスーツ姿の男・陽二(藤竜也)が出てきたところを警官隊が逮捕した。何があったか?ユーモラスな捕り物帳だなと思いました。(笑)
このとき、陽二の息子で俳優の卓(森山未來)は東京の劇場でひとり芝居のリハーサルを行っていた。陽二逮捕の知らせで、妻の夕希(真木よう子)を伴い航空機で小倉に飛んだ。
〇拓と夕希は警察で事情を聴き、実家の状況を確認して収容先の老人ホームで陽二に会った。
警察の担当刑事から「陽二(71)、大学の教授、夫婦で暮らしていたが、妻は行方不明、認知症がなかなり進んでいる。アレルギーのある食べ物、胃ろう処置は・・」などの説明があったが、ほぼ30年も会ってない拓はほとんど答えられない。拓がまともに答えが出来ないことに有希が驚いた。
陽二の家を尋ね、陽二の暮らしぶりを確認した。
部屋の至るいたるところに忘れないためのメモ紙が壁に貼られている。大量の洗濯物が干してある。携帯電話が残されていた。父の趣味のアマチュア無線室を見た。
卓が20年前にここを訪ねたときのことを想い出した。
陽二と義母の直美(原日出子)は、陽二は学者特有の理屈っぽく上から目線で話す男だったが、直美には丁寧語で話し夫婦関係は上手くいっているようだった。
父はうるさい人だった。
卓がNHK大河ドラマに出演できる俳優になったことを、微塵もそのふりを見せないが、陽二はそれを喜んでいるようだった。卓が「脇役だから・・」と話すと「欺瞞だ!その男は主役に対して希薄ではない。100年前に居なくなり、君が問うても答えられない中で、面白くないなど言ったら人として矛盾していると思わないか」と本気で怒る。「普通は・・」と答えると「普通というものはない。平均化したものを考えているようだが、平均というのは実態がない。普通も概念だ。物事は全て特殊だ」と注意する父親だった。
うるさく注意する人だから近寄りたくない!こういう人は後に、最も人生で大切な人であったと分かる。拓が30年近く会わないで、陽二が倒れたと聞き駆けつけたのもこんな感じがあったからだと思った。
陽二はアマチュア無線通信が趣味で拓に設備を見せたがった。拓はアンテナの修理を手伝ったことを思い出した。

ふたりは老人ホームに、陽二を訪ねた。
所員から陽二の鞄が返却された。ロビーで会った。陽二がスーツ姿で現れ「みぐるみ剝がされてこの国に自由がない」とどこぞの国の国際会議に来て逮捕された感覚のようだった。「鈴本に講演を頼まれている」と言い出す。「直美さんはどこに?」と聞くと「自殺した。家に出入りしていた電気工事の連中に金を取られ、暴行された。連絡を取ってほしい」という。
〇卓と夕希は父の家に戻り、父のバッグから直美の日記を見つけ読み始めた。
日記には陽二から受け取った手紙が添付されていた。日記に「直美さん、私は世界で一番あなたの名前を書き世界で一番あなたの名を呼び掛けた男です。いつかあなたと結ばれたい。私は仕事に邁進し愛のない生活を築いてしまいました。・・・」とあった。卓は1990年の6~7歳の記憶から家族は愛に満ちた生活ではなかったことを思い出した。
大量の写真、メモを時系列で整理し始めた。
鈴本への手紙を見つけた。そこにデリバリーの配達員が弁当を届けてきた。依頼人は“緒方朋子”だという。卓は朋子とは何者?と思った。
〇弁当を食べていると直美の息子だという男(利重剛)が訪ねてきた。
写真を調べるとこの男が写っているものがある!「お父さんはどこに?母は小倉の三浦病院にいて精神状態がよくない、母に入院費を出して欲しい」という。卓は「父に伝える」と答えた。すると「陽二さんから払う理由がないと断られた。あなたは親切だ、伝えてくれることに感謝する」と言い、帰っていった。
日記には父母が仲良く車無線機の部品を買いに出かけたが、不要なマイクを買ったと記されている。確かに父には呆けが始まっているようだが、息子の話は信用できるのかと思った。
〇卓と夕希は大学の研究室に鈴本を訪ねた。
卓が父のメモを見せた。鈴本は「先生らしい、息子さんを寄こして断るなんて。奥さんから断りの電話がありました」という。「母でしたか?」と尋ねると「奥さんは体調が悪いと言っていた、1週間ほど前です」という。
卓は夕希を三浦病院に走らせ直美の存在を調べた。病院には居なかった!
〇卓はひとりで老人ホームの父を尋ね、義母の朋子のことを聞いた。
父は卓を見て「私を釈放する人がいるはずだ」という。卓は「あなたを介護しているんです」と応えるが、「気が休まらない」という。
「直美さんはどこに?」と聞くと「暇乞いをしました。熊本にいます。朋子さんが匿っています」と応えた。「朋子さんは妹かな?とんでもない人でカナダに遊びに行ったり、若いころは直美に苦労を掛けた。私のものを全部持ち出し、自分を証明するものがなくなった」という。そして「私を引き取ってくれ!」言い出した。卓は「分かった、頑張ってみる」と応えた。父は安堵したようだった。

〇卓は家に戻り、朋子に関わる写真とメモを探した。
「私の妻だった人と同じ人間なのか」というメモを見つけた。そして直美に当てた陽二の手紙の中に次のような文書を見つけた。
「あなたに白状することがあります。20年前のある春の日、あなたの故郷の海を見つめる一途なだけの青年がいた。その青年は目の前に広がる景色がまるであなたのように感じた」と。
卓は妻として夕希を父に紹介した日のことを思い出した。
空港まで車で出かける際、陽二がキーを忘れドアーが開かない。直美が「運転します」と言ったことで喧嘩となり、直美を家に残してひとりで東京に出てきた。このとく直美は大きなショックを受けたと。
東京のホテルで会った。陽二は夕希に結婚式を挙げなかったこと直美を連れてこなかったことを侘びた。陽二は先妻が亡くなったことを忘れていた。遅れて席についた卓に「男子が女子を養うべきだとは思わないが、一方がおんぶに抱っこというのはどんなもんだ。君は妻を迎えて何をする気だ。他人には分からない、当人同士しか理解できないことがある。人はそれぞれ特性がある」と話し、卓は「誠実であることを誓います」と答えると「誓って見せることが立派だと思っているか」と言い返されたことを思い出した。
陽二の言葉は厳しいようで親としてどうしての言いたかった愛情あふれるものだと思います。
家に戻った父は直美に「プレゼントだ」とハンかチを渡した。直美が「誰から?」と聞くと「忘れた」と答えた。直美が「触ってみて!」とハンカチを差し出すと、直美の手に触って「すべすべですね」という。直美は戸惑ったという。
この時期に行われた陽二の恩師を偲ぶ会での挨拶は参加者から喝采を受けるほどの出来だったと聞く。
陽二の認知症の症状にはむらがあるようで、どこまでが真実か分からない。何を信じるべきか?卓は悩んだ!
〇直美の息子が先に会ったときの約束を確認に訪ねてきた。
息子が言うように直美は病院にいないし、卓も陽二に息子のことを伝えていなかった。ふたりの間はぎくしゃくしていて話にならない。息子が頭にきて、「家政婦がわりに使って私たちを遠ざけてきた。母に頼まれて妹が陽二さんの世話をしたが性的な嫌がらせを受け足に怪我した。あなたどう思う。そういう人間だよ。家売ったら治療費は払える」と言って、帰って行った。
直美の息子が言うようなことが起こったのだろうか?
〇卓は日記を調べた!父の呆けの程度、直美の心も読めたと思った。
陽二がベッドに寝ていて呻き声を上げた。直美は「頭打ったの」と尋ねると「帰らなくては!」という。「直美です」と呼びかけると「ちょっと待ってくれ」と泣き出す。陽二の頭が混乱していると直美は「私はここにいる!」と陽二から貰った手紙を読み聞かせたという。
「20年前、私はあなたが好きだったのにドクターを取るために待ってくれと、そのひとことが言いなかった。他人の妻になったのを知っても呪文のようにあなたの名を叫んできた。いつの日にかあなたと結婚したい。この世で結ばれないなら來世で、あなたを探し妻にします」と読み聞かせ、「これは捨てろと言われたが捨てなかった」と話し、「20年経ってもこの幸せを胸に留めている」と言った。
陽二は「人の名を使って話をするな!とんでもない恋だ。私の心は私のもの、余計なことを言うな」と激しく怒った。直美が「しっかりしてください」というと陽二は日記を投げ出して泣いたという。
直美は陽二の買い物に付き添った。
陽二は本を買って、次に直美は雑貨店で買い物するときは外で待っていた。直美が会計しようとして倒れた。これを陽二が見たけれど助ようとせず出て行った。直美は「陽二の心は自分から離れた」と感じたという。
〇陽二に呼ばれ卓と夕希は老人ホームを訪ねた(三度目)。
会うといきなり「ベルトが合わなくてお腹がかぶれた。いいベルトを持ってきてくれ」という。「生活のい慣れた?」と聞くと「慣れた」という。
そして「君を呼んだのは話したいことがある」と言い「君が側にいると別の人間になれと言われているようでそれではいけないと暴力を振るってしまう、謝りたい」という。「そんなことは気にしてない」というと父はとても喜んだ。ホームからの帰り、卓は自分のベルトを外して父に与えた。
その帰り、卓は夕希を誘って母の墓参りをした。
卓は母の墓前で夕希を紹介した。そして「つまらない騒動に巻き込んで済まなかった」と詫びた。こんな優しさが出てきたのは父に影響されたのかもしれまでせんね!

〇卓はお詫びをするために熊本の直美の実家を訪ねた。
電車の中で父が直美さんの故郷を訪ねたときの手紙を読んだ。「会えるあてもないであなたの故郷を一日彷徨って海を眺めることしかなかった。その青年は目の前に広がる景色がまるであなたのようだった」。
直美が実家に戻ったとき妹の朋子が「陽二さんのことは任せて!もう心配せんでよかよ、ずっとここにいたらよか」といった言葉を思い出していた(直美の日記から)。
実家は花屋だった。
作業小屋で「朋子さんですか」と声を掛け、本人だと分かった。卓は「渡したいものがあるので来ました。父が迷惑をかけたことを謝ります。直美さんは今、父のもとにはいないが、父は父なりに直美さんを大切に思っています。これを渡して欲しい!」と直美の日記を渡した。朋子は「燃やす成り、捨てるなりあなたの責任でしてください」と受け取らなかった。そして直美ⁿの居場所を教えなかった。
朋子が直美が居なくても生活できるように陽二の元を訪ねたときの出来事を知った。
朋子が毎日デリバリーを取るよう手配した。掃除は業者に頼み、鳴海の衣類をバックに詰めているとき、陽二が朋子に絡んできた。朋子が声を上げた。驚いた陽二は家を出て喚きながら彷徨した。
〇卓は直美の故郷の海を見ながら、父が“この件について書いた手紙”を読み、これを夕希にスマホで送った。
「私には一度だけ他人に立ち入らせた領域があって開こうとも思わずこの人生を終わるつもりでした。あなたが書いた手紙を前にしてあなたの鍵でしか開かず、そういう性質のものだと知りました。あなたは海のような人だと言いましたが、穏やかで強さを持った海のような女性です。あなたの故郷がこの海なら、私の故郷はあなたです。一途だけが取り柄の青年は正しかった。20年の時が経って叫びたい!あなたが好きです!ありがとう!どうしようもなくあなたがすきです」。
卓には海に繋がる道を歩いて行く直美の姿が見えた!
夕希が「自分のこと言ってるのかと思った。きれいな海だね」とスマホで送ってきた。三角線の綱田駅で電車に乗り、小倉に戻った。
卓は陽二が世話になっている老人ホームに立ち寄った。所員から「今日はもう会えない」と言われ、「延命治療、出来るだけ長くやってください」とお願いした。
〇朋子が去ってから陽二のひとり暮しが始まった。
できごとは忘れないようにメモして壁に貼る、ボードに書き残す。鈴本の留守電を見て返事しようとしたが繋がらず、メモにして張り付け、昼寝していた。

そこに直美が戻って来て、陽二を起こし、鈴本の件をどうするかを聞き、鈴本に講演断りの電話をした。
直美は陽二にご飯を食べさせ、それとなく陽二が気付くように日記を置いた。陽二はこれを読み「もう30年か!」と感嘆!直美は「あっという間でしたね!いってきます、火の元には気を付けて」と家を出ようとすると、「ちょっと待て!」と呼び止め直美の顔に触れた。
直美は出て行ったあと、陽二は110番に「事件です!」と電話した。
この時の陽二の頭は呆けていなかった。直美の日記をバックに詰め、身だしなみを整え、無線機で卓に「こちら安定しました。私はこれから行きます」と送った。直美は振り帰って家を見て、赤い車で去って行った。陽二は黒いバックを抱て外に出るとそこに警察の車が・・・。
陽二逮捕は、陽二の覚悟の上での決心、自ら人生にけじめをつけたと思った。
卓は老人を演じていた。
なぜこんなに腰が曲がっているのか?どうも不思議だと思ったら、この袋のせいだ。それにこのズタ袋とドタ靴。じたばたするんじゃない、もう必要なにのはこの拳銃もこの機関銃も・・・・・。
まとめ:
陽二の認知症で、惚れ抜いた妻の直美と別れることになる様が時を追って丁寧に描かれたドラマだった。陽二と直美の結末には仕方がないという寂しや、認知症の恐ろしさを感じました。しかし、最後にとった陽二の事件虚偽通報者行動には彼の誠実さ、直美への愛情が見え、泣けました。ふたりにとって、互いに「大いなる不在」になりました。
藤達也さんの大学教授としての威厳、プライドを保った演技。その中での痴呆の表現。息子・卓へ愛情表現、すばらしかった。いろいろな賞を頂いたようですが“宜るかな”と思いました。
物語は陽二と直美夫婦の話のように見えて、実は陽二と卓の親子の話になっている。これがすばらしかった!
陽二と直美の壊れる夫婦関係を見て、卓が再生されていく物語になっている。父に成り代わって直美の故郷の海を尋ね、最愛の人を失ったという父の気持ちに浸り、一層父が愛しくなる件が泣けます。そして妻の夕希が愛おしくなる。
卓と夕希は陽二の老人ホームを訪ねての帰り、気付かないが、そっと寄り添うように見える映像がとても印象的で、よく撮った!と思った。
卓にとって陽二は厳しい父で近寄りがたいところもあったが「「大いなる不在」の人となった。
森山さんの演技。当初ぶっきら棒で理屈っぽい父親の陽二によく似ていた。が、陽二を見舞い、陽二の見かけによらない愛情の深さを知り次第に柔らかくなっていくとことがよかった。うまい演技でした。
誰の回想か?時程が分らず羅列される。これをミステリアスというべきか、これが見どころというところなんですかね。(笑)
痴呆症は社会の大きな問題、これを問う作品として面白く観ました。
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